会社員の中にも副業を行っている、もしくは行いたい方は多いはず。しかし就業規則で副業が禁止されていたり、禁止されていなくても制限が設けられていたりと、気をつけなければなりません。

そこで今回は、会社員の副業に関するありがちなトラブルやその対処法について、社会保険労務士の榊裕葵(さかき・ゆうき)さんに寄稿してもらいました。

 

実は社員の副業全面的禁止は法律上許されない

まず、私が皆さんにお伝えしたいことは、会社が就業規則等で、社員の副業を全面的に禁止することは、法律上許されないということです。

社員は、会社との雇用契約によって定められた勤務時間にのみ労務に服するのが原則であり、就業時間以外は社員おのおのが私生活で自由に使うことができる時間だからです。

終業後は、家に帰って家族と過ごす、友達と食事をする、資格試験の勉強をする……といったように、人それぞれの過ごし方があり、そこに「副業を行う」という選択肢が加わっても問題はないはずです。

そう考えると、逆に、副業だけ禁止されることのほうが不自然だと思いませんか?

そもそも、民法にも労働基準法にも、2つ以上の会社と雇用契約を結んだり、会社員と自営業を兼業することを制限したりするような規制は存在しません。

したがって、副業禁止の根拠は、ひとえに勤務先の就業規則によるものであり、社員のプライベートな時間に対し、就業規則によって会社が介入し、無制限に副業を禁止することは、法律上は許されないのです。

 

副業禁止が有効になる3つのパターン

では、どのような場合に、副業禁止の就業規則が有効となるのでしょうか。過去の裁判例が蓄積されていますので、3つのパターンに整理して、説明をしたいと思います。

 

第1のパターン:疲労等により本業に影響が出るほどの長時間の副業の場合

 

このパターンで、副業禁止に関する代表的な判例があります。

建設会社で事務をしていた女性社員が、飲食店で毎夜6時間の副業をしていたことが発覚し、解雇されたことが争いになった事件がありました。

裁判所はこの事件に対し、「単なる余暇利用のアルバイトの域を超えるものであり、副業が債務者への労働の誠実な提供に何らかの支障をきたす蓋然性が高い」として、解雇の有効性を認めています。

逆に、運送会社の運転手が年に1、2回の貨物運送のアルバイトをしたことや、大学教授が夜間や週末に語学学校の講師をしていたことを理由とする解雇に対しては、「本業に影響はない」として、裁判所は解雇無効の判決を言い渡しました。

このように、裁判所は、副業をすることによる本業の業務遂行への影響の有無を、副業禁止が有効かどうかの判断基準としています。

ですから、とくにインターネットを使った副業で危険性が高いのですが、副業にのめり込んで深夜まで副業を行ってしまい、本業の会社に遅刻をしたり、就業時間中に居眠りをしたりしてしまう、というようなことは絶対にあってはなりません。

 

第2のパターン:本業と副業が競業関係になる場合

 

このパターンにあてはまる判例としては、靴小売店の商品部長が、自ら会社を設立して同業を営んだため解雇された、という事件がありました。

これに対し裁判所は、「信頼関係を損なう背信的行為であると認める」として、解雇は有効と判断しています。

この事件においては、具体的な損害などは認定されていませんが、本業の取引先から仕入を行ったことが解雇相当の重要事実として認定されています。

したがって、本業と同じ業種で副業を行うことは可能な限り避け、どうしても本業と同じ業種になってしまう場合は、本業の顧客や取引先とは、副業の立場で接点を持たないようにすることが無難です。

 

第3のパターン:副業の内容が会社の信用を失墜させるような場合

 

実際に裁判にまでなった事例は見当たらないのですが、マルチ商材を扱うことや、反社会勢力と接点を持つような副業は、社会通念上も解雇相当と考えられますから、絶対に避けるべきです。

 

まずは会社の就業規則をチェック

それでは、ここまで説明してきたような懲戒処分に該当するような副業にあたらなければ、無条件に副業を始めてよいのでしょうか。

 

この点、まずは、自社の就業規則を確認してみてください。

副業に関する条項では、「全面禁止」「許可制」「自由(規定なし)」など定められているはずです。

日本ではまだまだ少ないと思われますが、「副業は自由に行ってよい」と書かれている場合は、自らの判断で副業を開始すれば問題ないでしょう。

ただし、副業を行った結果、本業がおろそかになるようなことがあれば、それは副業禁止規定がない場合であっても、本業の雇用契約に対する債務不履行に他なりませんから、懲戒処分や損害賠償を受ける可能性があることには留意すべきです。

問題は、全面禁止や許可制になっている場合です。

全面禁止は法的には違法なので、実務上は許可制に準ずると考えればよいでしょう。裁判所も就業規則で副業を許可制とすること自体は認めています。

「労働者が就業時間外に適度な休養をとることが誠実な労務提供のための基礎的条件であり、また、兼業の内容によっては会社の経営秩序等を害することもあり得るから、許可制には合理性がある」というのが裁判所の立場です。

過去の裁判例では、上記の立場を基本としたうえで、会社に実害がないにもかかわらず副業を許可しなかった場合を違法と判断しており、許可制のもとで、会社がその権利を濫用していないかが裁判所のチェックポイントとなるのです。

したがって、教科書的な答えとしては「就業規則で許可制になっている場合、副業は会社に届け出て行いましょう」ということになります。

 

副業を言うかどうかは、企業文化などもチェック

とはいえ、実際問題として、副業を正直に会社へ届け出るかどうかは、多くの副業希望者が悩むところでしょう。

私は、本業の会社の企業文化をよく見極めたうえで判断すべきだと考えます。

周囲もオープンに副業を行っていて、それが問題視されないような企業風土であれば、届け出ることも選択肢の一つでしょう。

しかしながら、就業規則では許可制と書いてあっても、自分以外は誰も副業を行っておらず、副業をしたいなど申し出ようものなら、それだけで人事考課が下がってしまうような職場も少なくはないでしょう。

その場合は、隠し通す前提であれば、あえてオープンにしないという考え方もあるでしょう。

ネット上で情報を発信するとか、オープン型の副業の場合は隠し通すのは難しいかもしれませんが、プログラマーのスキルを生かして、紹介ベースでホームページの作成依頼を受けるといったような、クローズド型の副業の場合は、副業分の住民税の納付を普通徴収にするといったような点に気をつければ、副業が発覚するリスクは小さいと考えます。

ただし、クローズド型の副業の場合であっても、何らかの理由で副業が発覚する可能性はゼロではありません。万一、発覚した場合に自分がどのような対応を取るのかは、あらかじめ想定をしておきましょう。

本業に悪影響がない副業の場合は、副業自体は合法ですから、届出が漏れていたことのみをもって、懲戒解雇や諭旨解雇のような重い処分には相当しないと法的には考えられます。

しかし、人事考課への何らかのマイナスは避けられない可能性は高いので、発覚した場合には、それを受け入れるか、これを機に独立や転職に踏み切るのかなど、自分なりのシミュレーションを立てておく必要があるでしょう。

そのために、「自分は、なぜ副業を行うのか」ということについて、今一度考えてみてください。

副業の目的が「生活費の足し」なのか、「自己実現」なのか、「独立準備」なのかによって、シミュレーションの中身も変わってくるはずですし、副業を行うこと自体にメリットがないという判断になるかもしれません。

 

副業を行う前に、目的を明確に

ここまで説明してきましたように、法的に副業は、就業規則によって全面的に禁止されるものではありません。

しかしながら、多くの会社においては、会社での本業に集中してほしいと考え、どちらかというと副業には否定的な考え方を持っている経営者が多いと思われます。

なかには、副業で身に付けたスキルを本業にフィードバックしてほしいという考えで、副業に肯定的な経営者もいますが、現在の日本においては、まだまだ少数派です。

したがって、副業を行う場合には、自分が行おうとしている副業の内容が裁判例で禁止されているような副業に該当しないかどうかをチェックするのはもちろんのこと、法的には合法な副業の場合であっても、会社に発覚した場合、どのように会社と折り合いをつけるのかを考えておかなければなりません。

 

すなわち、まだまだ日本においては副業を行うことは、収入面のメリット以外は、リスクやデメリットが大きいのも事実なのです。そのため、何となく副業を行うのではなく、自分がなぜ副業を行うのかを明確にしたうえで、それでも必要ならば覚悟を決めて行うという姿勢が大切でしょう。

 

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識者プロフィール

榊裕葵(さかき・ゆうき) 特定社会保険労務士(あおいヒューマンリソースコンサルティング代表) 上場企業経営企画室出身の社会保険労務士として、労働トラブルの発生を予防できる労務管理体制の構築や、従業員のモチベーションアップの支援に力を入れている。また、「シェアーズカフェ・オンライン」に執筆者として参加し、労働問題や年金問題に関し、積極的に情報発信を行っている。