20代、30代でキャリアをどう設計すべきか――終身雇用制度が崩壊しつつあり、転職も一般的である昨今、自身のキャリア設計は多くの人にとって重要な課題となっています。とはいえ、キャリアプランのたて方は誰かが教えてくれるものでもなく、悩んでいる方は多いのではないでしょうか?

そこで今回は、ソフトバンクで「Pepper」の開発リーダーとして活躍したのち、「GROOVE X」を立ち上げ、自分のやりたいことに挑戦しながらキャリアを築いている林要さんに、20代、30代のキャリア設計についてお話を伺いました。

 

「夢」はなくてもいい

――20代のキャリア設計として、重要だと思うことは何でしょうか。

 

林要さん(以下、林):若いころにやるべきなのは、まず自分を知ることだと思うんですよね。一般的にいわれている20代の理想像は「夢に燃えて若々しく!」みたいなものでしょう。でも、夢を見つけるのは脳の情報処理にとって最も難しいことだと思うんですよ。

人間は瞬間的に揺れ動く「動物的な情動」と、ヒトに進化する過程で生まれた「意識的な思考」を頭の中に持っています。そのバランスをとる調停処理をしながら生きるわけです。

意識的な思考に偏ると、感情や情動と折り合いがつかなくなります。たまに、「〜であるべき」と語りすぎる人がなぜか生きづらそうに見えることがあるのは、ご自分で信じていることと、本能的な感情や情動との調停がうまくできないケースもあり得るでしょう。

一方で、一見ちゃらんぽらんに見えるのに生き生きとし続けている人は「ちゃらんぽらん」と言われるようなリスクをとりながらも、社会性と自然発生的な本能とのバランスをとっているからかもしれません。

 

 

――夢を持つことは、情動と意識的な思考の間で、どういった位置づけとなるでしょうか。

 

林:夢を持つということは、社会的要請に大きな影響を受ける意識的欲求と、感情や情動に影響を受ける自然発生的欲求が一致するように、調停処理をするということ。これは、動物にはできない、高度な思考ですね。

特に現在は情報過多で、経験不足なのに分かった気になってしまいがちなため、「思い込みで飛び込む」などの不合理なチャレンジにまい進して経験を積む、ということも困難です。だから、ほっといて見つかるものではありません。脳にとっては、針の穴を見るつけるような高度なプランニングタスクともいえるでしょう。

その難しさを教えないままに「若者は夢を持ちそれをやるべきだ」といわれても、「自分にはやりたいことはない…」と自信を失うだけです。そんな無責任なアドバイス、よくありませんね。

もちろん、20代のうちにしっかりとした夢を持っている人もいますが、その人は極めてラッキーだと思います。

 

夢がないときは、目の前の仕事に取り組めばいい

――では、夢がない人は、はじめに何をすればいいでしょうか。

 

林:まず、難しさを認識して、焦らないこと、自信をなくさないことです。今、夢を持っていない人は、むしろ将来につなげる意味で、目の前の仕事に一生懸命に取り組むことが大事だと思います。真剣にやれば身体性を伴う確かな経験を自分の中に蓄えられます。

2、3年ほど目の前の仕事に一生懸命取り組んで、ある程度知識やスキルを習得した段階で、その道を突き進むか次のことをやるかを考えればいい。がむしゃらに仕事することでその経験たちが今後の人生でつながっていきますよ。

 

――経験がつながる、というのはどういうことでしょうか。

 

林:スティーブ・ジョブズの「コネクティング・ドット(※注訳1)」のようなお話です。経験Aと経験Bは、それ単体では点にしかすぎません。しかし、その点と点がつながることで、新たなアイデアが生まれやすくなり、スキルへと変わる。そして、自然とキャリアアップへもつながっていきます。

経験の点がつながることには、2パターンあります。一つ目は、社会が変化して今まで無関係と思われた経験のセットを持つ人に需要が生まれるパターン。これは外部がそのスキルセットを必要とするパターンですね。二つ目は脳の処理によりつながるパターンです。これは脳の内部処理的に、ひらめきなどになって結実するパターンといえます。

 

(※注訳1)コネクティング・ドット:スティーブ・ジョブズが大学生のころに習得した「カリグラフィー」の経験が、Macintoshのフォントデザインに生かされたというエピソード。スティーブ・ジョブズがスタンフォード大学の卒業式のスピーチで語った。

 

 

目の前の仕事に取り組むことで、アイデアの種を蓄えられる

――「脳の処理によりつながる」とは、どういうことでしょうか。

 

林:人間の脳はもともと神経細胞の発火という現象で「ひらめく」ようにできています。それは、無意識のうちに行われることです。人が意識している範囲の外で、経験Aと経験Bでつくられた神経回路が結びつきます。これは論理的思考のような積み上げではなく、別々の経験で培われた神経回路が、なんらかの類似性などをもとに共鳴することで、ひらめきは訪れます。

私たちの脳は、言葉にできない無意識の領域でも思考する。そこがアイデアの生まれる場所です。アイデアは神が与えるものでもなければ、過去と無関係なひらめきでもない。もう少しいえば、生まれ持った能力によって支配されるわけですらなく、人生経験をもとにどのような思考回路を形成してきたかが、もっとも大事なわけですね。

 

――良いひらめきを生むために、どのような経験を積むとよいのでしょうか。

 

林:どれだけ隣の人と違う経験のセットを持っているかを基準に考えるとよいと思います。社員として働いているとき、同期の中にも同じような仕事をしている人は多くいますよね。そうするとどれだけ工夫をしても、得られる経験は似てしまい、視点も似てきます。そういう意味でもっとも簡単な方法は、リスクをとることかもしれません。

もう一つは、本質的に重要なことを考え続けることではないでしょうか。特に物理現象と、人の進化的適応の二点については、非常に重要だと思います。

スティーブ・ジョブズがカリグラフィーの経験をMacintosh(マッキントッシュ)のフォントデザインに生かせたのも、同じ経験をした人がいなかったからでしょう。他の人がなぜそのアイデアを生めなかったかというと、ジョブズとは経験の組み合わせが違うことと、また人にとって本質的に何が大事かを忘れてしまうからだと考えています。逆にいえば、人と違う経験の組み合わせをつくるだけでも、誰も考えていなかったアイデアを生み出せる可能性はずっと高まるのです。

 

 

キャリアを選ぶとき、目先の利益にとらわれてはいけない

――キャリアを選ぶ際の注意点を教えてください。

 

林:キャリアを選ぶ際に気に留めたいことは、今の自分にとって一番得な選択が、必ずしも将来の自分にとって最善とは限らないことです。今一番自分にとって得な選択というと、「最もイケてる会社であること」や「給与が高いこと」を基準とすることも多いでしょう。しかし、両方とも未来につながりにくい選択となりがちです。

まずは、「イケてる会社」とは何かお話します。外部から見てイケてる会社というのは、往々にして内部から見たピークはすでに過ぎているものです。情報は必ず遅れて伝わります。決算情報なども同様です。内部から発信された情報が外部の方に認識されたころ、その会社はすでに飛躍的に伸びるフェーズを終え、効率化によって業績の伸びを維持しているフェーズに移っている可能性などがあるわけです。これはハーバードのMBA生の追跡結果で立証されているそうです。

次に、「高い給与の会社」について。給与が高いというのは、いくつかパターンがあります。

 

一つ目は、イケてる会社が伸びている間に人手不足を補うために、高い給与を支払うパターン。これのデメリットは前述のイケてる会社に入るパターンと同じです。

二つ目は、専門性を期待されて高給となるパターンがあります。専門性の高い仕事をきっちりこなすことが求められ、トライ・アンド・エラーをしにくくなります。その道で食っていこうと決めた人ならよいと思います。しかしまだやりたいことが見つかっていない人はほかの経験を積めなくなってしまいます。

 

たとえば私の場合、F1開発のあと米国から戻ったときに、ほかの人より英語を話すことができたんですね。そのため、英語対応要員として扱われてしまい、英語を必要とする案件から抜けられなかったことがあります。ある分野が得意というレッテルは、次のステップにいきたいと考えたときに、足かせとなってしまうこともあるんですよね。

このように、一見今の自分に「得」のように見える物事でも、人生のキャリアを考えるうえでは「罠」となってしまうケースも多いというわけです。

 

 

人生のピークを設計することが大切

――では、何を意識してキャリアプランを立てればよいのでしょうか?

 

林:自分の人生のピークをいつに設計するかが大事だと思うんですよね。僕は人生のピークを後方に持ってきたほうがいいと考えています。

もしピークを人生の前半、20代に持ってくるとどうなるか。20代にピークを迎えたアイドルを例にしましょう。20代以降に新たな価値を提供できない限り、残り40年間以上は徐々にスポットライトから外れていくわけです。

人は「幸せ」について、絶対的ではなく相対的に判断しがちです。過去の自分よりも、今の自分が「ちょっといい状況にいる」ことを「幸せ」だと感じやすい。極端な話、一番「幸せ」な人生とは、若いころはどん底でも死ぬ間際に頂点に上り詰めているということかもしれません。

 

――10代や20代でそのマインドを持つのは難しそうな気もしますが…。

 

林:10代や20代のころは、自分が何者でもない、あるいは何者なのか分からない不安感から、自分を大きく見せようとしがちです。

きっと読者の方も、「自分はすごいんだぞ」と大きく見せるために苦しんでいる人も多いのではないでしょうか。まだ経験の浅い若いうちに自分が何者でもないのは当たり前。だから、無理する必要はありません。

今後の人生にピークを持っていくためにも、20代や30代のうちは、自分の脳のために、身体性を持った経験を積み重ねることが大事なんですよ。その「経験の点」が増えれば、オリジナルの能力を自然と得て、おのずと「何者か」にはなれるのですから。

 

 

「ビッグになりたい」の落とし穴とは

――「20代で当てたい」というマインドを持つことは、そんなに悪いことでしょうか?

 

林:何かやりたいことがあって、それを達成した結果「ビッグ」になることは否定しません。

しかし目的が「ビッグになりたい」というマインドは脆く弱い。理由は、関係者を引っ張れるような旗、ビジョンがないからなんですよ。何か新しいものをやろうと考えたとき、人は必ず困難にぶつかります。それを乗り越える鍵は、困難に対してひたすら考えることです。明確な旗、ビジョンさえあれば、考え続けることで課題を打破する方法が見つかります。

ただ、考える基軸となる旗、ビジョンがないと答えが見つからなかったり、ようやく見つかった答えもちょっとしたことでブレてしまうので、課題を乗り越えるのは困難となります。

だからこそ、やりたいことを掲げて物事に取り組む。やりたいことがないのなら、今、目の前にある仕事に注力することが大事なんですよ。

 

目先の利益ではなく、何十年と続く人生のキャリアを考える

もし、キャリアについて迷ったときは、自分の人生のピークを後方に持ってこようと考えて、そのピークに向かって目の前の仕事をやりきることが大切なのかもしれません。 まずは自分をよく知り、まわりとは違う「経験」の数を増やしていくことからはじめてみませんか?

 

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識者プロフィール

林要(はやし・かなめ) 1973年愛知生まれ。東京都立科学技術大学(現:首都大学東京)大学院修士課程修了。トヨタ自動車株式会社に入社し、「レクサスLFA」開発プロジェクトに参画したのち、F1開発スタッフに抜擢される。その後、ソフトバンクグループ株式会社に入社。「Pepper」開発プロジェクトにリーダーとして参画したのち独立し、GROOVE X 株式会社を立ち上げる。