会社に就職してから年金や健康保険など全てが会社任せだった人は、転職や退職の際に降りかかる多くの手続きに少し戸惑うことがあるかもしれません。保険や税金の納付に申請書の提出…。やや面倒くさいと思うかもしれませんが、あなたの生活にどれも欠かせない大事なものです。

 

そこで今回は、マオ社労士事務所所長の秋山忠夫さんに、転職・退職にあたり知っておくべき諸届けに関する知識を教えていただきました。

 

確認しよう! 受け取るもの・返却するものリスト

退職が決まった場合、まず上司への報告や業務の引き継ぎなどがありますが、並行して書類等の手続きも必要になってきます。

会社を退職する日までには、以下のように会社から受け取るものと返却するものがあります。会社により異なることもありますので、詳細は人事担当者に確認しましょう。

 

<受け取るもの>

●年金手帳 ※1

●雇用保険被保険者証 ※1

●厚生年金基金加入員証 ※1

●健康保険被保険者資格喪失証明書 ※2

●退職証明書

●離職票

●源泉徴収票

 

<返却するもの>

●健康保険証

●会社の身分証明書

●制服、作業服

●名刺(会社との取引先で取得した相手の名刺も含む)

●会社から貸与されていた事務用品、PC、携帯電話など

※1会社で保管してもらっていた場合のみ。

※2退職後、日にちをおかず転職する場合は不要。

 

住民税の支払い

税金の多くは会社から支払われる給与から引かれている場合がほとんどですが、住民税もその一つに該当します。では、退職後の住民税はどうなるのでしょうか。

 

「まず、給与明細を確認してみましょう。住民税が毎月の給与から天引きされていることが分かるはず。これを特別徴収といいますが、会社を退職・転職すると(正確には給与支給がなくなると)、その会社から特別徴収はできなくなります。

この場合、残りの住民税については、3つの方法のいずれかを選択することができます」(秋山忠夫さん、以下同じ)

 

【その1】最後の給与で残りの住民税を一括天引きしてもらう

会社を辞めることが決まったら人事部など会社の給与担当者に相談して、退職月の給与で残りの住民税を一括天引きしてもらいます。

 

住民税は、特別徴収(会社からの天引き)の場合、前年度の収入額に基づいて、翌年度の6月から翌々年度の5月までを分割で徴収されます。そのため、退職する月によって残りの住民税が異なってきます。

たとえば、4月退職だと4月分と5月分を合わせて天引き、3月退職なら3月分、4月分、5月分を合わせて天引きとなります。6月退職だと1年分の住民税を一括納付することになりますので、よく考慮したうえで判断しましょう。

 

【その2】次の会社で特別徴収してもらう

退職後すでに次の転職先が決まっていれば、次に入社する会社で特別徴収を継続してもらうことができます。

ただし退職から入社までに1カ月以上の間が開く場合は、退職する会社でその分の住民税を天引きしてもらう【その1】を選択するか、または普通徴収として納付する【その3】の必要があります。

 

【その3】普通徴収で納付する

退職する際に給与担当者に残りの住民税は自分で納付する旨を伝えれば、特別徴収から普通徴収に切り替えてくれます。

会社が切り替えの手続きをしてくれますので自分では特に何もすることはありません。後日、市区町村役場から住民税の納付書が送られてきますので、期日までに銀行・郵便局などで納付することになります。

 

退職時、給与の控除はどうなる?

意外と見落としがちな最後の給与支払いについてですが、給与は退職日当日に清算されて振り込まれるわけではなく、いつもと同じ給料日に振り込まれることになります。そこで気になるのは控除される金額。

前述の住民税を除いた、それ以外の控除について秋山さんに教えていただきました。

 

「所得税の源泉徴収は給与の金額に応じて徴収されます。雇用保険も同様です。

 

残る社会保険料(厚生年金+健康保険)の計算が最も厄介といえるでしょう。社会保険料は当月分を翌月に徴収するシステムであるため、『末日退職の場合は社会保険料が2カ月分天引き』され、『末日より前の日に退職する場合は1カ月分天引き』されます。

しかし、退職すると給与の発生しない翌月分から徴収することができなくなるため、2カ月分が天引きされることになるのです。したがって、この2カ月分とは先月分と今月分です。『今月分+来月分』ではないので注意してください。

 

末日より前の日に退職したほうが1カ月分天引きされずにすむから得だと思う人もいるかもしれませんが、これは大きな間違い。退職月の1日から退職日までの社会保険料が未納という状態になり、『無保険状態』となってしまいます。ですので、当月中に次の会社に転職する場合は問題ありませんが、翌月以降となる場合は注意が必要です。

 

しかし、その場合は退職後も在職中の健康保険に継続して加入することができます。あなたが2カ月以上、その健康保険に加入していれば最大で2年間継続で加入することができる制度です。お住まいの地域を管轄する協会けんぽの各支部に、任意継続被保険者資格取得申出書、住民票を持参して手続きしてください。必要となる保険料の金額を窓口で算出してもらえますよ」

 

以前の会社で確定拠出個人年金制度401kに加入していた場合

それでは、退職する会社で確定拠出個人年金制度の401kに加入していた場合はどうなるのでしょうか。

 

「個人型年金の加入者が転職した場合、転職先の会社が企業型年金を実施していれば年金資産をその制度に移換して、企業型年金の加入者として確定拠出年金制度を継続していくことになりますし、転職先が企業型年金を実施していない場合は、引き続き、個人型年金加入者として継続していくことになります。また、転職先で企業型年金を実施していて、同時に個人型年金の加入者となることができる場合は、企業型年金に資産を移換するか否かを選択することができます。

転職先で企業型年金への転換は転職先の会社の総務部などが手続きしてくれるはず。問題は転職先が企業型年金を実施していない場合ですが、この場合、iDeCo(個人型の確定拠出年金)への切り替え手続きをする必要があります」

 

その場合、以下の2つの選択肢があるそう。

 

⑴ 個人型の確定拠出年金=iDeCoに切り替えて積み立てを続ける

⑵ 積み立てをやめて運用だけを続ける

 

「どちらの選択肢を選んでも、6カ月以内にiDeCoの口座を開設して移換手続きをしなければなりません。移換時は手数料が発生しますが、放置してしまうとさらに多額の手数料が発生してしまうので忘れずに手続きしましょう。



 

手続きの内容は、今まで企業で加入していた金融機関内の個人型で良いのなら、退職の際に移換に必要な書類やガイドブックを渡されるので、その中に入っている個人別管理資産移換依頼書を自分で記入してポストに投函するだけです。

新たな金融機関の個人型を選択する場合は、その金融機関の窓口に行くか電話で資料を請求し、手引きやパンフレットに従って手続きを進めましょう」

 

銀行やカード会社の手続き

銀行やカード会社とローン契約を結んでいる場合、その「取引規定」には、表現方法は多少異なっても、必ずおおむね次のような「規定」が存在するもの。退職時にはこの「規定」を確認することも重要なポイントになるようです。

 

まずは規定の中に以下のような文章がないかを確認してみてください。

 

第〇○条(届出事項の変更)

1.お客さまは、氏名、住所、電話番号、勤務先等その他当社に届け出た事項に変更があったときは、直ちに当社所定の方法で届け出します。この届出前に生じた損害について当社は責任を負いません。

2.お客さまが前項の届出を怠ったため、当社がお客さまから最後に届出のあった氏名、住所に宛てて通知または送付書類を発送した場合には、延着またはお客さまに到達しなかったときでも通常到達すべき時に到達したものとします。

 

「上記のように退職・転職の際には、所定の方法での届け出が必要です。ネットで申請できる場合や書類のみ受け付ける場合など会社によって異なりますので、あなたの契約している銀行やカード会社に確認してください。

 

限度額は就職先の会社の規模や信用度、勤続年数によって変化する場合もありますので、退職・転職によって、限度額が変更される場合もあります。なお、銀行に通帳を作っているだけの人、銀行やカード会社でカードローン契約等を一切していないという人は、これらの届け出は不要です」

 

職場に負担をかけずに退職の準備をしよう

最後に、転職・退職は手続きだけではなく、それ以前の引き継ぎや準備期間が最も重要であると秋山さんはアドバイスをします。

 

「『立つ鳥跡を濁さず』ということわざがありますが、これまで会社にお世話になったわけですから、辞めるときもできるだけ円満に辞めることが大切です。

退職日は引き継ぎに必要な期間を考慮して、上司と相談のうえ決定するのが原則。有休消化をする場合は、職場に負担がかからないように調整しましょう。

退職日が確定したら、引き継ぎやあいさつ回りのスケジュールを立てて行動し、退職日には、上司や同僚へのこれまでの感謝のあいさつを忘れないようにしましょう」

 

手続きだけではなく、最後まで感謝の気持ちを持ちながら引き継ぎを終えることが何よりも大事なこと。会社を辞めるときはどんな手続きが必要なのか。対応を怠ることでどんな問題が起こるのか。退職後に「しまった!」「忘れていた!」ということがないよう、しっかりとした知識を身につけて抜けや漏れがないように退職の手続きを進めましょう。

 

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識者プロフィール

秋山忠夫(あきやま・ただお)
マオ社労士事務所(個人情報保護事務所認定)所長、ホワイト企業化推進コンソーシアム研究会副会長、非営利社団法人安全衛生優良企業マーク推進機構顧問
文具・事務機器メーカー勤務を経て、社会保険労務士・第一種衛生管理者・ファイナンシャルプランナー・年金アドバイザー資格を取得し、独立開業。
中小企業向けの長時間労働是正、働き方改革のコンサルティングを中心に活動。年に40回以上の講演会、セミナーを精力的にこなしている。2017年度は厚労省事業の介護プランナーにも任命され、東日本各地で仕事と介護の両立支援を行っている。ちなみに、事務所名の「マオ」は愛猫の名前から命名。
マオ社労士事務所HP:http://www.sr-mao.jp/