伝統産業の衰退が嘆かれる昨今、「21世紀の子どもたちに、日本の伝統をつなげたい」という想いから立ち上げられたある会社が、大きな注目を集めています。その名も「株式会社和える」。0から6歳の子どもたちに向けて、伝統産業の職人が一つ一つ想いを込めて作ったオリジナル製品を提供しています。

「幼少期から日本の伝統産業品に触れる環境を生み出すことで、子どもたちの豊かな感性を磨くお手伝いをしたい」と語るのは、社長である矢島里佳さん。矢島さんは22歳にして、株式会社和えるを立ち上げました。

若くして社長となった矢島さんにとって、“仕事”とはどんなものなのでしょうか。「自分のやりたいことが分からない」と悩む皆さんに気づきを与える、矢島さんの仕事観をお届けします。

 

「ものづくりってゴミ作りだよね」職人の言葉に衝撃を受けた

――ご自身が大学4年生だった2011年に株式会社和えるを立ち上げ、来年で5年目を迎えるそうですが、キャリアの転機はいつだったのでしょうか?

 

19歳のときに伝統産業品の職人に出会ったことですね。中学高校時代に茶華道部に所属していた私にとって、お茶室の空間はとても落ち着く場所だったのですが、大学生になって、そのお茶室の空間が伝統産業品によって構成されているということに気づいたんです。

 

矢島里佳さん

そのころ私はジャーナリストを目指していたこともあり、「伝統産業品のものづくりってどうやっているんだろう。もっと自分で見てみたいし、聞いてみたい」という想いが湧いて、20代〜40代の若手職人さんを取材する連載企画を自分で立て、知り合いの方々にお渡ししていったところ、企画書を旅行会社のJTBさんが会報誌内の企画として採用してくださいました。その後、砥部焼の職人さんや五十崎和紙の職人さんなど、取材をきっかけにたくさんの職人さんとの出会いがあり、伝統産業の現状や魅力を知ることができたんです。各地の産業を見に行って取材をして、記事を書くというお仕事を大学時代3年間続けました。この経験が会社を立ち上げる原点となりました。

 

――職人に取材をするなかで印象的だったエピソードはありますか?

 

職人さんとは本当にいろんなことを話してきたのですが、「ものづくりってゴミ作りだよね」という話が印象的でした。物を作らなければゴミにもならないわけで、究極、物を作らないことがある意味自然界にとっては一番いいんですよね。そして職人さんはいつもそういうことを考えながらものづくりをしているんだということに、大学生のときの私はかなり衝撃を受けました。

 

――ものづくりに対する職人の想いがうかがえますね。

 

そうなんです。「ゴミにならないようにするためには、一人の人間が生まれてから最期までずっと使い続けられるようなもの、もしくは親子代々引き継ぎたいと思えるようなものを本当に魂込めて作ればいいのではないか」という考えは、和えるのものづくりへの姿勢そのものに直結しています。

そして、職人さんはそこまで考えながら物を作っているわけですから、私たちもすぐゴミになるようなもの、消費するだけの使い捨てのものを絶対に作らせてはいけないし、そんなことをお願いしてはいけないと考えています。

 

やりたいと思ったときに小さくてもいいから動いてみる

――矢島さんが自らの想いを仕事につなげるために努力したこととは何でしょうか。

 

やりたいと思ったときに小さくてもいいから形にして動いてみるということが大事だと思います。私も連載の企画書を書いて持ち込んでいなかったら、そもそも伝統産業の職人さんと出会っていませんでした。

皆さんのなかには、きっちり100%の状態でなければ動けないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。けれども、少しでも動いてやってみないと「こんなことができそう」ということも分からないですよね。私の場合は、当時大学生。プロでもないですから、企画が通らなくて当たりまえです。「万が一でも通ったらうれしい!」そんな前向きな気持ちで、何度も挑戦し続けました。

「できなかったらどうしよう」と考えたら動けないですよね。だから皆さんもできなかったらどうしようではなく、できたらうれしいと考えると動きやすいと思います。自分が持つ先のイメージに近づくために、今の自分ができる現実的なことからしていくんです。

 

「生きる」のなかに「働く」がある大人は、大変でも楽しそう

――矢島さんにとって「働く」とはどんなことでしょうか。

 

私のなかでは「働く」は「生きる」という感覚に近いんです。「働く」と考えると疲れやつらさがイメージされて大変そうですが、「生きる」という感覚だと、何が起きても受け入れられそうですよね。

「ワークライフバランス」という言葉は、私はあまり本質ではない気がしています。自分の「生きる」のなかの要素として、仕事や趣味、家族、友人があると思うのですが、「生きる」の一部である「仕事」を取り出して「生きる」と比べると、そもそも大きさや重さが全く違うもの同士を比べていることになると思うのです。だから「ワークライフバランス」って不思議な言葉だし、そもそもバランスが取れないものを比べるから、皆さん苦しむのではないかなと思います。

 

――「やりたいことは別にあるけれど、まず稼がないといけない」と、ワークとライフの対立に悩んでしまう20代は多いと思いますが、矢島さんは起業した当初から「働く」を「生きる」と捉えていたのでしょうか?

 

そうですね。自分で乳幼児リトミックの会社を立ち上げた母親も、カメラマンをしていた父親も生きるように働いていたので、そうした環境で育ったことが影響していると思います。その分、お金を1円でもいただくことの大変さは幼少期から自然と感じていて、大変だからこそ「生きる」のなかに「働く」がないと続けられないと思うのです。

「生きる」のなかに「働く」がある大人は、大変でも楽しそうなんですよね。ただただ大変でつらいだけっていう大人を見ていたら、多分私は「働くのはいやだ」「大人になりたくない」って思っていたと思います(笑)。

 

――それはどんな大人の背中を見るかで変わりますよね。

 

確かにそうですね。職人さんたちも皆さん生きるように働いているんですよ。皆70、80歳になっても自分の仕事に誇りを持っているし、「大変だよ〜」と言いながらもニコニコ楽しそうなんです。すてきな生き方ですよね。

 

子育てをするように仕事と向き合う

――「働く」を「生きる」と捉える矢島さんは、ご自身の仕事にどう向き合っていますか?

 

私たちは会社を「和える君」と呼び、子育てをするように仕事と向き合っています。だから何か緊急事態があったら夜中でも仕事をしますし、基本的にはいつでも出動態勢です。赤ちゃんが熱を出しても「夜だから」と何もしないお父さんお母さんはいないですよね。

来年3月16日に5年目を迎える株式会社和えるは、私にとって来年5歳になる男の子なんです。創業時から「和える君が生まれた」という感覚があって、今はお姉ちゃんやお兄ちゃんである社員が入ってくれたおかげで、たまにママである私が休めるようになりました(笑)。

 

――会社運営を子育てと捉えるのはとても斬新ですね。

 

お姉ちゃんやお兄ちゃん(社員)も、「和える君」に食べさせてもらうという感覚ではなく、自分が「和える君」のためにどう貢献ができるか考えるという社風で成り立っています。こんなふうに、自分がどう捉えるかで仕事との向き合い方は変わると思うし、もしワークとライフの対立で悩んでいるのであれば、20代の今が「働く」を「生きる」に変えるチャンスでもあると思います。

 

先人がやっていたことを21世紀という時代と「和える」

――矢島さんの現在の夢を教えてください。

 

やっぱり生きるように働ける人をもっと増やしていけるといいと思います。株式会社なのでもちろん利益を出さなければならないですが、経済のためにものづくりをしようとは思わないし、「利益が出ないじゃないか、じゃあ事業廃止」というのをこれ以上続けても、その先に豊かさはないと思っています。

最低限の生活から経済的に豊かな国に築き上げてくださった先人による、開拓された畑の上で私たちは働いているので、「暮らすために物が必要だからものづくりをして、その分のお金をいただく」という本質にもう一度目を向ける。そしてその本質をかなえるために経済という仕組みを活用するんです。

こうした先人が当たり前にやっていたことを学びつつ、21世紀という時代に合うように「和える」というのが、私たちの一つの大きな役割なのかと思います。社会の問題を解決したり、時代の流れに逆らったりしようと力むのではなくて、「こちらのほうが生きやすいと思うのだけど、皆さんどうでしょう?」という自然な提案をしていきたいです。

 

今が「働く」を「生きる」に変えるチャンス

「店舗の掃除をするとき、隅を丁寧に拭くことを心がけていると、自然と自分の家でも同じように掃除しているんです。普段の暮らしと仕事がつながっている感覚は、社員みんなが持っていると思います」と語ったのは、取材当日店舗にいた社員の一人。

矢島さんからは「生きるように働く」「子育てをするように仕事と向き合う」など、ワークとライフの対立に悩んでいる若者を思わずハッとさせる言葉が多く飛び出しましたが、そうした想いはしっかりと社内にも受け継がれているのです。

「20代の今が『働く』を『生きる』に変えるチャンス」という矢島さんの言葉のように、皆さんもこれを機に、仕事との向き合い方についてじっくりと考えてみてはいかがでしょうか。

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識者プロフィール

矢島里佳(やじま・りか) 株式会社和える(aeru)代表取締役。職人の技術と伝統の魅力に引かれ、19歳のころから日本の伝統文化・産業の情報発信の仕事を始める。「21世紀の子どもたちに、日本の伝統をつなげたい」という思いから、大学4年時である2011年3月、株式会社和えるを設立。2012年3月、幼少期から職人の手仕事に触れられる環境を創出すべく、子どもたちのための日用品を、日本全国の職人と共につくる“0から6歳の伝統ブランドaeru”を立ち上げる。