

「シカゴにピアノ調律師は何人いるか?」
「日本全国に郵便ポストはいくつあるか?」
「鳥取砂丘の砂粒の数は?」
もしあなたが転職の面接試験でこんな質問をされたら何と答えるでしょうか?
これらの質問は「フェルミ推定」と呼ばれ、十年以上前から外資系のコンサルティング会社やIT企業の面接試験の場で用いられてきた問題です。採用側の企業はこの質問で応募者の何を見極めようとしているのでしょうか?
この質問で求められているのは、「正解」や「知識」ではありません。この問題にどういうアプローチで取り組み、どういうプロセスで答えを出そうとしたかという「基本的なものの考え方」、すなわち「地頭力」なのです。
現在のビジネスではこうした「地頭力」がいままで以上に求められてきており、これまでのように一部の会社だけでなく、広い範囲の業界でこうした能力が求められてきています。これはなぜなのでしょうか?
インターネットの普及、とりわけWeb2.0と呼ばれる時代に入って私たちの知的生活は一変しました。インターネット上の膨大な情報と検索エンジンの飛躍的発展に伴って、一昔前では一部の専門家しかアクセスできなかったような情報があっという間に簡単に手に入るようになりました。
これは私たちにとっては大チャンスでもあるとともに非常に危険な状態でもあります。素人参加型であるインターネットの情報は、鮮度が高い反面で信憑性に疑いが残り、また陳腐化が速いためにこれを鵜呑みにして「コピペ」するだけでは十分に情報を活かしきれないばかりかむしろ有害になってしまうこともあるでしょう。
こうした一方で、私たち全員にとって大チャンスであるという側面もあります。それは、素人と専門家の情報量が同じになったということは、そこに自分なりの視点を加えて付加価値をつけていくことができれば、短期間で専門家を凌駕できる可能性がある時代がやってきたということです。
以上まとめると、現代は「情報量」で差がつくのではなくて、「自分で考える力」で差がつく時代だということです。したがって、ビジネスの現場でも単なる知識力ではなくて、それを編集し加工するための「地頭力」が求められるのです。
もう一つの背景として、転職市場の活発化やグローバル化の進展によって、従来の求められていた「社内知識」や「業界知識」よりも汎用的にどこででも役立つ能力が求められてきていることも挙げられるでしょう。

ではここで冒頭の問題にもどります。
「シカゴにピアノ調律師は何人いるか?」
このような問題が出されたときのポイントは、
■ 「知らない」からといってそこで立ち止まらず、「知的ファイティングポーズ」をとる(もともと誰も答えを「知っている」人はいないので)
■ 何とか自分なりに「考えて」、制限時間内に(答えの精度は気にせずに)とにかく答えを出してみる(「わかりません」とは絶対に言わない)。
■ 瑣末なことにとらわれずに(こだわったところで答えの精度が上がるわけではないので)前提をはっきりした上で「ざっくりと」答えを出す
ことです。
この問題に対しての考え方の例を示しておきます(あくまでも一つの考え方ですので、これでなければダメだということではないということは、ここまで述べてきた趣旨からおわかりでしょう)。また数値の「精度」はここではあまり重要ではありません。
【基本的な考え方】
ピアノ調律師に関する需要と供給のバランスから考える。 つまり、「シカゴに何台ピアノがあって年間にのべ何回調律が必要で」「それを調律するのに何人程度の調律師がいればよいか?」という視点で計算する。
【前提条件】
・シカゴの人口を300万人とする
・1世帯辺りの平均人口は3人とする
・ピアノ所有率を10%とする
・年間調律回数を1回とする
・調律師は年間200日稼動、一日3回平均で年間600回の調律が可能とする
【計算結果】
調律師数=シカゴ人口÷平均世帯人数×所有率÷調律師あたり年間回数
=300万÷3×0.1÷600
=167人→約170人
実はこの問題では、地頭力を構成する3つの思考力、つまり
(1)「結論から考える」仮説思考力
(2)「全体から考える」フレームワーク思考力
(3)「単純に考える」抽象化思考力
の応用が必要になっています。
次回から3回に分けてこれら「3つの思考力」について解説したいと思います。
1964年神奈川県に生まれる。ザカティーコンサルティングのディレクター、ビジネスコンサルタント。東京大学原子力工学科を卒業後、東芝で8年間エンジニアとして働いたのち退職。経営コンサルティング会社のアーンスト&ヤング・コンサルティング(ザカティーコンサルティングの前身)に入社する。以来、会社の仕組み(業務プロセス、組織、IT)の改革にクライアント企業と取り組んでいる。共訳書に『市場をリードする「業務優位性」戦略』、著書に『「地頭力」を鍛える』、『いま、すぐはじめる地頭力』がある。
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