「退職が決まって次の企業にすぐ勤めないといけないけど、有休がまだ残っている」

そんなとき、会社に有給休暇の買い取りはしてもらえるのでしょうか? それとも有給休暇自体がなくなってしまうのでしょうか?

 

転職が決まってから損をしないように、有休の買い取りについてのルールや定義、退職の際の有休の取得方法など、社員の視点から知っておくべきことについて、社労士の榊裕葵さんに教えていただきました。

 

年次有給休暇買い取りの基本概念

労働基準法は、原則として有給休暇を会社が買い取ることを認めていません。

これは、有給休暇は社員が仕事から離れて心身を休めたり、ゆとりある生活を実現することを目的とした制度であるため、会社が金銭でその権利を奪うことはできないと考えられているからです。

 

そのため、有給休暇を会社が強制的に買い取り、社員が希望したにもかかわらず有給休暇を与えなかった場合は、「6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金」という罰則も定められています。有給休暇を与えないということは、刑事罰に値する行為であると法的には考えられているのです。

 

退職するとき、有給休暇の買い取りはできる?

その一方で、退職することが決まり、退職日も確定している社員に関しては、例外的な扱いとして、退職日までに使い切れない日数分の有給休暇を会社が買い取ることが可能になります。

 

ただし、買い取りが認められるのは、本人が買い取りを希望する場合に限られるということをしっかり覚えておきましょう。本人が退職日までの有休消化を希望しているにもかかわらず、本人の意思に反して「有休を買い上げるので、退職日まで勤務してください」と会社側から命じることは、たとえ退職時であっても違法です。

 

命令ではなく「有休を買い取るから、退職日まで勤務してもらえないだろうか?」と会社側から提案された場合は、本人がすでに有休消化する意思を固めた後のタイミングであれば違法になる可能性がありますが、まだ本人がどうするか決める前であれば合法になります。

 

もちろん、会社からの提案を受け入れるかどうかは本人次第ですので、有休消化を望む場合は、「NO」と返事をしましょう。あるいは、折衷案として「退職日を後ろ倒しして、会社が希望する日まで勤務した後に有休消化する」という落としどころも考えられるかもしれません。

 

もう1つ覚えておいていただきたいことは、逆に、社員側から有休買い取りを請求しても、就業規則の定め等の根拠がない場合、会社は買い取りに応じる義務はないということ。社員が「退職日まで働きますから、有給休暇を買い取ってください」と要求しても、会社が拒否したら買い取りは行われません。その場合は、買い取ってもらうことは諦めて有休を消化するか、自分の意思で退職日まで出勤する場合は、残った有給休暇は「未消化」になります。

 

退職時以外に買い取りが可能なケースとは

退職時以外で有給休暇の買い取りが可能となるケースは2つあります。

 

1つ目は、法定以上の日数の有給休暇が与えられているケース

労働基準法では、所定労働日数の8割以上勤務したことを条件に勤続6カ月で10日、勤続1年6カ月で11日、といったように、勤続年数に応じた日数の有給休暇を与えることを使用者に義務付けています。

しかし、労働基準法で定められた付与日数はあくまでも「下限」なので、福利厚生の充実している大企業などでは、就業規則や労働協約の定めに基づき、法定を超える日数の有給休暇を独自に付与している場合があります。

 

このような場合は独自に付与している部分の日数については買い取りが可能となります。ただし、買い取りを可能とするためには、会社と本人で買い取りの合意が成立するか、あるいは、あらかじめ就業規則や労働協約に「法定を超えて付与された日数分の有給休暇は、会社の判断により買い取る場合がある」というような定めがなされていることが必要です。

 

2つ目は、すでに時効消滅した有給休暇を会社が買い取るケース

有給休暇は発生した日から2年を経過すると時効消滅します。時効消滅した有給休暇は、もはや行使することができません。しかしそのような有給休暇を、会社が任意で恩恵的に買い取ることは可能です。

 

社員が業務多忙や人員不足といった社内の「空気」を読んで、会社に「協力」して有給休暇を取得してこなかったため有給休暇が時効消滅にかかるような場合は、会社と交渉して有給休暇の買い取りを認めてもらう余地があるかもしれません。

 

有給休暇買い取りについて実際にあったトラブルと対策方法

有給休暇の買い取りに関するトラブルや対策の事例を3つ紹介しましょう。

 

1、退職時に会社から「有休を買い取るから退職日まで出勤しなさい」と命令される場合

すでに説明したように、退職時であっても会社からの一方的な有給買い取りは認められないため、社員には「有休を消化して出勤しない」権利があります。ただし、会社としても引き継ぎや代替要員が確保できるまで助けてほしいという場合もあるので、そのようなときは、無理はせず可能な範囲で会社に協力してあげることが円満退職につながることでしょう。

 

有休を消化するのか買い取りを希望するのか、早い段階で会社に伝えてスケジュール調整をすることがトラブル防止に役立ちます。

 

2、有給休暇を買い取る場合の単価に関するトラブル

有給休暇を取得する場合、その日に通常勤務をした賃金を支払うなど、有給休暇の単価に関するルールが定められています。ところが、有給休暇の買い取りは法律上の制度ではないので、買い取り単価に関するルールが存在しません。

そのため買い取り単価は、「会社と本人との合意により決まる」ことになります。通常勤務をした場合の賃金に準ずる額で買い取るのが社会通念上は一般的ですが、会社が極端に低い単価でしか買い取ってくれないというトラブルが発生することがあります。

 

このような場合は、買い取り価格について会社と再交渉をするか、それが難しい場合は、買い取ってもらうことを諦めて、退職日まで有休消化をする形に切り替えるほうが賢明かもしれません。

ただ、会社との買い取り交渉がまとまらないまま退職日が迫ってきたら、「有休を二束三文で買い取ってもらうか、消化できないまま退職日を迎えるか」の二択になってしまいますので、有給休暇の買い取り交渉は退職日から時間的な余裕のあるうちに開始しましょう。

 

3、これまで退職した社員は有給休暇の買い取りが行われていたのに、自分は買い取ってもらえないというトラブル

就業規則を読み、「勤続○年以上の場合は退職時の有給休暇を買い取る」と客観的な条件が書かれているのに、自分が当てはまっていなかったということならば買い取ってもらえないのはやむを得ません。

 

しかし、就業規則で定められた条件に該当しているのに買い取りを拒否されたり、あるいは、就業規則に特段の定めはないものの、労使慣習でこれまでの退職者は買い取ってもらえていたのに自分だけは拒否されたというような場合は不当な理由になりますので、買い取りをしてもらえるよう会社と交渉しましょう。

 

それでも会社が買い取りを認めてくれない場合は、労働基準監督署に相談して会社を指導してもらうか、退職日までの有休消化に切り替えるという判断も一手でしょう。

 

<まとめ>

有給休暇の買い取りは法律上定められた制度ではないため、会社との調整や交渉が必要になる場合も少なくありません。

有休を買い取ってもらったり、しっかり消化して気持ちよく退職するためには、正しい法律知識を持ち、また余裕を持ったスケジュールで退職の段取りを進めていきましょう。

 

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識者プロフィール

榊裕葵(さかき・ゆうき)ポライト社会保険労務士法人 マネージング・パートナー
上場企業経営企画室出身の社会保険労務士として、労働トラブルの発生を予防できる労務管理体制の構築や、従業員のモチベーションアップの支援に力を入れている。また、「シェアーズカフェ・オンライン」に執筆者として参加し、労働問題や年金問題に関し、積極的に情報発信を行っている。