最近ニュースでよく耳にするようになった「インバウンド」という言葉。簡単に言えば「訪日外国人またはその市場」を指しますが、日本を訪れる外国人の数が増加する昨今、特に観光業界に変化が表れてきているようです。

そこで今回は、インバウンドとは何か、その隆盛によって今後どんな人材が重要とされるかについて、インバウンド観光コンサルタントの小野秀一郎さんに伺います。

 

今後も増加し続けるインバウンド

2年ほど前から一般のニュースやメディアで取り上げられるようになったインバウンドという言葉。英語では「inbound=内に向かう」という意味がありますが、現在ビジネスキーワードとして扱われるインバウンドは、具体的にどういった意味で使われているのでしょうか。

「インバウンドは主に観光業界において使われる言葉で、『海外から国内へ渡航してくる観光客』のこと。つまり日本にとっては、訪日外国人観光客、またはその市場を意味します」(小野さん:以下同じ)

また、なぜ今インバウンドが注目されているのかについて、小野さんは次のように語ります。

「インバウンドが今注目されているのは、長期的な少子高齢化社会で閉塞感の漂う日本において、経済活性の直接的な効果が今後も見込まれているからです。

2015年に訪日外国人客が日本国内での宿泊、飲食、買い物などを合計した旅行消費額は実に3兆5千億円に迫りました。昨年と比べて70%以上も増加したことになります。訪日リピーターの増加、これまで日本があまり知られていなかった国での日本ブーム、和食や日本の食材の浸透、LCC(格安航空会社)の発着の増加などにより、訪日外国人は今後も増加し続けると私は予想しています」

 

メリットは観光産業以外にも

また、インバウンドの隆盛によるメリットについて、「観光産業全般に良い影響をもたらします」と小野さん。しかし、訪日外国人観光客増加による市場の活性化がもたらすメリットは、観光産業にとどまらないのだそうです。

「観光産業にプラスに働くということは、観光業に携わる経営者や従業員が生活する地での飲食店からスーパー、美容院にいたるまで、さまざまなサービス業を含めた地場産業にも好影響となります。そしてそうした地場産業が潤うことで自治体の税収入が増え、行政のサービスが充実していきます。

また、外国人旅行者が多く歩く人気の町や村は、にぎわいを増すことで町や村自体の設備・サービスが充実するため、日本人の子育て世代や感度の高い若年層を呼び込む力が増すとも考えられます。すなわちインバウンドは、地域活性の起爆剤になり得るのです」

 

語学力がポイント! 今後需要の高まる人材とは

では今後もインバウンドの勢いが増すことで、どんな人材への需要が高まると想定されるのでしょうか。

 

通訳ができる多言語話者

「訪日外国人客が増加し続ければ、もとは観光客だった外国人が日本で長期滞在をしたり、就業や留学に来たりすることも増えます。そのため観光業のみならず、各サービス業において通訳の役割を果たせるバイリンガル、あるいはトリリンガル(3カ国語話者)の人材への需要が増すでしょう。

外国語のなかではやはり英語、中国語が最も需要が高く、その次にスペイン語、韓国語と続きます。いずれかの国や地域に特化した言語をマスターしていればグローバルな職場では重宝されるようになるのではないでしょうか」

 

◎国際派のマネージャー

「私の知る限り、現在はインバウンドの分野において、観光業の経験が豊富でITに精通し、かつ、多言語を操ることのできる有能なマネージャーはいまだほぼ存在しません。

これまでの日本の観光業界は、旅行や宿泊を好きな人が『旅に携わりたい』との希望を持ち転職してくる業界でした。さらに現在では、観光業全般でインバウンドの重要性が増してきていますので、インバウンドに携わる会社の組織が拡大するにつれ、『旅に携わりたい』という希望だけではなく、現場を効率よく統括するスキルを持った“国際派のマネージャー”が必要になってくるのです。

観光業は自らの旅行経験が生かせる業界ですから、これから数年間意識的に能力を高めていけば、観光業の経験者でなくても、国際派のマネージャーとしての能力を備えることができると思います」

 

今後のインバウンドは地方での呼び込みがカギ

2015年の訪日外国人客数は過去最高の1970万人となり、インバウンドがアウトバウンド(日本人の海外旅行者数)を上回りましたが、小野さんは「現状はいまだ偏りがある」と言います。

「『2015年の訪日外国人客数が過去最高の1970万人』という統計は、あくまでも延べ人数。その内訳は観光、ビジネス、留学、研修などに分けられるほか、1年間に複数回ビジネスで訪れる外国人も含むため、テレビや雑誌などで取り上げられるような純粋な外国人観光客が全国的に目に見えて増えている、というわけではありません。

実際に、47都道府県別の宿泊者数では、東京、大阪、京都、北海道など上位10県が外国人宿泊者の80%以上を占めており、いまだ偏りがあるのが現状なのです。今後外国人客が、いかにまだ知られていない地方の観光地や温泉地へ足を運ぶかどうかが、インバウンドの持続的成長、ひいては地方活性へ寄与できるかのポイントとなります」

 

地域と世界をつなげる

「インバウンドに関わる仕事には、増え続ける『日本のファン』を魅了し続けるために日本の良さを伝えるという、大きなやりがいがある」と小野さんは語ります。さらに今後は、海外へ向けて地域の良さを発信する「観光グローカル(global + local)」な視点を持ってインバウンドに関わりたいと考える人が、ますます活躍できる世の中になりそうです。

識者プロフィール

小野秀一郎(おの・しゅういちろう) 株式会社インバウンドにっぽん代表取締役。1974年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、富士銀行(現・みずほ銀行)に入社するも2年弱で退職。豪州でのインターンの後、米国IT企業の東京支社に再就職。上司が英国人、同僚が中国人という職場環境で異文化経験を得て、2年半後に米国と英国へ留学し、MBAを修了。宿泊予約サイトの幹部を経験し、2004年に現会社の前身「実践! インバウンド」を起業。温泉旅館など宿泊施設400軒への外国人集客サービス、観光地の誘客コンサルティングを手掛ける。ネットを活用したインバウンドマーケティングの第一人者。著書に『ネット活用でここまで変わる! 外国人観光客を呼び込む方法』(日本実業出版社/2016年1月)がある。