あなたは自分のプレゼンに自信がありますか? きっと多くの方が、多少なりとも苦手意識を持っているのではないでしょうか。

プレゼンが上達するコツは、一流を知り、そのワザを学ぶこと。そこで、エグゼクティブ・スピーチ・コンサルタントである永井千佳さんに、私たちが参考にするべきプレゼンの達人7人と、彼らの凄ワザを教えていただきました。

 

間の取り方、身振り、服装……記憶に残るプレゼンは細部の積み重ねから~スティーブ・ジョブズ~

「2011年に惜しくもこの世を去った、アップル社の共同設立者の一人であったスティーブ・ジョブズさんは、ビジネス界における最高の達人の一人です。計算され尽くされた間の取り方や身振り手振り、アイコンタクトは、まさに神業。聴衆の『気』を感じながら、興味をかきたてて引き付けます。特徴を印象付けるために、商品をポケットから出すなどの見せ方のアイデアから、シンプルで見やすいプレゼン資料も抜群のクオリティー。例えばiPhoneを紹介したプレゼンで使われていた『独立した3つの機器ではなく、1つなのです。名前はiPhone』など、分かりやすい言葉を選ぶことで、聴衆の記憶に残りやすく、聞き手の心をわしづかみにします。そして何より、イッセイミヤケの黒のタートルネックにリーバイスのジーンズ、ニューバランスのスニーカーという定番の服で毎回プレゼンすることで、より人々の印象に残るようになっています。一見シンプルで何ということもないプレゼンに見えて、誰もの記憶に残っているのは、あらゆる項目で高得点を出しているからこそでの結果です」(永井さん:以下同じ)

 

ビル・ゲイツ~優しいまなざしにこそ、聞き手は共感する~

(「ビル・ゲイツの現在の活動」TED.comより

 

「マイクロソフト社の共同創業者であるビル・ゲイツさんは、現在ビル&メリンダ・ゲイツ財団共同会長。彼のプレゼンは、マイクロソフトのトップ時代から大きな変化がありました。当時のプレゼンは、攻撃的な内容で、姿勢も猫背で両手を前に組む、というスタイル。プレゼン資料も複雑で見にくく、与える印象は必ずしもよくありませんでした。しかし、慈善団体であるビル&メリンダ・ゲイツ財団共同会長に就任し、一変しました。慈愛に満ちたまなざしで聴衆を見据え、落ち着いた語り口や時折見せる笑顔が安心感を感じさせるほど。また、『禿げるのは嫌だけどね』など、彼独特のユーモアもはさむようになりました。聴衆のリアクションが薄くてもまったく気にしないメンタリティーは彼ならでは。ジョブズと比べると、話し方に切れ味がないように感じるかもしれませんが、一般人でも学ぶべきテクニックが満載のプレゼンです」

 

孫正義~「自分の言葉」を「言い切る」ことで伝わる、秘めた意志の強さ~

(「ソフトバンク 新30年ビジョン01」ソフトバンク株式会社公式Youtubeアカウントより

 

「ソフトバンク株式会社の代表取締役社長を務める孫正義さんは、日本人がプレゼンのお手本にするのにもっともふさわしい人物です。彼もビル・ゲイツ同様、昔はせっかちで滑舌もいまひとつの、分かりにくいプレゼンでした。しかしここ数年、海外に進出するようになってから、プレゼンのスタイルを変えてきており、かなり努力されていることが分かります。手元の資料を読み上げる日本の経営者が多い中、自分の言葉で語る姿からは、秘めたパッションと強いビジョンを感じます。また、ゆっくりとした話し方、歩き方や動作は、聴衆への思いやりが伝わってきます。言うべきことをしっかりと言い、語尾をしっかりと止める“言い切り”からは、シンプルで力強いメッセージを感じ、説得力があります。発音についても、語尾を止めて子音が立っていることから、滑舌良く聞こえます」

 

キング牧師(マーティン・ルーサー・キング)~視線や声で、自分という人物の重量感を伝える~

「アフリカ系アメリカ人公民権運動の指導者として知られるキング牧師こと、マーティン・ルーサー・キングは、スピーチに関して数多くのエピソードを有する人です。彼のスピーチは、プレゼンを極めたい人にはぜひ知っておいてほしいです。壇上に立つだけで、スピーチが始まる前からその人物の重量感を感じさせます。そして、一人一人が自分とアイコンタクトを取っているのではないかと思うような、広く深い目線。さらに、下腹を張り、丹田(へその下のあたりで全身の精気の集まるといわれる箇所)から発声していることから、ブレのない腹に響く声。そして信念を持つ人にしか出せない言葉の重みは、他人が用意したものではなく、まさにキング牧師という人物の血肉そのもの。身振り手振りなく、スピーチだけでこれだけの説得力を出せるのは、彼の強い信念があってこそのものです。キング牧師のスピーチは、大事な言葉をゆっくりと、響く声で、思いを込めて繰り返すので、強く印象に残ります。この方法は皆さんも参考にしてみてください」

 

アル・ゴア~横隔膜を使った良い声を意識して信頼感アップ~

(「アル・ゴア『気候危機の回避』Talk Video」TED.comより

 

「アメリカの政治家であるアル・ゴアさんは、環境問題における世界の第一人者であり、副大統領や下院・上院議員を歴任した人物です。地球環境問題のドキュメンタリー映画『不都合な真実』でも有名です。彼のプレゼンでもっとも優れているのは、その声。説得力と信頼感が、声の良さで増幅している最高の事例です。よく響く低い声は、横隔膜をしっかりと使って呼吸を行っているからこそ出せるのです。また動画のスピーチでは、前半には間を取って聴衆とコミュニケーションを取りつつ、後半にはシリアスなテーマで、激しくたたみかけるようなシーンもあります。スピーチ全体を通してリズム感に溢れ、内容に応じて変化をつけながら話しています。表情を豊かにすることで、聴衆の笑いを誘ったり、共感度を高めたりすることや、広い会場にふさわしいスケールの大きな身振り手振りは、ぜひ学びたいポイントです」

 

平井一夫~資料ナシで脱日本人的プレゼン! 堂々たる話しぶりが好印象~

「ソニー株式会社取締役の平井一夫さんは、聞き手に好印象を与える“話し方”や“声”をよく研究し、プレゼンを工夫しています。特に英語でのプレゼンは、資料を使わない堂々たる話しぶりから、『ついに日本人でもこのような経営者が出てきた!』と驚くほど、すばらしいものです。シリアスな内容でも、頬を上げながら自然な笑顔で話しているので、声のトーンが明るく、口の中も開いていることもあり、言葉が明瞭に聞こえます。手の位置も常にベルトより上にし、手を開いたり指で数字を示したりと、聴衆にとって分かりやすくオープンなイメージがあります。ファッションについても、いつもTPOに合わせてスマートに対応されていると思います。ただし、日本語による会見や質疑応答などの際に、緊張すると少し声が高くなることや、子音が滑るときがあることが課題でしょう」

 

マーク・ベニオフ~聴衆の至近距離に接近! 熱気で聴衆を魅了~

(「Marc Benioff Kicks Off Connections 2014」ExactTarget YouTubeより

 

「クラウド型CRMサービスで有名なセールスフォース・ドットコムの会長兼CEOであるマーク・ベニオフのプレゼンは、なんといっても演歌歌手のように客席にまで入っていき、聴衆と至近距離でコミュニケーションを取るスタイルに魅力があります。今回紹介した円形の舞台で行われたプレゼンでは、360度の聴衆に対して、動きながらもアイコンタクトを欠かさず、低くてよく響く声で迫力と説得力のあるスピーチを披露しています。彼自身、自分の気持ちを極限まで高めてアグレッシブに話しているため、すごい熱気が伝わってきます。実はこのようなスタイルだと、『自分一人だけが興奮してしゃべってしまい、聴衆が置いていかれる』という失敗になりがちです。しかしベニオフさんがすごいのは、一見するとただ情熱に任せるままに話しているように見えますが、実は聴衆と至近距離でアイコンタクトなどのコミュニケーションを取り、しっかりと冷静な部分を保ちながら進めているという点。会場全体が一体となって盛り上がっている空気感が伝わってきますね」

 

7人の達人に共通する、プレゼンの極意

永井さんは、プレゼンでもっとも大事なのは「聴衆とのコミュニケーション」だと言います。たとえば資料を棒読みするようなプレゼンは、「聴衆とコミュニケーションが取れている」とは言えません。重要なのは、“自分の言葉”で“聴衆の立場に立って”話すことだと永井さんは言います。

「現在、ほとんどの日本人経営者が、用意された資料をうつむきながら、ただ棒読みするだけのプレゼンになってしまっているという悲しい現状があります。そのため今回紹介した7人の達人のように、“自分の言葉”で、“聴衆の立場に立って”話す姿は、大いに参考になります」

そうした極意は、簡単に身に付けることはできません。達人に近づくため必要なのは、「まずは一流を知る。そして目標を設定する。その上で、日々実践をしながら、聴衆の反応をもとに反省し改善していく」ことだと永井さん。そうした日々の積み重ねによって、自分のプレゼンのスタイルが定まってくるのです。

最後に、永井さんはプレゼンの極意をもう一つ教えてくれました。「それは、重要な内容をプレゼンの中で繰り返し言うこと。聴衆に覚えて帰ってもらうことができますよ」

プレゼンの達人ですら、最初から聴衆の心をつかむことができたわけではありません。何度も実践し、失敗と反省を繰り返してきたのです。ぜひ皆さんも、今回紹介した達人を目標にして、プレゼンを極めていってください!

プロフィール

永井千佳(ながい・ちか)/
ウォンツアンドバリュー取締役。エグゼクティブ・スピーチ・コンサルタント。桐朋学園大学音楽学部卒業。ボイストレーニング指導と舞台経験を基に、スピーチ・コンサルティングで多くの社長たちのスピーチを変え続けている。声、話し方、動作、表情などからスピーチ力を改善、経営者が持つ個性や才能を引き出す指導に定評がある。NHK、AERA、文化放送、雑誌プレジデント、月刊「広報会議」など、各種メディアで掲載多数。主な著書は『DVD付 リーダーは低い声で話せ』KADOKAWA 中経出版。
永井千佳オフィシャルサイトはこちら。