毎月、給与明細をきっちりチェックしている方は、2017年10月の給与明細を見て「社会保険料の控除額が変わっている!」と、気がついたかもしれません。20代のビジネスパーソンにとっては、このようなお給料の増減は少額であっても気になるところではないでしょうか。

 

実は先ほど挙げた社会保険料は「標準報酬月額(※)」に対して各種保険料率が乗じられて決まるもの。その仕組みを知れば、10月の給与明細が変化した理由が分かります。

そこで今回は10月の給与から社会保険料が変更になる仕組みや、今後知っておくべき給料明細着眼ポイントについて、社労士の榊裕葵さんに教えていただきました。

 

※標準報酬月額:給与の総支給額(額面)を一定のルールに基づいてレンジで区切り、社会保険料の計算の基礎としたもの

 

実は年々変更されていた? 控除による手取り額の変化

※この記事内では「社会保険」を、「厚生年金」と「健康保険」を合わせた総称として用いております。あらかじめご認識ください。

 

社会保険 労働保険(参考)
厚生年金 健康保険 労災保険 雇用保険

 

残業代や歩合給など、給与額には月々多少の増減があるものですが、社会保険に加入している会社員の場合、9月と10月の総支給額が「ピッタリ同じ」であったとしても手取り額が変化しています。その理由とは、給与明細の「控除」欄に記載されている社会保険料の控除額の、以下2点の変化によるものです。

 

1.「定時決定の適用」

「定時決定」とは毎年4月、5月、6月の給与の総支給額の平均に基づいて、新しい標準報酬月額を決め、9月分の保険料からその新標準報酬月額を適用するという社会保険料の計算ルール。

最初の標準報酬月額は入社時の雇用契約書等に基づいて見込みで決定されますが、入社後は昇給や手当、残業の増減があったり、総支給額はさまざまな理由で変動し、入社時の標準報酬月額と乖離(かいり)していくことが一般的です。

 

そこで、毎年1回「定時決定」によって標準報酬月額の見直しを行い、実際の総支給額と負担すべき社会保険料の額のバランスを適正化しているのです。

定時決定により決められた新しい標準報酬は9月度から適用されますが、社会保険料は1カ月遅れで控除されるため、給与明細に影響が出るのは10月支給分からになります。

 

2.「厚生年金保険料率のアップ」

入社後から1年間、総支給額に全く変化がなかった場合、前述の定時決定を経ても新しい標準報酬月額は入社時の標準報酬月額とイコールになるため負担する社会保険料は変化せず、手取りも変わらないはずですよね。

ところが、そのような人でも手取りが変化してしまうのは、この2つ目の理由である、厚生年金保険料率のアップが影響しているからです。

 

キャリアコンパス読者の皆さんもご存じかもしれませんが、少子高齢化の影響で日本国内の年金財政は年々厳しくなっています。そこで、保険料の徴収を増やすため、国は厚生年金保険料の保険料率を年々引き上げてきました。

 

具体的な引き上げの推移については次の表をご覧ください。なお、下表の保険料率は労使合計の率ですので、実際に給与から天引きされる厚生年金保険料は「標準報酬月額×下記保険料率×2分の1」の額となります。

保険料率

 

この表によると、平成16年に13.9%だったのが平成29年9月には18.3%まで引き上げられていることが分かります。10年以上かけて、厚生年金の保険料率は5%近くも引き上げられているということです。

毎年9月の社会保険料の計算から引き上げ後の新保険料が適用されますが、実際に天引きされる厚生年金保険料の額が変わるのは10月分の給与明細から。これは先ほど説明しましたように保険料の給与からの天引きは、翌月控除というルールがあるためです。

 

なお、厚生年金保険料の引き上げは、今年度で一段落ということになっているため、法改正などが行われない限り、来年度以降は保険料率のアップの影響による手取り額の変化はありません。

 

社会保険料の見直しは、9月以外にも行われてる!

実は社会保険料の見直しが行われるのは10月だけではないのです。

 

厚生年金の保険料率が毎年9月に見直されてきたのと同様、健康保険の保険料率も毎年3月(4月給与天引き分)に行われることが一般的です。しかし、健康保険組合に加入している会社の場合は各健康保険組合の判断となりますので、この限りではありません。

 

また、標準報酬月額の見直しは、先ほど説明をした「定時決定」に基づくことが原則ですが、年の途中で大きく基本給が変動したり、新しい手当が付いてその手当額が大きかったりすると、「随時改定」という要件に該当し、年の途中であっても臨時に標準報酬月額が改訂されるケースも。

 

このように社会保険料の決定は、非常に複雑なルールに基づいて行われていますので、一般のビジネスパーソンがその額が正しいかどうかを判断することは困難なことだったりします。

もし、自分の給与から控除されている社会保険料が正しいかどうか不安であったり、明らかにおかしいと感じるようなことがあれば、まずは社内で給与計算を担当している部署に確認をしてみてください。

それでも納得がいく答えが得られなかった場合は、直近1年分くらいの給与明細を持って、年金事務所や「街角の年金相談センター」に相談してみましょう。

 

給与明細は変化点に気づくことが大事

社会保険料の決定のルールは非常に複雑ですし、給与計算は想像以上に大変な作業でもあるため、“給与明細が正しいかどうか”に関しては、専門家でなければ検証が困難です。

 

それを踏まえた上で、「変化点の確認」をぜひ心がけてみてください。

「変化点の確認」とは、前月の給与明細と当月の給与明細を見比べる癖をつけ、控除されている社会保険料の額が前月と変わっていたり、「残業代÷残業時間数」を計算してみて1時間あたりの残業単価が前月と変わっていたりしていた場合、「なぜ変わっているのだろう」と考えてみること。

 

自分で考えてみて理由が分かればそれで良いのですが、分からない場合は会社の給与計算を担当している部署に確認をしてみるといいでしょう。

 

まとめ

給与明細は自分が働いた成果が反映されたもの。そして給与明細は手取り支給額だけではなく、控除項目や控除金額に目を向けてみることで社会の仕組みを理解することにもつながります。

10月の給与明細は社会保険に加入している全ての人に変化点の影響があるので、ここを起点に毎月、セルフチェックや変化点管理を始めてみてもいいかもしれませんね。

 

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識者プロフィール

榊裕葵(さかき・ゆうき)ポライト社会保険労務士法人 マネージング・パートナー
上場企業経営企画室出身の社会保険労務士として、労働トラブルの発生を予防できる労務管理体制の構築や、従業員のモチベーションアップの支援に力を入れている。また、「シェアーズカフェ・オンライン」に執筆者として参加し、労働問題や年金問題に関し、積極的に情報発信を行っている。