頑張って残業をしたのに、給与明細を見たら残業代が少ない。上司に尋ねると、「うちは“みなし残業制”だから」という答えが……。このように、会社員ならたまに耳にするであろう“みなし残業”という言葉ですが、皆さんはこの制度についてちゃんと知っていますか? 
もしかしたら、会社が制度を誤って使っていて、皆さんが損している可能性も! 今回は、この“みなし残業”という制度について、社会保険労務士の榊裕葵(さかき・ゆうき)さんに寄稿してもらいました。

 

みなし残業とは

労働基準法は「労働時間に応じて賃金を支払うこと」を大原則としています。

しかしながら近年は、コンサルタント、研究者、システムエンジニアのように、労働時間の長さによって賃金を決めることになじまない職業が増えてきました。

また、「成果主義」の考え方が広まり、「賃金は労働時間の長さではなく、成果に応じて支払うべき」という考え方も一般的になってきました。

このような働き方の変化を反映して生まれたのが、実労働時間の長短にかかわらず、あらかじめ取り決められた時間分の残業代を支払う、みなし残業制度です。

 

みなし残業は労働者側が不利益を被りやすい

みなし残業という制度は、残業時間を一定にみなしたり、基本給の一部を残業代に置き換えたりと、どちらかといえば労働者側が不利益を被りやすい制度です。

だからこそ、会社が無条件に使えるものではなく、法律上の要件をクリアして初めて、合法的な導入が可能となります。

働く側としても、会社から提示された労働条件をうのみにせず、みなし残業についての正しい知識を持ち、知らず知らずのうちに不利な条件で適用を受けないよう、気を付けたいものです。

そこでここからは、みなし残業について知っておきたい知識をご紹介します。

 

みなし残業には2つの種類がある

早速「みなし残業」について説明を進めていきます。

みなし残業制にありがちなトラブルを知るためには、まずみなし残業の2つの種類を知ることが大切です。


法的観点から整理すると「みなし残業」には、

①「みなし労働時間制に基づくみなし残業」

②「定額残業制に基づくみなし残業」

の2種類があります。


順番に見ていきます。

まずは「みなし労働時間制に基づくみなし残業」について説明します。

 

みなし労働時間制に基づくみなし残業

みなし労働時間制とは、実労働時間の把握が難しいか、時間で賃金を決めることがなじまない労働者(コンサルタント、研究者、システムエンジニアなど)に対し、「労使協定を結んで、労使で合意した時間を1日の労働時間とする(みなす)」制度です。

みなし労働時間制が適用される職種には、次の3形態があります。

(1)事業場外のみなし労働時間制:直行直帰の営業や在宅勤務者に適用

(2)専門業務型裁量労働制:コンサルタントや研究者など専門職に適用

(3)企画業務型裁量労働制:経営企画室スタッフなどに適用

これらの労働者に関し、労使協定で合意した時間数が法定労働時間の8時間以内であればみなし残業が発生する余地はないのですが、合意された時間数が8時間以上となる場合は、合意された時間と8時間との差が、みなし残業時間となります。

たとえば、労使協定で10時間と合意された場合は、2時間が1日のみなし残業時間であり、定時に帰った日も、4時間残業した日も、賃金計算上は2時間の残業をしたものとして扱われることになります。

月の所定労働日数が20日であれば、2時間×20日の計算で、40時間分の「みなし残業代」が、実労働時間の長短にかかわらず、固定制で支給されるということです。

 

定額残業制に基づくみなし残業

次に、「定額残業制に基づくみなし残業」について見ていきます。

定額残業制とは、基本給や年俸の中に、一定の残業代が含まれているとみなす制度です。こちらの制度は、業種制限などはないので、全ての労働者が適用対象になる可能性があります。

定額残業制はどのような形で適用されるのか具体的な例で説明しますと、「基本給25万円(うち5万円は「みなし残業代」とする)」というような表現を、雇用契約書の賃金欄に定めるイメージになります。

あるいは「基本給25万円(20時間分の残業代を含む)」というような定め方も可能です。

すなわち、「金額または時間数によって、基本給に含まれている残業代の範囲を特定することができる場合は、基本給に含まれる金額または時間数に達するまでは、残業代を支払ったものとみなしてよい」とするのが、「定額残業制に基づくみなし残業」という考え方です。

 

みなし残業制にありがちなトラブルと対処法

これら2つの種類に分けて、みなし残業制にありがちなトラブルを見ていきましょう。

まずは、「みなし労働時間制に基づくみなし残業」に関するトラブルですが、代表的なものを2つ挙げておきます。

 

トラブル1:みなし労働時間制をとっているからといって、会社が労働時間の管理をしてくれない。

みなし労働時間制であったとしても、「みなし」扱いしてよいのは、あくまでも通常の残業代だけであって、深夜労働手当や休日出勤手当は、実際の労働時間に基づき、別途の支払いが必要なのです。

また、労働時間の管理は、決して残業代の計算のためだけに行っているわけではありません。

会社は、労働者に対する「安全配慮義務」を負っており、労働時間を把握することによって、働きすぎによる健康被害を防がなければなりません。みなし労働時間制で働いている労働者に対しても同様に、実労働時間を把握することで「安全配慮義務」を果たす必要があります。


対処法

会社が労働時間の管理をしてくれない場合は、少なくとも自分で日々の実労働時間を記録しておきましょう。万一、過労でメンタル不調に陥ったり、就労不能になったりした場合には、労災を立証するための証拠となります。

 

トラブル2:みなし労働時間制の対象でない業務に対しても、みなし労働時間制が適用されてしまう。

実務上は、労働時間を把握しうる営業職や、企画職ではない事務職などにもみなし労働時間制が適用されてしまうケースが多いようです。


対処法

このような場合には、自分の職務内容が、法律で定められたみなし労働時間制の要件に該当しないことを会社に説明して、みなし労働時間制の適用を解いてもらうとともに、過去の残業時間に対してみなし残業代が不足していたら、差額の精算を求めましょう。

 

次に、「定額残業制に基づくみなし残業」に関するトラブルです。

 

トラブル3:みなし残業代の基礎となる時間以上の残業をしたのに、超えた部分の残業代が支払われない。

会社によっては、「うちはみなし残業制だから」のひと言で、あたかも全ての残業代が基本給に含まれているように強引に押し切ろうとするようですが、それに屈してはなりません。


対処法

雇用契約書などを確認し、自分の基本給にはいくら、あるいは何時間分のみなし残業代が含まれているのかを確認し、実残業時間のほうが多ければ、不足する残業代の精算を会社に求めましょう。

なお、そもそも雇用契約書を交付されていなかったり、交付されていたとしても、基本給に含まれるみなし残業代の額や時間数が明記されていない場合は、定額残業制自体が無効になりますから、労働者は全ての残業時間に対して残業代を請求することができます。

 

みなし残業に関して求人広告でチェックすべきこと

いま就職活動や転職活動をされている方は、気になる企業でみなし残業制が導入されているのか、されているとしたらきちんと適用されているのか、知りたいところだと思います。

みなし残業に関して求人広告でチェックすべきことも、「みなし労働時間制に基づくみなし残業」と「定額残業制に基づくみなし残業」に分けて説明します。

まずは、「みなし労働時間制に基づくみなし残業」です。

 

チェック1:求人されている職種がみなし労働時間制の対象ではないにもかかわらず、みなし労働時間制を適用した求人になっていないか

繰り返しになりますが、みなし労働時間制が適用されるのは、労働時間の把握が難しい直行直帰の営業職、システムエンジニアのような専門職、経営企画室のスタッフなど限られた職種です。

直行直帰でない営業職や、事務職の労働者には、みなし労働時間制の対象外ですので、求人されている職種がみなし労働時間制の対象ではないにもかかわらず、みなし労働時間制を適用した求人になっていないか確認をしてください。

 

チェック2:裁量労働制が正しく適用されているか

また、みなし労働時間制のうち、専門業務型および企画業務型の裁量労働制が適用されている場合には、出社時間、退社時間は労働者の自由裁量に委ねられることが法定のルールです。
(裁量労働制については、こちらの記事を参考にしてください)

それにもかかわらず、朝の出社時間が縛られていたり、朝礼に参加義務があったりするような求人広告を出している会社は、裁量労働制を正しく理解していない可能性が高いです。

 

次に「定額残業制に基づくみなし残業」についてです。

 

チェック1:基本給の中に含まれる、みなし残業代の金額ないし時間が特定されているか

基本給の中に含まれる、みなし残業代の金額ないし時間が特定されているかどうかを確認することが重要です。

 

チェック2:みなし残業代が極端に高くないか

また、仮に基本給に含まれる残業代や残業時間数が特定されていたとしても、その額や時間数が極端に多い場合は、その会社の求人は避けたほうが無難です。

たとえば、都内の会社で「基本給18万円、みなし残業代5万円を含む」というような求人ですと、最低賃金法に違反しています。

すなわち、東京都の最低賃金は888円(2015年6月5日現在)ですから、月平均の稼働日が21日で、1日の所定労働時間を8時間とした場合、888円×21日×8時間=149,184円となります。みなし残業代を除いた純粋な基本給の部分が13万円にしかならないということは、最低賃金に達していないということになるのです。

 

まとめ

冒頭でも述べたように、みなし残業という制度は労働者側が不利益を被りやすい制度です。

そのため、会社から提示された労働条件をうのみにせず、みなし残業についての正しい知識を持って、不利な条件で適用を受けないよう、気を付けることが重要です。

入社した後での労働条件の交渉は難しいことも多いでしょうから、可能な限り、求人段階で労働条件を見極め、正しくみなし残業制が運用されている会社を選びましょう。

(オススメ記事)
「残業ナシのはずじゃ…」入社したら労働条件が違っていたときの対処法

識者プロフィール

榊裕葵(さかき・ゆうき)/ 特定社会保険労務士(あおいヒューマンリソースコンサルティング代表)上場企業経営企画室出身の社会保険労務士として、労働トラブルの発生を予防できる労務管理体制の構築や、従業員のモチベーションアップの支援に力を入れている。また、「シェアーズカフェ・オンライン」に執筆者として参加し、労働問題や年金問題に関し、積極的に情報発信を行っている。