皆さん、企業寮と聞くとどのようなイメージを思い浮かべますか? 一般的な企業寮は特定の企業が建物を借り上げて、同じ会社の社員が住むもの。安さというメリットはあるものの、どこか閉鎖的だったり窮屈なイメージが付きまとっていたのも事実です。

今年の1月から入居を開始した「月島荘」はそんな従来のイメージを覆す、シェアハウスならぬ“シェア企業寮”。現在、24社が参加している「企業寮をシェアする」という新たな試みは、業種や職種、世代や国籍が異なるビジネスパーソンが共に暮らすことで、互いに刺激しあい、高めあえることを目指しているそうです。この新しい企業寮を建設したイヌイ倉庫(株)に詳しくお話を伺いました。

 

地の利を生かしつつ低価格、そして「付加価値」が出発点

まず、なぜこの新しいスタイルの企業寮の建設に至ったのかについてお聞きしました。

「月島は主要なビジネス拠点へのアクセスに優れ、職住近接ニーズが高いエリアです。一方で、コンパクトな住戸のニーズは高いものの、ワンルーム規制によりほぼ供給不可となっているなどの需給ギャップも生じています。

当社は月島・勝どきエリアに賃貸マンションを所有(共同事業含め約1,500戸)しており、既存物件との差別化を行った上で、所有地の再開発を行うにあたり、まず『都心で働くビジネスパーソンに10万円の住まいを提供する』という方針に行きついたところがスタートでした」(イヌイ倉庫(株)資産活用部 以下同)

 

ビジネスマンにとって地理的に恵まれている、という点を生かしつつ低価格、というところで「企業寮」というスタイルがまず採用されたんですね。

「『share』の概念を取り入れ、コンパクトな住室と豊かな共用部が実現し、結果として賃料を抑えることもできました。そして安かろう・悪かろうではなく、さまざまな業種のビジネスパーソンが住まいながら、相互に高めあえるような環境を『付加価値』にしようという思いから、月島荘のコンセプトができ上がっていきました」

 

コンセプトに基づき「自然な交流」を演出

現在は航空会社、シンクタンク、銀行、不動産管理会社など、多様な業種の計24社が「月島荘」を利用しています。全644室で、各階の住室数は35戸。各住室は、すべて同じ間取りで、広さは18 ㎡です。設備としてエアコン、ベッド、マットレス、椅子、冷蔵庫は備え付けており、シャワーブース、トイレ、洗面台が常設されています。

 

では、ここならではの「入居者同士が高めあう」ための工夫はどのようなものでしょう?

「2フロアずつ計70名をひとくくりとし『クラスター』と呼んでいます。学校に例えると、全ての入居者が全校生徒で、クラスターはクラスのようなものです。現在は12のクラスターが存在しています。

また月島荘には、『大』『中』『小』3つの概念があります。『大』は1階部分を指し、月島荘住民も外部の方も誰でも使用できる共用施設になっています。『中』は、各クラスター専用の共用施設を指し、各階で日常的な交流が生まれるような仕組みとなっています。『小』は唯一、share をしない各住室を指します。

日常生活の中でさまざまな刺激を受ける仕掛けとして、1階共用部はガラス張りにしています。それにより、一生懸命働いて終電で帰る人、スタディルームにこもって勉強している人などを見た人が、良い刺激を受けられるような仕掛けにしています。

また、1階は中庭も含めて一体的に使える共用部にしています。天気のいい日は中庭でコーヒーを飲んでいる人がいたり、本を読んでいる人がいたり、通路として横切る人がいたり…そういう中で自然な交流が生まれやすくなっています。さらに、月島荘における健全かつ自発的な異業種交流を目的に、セミナーや勉強会等の開催を応援する制度も最近発足しました。このようにハード面だけでなくソフト面での仕掛けも始めています」

 

契約の対象は法人のみ

魅力的な環境が整っている上に家賃も安いので、「ぜひ入居したい」と希望する人の多いことが想像できます。入居の条件はどのような内容でしょう。

「月島荘の契約対象はコンセプトに賛同し、協力いただける企業のみとしています。企業が認める人であれば、誰でも入居可能です。寮としての利用はもちろん、単身赴任者や海外トレーニー、インターン、プロジェクト等での短期利用も可能です。

成長意欲の高いビジネスパーソンが集まりやすく、中には社内公募により書類審査や面接審査で選抜した人材を住ませる企業もあります」

あくまでも企業寮の集合体なので、個人では契約できないようです。仕事とプライベートはきっちり分けたいものですが、プライベートでの刺激が、仕事に生きてくることがあるのも、また事実。不世出の漫画家を多数輩出したトキワ荘のように、異なる企業の人材が切磋琢磨することで、新しいイノベーションが生まれることに期待したいですね。

(識者プロフィール)

イヌイ倉庫株式会社/大正14年の創業以来、80有余年に渡り発祥の地である“勝どき”を中心として、「誠実・信用・安全」をモットーに物流業、不動産業を二本の柱として事業を展開している。永年のよき“伝統”を背景に、未来に向けて堅実に“成長”を続ける会社であることを理念としている。