「裁量労働制」という言葉を聞いたことはあるけれど、自分とは関係がない……そう思っていませんか? もしかしたら来年から、あなたの職場でも裁量労働制が取り入れられるかもしれません。
今年の4月3日、働き方や残業代のあり方を定めた労働基準法の改正案が閣議決定され、来年4月から施行される見通しにあります。なかでも働く人々に影響が大きそうなのが、「裁量労働制の範囲拡大」です。
今回は、若者の働き方にも影響がありそうな裁量労働制について、詳しくご紹介します。いったい裁量労働制とは何か、そのメリットやデメリット、そして制度が変わることで働く側としてはどのような変化があり、どう対応すべきかを、社会保険労務士の榊裕葵さんに伺い、まとめました。

 

「裁量労働制」とは?

今回の労働基準法などの改正で、適用範囲が拡大されることが決まった「裁量労働制」。労働時間を、実際に働いた時間ではなく、特定の時間分労働したとみなす「みなし時間」によって計算することを認める制度です。

 

適用されるのは「専門業務型」と「企画業務型」

この制度が適用される業務には、「専門業務型」と「企画業務型」の2種類があります。

「専門業務型」とは、業務の性質上、業務を進める方法を労働者の大幅な裁量にゆだねる必要があり、時間配分について具体的な指示をすることが難しい業務に適用されるものです。例えば、研究開発、取材・編集、デザイナー、弁護士などです。

「企画業務型」とは、主に企業の管理部で、企画立案などの業務を自律的に行っている業務に適用されるものです。例えば、現場で生産に直接関わらない、管理・事務の立場で働く人などです。

    

 

裁量労働制のメリット・デメリット

次にこの裁量労働制のメリットとデメリットを確認しておきましょう。

            
 

●メリット

・時間に縛られず、仕事を自分でコントロールできる

・自分がベストだと思う手順や段取りで進められる

            

「裁量労働制の最も大きなメリットは、やはり働き手が時間に縛られずに、自分で主体的に仕事をコントロールできることです。また、仕事の『進め方』についても本人に任せられることになっていますので、自分が良いと思った手順や段取りで仕事を進めることができ、主体性を持って仕事と向き合うことができるでしょう」(榊さん:以下同じ)

            

●デメリット

・時間内で終わらない仕事を任せられた場合、「不払い残業」になる

・実際に働いた時間が「過労死ライン※」を超えてしまう可能性がある


※脳出血や心筋梗塞などによる過労死を、労働災害として認定する時間外労働時間の基準のこと。             

「裁量労働制では1日の『みなし労働時間』が定められますが、どんなに創意工夫をしてもその時間内では明らかに終わらないような仕事を与えられた場合、法的には一応合法ではあるものの、実質的には『不払い残業』となってしまいます。

また、仕事の成果が出ていないとき、それがプレッシャーになって仕事にメリハリがつけられず、実労働時間では過労死ラインを超えてしまうような働き方をしてしまう可能性もあります」

 

適用範囲拡大で金融やITも裁量労働制に?

今回の労働基準法の改正により、裁量労働制の企画業務型に一部の営業職などが追加されるなど、適用される業務の範囲が拡大されます。これにより、これまで裁量労働制とは関係ないと思っていた人も、対象となる可能性があります。

「今回、新たに裁量労働制の対象となることが検討されている『法人を相手にする一部の営業職』とは、具体的には、金融やITといった業種で、単に既製品を販売するのではなく、顧客のニーズを個別に聞いて商品を開発・販売するような、いわゆる『提案型営業』の職種が想定されています。

この『提案型営業』をどのような範囲まで含めるのか、現時点では詳細が分かっていませんが、広く解釈すれば、PCの法人営業や外回りの銀行員なども、すべて裁量労働制の対象者に含まれてしまう可能性があります。今回の裁量労働制の適用範囲拡大は、世間で想像されている以上に多くの人が対象者となるかもしれません」

 

裁量労働制が変わることのメリット・デメリット

提案型営業に当てはまる人は、裁量労働制が適用されると、どのようなメリットとデメリットが想定されるのでしょうか?

  

●メリット

・仕事と私生活の両立が図りやすくなる

  

「今回新たに裁量労働制の対象となるのは、提案型営業の職種の方ですが、通常の働き方であれば、外回りの途中に私的なことを行ったら、休憩時間を除き職務専念義務違反となってしまいます。どうしても必要な場合は有給休暇を申請するしかありません。   
しかし、裁量労働制であれば、会社から求められる成果を出せば働き方は原則として自由です。例えば、小学生の子どもがいる母親であれば、外回りの途中でいったん帰宅して子どもに夕食を作り、夜、その時間しか都合のつかない顧客との打ち合わせを持つ、というような働き方も可能になります」

  

●デメリット

・チームワークが希薄になってしまう

・上司のライフスタイルに合わせざるを得ない場合もある

・チームワークを重視するなら裁量労働制が事実上機能しない

  

「自分は朝型、上司は夜型というように働き方が異なっていた場合、コミュニケーションが薄くなってしまう恐れがあります。また、上司やリーダーに相談したり、決裁を受けながら進めたりする必要のある仕事の場合は、事実上、上司のライフスタイルに合わせるしかなくなってしまう場合もありそうです。

このような問題は、従来の裁量労働制の対象職種でも起こりうることです。しかし営業系の仕事ではそれに加えて、一定の期限までに部門として与えられた数字を達成しなければならないというミッションを与えられているのが通常ですので、個々の自由な働き方とチームワークの問題は特に軽視できないものになりそうです」

 

労働時間短縮制度との兼ね合いが裁量労働制の課題

それでは、裁量労働制の制度自体の課題はどのようなものがあるのでしょうか。

「裁量労働制の場合、実労働時間が見えにくくなってしまっているので、『健康管理』と『ワークライフバランス』の観点から、実質的にどのような形で労働時間の短縮を実現していくのか、各会社がルールを作っていかなければならないと思います。

例えば、育児や介護を行いながら働く方については、育児・介護休業法に定められた労働時間や時間外労働について検討が必要です。具体的には、6時間や7時間で実現できる範囲で裁量労働の対象となる仕事を与えるとか、短時間勤務制度を利用する期間は、裁量労働制の適用除外とすることなどが考えられます。

会社が『裁量労働制の労働者には労働時間短縮制度は適用されない』と誤解しているような場合もあるので、そのようなときには自分の権利を主張しなければならないでしょう」

 

会社選びでは裁量労働制が正しく運用されているか確認

最後に、20代のビジネスパーソンが、今後会社を選ぶ際に気をつけるべきポイントを榊さんに伺いました。

「やはり裁量労働制が正しく理解され、運用されている会社を選ぶべきだと思います。裁量労働制は、自分の仕事や責任の範囲が明確になっているからこそ成り立ちうる働き方ですから、それが曖昧なまま裁量労働制を適用されてしまったら、『会社からは次から次に仕事が与えられるのに、残業代は支払われない』という事態に陥ってしまいます。

また、裁量労働制は本来、出勤時間や退社時間、仕事の進め方など幅広い自由裁量が認められているはずなのに、会社から過度の管理を受けてしまう場合もあります

このような会社を選ばないようにするためには、どのようなことに気をつければよいでしょうか?

「採用のプロセスの過程で、自分の職務の範囲が明確になっているか、朝の出社時間が固定されていないかなど、裁量労働制と矛盾する労働条件でないかを確認しましょう。もしふに落ちないことがあれば会社側に確認したり、場合によっては内定を辞退したりすることが大切だと思います」

実際に、新しい労働制度が施行されるに当たって、自分には影響がないと思っていても、もしかすると自分の業務に関わることがあるかもしれません。今後の動きや改正内容をよく理解し、今から必要な準備をしておきましょう。

  
※本記事の内容は2015年5月13日現在のものです。

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       「今国会に提出される見込みの労働基準法改正案のポイント」企業法務ナビ

識者プロフィール

榊裕葵(さかき・ゆうき)/ 特定社会保険労務士(あおいヒューマンリソースコンサルティング 代表) 上場企業経営企画室出身の社会保険労務士として、労働トラブルの発生を予防できる労務管理体制の構築や、従業員のモチベーションアップの支援に力を入れている。また、「シェアーズカフェ・オンライン」に執筆者として参加し、労働問題や年金問題に関し、積極的に情報発信を行っている。