「ラグビーワールドカップ2015」で活躍した五郎丸歩選手の“五郎丸ポーズ”をきっかけに話題となっている、アスリートの「プレ・パフォーマンス・ルーティン」。ウサイン・ボルト選手やイチロー選手など、名だたるトップアスリートが実践しているこのルーティン動作ですが、精神的な落ち着きや自信を呼び覚ます効果があるとして、今ビジネスへの応用にも注目が集まっています。

そこで今回は、プレ・パフォーマンス・ルーティンとそのビジネスへの応用方法について、日本体育大学体育学部体育学科助教の高井秀明さんに伺います。

 

プレ・パフォーマンス・ルーティンとげん担ぎは違う

—プレ・パフォーマンス・ルーティンとはどういったものなのでしょうか?

 

高井秀明さん(以下高井):まず理解すべきは、「げん担ぎ」で行う動作とプレ・パフォーマンス・ルーティンは違うということです。

げん担ぎは迷信のようなものであって、たとえば「次の日試合に勝ちたいからとカツ丼を食べる」ことが本当に試合の成果に直結する動作であるかといえば、そうではありません。

一方、プレ・パフォーマンス・ルーティンは、より良好なパフォーマンスを生み出すための道筋(必要なことは何か、何かをすべきかなど)が立てられているかどうかを確認する、合理的な手段として存在します。

たとえば、イチロー選手は打席に立ったときに袖を引っ張りながら、バットを持った腕を肩と平行に上げるしぐさ、ウサイン・ボルト選手は走る前に弓を引くようなしぐさを実践しています。

イチロー選手の場合、その動作のなかでバットの重さや角度、相手との距離感を測っているのであり、パフォーマンスにつながる動作=プレ・パフォーマンス・ルーティンということができます。

かたやボルト選手のしぐさは競争の結果につなげるものではなく、観客を盛り上げるためのパフォーマンス、あるいは走る前のおまじないの一環として行っているという見方ができるため、げん担ぎの一つであるのではないでしょうか。

このように、普段多くの人が「あの人いつも同じ動きをするな」と同じ視点で見ているアスリートの動作にも、プレ・パフォーマンス・ルーティンであるものとそうでないものがあるのです。

 

ビジネスパーソンが習得するメリット

—ビジネスパーソンがプレ・パフォーマンス・ルーティンを身に付けると、どんなメリットが得られるのでしょうか?

 

◎自信を持って本番に臨める

高井:まずは、自信を持って本番に臨めることが挙げられます。ルーティンワークは、自信を持ってプレーや仕事に臨める態勢を作り上げる効果があるので、それを行うことで周囲からの視線や「誰々がこんなことを言っている」といった余計なノイズを取り除くことができるのです。

 

◎自己コントロールができるようになる

高井:次に、自分自身の気分や行動をうまく管理できるようになります。たとえば、皆さんプレゼン前には緊張しますよね。そんなとき、自分のコントロールできないことに働きかけても自分自身を乱すだけですが、ルーティンを通して自分がコントロール可能な行動を意識することで、緊張を抑え、集中力を高めることができます。

 

プレ・パフォーマンス・ルーティン習得の3ステップ

—実際にプレ・パフォーマンス・ルーティンを身に付ける方法について教えてください。

 

ステップ1:成功体験と失敗体験の比較

 

高井:ルーティンワークは過去の最もうまくいったときの成功体験と、最もうまくいかなかったときの失敗体験の比較によって形成されます。

まず紙に「プレゼンの前日」「プレゼン当日の朝」などタイトルをつけて、左に「成功」欄、右に「失敗」欄を作ります。

 


成功・失敗体験比較シートの例。成功体験でのみしていた行動を残していく。

 

縦軸はプレゼン当日に至るまでの時間の経過を表します。そして当日に至るまでの間に、成功したときに行ったこと、失敗したときに行ったことを時間軸に沿って振り返り、挙げていきます。

このとき注意が必要なのが、成功体験と失敗体験の両方で行っていたことがないかを見極めることです。ルーティンワークは成功体験のときにのみ行っていたことで構成していくため、成功体験と失敗体験に挙げた行動で重複しているものがあれば削除します。

 

ステップ2:他者評価が伴っていない項目を削除する

 

高井:ステップ1の精査によって成功体験でのみしていた行動を残したら、必ずそれら一つ一つに対し、他者からの評価も伴っているかを確認していく必要があります。

なぜなら、たとえばプレゼンで自分は気持ち良く話せても、他者が聞くと何を話しているのか分からないなど、自己評価と他者評価との間に開きが出る可能性があるからです。よって、自己評価はできていたとしても他者評価の伴わない項目については、この時点で削除します。

 

ステップ3:ステップ1とステップ2を繰り返す

 

高井:成果を出す上で本当に必要な行動だけが残ったら、実践に移します。そしてその実践結果をさらにリストにフィードバックし、ステップ1、ステップ2を繰り返します。

アスリートが実践を経て成功や失敗を積み重ねるのと同じように、どんどん実践で経験値を積み重ねて、フィードバックを繰り返すことで磨きがかかり、自分に合ったルーティンが養われていくのです。

 

成功体験・失敗体験がない場合はどうするか

−成功体験・失敗体験がない場合、プレ・パフォーマンス・ルーティンをどのように形成していけばいいのでしょうか?

 

高井:ルーティンの形成において、参考にする体験を過去のまったく同じ体験に限定してしまう必要はありません。

たとえば、これから初めてのプレゼンに臨む場合、「ピアノの発表会で、観客の視線ではなく楽譜だけに集中することでうまくいった」という経験があるのなら、その経験を思い出して、「上司の目線に注目するのではなく、プレゼンの資料に集中してやってみよう」と、似たような体験を参考にプレゼンに臨めばいいのです。

また、なかには先輩のプレ・パフォーマンス・ルーティンをまねる人もいると思いますが、その場合は、何をしているかだけではなく、なぜそれを行っているかという点も理解をしておかないと、単なる外見のモノマネで終わってしまいます。良いお手本を見つけたら、それが自分に合っているものなのかをあらためて見極めていく必要があると思います。

 

実践の際の注意ポイント

—プレ・パフォーマンス・ルーティンを身に付ける際に注意すべきこととは何でしょうか?

 

◎プレ・パフォーマンス・ルーティンに依存しないこと

高井:プレ・パフォーマンス・ルーティンをたくさん持つと、それを行うこと自体が目的になってしまい、本来すべき努力を怠ってしまうことがあります。また、プレ・パフォーマンス・ルーティン自体に依存すると、決めていた順序を踏み外したときにパニックに陥ってします。

プレ・パフォーマンス・ルーティンは目的ではなく、あくまでも手段であると捉え、必要最低限のものだけを持つようにしましょう。

 

◎普段と本番を一貫させること

高井:普段学生に「試合は練習のように。練習は試合のように」とよく言うのですが、大切な場面だけうまくやろうとしてもそううまくはいきません。

ビジネスの場においてもそれは同じこと。プレゼンのときだけではなく、普段も同じように目の前の人にきちんと話せているかどうかが重要です。普段と本番を分けて考えるのではなく、双方を必ず一貫させるようにしましょう。

 

◎常にプレ・パフォーマンス・ルーティンをアップデートすること

高井:同じプレ・パフォーマンス・ルーティンをずっと繰り返していると、マンネリ化してしまう危険性があるため、より良いものにアップデートしていく必要があります。

そのために、今までやっていなかったことを新たに付け足して実践し、自分がどう反応するかを観察し、パフォーマンスにつながった行動を習慣化します。こうしてプレ・パフォーマンス・ルーティンにも新規性を与えることで、マンネリ化を防ぎ、ルーティンをアップデートすることができます。

 

グループにも応用可能

最後に「プレ・パフォーマンス・ルーティンは個人だけではなく、グループで動く際も生かすことができます」と高井さん。個人としての成長はもちろん、プロジェクトチームの団結力を高めたいといった場合にも、チームビルディングの一貫として、プレ・パフォーマンス・ルーティンを取り入れてみてはいかがでしょうか。

 

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著者プロフィール

高井秀明(たかい・ひであき) 日本体育大学体育学部体育学科・スポーツ心理学研究室助教。スポーツメンタルトレーニング上級指導士。スポーツ心理学を専門とし、平成21年度日本体育大学中野昭一学術奨励賞(日本体育大学)、平成22年度日本催眠医学心理学会奨励賞(日本催眠医学心理学会)、日本体育学会第66回大会若手研究奨励賞を受賞。