「幸せな瞬間を、もっと世界に」をビジョンに掲げ、カップルや夫婦、家族の記念写真を撮影するサービス「ラブグラフ」。このサービスの創業者であり、株式会社ラブグラフの取締役CCOを務める村田あつみさんは、幼いころ、教室の隅で絵を描いているような内気な少女だったそうです。

現在24歳の彼女はどのようにITの世界と出会い、ラブグラフを立ち上げ、事業を軌道に乗せていったのか。サービスを立ち上げることになったキッカケや女性のキャリアパスについて、村田さんに伺いました。

 

「会社のブランドを守る」それがCCOの重要な務め

2015年2月に誕生した株式会社ラブグラフ。現在、スタッフは13名、業務委託のカメラマンは全国各地と一部国外に約160名と、着々と規模を拡大しています。今年6月には、ラブグラフの写真撮影サービスを利用してWEBサイトに掲載されたカップルは1,000組を突破し、新たな展開も次々と決まっているのだとか。

同社で唯一の女性社員であり、取締役CCOを務める村田さんのメインの仕事は、「会社のブランドを守ること」だと言います。

 

「CCOのCは企業によって、それぞれ意味が異なるらしいのですが、弊社では『クリエイティブ』を意味します。

ラブグラフは大切な人との想い出を記念撮影するサービスですが、同時に『大切な人と過ごす時間が幸せだ』ということを再認識してもらいたいとの願いがあるんです。そういった『世界観』を何より大事にしていて、それを守る必要があると考えています。

私の役割はまさにそこに通じていて、サービスの価値や企業のブランドを守ることです。『ラブグラフ』として世の中に出すものは、デザイン面やテキストなど、すべてに目を通します。たとえば、バラまきのようなイメージを与えてしまう『無料撮影会』という言葉は『体験会』に置き換えるなど、私がガイドラインを決めて責任を担っています」(村田あつみさん:以下同じ)

 

とはいえ、社内のデザイナーは村田さんたった一人。そのため、WEBサイトやチラシなどのデザインはすべて彼女が担当しています。開発チームの一員としても各種サービスの開発に携わるため、リリース前になるとタスクに追われる日々が続くそう。

 

イジメがキッカケでITの世界へ。手探りでデザイナーになるまで

 

今でこそCCOとして社員を率いている彼女ですが、実は小学生時代は目立たない子どもだったのだとか。そんな村田さんがインターネットの世界と出会ったのが中学生のとき。当時、在籍していたバスケ部でのイジメがキッカケでした。

 

「一人で絵を描くのが好きな美術部タイプなのに、カッコいいイメージがあるバスケ部に憧れて入部したんです。そうしたら、ささいなことがキッカケでイジメにあってしまって。中学生って、学校と家と塾ぐらいしか世界がないじゃないですか。だから学校での居場所を失ってつらくてつらくて、あるとき家にあったパソコンを触りはじめたんです。

もともとパソコンで絵を描くのは好きだったんですが、それ以外にも掲示板のようなサイトを見てみたら、そこには大勢の人が思い思いにコメントを書き込んでいて、その瞬間『新しい世界を見つけた』と思いました。そこに無限の世界が広がっている気がして、すごく救われたんです」(同)

 

当時、「チャカレ」と呼ばれるインターネット上の彼氏をつくって交流していたという村田さん。一度も会ったことがなく顔も知らない相手なのに、絵文字の使い方や文字の打ち方で「イケているかどうか」を判断していたそうです。このころから自身のホームページも制作するほどのIT漬けに。

そんな彼女が本格的にデザインを始めたのが大学生のときでした。グラフィックデザイナーの仕事に惹かれて、WEBサイトを運営する京都のスタートアップ企業・株式会社Campusにデザイナーとして入社、学生と掛け持ちしながら週5で勤務するという日々をスタートしました。

 

「入社してすぐに『これ来週までに全部読んできて』とデザインに関する本を20冊ぐらい渡されたり、『3日後までに名刺のデザインを15案あげて』といきなりタスクを振られたり……未経験のスタートだったので正直キツかったですね。『社会ってこういうものなんだ』って。でも必死に調べて少しずつできることが増えていきました。何度も何度も怒られたし失敗してたくさん泣いたけど、デザインの基礎を身に付けることができたので心から感謝しています」(同)

 

幸せの連鎖をつくりたい、その想いを形にした「ラブグラフ」

大学生活とデザイナーとしての仕事に全力で打ち込んでいた村田さんは、大学3年生のとき「ラブグラフ」のサービスを立ち上げます。ちょうどデザイナーとしての技術が身に付き始め、「心から好きなものを作りたい」との気持ちが高まっていた時期でした。

 

「自分の好きなことって何だろうと考えたとき、友達の恋愛話を聞くこととか、大切な家族に喜んでもらうことが浮かびました。だから愛や恋の領域でビジネスができたらとの想いがあったんです。

そのとき、Campusでカメラマンをしていた同僚の駒下(現・ラブグラフの代表)が、自分が撮影した友人カップルの写真をTwitterに投稿しているのを見て、『すごくすてき! こういうものを世の中に広めていきたい』って純粋に思って。そこで彼に、『これWEBサイトにしてみない?』と声をかけて、趣味のような感じでラブグラフをスタートしました」(同)

 

 

サービスを開始してから1年後、村田さんが大学4年生のときに株式会社ラブグラフを設立。カメラマンの駒下さんが代表取締役、村田さんが取締役に就任しました。

まずアプローチしたのは、自分たちの写真をSNSに投稿するのに抵抗がない10代後半~20代の男女。撮影した写真をラブグラフのSNSで投稿することで、記念写真を残す以外に「自分たちがモデルとして配信される体験」も同時に味わってもらえる工夫をしたと言います。

 

「言ってみれば街のフォトスタジオは競合なわけですが、私たちは撮影した写真をコンテンツとして扱い、利用者をモデルのように見せることで差別化を図りました。そういった付加価値を提供することで、若者世代の心をつかむことができたのかなと思っています。

でも、当初私たちは想いを形にしただけで、ビジネスとして利益を生むことを想定せずにラブグラフを立ち上げたんです。起業したときも、完全にビジョンドリブンに振り切ったのはこだわった点。でも、株式会社になったからには利益を生み出さなくてはいけないので、そのためにエンジニアと経営戦略を任せられる新たな社員を迎えました。そこからですね、ようやく会社らしくなったのは」(同)

 

ライフイベントを優先すべき女性にこそIT業界を勧めたい

「結婚して家族をつくる」、それは女性にとって欠かせないライフイベントである場合も多いでしょう。もちろん男性においても同じことはいえるものの、「女性と男性では意識が違うと思う」と村田さん。

 

「たとえば5年後を見据えて経営戦略を練っているとき、私以外の男性社員は、結婚や出産などライフイベントで自分のキャリアが中断するかもしれないことを、そこまで考慮していないかもしれません。でも、私は5年後、結婚して母親になっているかもしれない。サービス柄もありますが、個人的にも家族は一番に大切にしたくて、CCOという責任ある役職を担っていても、そこは譲りたくないし行使すべきだと思っています。

私はあらかじめ社員たちに自分の希望を伝えていて、数年後に私が一時抜けても仕事が回るようにチーム編成を考慮してもらっているんです」(同)

 

さらに、ライフイベントを優先せざるを得ない女性にこそ、職業としてIT分野を勧めたいと語ってくれました。

 

「ITだけに限ったことではありませんが、出社しなくても稼げるスキルを身に付けておくと、いざというとき強い武器になるはずです。エンジニア職に就いている女性の割合は、全体の7%とものすごく少数らしいんですが、単なるステレオタイプで、エンジニアやデザイナーが男性向きの職業だなんてことは、まったくありません。ぜひ、一度チャレンジしてほしい業界ですね」(同)

 

まとめ

これまで順調にステップアップを重ねてきたように見える彼女ですが、責任の重いCCOという役職に加えデザイナーも務めており、時折落ち込んでしまうこともあるのだとか。そんなときは、つらさを感じる原因を紙に書き出して分析し、一番の原因を可視化して見つけることで、乗り越えてきたそうです。

今後は、世界中にカメラマンを配置してサービスの範囲を広げたり、外国人のカメラマンを雇ってインバウンド需要を狙ったり、よりグローバルに展開していくビジョンも見据えているというラブグラフ。24歳の村田さんが描く大いなる夢はまだスタートしたばかり。世界を一瞬でつなぐインターネット同様、ラブグラフも無限の可能性に満ちています。

 

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識者プロフィール

村田あつみ(むらた・あつみ) 株式会社ラブグラフ 取締役CCO 1991年生まれ東京在住。同志社大学社会学部卒。 大学時代初期からWEBデザイナーとして企業に勤め、「美学生図鑑」などのヒットメディアのデザイン・コーディングを長期にわたり担当。卒業後、リクルートホールディングスにIT人材として新卒入社。現在は、在学中に立ち上げたフォト撮影サービス「Lovegraph(ラブグラフ)」の取締役CCOであり、同時に同サービスのマーケティング、デザイン、開発に至るまでマルチにこなす女性WEBディベロッパー。