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DODAエンジニア スペシャル対談 広告システムの未来とエンジニアのキャリアヤフー株式会社 CTO 明石 信之 × デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社(DAC) CTO 徳久 昭彦

電通が2月に発表した2010年の「日本の広告費」によると、インターネット広告費は前年比9.6%増の7747億円という規模にまで成長した。広告全体としては3年連続で市場規模を縮小しているなか、ひとり躍進を続けている。Webを経由して至るところに広告を配信するテクノロジーを担うエンジニアの魅力、そして将来の展望を、業界の雄たる2社のCTOであり、プライベートでも親交のある二人が語った。

掲載日:2011.04.11

ヤフー株式会社 CTO 明石 信之
システム開発会社を経て2000年 にヤフー株式会社へ。入社当初から一貫してYahoo! JAPANの広告配信システム、課金システム等の開発に従事する。2002年から約2年間、米国Yahoo! Inc.に出向した後、2009年4月にCTOに就任、現在に至る。
デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社(DAC) 取締役CTO 徳久 昭彦
大学を卒業後、株式会社東芝に入社。ITの新技術開発などを行うほか、多数の大規模システム開発においてプロジェクトリーダーを務める。2001年にデジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社(DAC)に入社。CTOとして広告配信システム・サーバの開発に携わる。海外の最先端技術の導入実績も多数。『生き残るための広告技術』、『最新版 ネット広告ハンドブック』など執筆活動も行う。
――インターネット広告の躍進の理由と現在の技術の進展度は?

明石: 今、スマートフォンをはじめとするデバイスが何十年ぶりかで急速に進化している時だと認識しています。そんな中、デバイスの種類が増えることによって、それを使っている人の状況・シーンがよりわかりやすくなってきているんですよね。これは他のメディアではできないこと。使っているアプリケーションだったり、見ているコンテンツであったり、あるいはユーザーが外にいるか屋内にいるかはたまた移動中なのかを把握できる。さらにユーザーのセッション全体を見ると、その人がダラダラ見ているのか、何かを調べようとしてコンテンツを見ているのか、ということもどんどん把握できるようになってきています。

そこで、ユーザーの置かれている状況に合わせて、より適切な広告を配信し続けるというのが、やはりインターネット広告をやっている中で目指すべきところかなと考えています。そこには、計算量、データ量との戦いがあるんですよね。“その瞬間”を捉えないといけない。

徳久: すごくそこは私も似たような考え方を持っていますね。ただ、状況を把握しても迷惑なものをユーザーに見せても困っちゃうので、そこに対してどうやってユーザーにとって納得感のある情報を出すのかっていうのは、いろいろやってみないとわからないところかなと思っています。どんな広告が、どういう時・場面だったら受け入れられるのか。少なくとも環境とか状況とかに応じた――僕らはよく「アンビエント」って言っているんですが――そういう広告が、だいぶできるようになったのかなと。

もうひとつは、スマートフォンなどの新しいデバイスが増えて、もうちょっとユーザー参加型の広告なりメディアっていうものができてくると思っています。参加型というのは、ユーザーが自分の気分なり考えを表明できるというメディアですね。それによって“迷惑じゃないもの”がもう少しわかってくるかなと。あとは、参加する中で人のつながりも見えてきているので、こういう気分でこのつながりの中にいる人なのね、ということも把握できるようになる。

――ユーザーが納得感を持って受け入れられる広告配信が完璧にできる状態を100とした場合、現状はどのくらいまで来ているのでしょうか。

明石: 例えば検索連動型広告のように、ユーザーが今何を調べているのか教えてくれるものっていうのは非常にわかりやすいですよね。そこはかなりいい確率で…まあそれでも、CTRのパーセンテージくらいなんでしょうか(笑)、まだまだその10%とかの世界観。

ディスプレイ広告とかですと、徳久さんがおっしゃられていたとおりで、ユーザーが何に関心を持っているかっていうのがまだまだ把握しきれてない。いま把握できているのは、ユーザーのデモグラフィック、地域とか、どんなコンテンツをよく見ているとかそういうものでしかない。そうすると、マッチ率は非常に低いと思うんですよ。ユーザーを固まりでしか見ていないので。

あとは、昔からあるメディアの広告手法で、数打てば認知されるということも継続されているので、1インプレッションの効果を最大化するというところもやっていかなくちゃいけない。

まだ、本当に始まったばかりの世界です。求めるところにはほど遠いです。評価点としては100のうち10も行っていないんじゃないでしょうか。

――今後、エンジニアが何をしていくと理想形に近づけるのでしょうか。

徳久: エンジニアといってもいろんなパートがあるので……今はちょっと先の話をしてきましたけど、広告配信システムにおいて、まずは「きちんと届ける」ということが一番大事。抜けがあってはならないし、期日に遅れてもいけない。そういうことをきちっとやるのがベース。

広告システムに携わるエンジニアには、意外と研究開発的なことから営業・マーケティング的なことクリエイティブ的なセンスまで、他の職種よりは求められる素養は幅広いと思いますね。

まずは、ネットの場合だと急に大量に人が来るなど、トラフィックに非常に動きがあるので、どれだけそこに備えておくかというインフラ的な部分。さらには、科学的・心理学的に、どんな状況・気分の中にいるユーザーに対してどんなものを作っていくのかという領域。

そして、クリエイティブ。クリエイティブとテクノロジーが近いところにいるっていうのが、僕は今までのマスメディアとデジタルメディアの決定的な違いだと思っています。これまではまったく別の人がやっていたけれど、それが今、すごく近づいている。ネット広告の世界では、クリエイティブがわかる技術者のほうがより面白いだろうし、技術がわかるクリエイターのほうがより面白いと思う。それぞれのエンジニアの志向によって、もっと追究し、自分を高められる領域があるかなって思いますね。

また、ビジネスとしてどう考えるかっていうのもあって、まあ明石さんなんかはよくわかっていると思うけど、結局やっぱりお金にしないと最終的には何も回らない。ビジネスモデルと技術っていうのは切っても切れないところがあるので、そこもひとつの領域。

もちろん、それぞれのエンジニアが、全部をカバーできればベストですけど、いきなりそれは無理だと思うので、そういう4つくらいの領域がある中で、どう自分のキャリアを築いていくかを考えるのは面白いんじゃないかと思います。

明石: まったく徳久さんと同じような感じなんですが、別の見方をしてみると、一般的にコンピュータってインプットとアウトプットしかありませんよね。そのインとアウトの間にどれだけ計算があるかなんですけど、例えばWebのコンテンツを作るシステムは、ある情報があってそれを整形して出力するという非常に簡単なものなんですね。ただ、広告システムっていうのは、インからアウトまでが果てしなく長いんです。まず、登場人物が非常に多い。広告主はいますし営業はいますし、媒体もありますし、それからそれを見るユーザーも。そのすべての人たちを幸せにしないといけないんですね。あと計算のために扱う情報量も多いですね。

たいていのシステムはシンプルなんです。私はコンピュータでシステムを組んでいて、難しいと思ったことはあまりないんですよ。ただ、広告システムに関しては、答えのない科学計算、円周率をずっと計算し続けているみたいなもので、いつ解答がでるかわからないような世界。今は恐らく小数点第2位くらいまでしか僕らはやってないと思う。今後は、僕らがどこまで計算し続けられるか、計算するときにどこまでパラメータを取り込めるか、という段階に入っていきます。

先ほどの4つの要素があるっていう話がありましたが、僕はどちらかというとインフラとか計算のほうを好きでやっている人間ですね。ただ本当にそれだけやっていると、頭でっかちの空想理論になってしまうので、いろんな登場人物やいろんなインプットの意味を考えた上で計算式を考えないといけないっていうのが非常に面白いと思います。

徳久: 僕は全部好きですけどね、基本的には。さっきの明石さんの計算の話もそうですけど、結局何かの表現が必要なんで、いくら素晴らしい計算をしても刺さらない表現だったら広告としては何にもならないんですね。そこがすごく悩ましいところです。ただ、精度を高めていくと、当たらない、当てるものがなくなってしまうんですね。

明石:そして当たりすぎると気持ち悪い(笑)

徳久: どんどん「個化」していくというか、「個告」になってしまう。だから突き詰めると一人ひとりに別の表現を作るのか、という話にもなるし。

片や、今みたいに大きな震災のようなことがあると、人の気分というのは多様だったものが2種類くらいに大きくまとまって流されるじゃないですか。ある人は極端に許容度が低くなったり、今まで何とも思わなかったことにセンシティブになってしまったり。1カ月前は何とも思わなかった広告を急に不快に感じたりとかも出ているでしょう?そこはやっぱり計算だけではどうにもならない、大事なことだなって思いますね。広告って人に喜んでもらったり、使ってもらえる情報を出すのが基本だと思う。世の中の流れとか空気を読むのは、クリエイティブじゃないと無理だよなって思っています。そこは非常に大事だと、こういうときだからこそ考えますね。

――広告システムに携わるようになったきっかけは?

明石: 広告をやりたいというのはなくて、ヤフーに入ったらたまたまアサインされたっていう感じです。ただ、やってみると非常に面白かったですよね。やっぱり、例えばサービスを作ってもサービスの伸びは限界がある。ただ、ヤフーで広告を作ると、ヤフー全体の伸びをサポートしないといけないんですね。ヤフーで一番PVのあるサービスっていうとオークションだったりするんですけど、広告システムはオークション程度は普通にさばけないといけないんです。そこを追求する作業、例えば数ミリセカンドの中でより最適な広告を出すだとか、1日何百億の画像を安定して配信し続けるだとか、さきほどの「正しく送り続ける」っていうこともそうだし、その結果を正しく集計するであるとか…ある意味、インターネットのすべての技術を使うわけですよ。データベースも使いますし、集計もするし、Webサーバも使いますし、スケールが必要となればhadoopとかも普通に使いますし。だから、すべての技術を最大限に利用するっていうところが非常に面白い。

徳久: 僕も当初は広告システムに関わりたいとは考えていませんでしたね。社長に誘われたから入った(笑)。ただ、サービス、メディアとしての技術も面白いと思うんですけど、やっぱり広告のほうが果てしなく「インフラ」な感じがしています。元々東芝に入った理由も「何かのインフラに関わりたいな」というものだったので、広告は規模としては小さいですけどインフラとして面白いと思いますね。だけどまだまだやっぱり、規模が小さいなっていうのは常に悩みではありますけど。東芝の売り上げと日本の広告費ってそんなに違わないですから(笑)

――そのくらいの規模までいけるポテンシャルはあるのでしょうか。

徳久: いや、国内だけでやっていると難しいだろうなって思いますね。ただ、どんどんボーダレスにはなってきているとは思うので、あまり国内だけにこだわる必要はないかなと思いますし、こだわっているとみんなやられちゃうっていう意識はどんどん出てきています。

インターネットの世界自体はグローバル化が遅れているわけじゃないですけど、広告の世界は極端に遅れているので、これからそこを加速させていかないとダメだろうなと思いますね。メディアとか広告ってすごくドメスティックな仕事です。そこをグローバル化していくのは面白いと思いますよ。

――インフラに携わる喜び・面白味とは?

明石: 僕にとっては、規模感ですかね。規模感と、誰かの役に立っているっていうところですかね。

徳久: 広告って、すべての企業がお客さんになりうるし、すべての消費者が対象になる。そういう仕事って他にあんまりないと思うんですよね。

明石: 業界も決まっていませんよね。広告システムを作る側は、いろんな業界を理解した上で考えないといけないので、そういう面も非常に面白いですね。それぞれの業態や商流を把握しながら広告システムに取り入れていかなければいけない。Eコマース企業と、自動車メーカーでは広告の出し方も違いますし。

徳久: まあ、法律も違ったりしますしね、金融は金融で、薬は薬で、それぞれ違いがあり、それがクリエイティブに影響するところもあります。

今後の広告業界は、徐々に面白くなってくると思います。エンジニアにとってでさえ外からはなかなかわかりにくい業界でしたが、少しずつ理解していただけるようにはなってきたのかなと。そして実際は、幅広い仕事があるので、より目立ちたいのであれば、よりクリエイティブ寄りの仕事をしたり、もっとビジネスモデル寄りの仕事をしたりすればいいと思います。ユーザーと地道に接点を作っていくのが好きだという人は、インフラ的な仕事をやったほうが面白いと思います。そういうチョイスはある業界だと思いますよ。

――ソーシャルメディアの拡大によって、どんな課題が?

明石: 今、インターネット広告システム自体が、恐らくその転換期を迎えているんですよね。もともとバナー広告と呼ばれるインプレッション保証型の広告が最初に出てきて、その後もいろいろなタイプの広告が出てきました。そしてグーグルのような第二世代のマシンラーニング、つまり広告システムが自分自身で効果を上げていくようなものが出てきた。

媒体側のルールが変わってきて、今ツイッターであるとかソーシャルメディアが増えてきて、それまでの仕組みでは効果を出すことが非常に難しくなってきているというのが現状です。そういう意味で、フレッシュネスの非常に高いコンテンツに対して、より最適な広告を出す仕組みというのは、実はまだインターネット広告業界では誰も成功してないんですね。スマートフォンのアプリケーションの広告も同じで、これからなんですよ。

この二つの領域には、僕たちヤフーを含めWeb媒体が作ってきた以上のユーザー数・PV数が存在するんですね。ここをより最大化していく仕組みづくりはこれからの課題であり、また非常に楽しいところだと思います。

それで、やっぱりそこは、最初の話に戻るのですが、データをいかに活用するかっていうところが重要だと思っています。今までなかったデータっていうのがそこにはいっぱいありますから。この業界はまだまだなので、これからみなさんが作るモノが、新しい、市場価値を生む可能性が十分にあると言っていいでしょう。

明石: 大きな課題は、情報が細かく分散して、一つ一つの情報量が少ないことです。いままでのコンテンツは、専門家が作った文章なわけです。一方で、現在作られているメディアというのは、一般人が口語体で書いた短い文章なんですね。その情報の中身を、どう把握すべきか。例えばツイッターとかだと、「しまった!」とかだけでも発信するわけです。それが、何に対する「しまった!」なのかをその文脈を理解する方法が見つかっていない。

徳久: そういう意味で言うと、「コンテンツよりもよりオーディエンス」な感じになって来ているのかな。オーディエンスに着目すべきかなと考えています。これまでは、ネット広告とはいっても、わりと今までのマーケティングの理屈に乗っかってやってきたところはたくさんあるんですが、今後は、それを越えて行かなきゃいけないんだろうなと。

ただ、そこでも課題があって、今までは「テレビで例えるとこういうことですよね」っていう説明で済んだものが、ソーシャルになってくると説明がつかなくなってきてしまう。また、オーディエンスに着目したときにはプライバシーの問題もあるので、そこは侵害しない形でなおかつオーディエンスにフォーカスした形でどうやって広告とシステムを作っていくのか。これまでやってこなかったアイデアやビジネスモデルも多分に出てくると思うので、それをどうやって形にしていくのかなど…課題は山のようにあるなと思いますね。

でも、少なくとも以前より良いものになるだろうな、ちゃんと僕らが真面目にやっていけば、より良いものにはなるだろうなと思っています。広告は、良くも悪くもダメなものって絶対に淘汰されていくんですよね。最終的には消費者なりオーディエンスが見るものなので、そこでダメと評価されたら絶対ダメになる。

そこはある意味で安心している部分でもあり、楽観的に「良いものになるだろう」と思える理由でもあります。何をいつ実現するかという時間的な問題なども含めていろいろな課題はあると思いますが、真面目にユーザーのことを考えてやっていけば、いずれ良いものになっていくのは間違いないでしょう。そういうところに関わりたいというエンジニアがどんどん参加してくれればと思いますね。

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