4月の人事異動に向けて、今からドキドキしている人も多いでしょう。

しかし人事異動にはトラブルがつきもの。たとえば、もし受け入れがたい異動を言い渡されたら、拒否することはできるのでしょうか? 今回は社会保険労務士の榊裕葵さんに、人事異動でよくある3つのトラブルと、その対処法を教えてもらいました。

 

会社が人事異動を行う5つの目的

人事異動とは、会社などの組織の中で、従業員の部署や事業所などの配置が変わったり、地位が変わったりすることです。

そもそも人事異動の目的はどこにあるのでしょうか? 榊さんによれば、人事異動の目的は次の5つに分類されるといいます。

①昇進
係長から課長になるなどの出世のため。

②適材適所への人材配置
新しい支社にマネージメントに長けた人材を配置するなど、組織が最大限にパフォーマンスを発揮するため。

③人材育成
営業部を経験させた社員を経理部に異動させて“数字に強い営業マン”を育成するなど、能力開花のため。

④雇用の維持
部門閉鎖や縮小などに伴って、何か別の仕事をあてがうため。子会社や関連会社などへの『出向』も含まれる。

⑤懲戒処分
例えば社内でセクハラ事件が発生したときに、加害者の男性社員に対して減給や出勤停止などの懲戒処分を課すとともに、被害者の女性とは別の部署に異動させるため。

 

人事異動を拒否できる3つのケース

以上のような理由から行われる配置や地位の変更を、受け入れがたいということはあります。しかし、「わが国では、解雇規制が厳しい代わりに、会社には広範な人事権が認められているので、人事異動は拒否できないのが原則と考えておいたほうがいい」と榊さん。

しかし、ある条件によっては、人事異動を拒否することができるといいます。人事異動を拒否できるのは、以下の3つのケースだそうです。

1.雇用契約書などで「勤務地」や「職種」が限定されているケース
「もし雇用契約書で限定したエリア外や該当職種以外の異動を求められた場合は、正当な理由がない限り契約違反になりますので、拒否ができます」(榊さん:以下同じ)

2.人事異動が「権利の濫用」といえるケース
「会社側が気に入らない社員を困らせて退職させたりするために、わざと慣れない職務に就かせたり、遠隔地へ転勤させたりするように、人事異動が嫌がらせだと思われる場合、目的が不当だとして拒否できます。ただし、会社はたいてい『幅広い経験を積ませたいから』など法的に合理的な理由を出すので、よほどあからさまではない限り、社員が対抗することはむずかしいかもしれません」

3.育児や介護など、やむを得ない事情があるケース
「例えば、要介護の親族がいて、面倒を見る人が自分以外いないという社員が、海外転勤を命じられた場合、社員にとって不利益が大きすぎることから、人事異動は拒否できると考えられています。しかし大企業などでは企業内託児所や介護費用サポートなどを行うところも出てきているので、不利益の度合いや転勤の必要性、会社からの配慮などを総合的に検討して、個別に結論付けられるのが一般的です」

 

人事異動で起こりがちな3つのトラブルとその対処法

3つのケースを除いて、基本的には拒否できないという人事異動。しかし働く側にとって納得できない辞令もあるものです。実際、多くの職場でよく起きている人事異動トラブルはどのようなものなのでしょうか? 近年目立つ3つのトラブルと、その対処法を見ていきましょう。

1.転勤を伴う人事異動に関するトラブル
「人事異動トラブルといえば、転勤を言い渡されて困るというケースです。生活環境が変わるのは誰でも戸惑うものですが、育児や介護中であれば家族の負担も大きくなります。単身赴任or家族帯同、引っ越しや帰省費用は会社が負担してくれるのかどうかなど、条件面でのトラブルも少なくありません」

■対処法
「もし転勤が明らかに嫌がらせ目的と思われる場合や、本人や家族にとって不利益が大きすぎるような場合は、転勤の人事異動を拒否することができます」

2.異動後の給与の変動に関するトラブル
「一般的に、職種が変更になったからといって、会社が一方的に給与を減額することは、本人の同意がない限り認められません。しかし、異動前は手当が付いていたけれど、異動後は職種が変わったので、職種固有の手当(例:営業手当、乗務手当)がなくなったという場合には、給与の変動を受け入れざるを得ないのです」

■対処法
「人事異動に伴い、給与額の変更があった場合、まず、それが就業規則や賃金規程などのルールに基づいて変更されているかどうかを確認しましょう。もし根拠なく給与額が減額されていた場合には、はじめからけんか腰にならず、念のため、事務処理上のミスでないかどうか確かめ、ミスでなかったら、減給の理由をきちんと聞かなければなりません」

「『景気が悪いから』とか『社長の方針だから』とか、あいまいな答えしかかえってこない場合は、『そのような根拠のない減給は受け入れられない』ということをはっきりと伝えましょう。もし会社が聞く耳を持たないようなら、労働基準監督署に相談するなど、行政機関や専門家の力を借りて解決を図りましょう」

3.「昇進したくない」ことから起きるトラブル
「かつては『出世』といえば、誰もが望むことでしたが、最近は反対に『出世したくない』と昇進を拒否する事例がしばしば見られます。責任が増加すれば、時間外手当が付かなくなったり、有給休暇が取得しにくくなったりすることを懸念する人が増えているようです。

■対処法
「人事異動は業務命令であり、昇進もその一種ですから、正当な理由がない限り原則として拒否はできません。もし昇進をためらうのなら、会社とよく話し合う必要があるでしょう」

 

人事異動にはメリットもある

思いもよらぬ人事異動に戸惑ってしまうこともあるかもしれません。しかし、「人事異動は、不当なものでない限り、自分にとって大きなプラスになるもの」と榊さんは言います。これまでとは異なる環境で働くということは、新しいスキルを身に付けたり、人脈を広げたりするチャンスなのです。

人事異動は自分の捉え方によってプラスにもマイナスにも変わるもの。不当な言い渡しでない限り、前向きに検討して、自分にとってどのようにプラスになるかを考えることが大切です。そのことを踏まえた上で、どうしても納得できないとき、今回ご紹介したような対処法が役に立つかもしれません。

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識者プロフィール

榊裕葵(さかき・ゆうき)/特定社会保険労務士(あおいヒューマンリソースコンサルティング代表) 上場企業経営企画室出身の社会保険労務士として、労働トラブルの発生を予防できる労務管理体制の構築や、従業員のモチベーションアップの支援に力を入れている。また、「シェアーズカフェ・オンライン」に執筆者として参加し、労働問題や年金問題に関し、積極的に情報発信を行っている。