東京都東久留米市に本社を置く株式会社ON-ARTは、代表取締役・金丸賀也さんを含め社員はたった6名だけのベンチャー企業。

 

そんな同社の工房である所沢スタジオで作られているのは、超リアルな恐竜の数々です。しかもこれらの恐竜は二足歩行をし、まるで本物のような動きをするといいます。

 

同社がひたすら「歩くリアルな恐竜」にこだわり、製作を続けるのはなぜでしょうか? 同社・所沢スタジオで、金丸さんにお話を伺いました。

 

大人も驚愕! 超リアル恐竜体験

スタジオを訪れた私たちの目の前に姿を見せたのは、全長8メートルの大きなティラノサウルス。ゆっくりと現れたその恐竜は、自らの意思でステージ上を縦横無尽に、二足歩行で徘徊(はいかい)しています。

 

そのとき、飼育員と思しき男性がエサを与えにきました。エサに気づいたティラノサウルスは、長く力強い尻尾を振りまわしながら機敏に男性のもとへ向かいます。おいしそうにエサを飲み込みますが、まだまだおなかが空いていたのか、その大きな口を広げ、別の飼育員らしき男性を頭からガブリ。

 

「ほら、お前のエサだよ!」 「ほら、お前のエサだよ!」

 

まさかの…ガブリ。 まさかの…ガブリ。

 

さらにその後方からは、仲間と思われる恐竜2体も新たに出現! そして金丸社長まで…!

 

金丸社長まで…!

 

ああ、目の前に大口をあけてこちらを見ている恐竜がいる。その距離わずか50センチ。

現実か否か—。私たちは生きて帰ってこられるのだろうか?

 

DINO-A-LIVE

 

…と、実はこれ、ベンチャー企業・株式会社ON-ARTが企画している恐竜ライブショー「DINO-A-LIVE」(ディノアライブ)のステージなのです。恐竜の正体はとても精巧にできた恐竜型メカニカルスーツで、その中に人が入って恐竜を操っています。

 

「私は最近よく“sense of wonder”(何かしらのものごとに触れたときの不思議な心理・感覚を意味する)という言葉を引用しますが、人間がこの世に誕生し、何の予備知識もなくこの世を目にした瞬間というのは、きっと驚きに満ちあふれていると思うんです。

わけが分からないけど、そこに存在するものに圧倒される。あるいは、恐いけれど、また見たくなってしまう—。DINO-A-LIVEは、人間のそうした感覚を刺激するものとして提供しています」

 

そう話すのは、ON-ART代表取締役の金丸賀也さんです。

 

新たなマーケットを開拓することから始まった

金丸さんは東京藝術大学デザイン学科のご出身です。大学卒業後はNHKに入局し、美術制作部に配属。ここでNHK大河ドラマのセットデザインを数々担当したそうです。NHK退局後は、これまでの経験を生かし、美術アーティストとして個人事業をスタートします。

 

金丸さんにとって特に思い出深いのは、某百貨店のショーウィンドウの背景画のお仕事。エアーブラシの描画だけでなく、クライアントの要求に応じさまざまな絵画技法にチャレンジし、新たな技法まで考え出すに至った仕事で、自分の仕事に対する考え方の基礎になったものだそうです。その仕事は10年以上続き、その評判を聞いた博物館・美術館からも壁画や展示造形、ジオラマ等の製作を頼まれるようになっていったといいます。

 

金丸さんに

 

しかし、デジタルでリアルな描写が出力できるようになっていくにつれ、その仕事も含め業界全般的に手描きでの仕事は減っていったのだとか。

 

「それは時代に求められた流れだから仕方がありません。その中で手描きにこだわりたかった僕が思ったのは、これまでとは違うところで勝負をしてみれば、ということでした。小さくてもいいから、何か新しいマーケットをつくり出せないだろうか、と」(金丸さん、以下同)

 

「立体を、より立体に見せる」リアルバルーンという新たな価値

そこで金丸さんの編み出したのが「リアルバルーン」という手法。

 

バルーン製作会社が作ったさまざまな形の大きなバルーン。その表面に、金丸さんが培ってきたトリックアート(人の脳で起こる錯視によって、平面に描かれたにもかかわらず立体的に見えたり動いているように見せたりするアート)や、エイジングの技法でエアブラシ描写を施し、「立体を、より立体に見せる」というものでした。

 

その利点価値はさまざまなシーンにありました。

 

「お客さまにとっては設置会場で膨らませることができますから、管理・運搬が簡単です。さらに中に空気を送り込むだけで膨らむため、通常なら組み立てるのにかかる人的コスト、会場使用料のコストなどを抑えられます。軽量ですから、ステージの上からつるす、といった演出にも対応でき、仮に何かの拍子に落ちたとしても人的な事故の危険が少なくて済むという利点もあります」

 

リアルバルーン

 

これが新たなビジネスに発展しました。映画試写会やプロモーションイベントなどでニーズがあったのはもちろん、大規模なお祭りなどでもリアルバルーンが活躍。評判が評判を呼び、ON-ARTにとって新たなマーケットが開拓されたのです。

これぞまさにイノベーションと呼ぶにふさわしいのではないでしょうか。

 

さらに金丸さんは探究を続けます。

「それまではいずれも『注文のあったものを作って売り渡す』ことがほとんどでしたが、そろそろ自ら何かを作り、向こうから『欲しい!』と言ってもらえる、そんなオリジナルなものを作りたいと思ったのです」。そこで初めて「恐竜」に着目したといいます。

 

金丸さんはバルーン恐竜「BALOON DINO」として、大小2サイズのトリケラトプスのバルーンを製作。今もレンタル製品として、企業やイベント企画会社などに提供されています。

 

トリケラ大と小

 

すでに各国で特許を取得、海外進出の道も?

「バルーン恐竜を経て、今度は見た目がリアルなだけでなく、実際に生きているように動く恐竜をみんな見たがるのではないかと思った。生き物の“存在としての素晴らしさ”を、それで表現できるのではないか」—

 

そうして金丸さんは、2003年ごろからバルーン恐竜に続く、新たな恐竜にまつわる開発に着手します。それがDINO-A-LIVEにつながる「歩く恐竜」です。2005年には有限会社ON-ART(2012年に株式会社化)を設立しました。

 

スタジオでは、たくさんの恐竜たちが歩き回りたくてうずうずしている。 スタジオでは、たくさんの恐竜たちが歩き回りたくてうずうずしている。

 

「歩く恐竜」は何度も試作が繰り返されました。設立したばかりの会社の資金も、すべて恐竜作りに使われたといいます。そして2006年、ついに「歩く恐竜」第1号、アロサウルスが完成。プロトタイプの製作に借金も膨らみましたが、翌年には名古屋の恐竜博でステージデビューを果たしました。その後も恐竜の種類・数を増やし、2011年からは恐竜ライブショー「DINO-A-LIVE」に発展。新たなプロジェクトが口火を切ったのでした。

 

「これら自立二足歩行のできる恐竜メカニカルスーツの技術を、私たちはDINO-TRONICS(ディノ・トロニクス)と呼んでいます。中の操作機構もすべてON-ARTで独自開発しています。もちろん安全性にも配慮していますし、恐竜のリアリティーを出すため、学術的なことは専門家から監修も受けているんです。今年3月には、福井県立恐竜博物館・特別館長に監修いただいた新たなモデルのお披露目を予定しています」

 

すでに「恐竜を含む大型の動物の着ぐるみ(1名2足歩行)」「恐竜を含む大型の動物の着ぐるみ(2名4足歩行)」として、海外各国での特許も取得。これまで、東京都ベンチャー技術大賞特別賞、第4回ものづくり日本大賞優秀賞(経済産業省関東経済産業局管内)なども受賞しています。

 

歩く恐竜

 

将来的には、エンターテインメントの本場・アメリカに進出し海外興行を企画したり、はたまた恐竜などいなくなった生き物を体験的に学ぶことのできる大規模テーマパークを開園したりもしていきたいのだとか。実にさまざまな構想をお持ちの金丸さんです。

 

10年以上根気強く継続できた「仕事の原動力」とは

「何かビジネスでその次のステップを考えなければならないとき、そこに壁が立ち塞がっていたとするじゃないですか。大きな企業はそれをパワーショベルのような重機で壊そうとしますが、僕らのようなベンチャーや中小企業は、到底そんなことをする力はありません。

 

その代わり、小回りが利くからこそ、ニッチなスキマを見つけて徹底的にそこを叩き、穴をこじ開けることができる。それがリアルバルーンであり、DINO-A-LIVEです。

そもそもの目的は壁の向こう側に行くことですから、僕らはまさに一点突破でその目的を果たそうとしているんです」

 

金丸さん

 

そんな金丸さんに、10年以上も「歩く恐竜」プロジェクトに向き合うことができた、その原動力について伺いました。

 

「今になって、なぜこれを始めたのかあらためて考えても、実は自分でもよく分からない(笑)。ただ何か答えるとするならば、やりたいからやっているだけ。結局は、恐竜の魅力に惹かれ、目の前にあるこの素晴らしいことに素直に取り組み続けていたいと思ったからです」

 

ただしそれだけではダメで……と金丸さんは続けます。

 

ショーの間、恐竜たちを優しく大切そうに見つめるまなざしが印象的だった金丸さん。 ショーの間、恐竜たちを優しく大切そうに見つめるまなざしが印象的だった金丸さん。

 

恐竜たち

 

「結局、仕事の原動力として行き着くのは、誰かのためにやる、ということです。

 

そこに『自分のため』が出てきてしまうと、仕事というのは得てして面白くないものになりがち。誰かがものすごく喜んでくれる、そう考えると、自分の中からふつふつとすごい力が湧き上がってくるものですよ」

 

ひとつのことを続ける、ということ

答えがないものに対し、ひたすら突き進む。ON-ARTはそんな六人の戦士たちが、今まで誰も感じたことがないような驚きと感動の体験へいざなう起爆剤を作っています。

ここまで形になったのは、一人ひとりが自分の中に強い信念を持ち、本物をひたすら追求してきたからでこそ。

社員たちの内から湧き上がる力と愛情がたくさん注がれ作られた恐竜たちを、いつかあなたも世界のどこかで目にすることでしょう。

 

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識者プロフィール

金丸賀也(かねまる・かずや)/株式会社ON-ART代表取締役
東京藝術大学デザイン科を卒業後、NHKの美術制作部に入局。その後退局し、ミュージシャンとしてヨーロッパ三大ミュージックフェスティバル「ロスキレミュージックフェスティバル」など海外音楽フェスに多数出演。また現代アーティストとして活動し、1996年美術作品制作でSONYアートビジネスオーディションにて特別奨励賞受賞。1998年テレビ東京番組「たけしの誰でもピカソ」アートバトルで二代目グランドチャンピオン。1990年個人事業主として創業(壁画、造形製作)。以降、商業施設や博物館等の壁画、造形物、ジオラマ等多数製作。2000年バルーンにエアブラシで描画するリアルバルーン開発。2003年「歩く恐竜」の開発構想開始。2005年、東京都東久留米市に有限会社ON-ART設立。その後埼玉県所沢市に約250坪のスタジオを開設。ここで歩く恐竜製作を着手した。2007年「歩く恐竜」デビュー。2011年より「歩く恐竜」が新プロジェクト「DINO-A-LIVE」としてスタート。2012年、株式会社ON-ARTへ組織変更。

(文:安田博勇 / 写真:岩本良介)