以前の記事(「裁量労働制拡大であなたも残業時間増? 知っておくべき制度の常識」)でもご紹介したように、2015年の4月3日、働き方や残業代のあり方を定めた労働基準法の改正案が閣議決定され、2016年4月から施行される見通しにあります。施行されれば、「私には関係無い」と思っている方も、否応無く働き方に影響を受ける可能性があります。
今回は法改正のなかでも注目されている、「高度プロフェッショナル労働制」について、制度創設により何が変わるのか、働く側としてはどう対応すべきかを、社会保険労務士の榊裕葵さんに伺いました。

 

高度プロフェッショナル労働制では労働時間と賃金が連動しない

今回新たに導入が検討されている「高度プロフェッショナル労働制」はどのような労働制度なのでしょうか?

「高度プロフェッショナル労働制は、裁量労働制の進化形と理解すれば分かりやすいと思います。高度プロフェッショナル労働制のポイントは、従来の裁量労働制やフレックスタイム制が『労働時間と賃金の連動を一定の条件のもとに緩和する』制度であったことに対し、『労働時間と賃金の連動を完全に切り離す』制度というところにあります」(榊さん:以下同じ)

「裁量労働制もフレックスタイム制も、根底には『労働時間』という考え方があります。どちらも休日や深夜に労働した場合は、実勤務時間に応じた割増賃金が発生します。これに対し、高度プロフェッショナル労働制は、労働時間と賃金は完全に切り離され、完全に仕事そのものと連動して賃金が支払われる形になるのです」

つまり、まとめると以下のようになります。



【労働時間と賃金が連動】

裁量労働制:労働時間の計算を実労働時間ではなく、みなし時間によって行うことを認める制度。

(引用:「Q6.裁量労働制とは何ですか。」労働政策研究・研修機構(JILPT)



フレックスタイム制:あらかじめ定められた一定期間における総労働時間の枠内で、労働者が始業や終業時刻を自主的に決定して働く制度。

(参考:「1 フレックスタイム制とは」厚生労働省



【労働時間と賃金が連動しない】

高度プロフェッショナル労働制:賃金は労働時間と完全に切り離され、仕事の成果と連動して賃金が支払われる制度。

(参考:「今後の労働時間法制等の在り方について」厚生労働省労働政策審議会)※PDF資料

 

なぜ高度プロフェッショナル労働制を創設するのか?

今回、なぜ新たに高度プロフェッショナル労働制が創設されるに至ったのでしょうか?

「近年は労働時間と成果が結びつかない職種が増えているにもかかわらず、従来の『時間』を基礎にした賃金制度のままでは、短時間で成果を出せる優秀な人材が『仕事が遅い人ほど時間外手当がついて賃金が多くなってしまう』と不満を感じたり、『本当は早くできるけど、残業代が欲しいのでゆっくりやろう』と、あえて手を抜いたりして、労働の非効率が生じてしまっているので、これを高度プロフェッショナル労働制によって解消しようとしているのです」

 

制度の対象は?

仕事と連動して賃金が支払われるというこの制度。果たしてどのような仕事に適用されるのでしょうか?

「高度プロフェッショナル労働制の対象者はまだ正式に決定はされておりませんが、現時点の厚生労働省案では次の要件に該当する人とされています」

【対象となる業務】

・金融商品の開発業務

・金融商品のディーラー業務

・アナリストの業務(企業・市場等の高度な分析業務)

・コンサルタントの業務(事業・業務の企画運営に関する高度な考案又は助言の業務)

・研究開発業務

など



以上のような業務をしていることに加えて、以下のような条件もあります。



【条件】

・職務の範囲が明確に定められていること

・職務記述書などに署名する形で同意すること

(希望しない労働者には制度は適用されない)

・年収1075万円以上

・年少者には適用しない

(参考:「今後の労働時間法制等の在り方について」厚生労働省労働政策審議会)※PDF資料

 

高度プロフェッショナル労働制のメリット・デメリット

次に、高度プロフェッショナル労働制が労働者にもたらすメリットとデメリットを榊さんに挙げてもらいました。


●メリット

・短時間で成果を出すことのできる人にとっては、「仕事が遅い人のほうが残業代で給与が多くなる」というストレスから解放され、気持ち良く仕事ができるようになる。

・時間外手当が支払われないことが、良い意味で仕事を早く終わらせるためのモチベーションにもなる。

・出社時間、退社時間も自分で柔軟に調整ができるので、育児や介護といったワークライフバランスの実現や、自己啓発のために大学院や資格スクールに通うなどもしやすくなる。


●デメリット

・日本企業ではこれまで、個々人の職務範囲を明確化する労働慣習はあまりなかったことから、提出が必須となる「職務記述書」の内容が曖昧だと、際限なく働かされてしまう恐れがある。

・会社と社員の間には事実上の力関係の差があり、本制度を望まない人であっても制度を受け入れざるを得ない場合が発生することが懸念される。

 

働く側が注意すべきこと

高度プロフェッショナル労働制が適用される立場になった場合、働く側としてはどのようなことに注意すればよいのでしょうか?

「雇われている会社から、高度プロフェッショナル労働制の対象者になることの打診を受けた場合は、職務記述書の内容を確認し、自らの『職務の範囲』をしっかり納得した上で、同意をすることが重要です。職務の範囲が曖昧な場合は、会社と話し合い、可能な限り明確に定めてもらいましょう」

「また、対象者の健康維持制度として、会社は『年104日以上の休日』『終業から次の始業まで一定のインターバル時間を置く』『働く時間に上限を設ける』のいずれかを導入しなければならないことになる見込みなので、自分の健康を守るための権利を知っておくことや、場合によってはそれを会社に主張していくことが必要だと思います」

 

今後対象拡大の可能性も

本制度は、高度な特定の専門的業務で、ある程度年収や経験のある人が対象となる見込みです。しかし今後、高度プロフェッショナル労働制の適用職種の拡大も想定されますので、20代のビジネスパーソンが当事者になる日もさほど遠い未来ではないかもしれません。

そうなった場合、残業代や割増賃金が支払われないという点から、これまで以上に労働時間に気を付けて、自ら労働時間の管理を行う必要があります。また、制度の内容が確定したら、内容をあらためて確認し、必要に応じて自ら主張できるように準備しておきたいものです。

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識者プロフィール

榊裕葵(さかき・ゆうき)/ 特定社会保険労務士(あおいヒューマンリソースコンサルティング代表)上場企業経営企画室出身の社会保険労務士として、労働トラブルの発生を予防できる労務管理体制の構築や、従業員のモチベーションアップの支援に力を入れている。また、「シェアーズカフェ・オンライン」に執筆者として参加し、労働問題や年金問題に関し、積極的に情報発信を行っている。