キャリアコンパスでは、これまで「サッカー審判員」や「プロYouTuber」、「データサイエンティスト」、「スーツアクター」、「プロの紙芝居師」など多様な職業を紹介してきましたが、今回お届けするのは「スピーチライター」です。

現在アメリカでは2016年の大統領選に向けて立候補者たちによる熱い演説スピーチが繰り広げられていますが、そんな彼らを陰で支える存在として注目されているスピーチライター。このスピーチライターとは、いったいどんな仕事なのでしょうか。

今回は『スピーチライター 言葉で世界を変える仕事』の著者であり、自身もスピーチライターとして活躍する蔭山洋介さんに伺います。

 

原稿を書くだけじゃないスピーチライターの仕事

−スピーチライターの仕事とはどのようなものでしょうか?

 

蔭山洋介さん(以下、蔭山):スピーチライターは、政治を専門とする「政治系スピーチライター」と、ビジネスを専門とする「ビジネス系スピーチライター」の2種類に分かれます。

 

まず政治系スピーチライターの仕事で最もよく知られているのが、首相や大統領のスピーチ原稿を書くことです。

 

世界で初めて公式なスピーチライターとなったジャッドソン・ウェリヴァーや、ケネディ大統領の「国家が自分のために何をしてくれるかではない。自分が国家のために何ができるかだ」という名フレーズを生み出したセオドア・チェイキン“テッド”ソレンセンの活躍もあり、アメリカでは早くからスピーチライターの役割に注目が集まっていました。

そしてオバマ大統領の演説スピーチを若干27歳で書いたジョン・ファブローの活躍が大きく取り上げられたことで、日本でも2009年から首相のスピーチには公式にスピーチライターが起用されるようになりました。

おそらく政治系スピーチライターが最も苦労するのは、閣議決定を経た原稿を書かなければならない点です。各省庁の意見を盛り込んだ原稿を公式発表のために、各大臣に確認してもらい、許可を取る必要があります。しかしもし大臣が一人でも反対をしたら、その原稿では発表できなくなるので、調整作業にとても時間がかかります。

 

そして、ビジネス系スピーチライターの一番の仕事は、株主総会やセールスプレゼンテーション、セミナー、講演会などで話すスピーチの原稿執筆を通して、クライアントである企業やNPO法人にお金や評判を集めることです。主な過程は、クライアントへのヒアリングを元に作成した原稿を、当日のスピーカーに確認してもらい、OKが出るまで書き直す、ということの繰り返しです。

この過程では、内容に不安を抱きスピーチのテーマを広げようとするクライアントに対して、スピーチの軸がブレないようにセーブする力と、相手が抱いている違和感をこちらできちんと拾って、スピーチを練り直していく力の2つが同時に求められますね。

 

−実際に完成したスピーチをどう話すかという点も指導をされるそうですね。

 

蔭山:そうですね。なぜスピーキングの指導までするかというと、書いた原稿で話してもらったときに、ストーリーの運びが不自然だったり、喋っている本人の個性と内容が合わなかったりということがあり得るからなんです。

 

たとえばおめでたい席での明るいスピーチのはずなのに、実際の話し手が重たくロジカルに話す人だったら、話し方を調整しないといけません。だから実際に話すのを聞きながら、より自然に説得力を持って話せるよう原稿をその場で随時書き直し、スピーキングの指導をしていく必要があります。

このほか、スピーチ会場での演出の提案もスピーチライターの仕事に入ります。たとえば上場会見の場合、最初から最後まで着座したまま話すのではなく、企業としての感謝の言葉は演台の後ろで話し、事業戦略を話すときはスライドの前へ移動する……といったように、スピーチライターとしてはいかにその上場を話題にしてもらうかを考えなければならないので、記者のカメラアングルを踏まえた流れを提案しなければなりません。

 

スピーチで世の中を動かす力を与える

−スピーチライターの仕事をしていて、どのようなときにやりがいや喜びを感じますか。

 

蔭山:「かものはしプロジェクト」という子どもが売られる問題の解決に取り組むNPO法人があるのですが、依頼のあった当初、支援者からの寄付額はそこまで大きくありませんでした。

しかし「スピーチを通して寄付を集めたい」という代表の依頼で長年指導をさせていただいた結果、今では年間約1億円以上の寄付を集めるまでになったんです。現在は代表ではなく広報の方がスピーチを行っていますが、集まる寄付の額は代表のスピーチによるものとほとんど変わらないため、今後も活動を継続・拡大していく体制がつくれるようになりました。

そんなふうに、団体の活動を通して社会や世界が少しずつ変わっていっていることを考えると、スピーチを書くことで組織にそれだけの力を与えて稼働させ続けるスピーチライターは、世の中にとって非常に重要な役割を担っていると思います。

そして「かものはしプロジェクト」の皆さんが喜んでくれることはもちろんうれしいのですが、僕もそうした形で社会的な活動に携わることができるというのはすてきなことだと感じています。

 

見栄えと説得力の両立が課題

−逆にスピーチライターの仕事について、どのような点に大変さを感じますか。

 

蔭山:原稿を書く過程においてよく頭を悩ませる問題が2つあります。まず1つ目が「絵にならない」という点。記者会見や雑誌インタビューなど、後に記事になる案件の場合、話す内容や姿が地味だったり抽象的すぎたりすると、記事にしてもよく分からないままで終わってしまいます。

だからそうしたときに、スピーチが記事になった姿を想像しながら、「どうしたら一枚の絵として見栄えがしつつ、分かりやすく内容を伝えられるだろうか」と悩むことはよくあります。

 

2つ目は「エピソード(事実)が引き出せない」という点です。クライアントによっては、こういうことを言いたいというメッセージは明確にあるのに、それをサポートする具体的なエピソードが手に入らないときがあります。

たとえば、クライアントが結婚式で主賓のあいさつを述べる際に、結婚生活の先輩として新郎新婦にアドバイスを述べたいとします。しかし、「オレも自分の結婚生活あんまりうまくいってないからな…」などと言われて、こうするとうまくいくとか、ピンチをこうやって乗り越えたという話が聞き出せないというような事態に直面します。

 

このように、エピソードがなければメッセージの説得力も得られないので、メッセージを変形していかないといけなくなります。しかしクライアントによっては「メッセージは譲れないから、どうにかエピソードを選んでほしい」ということもあり、支離滅裂の状態に陥ります(笑)。

最終的にはそれもクライアントとの話し合いによって決めていくのですが、どのエピソードを選ぶかは苦労しますね。

 

“晴れ感”のある人は言葉も華やかになる

−スピーチライターにはどのような人が向いているのでしょうか。スピーチライターとして活躍するために必要な素質を教えてください。

 

蔭山:スピーチライターに必要な素質は3つあります。「複数の意見をまとめる力」「プレッシャーに耐えうる精神力」「短時間で密なコミュニケーションを取る力」です。

まず、複数の意見をまとめる力についてですが、原稿を作成する際のクライアントとの打ち合わせでは、複数の立場から複数のことが同時に語られます。しかし皆が言ったことを原稿にそのまま並べていては、皆は満足するかもしれないけれど、スピーチとしての説得力はなくなってしまいます。スピーチライターは調整するのが仕事なので、複数の意見をまとめる力がないと難しいですね。

次に、プレッシャーに耐えうるだけの精神力について。『学校のカイダン』というスピーチをテーマにしたドラマが放送された影響か、最近スピーチライターになりたいという女性が増えていますが、その多くがスピーチライターを広報の延長線上としてイメージしていると思います。

しかしスピーチライターは実際には、クライアントと対等なパートナーになるだけでなく、それこそ何百人、何千人の社員を抱える会社のトップにとっての外部のブレインとなるわけで、かなりのプレッシャーのなかで仕事をしなければなりません。だから、そうしたプレッシャーに耐えうるだけの精神力は必要なんです。

最後に、短時間で密なコミュニケーションを取る力。スピーチライターは初対面でクライアントの信頼を勝ち得ながら原稿を作成していく以上、コミュニケーション力がとても大切です。たとえば政財界の人々の前で10分スピーチをする予定の社長がいたとして、当日までの社長との面談・トレーニング時間はわずか3時間しか取れない。しかも医療など自分の専門外の分野のスピーチを書かなければならず、自分でその業界について調べなければならないということもざらにあります。

しかしそのスピーチは社長の命運が懸かっているもの。成功すれば多大な利益を得ることができますし、失敗したら大きな損失になります。スピーチライターはそうした方の言葉を預かる仕事なので、いかに短時間で密なコミュニケーションを取れるかが重要となってきます。

 

−蔭山さんご自身は、演劇の経験がスピーチ時の演出に役立っているそうですが、現在スピーチライターに興味を持っている方はどんな経験をしておくべきでしょうか。

蔭山:スピーチというのは基本的に、“晴れの日の特別なイベントにおける一番の華”なんです。その“華”のバックアップですから、真面目にコツコツ……というより、日常的にエンターテインメントに触れる機会を持ったり、人の結婚式や誕生日会に出席するといった“晴れ感”のある体験を積んだりすると良いと思います。“晴れ感”のある人は言葉も華やかになるんです。

あとはコミュニケーション力を鍛える上で、ファッションもこだわると良いと思います。ファッションは自分がどのような人間かを表す「内面を外面化したもの」です。つまり人は相手のファッションを見て「この人はこんな人だろう」と把握し、コミュニケーションを取るわけです。

また、相手と良好な関係を築くには、異なる考えを理解するための客観的な視点を持つ必要がありますが、TPOを考えて服を選んだり、他者の目線から見た自分の似合う・似合わないを考えたりする際にも客観性が求められるため、おのずとそうした視点が育まれるのです。

 

今後の活躍が期待される「スピーチライター」

職業名からは想像もできないほど広範囲の仕事を担い、多様な能力が求められるスピーチライター。日本にはまだあまり浸透していない職業ですが、その力を必要としている企業や法人は増えているだけに、今後活躍の場はまだまだ広がりそうです。

 

仕事の概要

■職業名:スピーチライター

■仕事内容:政治家の演説スピーチの執筆、企業・NPO法人向けのスピーチ原稿執筆、話し方のトレーニング、スピーチの演出

■求められる要素:複数の意見をまとめる力、プレッシャーに耐える精神力、コミュニケーション力

■こんな人に向いている:華やかなエンターテインメントに触れる機会を普段から多く持っている人

 

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著者プロフィール

蔭山洋介(かげやま・ようすけ) スピーチライター、ブランドディレクター、演出家。パブリックスピーキング(講演、スピーチ、プレゼン)やブランド戦略を裏から支えるブレインとして活躍。クライアントには一部上場企業、外資系企業、中小ベンチャー企業の経営者や管理職、政治家、NPO代表、公益法人理事長、講師などのリーダーが多い。