病気やけが、家庭の事情など、長期間仕事を休む必要に迫られた場合に利用できる「休職」という制度。風邪を引いたときの病欠や有給休暇の取得と違い、なかなか取る機会が多くはないため、詳しく知らない人も多いのではないでしょうか。

しかし、不慮の事故などで長期入院が必要になってしまったときなど、いざというときに知っておいたほうが良い制度でもあります。

そこで今回は、休職の期間やその間の給与や保険、手当の支給などなど、休職制度について社労士の榊裕葵さんに詳しく伺いました。

 

そもそも休職とはどのような制度なの?

そもそも、「休職」と「欠勤」にはどのような違いがあるのでしょうか。「休職」の意味を理解するために、まずは「欠勤」について学んでいきましょう。

 

欠勤とは、本来出勤しなければならない義務のある日に、何らかの理由で勤務をしないことを言います。会社と従業員は雇用契約を結んでいますが、雇用契約というのは「従業員が会社に対して労働を提供し、会社はその対価として従業員に対して賃金を支払う」というのが基本的な内容なので、欠勤が風邪で1日や2日ということであれば、欠勤した日の賃金が日割りで支払われないだけで、それ以上の問題にはなりません。

 

ところが、大きな病気を患ってしまったり、大きなけがをしたりして欠勤が長期間になる場合には、労働の提供が長期間できないということになり、会社には雇用契約の解除権、すなわち「解雇」をする権利が生じます。

 

しかし、日本の裁判所は解雇に対して慎重な姿勢をとっているため、欠勤による解雇が裁判になった場合、「病気が回復するまで、もう少し待ってあげられなかったのですか?」ということで、解雇無効の判決が下る可能性が高くなります。

 

そこで、多くの会社は法律上の義務ではありませんが、「休職」という制度を独自に設け、休職が認められた期間は労働の提供を免除し(すなち、休職期間中は労務提供不能による解雇権が会社に発生しない)、病気やけがの回復に専念できる数カ月から数年間の猶予期間を与えることとしています。

 

その猶予期間が経過してもなお復職ができない場合には雇用契約を解消する、というクッションを置くことで、裁判所に「休職期間で様子を見ても回復しなかったのだから仕方ないですね」ということを認めさせ、裁判で会社が敗訴するリスクを防いでいるのです。

 

もちろん、裁判上の理由だけでなく、万一のとき休職制度があることで従業員が安心して働けるという福利厚生的な意義も休職制度にはあります。

 

休職と就業規則について

休職は法律上で義務付けられた制度ではないので、休職制度の有無や、休職・復職の条件などは、各会社の就業規則によって定められます。

 

大企業と中小企業に分けた一般的な休職制度の目安が下記の表となります。

経営体力がある分、大企業のほうが手厚い条件となっていることが多いようです。

 

  大企業 中小企業
休職期間 1年以上~数年 数カ月~1年程度
(勤続年数が短い場合は適用除外となることもある)
休職理由 病気やけがに加え、ボランティアや留学なども 病気やけがのみ
休職期間中の賃金 休職理由によっては賃金の全部または一部が支給される場合がある 原則として無給

就業規則に休職制度の定めがない場合や、そもそも会社に就業規則が存在しない場合は、会社と交渉をしてもいいかもしれません。

休職制度の定めが就業規則にないから休職の取得を諦めるのではなく、個別の合意書により条件を取り決めるなどして、休職を取得することが可能です。

 

給与や社会保険の支払い、その他手当はどうなってる?

休職期間中の給与の有無は前述したよう就業規則の定めによりますが、一部の大企業を除き、無給であることが一般的です。

 

また、休職期間中は、雇用保険料と所得税は発生しません。一方で、社会保険料(健康保険・厚生年金)と住民税は支払いが継続します。

休職期間中も賃金が補償される場合はそこから天引きされますが、無給の場合は、就業規則の定めや会社の指示に従って、復職後の賃金で精算するか、振込等により都度支払うことが一般的です。

 

なお、病気やけがによる休職期間中には、無給であれば健康保険から通常の賃金のおよそ3分の2の額の「傷病手当金」が支給されますので、傷病手当金を原資として、社会保険料や住民税を支払うことが可能です。

 

よくある休職トラブルとその対処法

休職に関連してよくあるトラブルとその対処法を3点紹介していただきました。

 

会社が休職を渋り、退職勧奨や自己都合退職を打診されてしまったら?

休職期間中は社会保険料の負担が継続するため、会社も折半分の保険料を負担しなければなりません。また、復職できるかどうかが曖昧な場合は、新しい人を雇うかどうか会社としては判断に悩むことも。

そこで会社は、休職を取得しようとする従業員に対し、退職勧奨をしたり、自己都合退職を打診したりする場合があるのです。

 

会社の立場は分かるものの、就業規則に定めがあれば休職は従業員の権利ですから、復職してこの会社で引き続き仕事をしたいという気持ちがあるならば、退職勧奨に応じたり、退職届を書いたりする必要はありません。

退職する意思がないことを明確に示しても、休職を認めてくれない場合は、労働基準監督署に相談をしましょう。

 

なお、就業規則に「復職する見込みがない場合は休職を認めない」という例外規定が定められている場合があります。しかし、「復職する見込みがない」かどうかは価値判断が入りますので、会社から「あなたは復職をする見込みがないので休職を認めません」と言われて休職を断られた場合でも、その判断に納得がいかなければ労働基準監督署へ相談をしてください。

 

休職を認めるのではなく、有給休暇の消化扱いにされてしまった

榊さん自身が受けた相談の中に、会社に休職の適用を求めたら「まずは有給を消化して有給がなくなってから休職を考えましょう」と言われたり、休職だったはずの期間の一部が勝手に有給消化として処理されていた、といったようなケースも実際あったそう。

この場合、従業員本人の希望で、賃金が100%補償されたほうが良いから有給を消化するということならば問題ありません。しかし、会社が有給の消化を強制したり、勝手に有給消化扱いにしたりすることは違法です。

有給休暇は別の機会のためにとっておいて、休職をした上で、健康保険の傷病手当金を休業補償として受け取ることが従業員の希望ならば、就業規則上の休職の要件に合致する限り、会社は休職を認めなければならないのです。

このようなトラブルに遭遇した場合、会社に対しては、「有給消化ではなく休職制度を利用したい」ということを明確に伝えるとともに、「法律上、有給休暇の取得を会社は強制できないはずでは」ということも合わせて伝えてみましょう。

それでも会社が聞く耳を持ってくれないようでしたら、労働基準監督署へ相談しましょう。

 

復職可能かどうかで会社と従業員の判断に食い違いが生じたら

就業規則の休職に関する箇所には、復職の条件に付いても書かれており、最も多いのは「復職が可能である旨の診断書を提出し、会社が復職の可否を判断する」という定め方です。

また、「必要に応じ、会社の指定する医師の診断を受けさせる場合がある」というただし書きが付いていることもあります。

 

すなわち、復職をさせるかどうかの最終的な決定権は会社側にあるということです。そのため、本人は復職できると思っていても、会社や会社側の医師の判断により復職が実現しなかった場合、争いが生じることとなります。近年は、精神疾患の場合はとくに復職をめぐるトラブルが増えているようです。

 

復職ができなかった場合は、多くの会社の就業規則には「休職期間満了時に復職ができない場合は自然退職(あるいは解雇)とする」と書かれているので、休職期間が延びるということではなく、従業員としての身分を失うことになってしまいます。

このような場合、従業員側の対応としては会社が復職を認めなかったことおよび、これに伴う自然退職や解雇は無効であると主張をして、従業員としての地位が存続していることを認めさせる労働審判や裁判を行うことになります。

 

勝訴すれば、復職が可能だった期間から勝訴時点までの賃金を、遺失利益として受け取ることができます。

 

まとめ

休職制度は法律上の制度ではないので、自分が勤めている会社の就業規則をよく読み、自分の会社がどのような休職制度を持っているのかを確認しておいたほうがいいかもしれません。

そしてもし休職制度を利用することになったとき、発生しそうなトラブルとその解決方法について事前に頭の中に入れておくと、いざというときに慌てずに対応できるでしょう。

 

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識者プロフィール

榊裕葵(さかき・ゆうき) 特定社会保険労務士(ポライト社会保険労務士法人 マネージング・パートナー)上場企業経営企画室出身の社会保険労務士として、労働トラブルの発生を予防できる労務管理体制の構築や、従業員のモチベーションアップの支援に力を入れている。また、「シェアーズカフェ・オンライン」に執筆者として参加し、労働問題や年金問題に関し、積極的に情報発信を行っている。