「KAROSHI」(過労死)が英語辞典にも載っているように、海外からは日本人は「働きすぎ」というイメージを持たれていると思いがち。ですが、「実は私たち日本人に対する海外の評価はもっと辛辣で、『日本人は仕事ができない』と思われている」と話すのは、ピープル・ビジネス・スクール代表の中園徹さんです。

 

「日本の1時間当たりの労働生産性はOECD加盟35カ国の中20位(2016年)。日本は仕事の生産性が先進国の中でも極めて低いのです」(中園さん、以下同)

 

一方、ヨーロッパの国々が日本よりはるかに高い仕事の生産性を生み出していることに注目した中園さんは、2015年12月から2週間オランダとフランスに滞在し、現地の労働環境を視察。そこで中園さんが見聞きした諸先進国と日本の労働環境の違いについて伺いました。

 

戦後から変わらない、もはや時代錯誤の日本の働き方

中園さんは、労働環境は「世界が違うのではなく、日本だけが違う」と指摘します。その背景には敗戦での影響があったのでは、と言います。

 

「戦後、日本は高度成長期を迎え『終身雇用』『年功序列』『正社員主義』という制度が誕生しました。日本人は寝る間も惜しんで、朝から晩まで働き同じ釜の飯を食う。代わりに会社は一生社員の面倒をみる……そんな家族のような経営の名残が今でも残っていたりします。

 

しかし、フランスやオランダなどのユーロ圏では労働時間が厳しく定められており、『労働時間を守ることが当たり前』という“文化”が浸透していました」

 

法的な週の労働時間が日本は40時間、オランダは36時間、フランスは35時間。さらにヨーロッパでは、夏と冬に2週間ほど「バカンス」と呼ばれる休暇をとってリフレッシュするのが一般的で、「個人経営の飲食店でさえ、バカンスをとっていることに驚いた」と中園さん。日本よりも労働時間が短く、長い期間しっかりと休暇をとっているにもかかわらず、なぜヨーロッパの国々は日本よりも生産性が高いのでしょうか?

 

「正社員」という考え方がないヨーロッパ

日本ではフルタイムの「正社員」と、パートタイムの「非正規社員」という考え方があり、正社員の方が責任のある仕事を任され、給与や福利厚生も手厚いイメージがあります。対してフランスやオランダでは、フルタイマーでもパートタイマーとの違いは勤務時間の長短のみで、仕事内容にほぼ変わりはなく、社会保障(社会保険や年金)も時間当たりの賃金も同等だそうです。

 

「日本のように正規・非正規社員で給与が決まるのではなく、労働時間で平等に給与が支払われます。例えばオランダの最低賃金は当時9ユーロ(約1,170円)で、完全な時給制度でした。男女にも差がなく、能力に対して給与が支払われます」

 

日本では正社員とパートタイマーの給与を時給換算した場合、通常正社員の方が高くなります。その事実を現地で取材したオランダ人に告げると、日本のそのような常識が理解できない様子だったそうです。

 

また、フランスやオランダでは、労働時間を上司に相談できるのが一般的なのだとか。

「例えば、今まで週36時間働いていた人が、事情次第で週28時間に変更することができます。このような場合、日本だと正社員からパートタイマーに契約形態が変更になることが多く、給与が下がってしまったり、保障がなくなってしまうことがありますが、オランダでは考えられません。労働時間の長短に限らず、すべての人が平等に保障されているのです」

 

さらに、ライフスタイルに合わせて自分の意思で働く時間を自由に決められることも、日本との大きな違いのようです。

 

「日本では止むを得ない理由がないと、労働時間を上司に相談できないイメージがありますよね。しかし、フランスやオランダでは趣味や休暇、勉強、あるいは他に興味がある仕事とダブルワークをしたい、という理由でも労働時間を変更できます。日本のように『制約で囲い込む』のではなく、個人の自由がとても尊重されているようでした」

 

「報告・連絡・相談(ホウレンソウ)」は諸悪の根源!?

なぜ、労働時間の増減に関し、こんなにも柔軟な対応ができるのでしょうか。

 

「フランスやオランダでは、時間単位でするべき業務が明確になっています。時間単位の職務が明らかなので生産性も高い。そして、仮に誰かの仕事を引き継がざるを得ない場合でも、フルタイマーやパートタイマーに関係なく、できる人に任せることができるのです。ここが日本とヨーロッパの国々とで、生産性に差が開く大きな違いだと思いました」

 

たしかに日本では、社員の仕事をパートタイマーに権限委譲することはまれです。この課題について中園さんは、こうも続けます。

 

「日本で問題なのは、すべての人に権限が与えられないことです。日本でよく耳にする『報告・連絡・相談(ホウレンソウ)』が生産性を下げる原因の一つだと思います。なぜなら、仕事に関わる当人にジャッジする権限が与えられていないから。結局は指示・命令でしか動けない人間をつくってしまうのです。また、会議も権限がある人が決定するまで終わらないので、海外に比べて長くて非効率です」

 

また、日本との大きな違いは、働く時間を決めることができる点だといいます。

 

「オランダで聞いたホワイトカラーの働き方です。最初に1年間のざっくりとした職務が決まり、自分でスケジュールを決めて仕事を進めていけます。出社時間はもちろんのこと、長期休暇の取得時期も自分で決められます。上司への月一度の進捗報告は必要ですが、自分の仕事が終われば、基本的にいつ働いてもいいし、いつ休んでもいいのです」

 

残業する人は仕事ができない人

そんなヨーロッパの人々は、日本のビジネスパーソンを見てどう思っているのでしょうか。

 

「聞いたところでは『すべてが信じられない』『夜遅くまで働かされる、残業すること自体があり得ない』『仕事で疲れ切って電車で寝ているなんて……』という声を聞きました」

 

なぜなら、フランスやオランダのビジネスパーソンは、「コンディション」を最も大切にしているからです。もし仕事で夜遅くなった場合でも、次の出社まで11時間のインターバルをあけなくてはいけないルールがあるそうです。

 

「日本では終電で帰宅して、始発で出社する人が頑張っているように見えますよね。しかし、その人はヨーロッパでは『仕事ができない人間』と見なされるのです。与えられた時間内に仕事を終わらせていないのですから。ただ長い時間いればいいというのは、実は楽なことなんです。このように海外と日本では評価の基準が違います」

 

そこでこの評価の基準を、中園さんは「スポーツ」に例えて教えてくれました。

 

「例えばマラソンでは、短い時間にゴールした人が優秀ですよね? また優秀なスポーツ選手は、ただがむしゃらに練習に割く時間を多くするのではなく、時間を決めて効率の良いトレーニングを行います。ヨーロッパのビジネス評価は、この『いかに短時間で生産性を上げるか』という考え方なのです」

 

人生を楽しむために仕事がある

今後、私たち日本人の働き方は、どう変えていくべきなのでしょうか?

 

「まずは、職務を明確にすることです。日本はどのくらいの時間で何をするかが不明確に思えます。ここが問題なのです。次にしっかりとした仕事のスケジュールを立てましょう。職務が明確になれば、月〜金曜のスケジュールがだいたい決まりますよね。

これが決まっていないと、上司から急ぎの仕事を渡されたときに時間管理や優先度が狂い、何からどうすればいいか考えてしまい、結果的に仕事が遅れたりします。スケジュールが決まっていれば、『できません』と断ることができますし、引き受ける代わりに他のタスクを削る交渉もできます」

 

最後に、中園さんは「ヨーロッパの人々を見ていると、人生を本当に楽しんでいるように見えます」と話していました。

 

「オランダでは、街中でお父さんがベビーカーを押す姿を見ました。父親が子育てに協力できる余裕があるのでしょう。ある日、レストランでお父さんたちがたくさんの子どもたちを集めてパーティをしていたんです。実は、それは日々休みなく家事をしている奥さんを休ませてあげるために、お父さんたちが協力し合って開いたパーティだったのです。すてきですよね」

 

日本とはまるで違うヨーロッパの労働環境と価値観。仕事のための人生ではなく、人生のための仕事。そうヨーロッパの人々が教えてくれているようでした。

 

参考サイト
労働生産性の国際比較2016年版

 

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識者プロフィール

中園徹(なかぞの・とおる)
ピープル・ビジネス・スクール代表 株式会社タオ 代表取締役
1962年福岡県生まれ。大学卒業後オンワード樫山に勤務。1994年タオ整骨院開業。自らが体験した体育会系の経営を実践するが、人材の流失などさまざまなマネジメントの問題で壁に突き当たること多数。打開策を求めるうちに、林俊範の「ピープル・ビジネス・スクール」に出合う。マクドナルド創業者レイ・クロックの考え方がベースとなる経営の仕組みを学ぶため林俊範に11年間師事する。林氏亡き後は、ピープルビジネスの伝道者としてパート・アルバイトを超短期に育成し、戦力化する仕組みを中小企業の経営者に伝えている。
【著書】『世界最強チェーンを作った レイ・クロック5つの教え』日本能率協会マネジメントセンター刊