「会社を辞めたいと思っても辞められない」という人は少なくないようです。「私が辞めると会社がまわらなくなる」、「自分の代わりになる人がいない」、などと周りに気を使ってしまうケースもあれば、「勝手に辞めたら損害賠償を請求する」などと、会社から脅されることもなかにはあるそう。

    

そこで今回は、労働トラブルに詳しい弁護士の中山弦さんから「辞職するうえで知っておきたい法律知識」をお聞きしました。

    

※併せて、「会社を辞めるときに、知らないと損する“失業保険”とは?」の記事も読むと、理解が深まります。

 

社員の一方的な意思だけで退職できる?

会社からの了承がないまま、会社員の一方的な意思で仕事を辞めるのは法的に可能なのでしょうか?

「職業選択の自由(憲法22条)、奴隷的拘束及び苦役からの自由(憲法18条)に照らせば、労働者が労働契約を一方的に解約することは自由なのが原則です。

ただ、

①雇用期間の定めがない場合

②雇用期間の定めがある場合

というそれぞれの場合ごとに、民法上いくつかの制約があります」(中山弦さん:以下同じ)

 

①雇用期間の定めがない場合

「雇用期間の定めのない労働契約の場合、労働者は、いつでも解約の申し入れをすることができます(民法627条1項)。しかし、雇用契約終了の効果が生ずるのは原則2週間後です(同項)。

言い換えれば、解約申し入れには、原則として2週間前の予告を必要とすることになります」

 

②雇用期間の定めがある場合

「雇用期間の定めのある労働契約の場合には、『やむを得ない事由があるとき』に限り一方的な解約をすることができるとされています(民法628条)。

ただし、雇用期間の定めのある場合でも、その期間が1年を超える場合には、やむを得ない事由がなくても原則いつでも退職することができます(労働基準法137条)」

 

「辞めたくても辞められない」ケース別対処法

仕事を辞めたくても辞められないのは、どのようなケースがあるのでしょうか。ありがちなケースと、その対処法を聞きました。

 

ケース1:退職にあたり、会社から金銭の支払いを請求される。

「一番多いのは、会社からさまざまな名目で金銭的な要求をされている、あるいはされそうという理由で退職を躊躇されているケースです。

例えば、

  • 過去の仕事上のミスを理由にした損害賠償を請求される

  • 退職によって発生する損害の賠償として金銭的な要求をちらつかされる

  • 『退職するなら採用にかかった費用を払え』と要求される

  • などのケースがあります」

     

    対処法:何を根拠に、いくら請求をすると言っているのか明確に。

    「会社が単に『脅し』としてとりあえず金銭的な請求を口にしているだけというケースも少なくありません。まずは、何を根拠に、いくらの請求をすると言っているのか明確にさせること(できれば文書で明確にさせること)が大切です。

    また、過去の仕事上のミスを理由として費用請求されるような場合もありますが、たとえ仕事上のミスがあった場合でも、会社はその損害を全て従業員に負担させることができるわけではありません。

    この場合、会社の請求が法的に本当に成り立つ請求なのかどうか、早めに弁護士に相談して確かめることをお勧めします。そして、法的に成り立たない請求である場合には、毅然と拒否の意思表示をすることです。譲歩の余地があると思われないように、文書の形で明確に拒否回答をしましょう」

    ⭐︎ポイント

    「会社の請求があまりにもしつこいという場合は、弁護士を代理人に立てて拒否回答をしてもらうという選択もあります」

     

    ケース2:退職に関連する手続きをしてもらえない。

    「このケースでは、

  • 物理的に退職届けを受け取ってもらえない

  • 離職票の発行など退職に関連する手続きをしてもらえない

  • といったケースがあります」

     

    対処法:退職する意思を明確に告げ、その態度を維持する。

    「退職届けを受け取ってもらえないという場合でも、退職する意思を明確に伝えた事実がある以上、退職の効果が否定されるものではありません。つまり、退職届けを受け取ってもらえない限り辞められない、というわけではないのです。

    大切なのは、会社の承諾の有無に関わらず、退職する意思があることを明確に告げ、その態度をきちんと維持することです。退職の意思を表示したかどうかをめぐって本格的なトラブルになりそうな場合は、メールによる通知や、やりとりの録音、内容証明郵便による通知等の方法により、退職の意思表示をした証拠を残しておくと良いでしょう。

    また、退職後に、繰り返し要求しても離職票の発行をしてもらえないという場合は、ハローワークに相談し、指導してもらうのがスムーズな方法といえます」

     

    ケース3:他社員の負担が増すことを考えると辞められない。

    「責任感自体は決して悪いものとは言い切れませんが、第三者の視点で見ると、背負う必要のない責任感まで背負わされているケースが少なからずあります」

     

    対処法:第三者に相談する。

    「法的というよりも心理的な問題だと思われますので、法的な対処はなかなか難しいといえます。

    しかし、自分が感じている責任感が、本来は自分が背負う必要のない『思いこまされた責任感』ではないか、第三者の視点を持てる社外の人にきちんと相談することが大切だと思います」

     

    退職の際に注意すべきポイントとは?

    最後に、トラブルなく会社を辞めるために注意すべきポイントを教えていただきました。

     

    退職の意思は書面で伝える。

    「辞める意思があることを会社に伝える方法ですが、後々、トラブルになるのを防ぐためにも、書面の形で会社に提出するようにしてください。

    書面には、提出する日付と氏名を記載し、『×月×日をもって退職致します』と明記します。

    また、退職の予告をすべき期間については、会社の就業規則で定められている場合もありますので、あらかじめよく確認しておきましょう」

    ※退職の際の就業規則については「会社を辞めるときに、知らないと損する“就業規則”とは?」を参考にしてみてください。

    ⭐︎ポイント

    「もし、会社が退職を認めない態度をとっている場合は、単に退職について会社の承諾を求める『退職願』にすぎないと扱われることのないように、会社の承諾に関わらず退職する意思があることをしっかり明記しておきましょう」

     

     

    書面はコピーを取って、大切に保管。

    「提出にあたっては、どのようなものを提出したのかが後に分かるように、コピーを手元に残しておくことも大切です」

     

    誓約書の記入を求められたら要注意!

    「退職にあたって、会社から退職後の競業避止(競業関係にある会社に就職したり、競業関係にある事業を行わないようにすること)や秘密保持に関する誓約書の提出を求められたりする場合もあります。

    安易に提出して後にトラブルに発展することを防ぐため、少しでも不安を感じる内容であれば、弁護士に相談の上、入念にチェックすることが必要です」

     

    まとめ

    いかがだったでしょうか? 今までお世話になった会社を辞めるというのは、どのような事情であれ気が引けるものです。しかし、なかにはそんな気持ちにつけこんで退職を阻止しようとする会社もあるようです。

    法律では、基本的に一方的な退職の自由が認められています。しっかりと退職の手続きを踏んで、新たな生活に向けて気持ちの良い一歩を踏み出してください。

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    識者プロフィール

    中山弦(なかやま・げん)/ 1979年生まれ。2006年弁護士登録(愛知県弁護士会所属)。 「労働分野は人が人らしく生きるための要となる分野」と考え、労働事件に特に力を入れて取り組む。「働く人のための労働相談室」を運営。