「期待していたほどではないから、明日から来なくてよろしい」。試用期間に会社からこのように言われたら、皆さんならどうしますか?

    

「試用期間なんだから仕方がない」とすぐに諦めてしまう方は、ちょっと待って! 試用期間中でも本採用後と同様に、正当な理由がなければ会社は労働者を解雇できないのです。今回は社会保険労務士の榊裕葵さんに、突然の解雇や本採用の拒否など、試用期間にありがちなトラブルとその対処法について寄稿してもらいました。

 

試用期間だからといって、会社が好き勝手にできるわけではない

こんにちは、社会保険労務士の榊裕葵です。今回は試用期間にありがちなトラブルとその対処法についてご説明します。

    

「試用期間」とは、読んで字のごとく「お試しの雇用期間」ということで、それゆえに、正式な雇用期間とは異なったルールが適用される場合があります。

    

この点、世間一般的には、試用期間内であれば、社員の処遇に関して会社に広範な裁量が認められていると思われがちです。しかし、実は、世間で思われているほど会社が好き勝手にできるわけではありません。

    

そこで、今回は、「試用期間中の労働者にはどのような権利や保護があるのか」という視点で、試用期間について解説をしてみたいと思います。

 

試用期間のしくみがあるのはなぜ?

近年は状況が変わってきたとはいえ、わが国ではまだまだ長期雇用が原則で、解雇規制も厳しいものになっています。

    

そのため、会社が新たに社員を採用することになったとき、その人の勤務態度、能力、スキルなどを見て、本採用するかどうかを決めるために試用期間が設けられています。会社は、試用期間が終了するまでに、その人を本採用するかどうかを決めるのです。

 

試用期間に関するありがちなトラブルと対処法

    

試用期間の途中、あるいは試用期間満了時に起こりうる主なトラブルを5つご紹介します。

 

1. 試用期間中に解雇される

試用期間中の解雇は自由だと考えている会社も少なくないようで、「期待していたほどではないから、明日から来なくてよろしい」と言われてしまうようなトラブルが度々発生しています。

しかし、試用期間中であっても、極端な能力不足や度重なる無断欠勤など、「正当事由(理由または原因となっている事実)」がなければ解雇をされることがないのは本採用後と同様です。試用期間中は、その「正当事由」の範囲や程度がやや緩やかに判断されるにすぎないのです。

ましてや、使用者の気分や相性で解雇をするというのは試用期間中であっても100%許されないことです。

なお、試用期間中の解雇に正当事由が認められた場合であっても、雇用開始後14日以降に解雇される場合には、本採用後の解雇と同様、30日前の解雇予告、または30日分の解雇予告手当を受け取る権利があることを合わせて覚えておいてください。

大切な話なので、ここで解雇予告手当について補足をしますと、労働基準法第20条第1項には次のように定められています。

「使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少なくとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。」

多くの場合、労働者にとっては給料が唯一の収入源ですから、突然解雇されると生活の糧を失ってしまいます。

ですから労働基準法では、解雇を宣告してから実際に解雇をするまでには30日以上の猶予を持たせるか、即時に解雇をするならば平均賃金(一定の数式に基づいて、1日あたりの額に換算した賃金)の30日分を、解雇予告手当として支払うよう求めているのです。

なお、「解雇予告」と「解雇予告手当」は組み合わせることも可能で、たとえば「20日後の解雇+10日分の解雇予告手当」という選択を会社がすることもできます。

 

2. 試用期間終了後に、正当な理由なく本採用を拒否される

試用期間中の解雇が簡単には許されないのと同様、本採用拒否も、解雇に準ずる正当事由が必要です。

過去の裁判例においても、本採用拒否が認められたのは「出勤率不良として、出勤率が90%に満たない場合や3回以上無断欠勤した場合」、「粗暴な放言をしたり、軽率な発言等により同僚多数の反感を買う等、非協調性を明らかに示す行為があった場合」、「経歴詐称があった場合」等に限られます。「なんとなく気が合わないから」というような合理性のない理由での本採用拒否は認められません。

試用期間満了時に「あなたは本採用されませんでした」と、あたかも会社側に選択権があるように一方的に申し渡されることもありますが、通常通り誠実に勤務していて、本採用拒否になることは、法的にはありえないのだということを認識しておいてください。

 

3. 試用期間を延長される

試用期間を延長するためには、

①延長する場合があることについて就業規則や雇用契約書に定められていること

②延長する理由に合理性があること

③延長する期間は当初の期間を含めおおむね1年以内であること

という3つの条件をクリアすることが必要です。

したがって、契約書で合意がないにもかかわらず、会社側の都合だけで一方的に試用期間を延長したり、合意があったとしても曖昧な理由で試用期間を延長したりすることは許されません。

また、わが国の労働基準法においては、試用期間の長さの限度は特に定められていないのですが、民法90条「公序良俗」の観点から、おおむね1年程以内が試用期間の上限であると考えられています。

 

4. 試用期間中に正当な賃金が支払われない

試用期間においては、本採用後の賃金額と差を設けることは許されます。しかし、最低賃金を下回ることや、残業代を支払わないというようなことは許されません。

また、業務命令によって受けさせる研修についても「勉強だから」という理由で賃金が支払われなかったり、実務を行わせているにもかかわらず「訓練」と称して給料が支払われなかったりするケースもあるようです。しかしながら、これらはすべて違法です。

 

5. 試用期間中、雇用保険や社会保険に加入させてもらえない

試用期間中に雇用保険や社会保険に加入させてもらえないというトラブルもたびたび発生しています。

試用期間中であっても、無期契約が締結されていることが前提ですから、一部の短時間労働者を除き、会社は当該労働者を雇用保険および社会保険に加入させる義務があります。

しかし、試用期間中にこれらの保険に加入させてもらえなかったために、被保険者期間が足りず失業保険がもらえなくなったり、将来受給できる厚生年金が少なくなってしまったり、私傷病で働けなくなっても傷病手当金が受給できなかったりと、労働者はさまざまな不利益を被ってしまうのです。

 

試用期間トラブルの対処法

これらのトラブルに遭遇したとき、どうすればよいのでしょうか。

 

会社にソフトに相談する

まずは、会社に対して「労働条件について確認したいことがあるのですが」などと切り出し、ソフトに相談してみましょう。

会社側に悪気がなかった場合は「君の言うことが正しいね」と、労働条件を修正してくれるでしょう。いきなりケンカ腰で会社と交渉することは、得策ではないと思います。

 

行政官庁に相談する

誠意を尽くして労働条件の修正を依頼しても、会社が聞く耳を持ってくれない場合は、所轄の行政官庁に相談しましょう。

解雇や賃金に関するトラブルについては、労働基準監督署が相談先になります。雇用保険の未加入についてはハローワーク、社会保険の未加入については年金事務所にそれぞれ相談することができます。

 

弁護士に相談する

そして、これらの行政官庁に相談してもなお解決しない場合には、弁護士等に相談し、労働審判や訴訟により権利の実現を目指していくことになります。

 

新しい就職先を探す

しかし現実的には、訴訟をして解雇や本採用拒否を撤回させたり、不足する賃金を支払わせたりするのは時間やコストがかかります。そもそも訴訟までもつれ込むような会社は、コンプライアンス意識の低い会社である可能性が高いので、見切りをつけて新しい就職先を探したほうがよいかもしれません。

なお、求職活動をやり直す場合には、失業手当の給付日数が残っていれば、再び失業手当を受けることができます。

 

上記の具体例として、たとえばA社を退職して90日の失業手当を受給する権利を得たXさんを想定しましょう。

Xさんは、40日分の失業手当を受給した上で、B社への転職が決まりました。ところが、B社に問題があり、Xさんは2週間で退職してしまいました。

このとき、XさんはB社を短期間で退職したから失業手当が受給できないというわけではなく、A社を退職したときの失業手当の残り50日分を使いながら、もう一度転職活動をすることができるのです。

なお、B社退職後、失業手当の受給再開までに7日間の待機期間は必要ありませんが、受給できる期間はA社を退職した日の翌日から起算して1年以内であることにはご注意ください。

 

試用期間に関して求人広告でチェックすべき4つのこと

求職の段階で試用期間トラブルに巻き込まれそうな会社に入ってしまわないために、求人広告を見る段階で注意すべきこともあります。

 

1. 試用期間の賃金が最低賃金を下回っていないか

試用期間中の賃金が、最低賃金を下回っていないかを確認してください。

試用期間中にいくら賃金が支払われるのかが明記されていれば分かりやすいですが、「通常の賃金マイナス○○円」とか「試用期間中は○○手当は支払わない」というような書き方をされている場合もありますので、記載内容をよく読んだ上で試用期間に実際にもらえる金額を確認し、各都道府県の最低賃金との比較を行ってください。

 

2. 試用期間の長さが長過ぎないか

前述したように、試用期間の上限は1年ですので、あまりにも長い試用期間が定められている場合は、会社に確認するか、その求人は避けるほうが無難でしょう。

 

3. 試用期間が「有期雇用契約」でないか

近年、新規採用者に対して、試用期間の代用的な位置づけで、有期雇用契約の締結を提案する会社があります。

試用期間は法的には無期契約の一部なので、これまで説明してきましたように、簡単に解雇や本採用拒否はされません。しかし、有期雇用契約の場合は、更新または正規雇用へ移行されない限り、契約期間満了として雇用契約は解消となってしまうのです。

会社にとっては試用期間に勝る採用リスクのヘッジ手法なのですが、労働者にとっては不利な立場に置かれてしまう扱いです。

有期雇用であることを理解した上で契約を結ぶのであれば問題ありませんが、試用期間だと思って雇用契約を結んでいたら実は有期契約だった、ということがないように気を付けたいものです。

 

4. 求人広告と実際の雇用契約の内容は同じか

面接時や内定時には、試用期間を含め、求人広告の主要な労働条件をしっかりと把握しておき、雇用契約を求人広告と同じ内容で結んでもらえるかを確認しましょう。

求人広告では応募者を集めるために実態よりも良い条件を記載し、雇用契約を結ぶ段になって「実は……」ということもありうるからです。

求人広告の内容と雇用契約があまりにも乖離していて、納得ができない場合は、内定を辞退する勇気も必要だと思います。

 

トラブル対処の参考に

以上、榊さんに試用期間にありがちなトラブルについて教えてもらいました。試用期間中の突然の解雇など、トラブルに巻き込まれたときに泣き寝入りすることがないように、今回の記事を参考にしてみてくださいね。

識者プロフィール

榊裕葵(さかき・ゆうき)/ 特定社会保険労務士(あおいヒューマンリソースコンサルティング代表) 上場企業経営企画室出身の社会保険労務士として、労働トラブルの発生を予防できる労務管理体制の構築や、従業員のモチベーションアップの支援に力を入れている。また、「シェアーズカフェ・オンライン」に執筆者として参加し、労働問題や年金問題に関し、積極的に情報発信を行っている。

 

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