学生時代を振り返ると、一番情熱を傾けていたのは部活だったという方は多いのではないでしょうか。

 

最近では仕事から離れて好きなことに取り組めるように、社内外の部活やサークルを推奨する企業も多くなりました。そんな中、部活から本格的な事業へと大躍進を遂げたある部活動があります。

 

それが、通販会社フェリシモの社内部活制度から誕生した「フェリシモ猫部」。数名の猫好きな社員が集まり、猫グッズの販売や基金を通じて猫への支援活動を行っている「猫部」のTwitterフォロワーは現在50,000人以上。その反響から、5年にわたる部活動の期間を経て2016年に事業化し、部活から部署になりました。

 

自分が本当に好きなことに業務時間を使って仲間と取り組めるというフェリシモの部活制度はなぜ生まれ、また部員数名の猫部が「猫好きなら誰もが知っている」といわれるまでに成長することができたのでしょうか。猫部を発足し、部長を務める松本竜平さんに、猫部誕生の経緯から活動内容、活動への思いを伺いました。

「なんだか学生だったころのほうが、好きなことに一生懸命だったかも」そんな方にこそ読んでいただきたいストーリーです。

 

会社公認! 業務時間に好きなことに打ち込める、社内部活制度

かわいくてユニーク、しかも便利な猫グッズの数々を取り扱う通販サイト「フェリシモ猫部」。この猫部は生活雑貨などを幅広く扱うカタログ通販の会社「フェリシモ」から立ち上がりました。その名が表すように、猫部は社内部活として2010年に発足したのが始まりです。

 

「フェリシモの社内部活とは、好きなことや意欲を持って取り組めることを持っていたら、手を挙げて部活を作っても良いという制度のことです。部活制度誕生の背景には、業務には関係なくても好きという気持ちや熱意からいい商品やサービスが生まれる可能性を育もう、という意図があります。

 

どんなことでも部活にして良いのですが、将来的に事業化できる可能性を持っていることが条件。2010年にこの制度ができた当時は、女子DIY部など10くらいの部活が生まれました。猫部も当初からの部活の一つです」(猫部部長・松本竜平さん、以下同)

 

猫部部長・松本竜平さん

 

社内部活の活動時間は毎週水曜日の午前中。部活への参加は社員の自由で、2017年の時点では2割ほどの社員が部活に所属しているそう。猫部は5年の部活期間を経て、2016年に正式な事業化を遂げました。それに伴って松本さんも猫部の部長から、部署のリーダーという肩書きに。

 

「今でこそ猫部が本業になりましたが、それまでは水曜の午前中に、部活として活動していました。僕もその時はWEBの担当で、自社サイトの運営などの業務と並行して猫部部長として活動していたんです」

 

細部にまで猫愛がギュッ! 新入社員やユーザーがヒット商品を生む!?

では、気になる猫部の活動内容とは?

 

「“猫愛”があるグッズを作ることです。今は猫ブームですが、とりあえず猫柄にしておこう!としてしまうと、猫好きの方が見れば分かってしまうので、そこはこだわりを持って制作しています。例えば、猫独自のモフモフ感がきちんと表現できているか、このモデルの猫だったらこういうポーズが一番かわいい、とか」

 

ポチ袋

 

「この『ポチ袋』はかわいいけれど大人も持ち歩けるデザイン。どの袋に描かれた猫も異なる表情で、その子らしさが出るようなイラストにしました。22(にゃんにゃん)枚セットという細かなこだわりもあるんですよ」

 

部活なので好きなことをしてもいい。部活なので上司はいないし、好きなことを発言できる。新入社員から大ベテランまでフラットな立場で話ができる環境のため、若手のアイデアが形になることも多いようです。

 

「猫部の商品で大ヒットとなった『ノートで遊ぶ猫ふせん』は、猫部の新入社員の企画なんです。棚や曲がり角などの物かげから猫がじぃっ…とこちらを覗いている姿って独特の愛らしさがありますよね。そんなふう風に、『ノートから猫が覗いていたらかわいいのでは?』というアイデアを部員が思いつき、実現に至りました」

 

ノートで遊ぶ猫ふせん
猫部ユーザーと作り上げたヒット商品。気がつくと微妙な距離でじっと見つめてくる「見てたの!?」体験ができそう。

 

「ふせんにプリントした写真はすべてお客さまから募集したものです。『猫ちゃんの写真を送ってください』とTwitterやFacebookで募集したら、初回は2,422枚、第2弾では3,758枚の応募がありました。じっくり一つひとつ見ながら採用したんです」

 

猫部の部員とファンであるユーザーの猫愛がギュッと詰まった商品の数々。企業とユーザーが一緒になってそれぞれが納得できるモノを作り上げていく理想的な関係が、部活の枠組みならば気軽に作れてしまうことには驚きです。

 

「ストレートにSNSでお客さまにどんなグッズが欲しいかを聞くこともありますね。そうすると猫を飼っている方ならではのエッジの効いたアイデアが届くんです。猫と暮らしていると猫パンチを浴びて引っかき傷が増えてしまうから、かわいい絆創膏が欲しい!とか。そんな声から生まれたのがこの『にゃんそうこう』です」

 

にゃんそうこう
かわいい猫が「私がやりました!」とお茶目に描かれている。これなら説明しなくても「猫ちゃんのせいね」と伝わる?

 

猫好きはSNS好き!? 絶妙なマッチングが会社の課題を解決

猫部はサイトやTwitterでも、ユーザーと日々活発な交流を重ねています。また猫部運営のSNS「猫部トーク」が7月に登場するなど、ますます濃いコミュニケーションを大切にするフェリシモ猫部は、ユーザーとの交流の中で何を見いだしているのでしょうか。

 

「SNSが広まり、売り手と買い手の関係が今までとは大きく変わってきているように感じています。部署になったとはいえ、猫部はあくまで部活なので、みんなで一緒にやろうというスタンス。隣の席の人に話しかけるようにSNSで言葉を投げかけてみる、そうすれば意外にも気軽に答えてくれる。このように同じ目線に立ち、お客さまも企画にご参加いただきながら楽しんでもらっています。

 

猫グッズ
猫好きは肉球が好きだから、その質感と香りを楽しめるグッズを…という発想から誕生したハンドクリーム(写真左下)。
SNSを通じて集まった「うちの子の肉球の香り」報告を参考に、ポップコーンのような甘い香りで再現。

 

以前、商品へのご意見を伺ったら『耳の角度が本物っぽくないのでこのままじゃダメです!』と厳しいコメントをもらったこともあります(笑)。お客さまがそういう目で商品を見てくれているので、ありがたいですよね」

 

カタログ通販を50年以上続けてきたフェリシモ。あるシリーズの商品を毎月届けて、ユーザーとコンスタントにお付き合いしていくというスタイルを確立してきました。商品を届けた後にアンケートに答えてもらい、それを次の商品作りに活かしていく…というスタンスでしたが、そこにはある課題があったそうです。

 

「まだフェリシモそのものを知らない方と、どうやってコミュニケーションとるかが私たちの悩みでもあったんです。フェリシモという大きなくくりだけではアプローチをかける幅が広すぎますが、それが猫になると、自然と猫好きさんに向けたものに絞られます。

 

また、猫好きの方にはSNSも好きな方が多いんですよ。自分の猫ちゃんのかわいい写真や動画が撮れると、誰かに共有したくなるじゃないですか。そういう点で猫部とSNSとの相性はぴったり合っているので、これほど気さくで深いコミュニケーションがとれるようになったと思うんです」

 

“猫好きはSNS好き”を証明するかのように、猫部のTwitterアカウントのフォロワーは、現在なんと54,000人以上。これはフェリシモの公式アカウントのフォロワーを上回る数字なんだそう。猫部からフェリシモを知るお客さまもいるそうで、会社にとっても猫部は会社とユーザーをつなぐ大切な玄関といえそうです。

 

動物がしあわせに暮らせる社会へ。企業風土が生んだ猫部の姿勢

部活として発足した猫部の活動は時が経つにつれ大きくなり、2016年には部署に至るまでになりました。猫部がここまでの反響を得たのは「グッズがかわいいから」という理由だけでなく、猫部が掲げる大きな目標が関係しています。

 

「僕は猫が好きなので、仕事を通じて猫や動物の殺処分をなくしたいという思いでつくったのが猫部なんです。支援活動を継続するには、長期にわたって売り上げを立てられることが必要だと考えました。そこで、作った猫グッズに基金を付けることにしたんです」

 

従来、フェリシモの商品には販売価格の数パーセントを災害の復興支援などさまざまな目的に充てられる基金付き商品があります。同じく猫部の商品には猫の保護などに充てられる「フェリシモの猫基金」が付いています。つまりユーザーはお買い物をすることで、動物を助ける活動に参加できるということ。

 

「やむなく処分されてしまう猫のために何かしてあげたいけれども、何をすればいいか分からない、っていうこともありますよね。そこでお気に入りの猫グッズを買うことが猫を救う支援につながる。部活を通じて、支援に参加しやすい形づくりができたのではないでしょうか。こうやって仕組みをつくるのは、ビジネスの基本的な役割かなと考えています」

 

日本では現在、年間で6.7万頭もの猫と、1.6万頭もの犬が処分されているそうです(2017年3月時点)。猫部では売り上げによる基金を全国約60の支援団体に送っており、その額は年間4000万円にものぼるそう。また猫の譲渡会を開催したり、「人と猫との共生に関する条例」を掲げる神戸市と提携して、ふるさと納税の返礼品として猫部のグッズを提供したりといった活動をしています。松本さんをはじめとする猫部の活動が、行政を巻き込むにまで至っているのです。

 

猫グッズ

 

「以前、値ごろ感がなくなってしまうという理由で、ある商品の基金を普段の3%から1%に引き下げたことがあったんです。お客さまの手にとってもらいやすくしたいという思いからだったのですが、逆にお客さまにお叱りをいただいて。その時、お客さまはグッズそのもの以外に猫部の活動に価値を見いだして、猫部のやり方に共感してくださっているのだ、と気がついたんです」

 

柔軟な工夫で社会に貢献する仕組みをつくる。これにはフェリシモの企業風土が関係していました。

 

「フェリシモでは永続的、発展的な活動を支える『事業性』、オリジナリティーを追求する『独創性』、人や社会への貢献を追求する『社会性』の3つの企業理念を掲げています。この3つの分野が交わる事業活動を目指すのが私たちの仕事への取り組み方。猫部も他の部活も、これにのっとった活動を自然としているんですよ」

 

この企業理念が企業全体に浸透し実践されてきたからこそ、部員数わずか6名の猫部がここまで大きくなってきたのかもしれません。

 

「立ち上げ当初はここまで大きくなるイメージはもっていなかったのですが…部活として5年、部署になってからは2年。この7年の間は本当にやりたいことをして、なおかつ社会的に意味のあることができているという思いもあります。お客さまからも評価をいただけて、猫部はいいことずくめです」

 

「好きだから」はいつだって原点

最後に、猫部の活動によって今後どんなことを伝えていきたいか松本さんに伺いました。

 

「たくさんの猫が殺処分されている現実って、実はまだそんなに知られていないことかもしれません。まず、多くの人にその現状を知ってもらえることを目指していきたいですね。僕らは殺処分がなくなる日まで、活動を継続していかないといけないと思っています。現にゼロになっている地域も少しずつ出てきましたし、絶対に不可能なことではないはずです」

 

企業の理念を大切に、たくさんのユーザーから支持される規模に成長を遂げた猫部の出発点は、松本さんをはじめとする「猫が好きだから」という気持ち。好きだから目標を持って一生懸命に取り組めるという、誰しもが経験したことのある部活ならではの姿を猫部に見ることができました。

 

仕事は仕事である以上、必ずしもやりたい業務につけるとは限らないもの。そんなフラストレーションを抱えている20代の方も多いかもしれません。それでも情熱を傾けられるものがあるのならば、ぜひその気持ちは大切にしてみてださい。

「好きだから」という姿勢をいつもひとつ持ち続けるだけで、どんなときも自分自身の原点を振り返ることができるはず。そして、キャリアの選択をするときにも、その経験が必ず皆さんを前向きな方向へと導いてくれることでしょう。

(取材・文:東京通信社)

 

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識者プロフィール

フェリシモ猫部
株式会社フェリシモの「部活動」として2010年に結成した猫好き集団。「猫の肉球の香りハンドクリーム」などユニークな商品を企画・開発している。「猫と人とがともにしあわせに暮らせる社会」を目指して、商品はすべて基金付きで販売。飼い主のいない動物の保護と里親探し活動、野良猫の過剰繁殖防止活動などに運用される。2017年からは、お買い物をすると自動的に寄付される「フェリシモ猫部VISAカード」を発行するなど、活動の幅を広げている。WEBサイトでは猫漫画や猫エッセイの連載、猫専門SNS「猫部トーク」など猫好き必見のコンテンツが満載。
http://www.nekobu.com/

 

松本竜平(まつもと・りゅうへい)
京都大学総合人間学部卒業後、株式会社フェリシモに入社。2010年WEB担当業務の傍ら、フェリシモ猫部を設立。現在、猫部、YOU+MORE!、ファミリー雑貨の3ブランドのリーダーを兼務。