新卒で入社した方であれば、社会人としての礼儀作法やビジネスマナーを学ぶための社内研修を受けた、という人も多いはず。

企業内では社会で役に立つマナーをはじめ、社員一人ひとりのスキルを伸ばすためにさまざまな研修が行われていますが、中には会社を飛び出しなんと「無人島」で研修を行う企業もあるようです。無人島で研修とは、一体何が行われているのでしょうか…?

 

そこで実際に毎年、無人島研修を実施している日清食品ホールディングス(以下、日清食品)と、無人島研修などを行うワークショップリゾートの代表でタレントの清水国明さんに、それぞれ無人島研修の具体的な内容と、研修によって得られる効果についてお話を伺いました。

 

「チキンラーメン」片手に、2泊3日のサバイバル

日清食品では主に新任管理職を対象に、無人島研修に山修行、被災地ボランティアなどといった、さまざまな研修を実施しています。こうしたアウトドア研修は2003年度から始まり、2017年で15回目になるのだとか。今年度は「無人島サバイバル研修」として9月28日~30日の間、瀬戸内海に浮かぶ無人島で研修を実施しました。

 

無人島研修では携帯電話や腕時計、財布などの私物はすべて没収され、完全に通常の生活や業務とは離れた環境で3日間の無人島生活を行います。島に到着後、参加者にはサバイバルのための最低限の物資が与えられ、それらを活用しながら、火起こしから食材の確保、調理器具製作、調理、寝床作りに至るまで自給自足のサバイバル生活を体験。魚を捕るためのヤス(魚突き)、火を扱いやすくするためのトング、竹を加工して食器や箸を作るなど、参加者はチーム内でアイデアを出し合ってさまざまな創意工夫を凝らし、より良い生活を送るための「サバイバル力」を鍛えます。

 

ちなみに研修期間中、支給されるのは以下のアイテムのみ。

個人:チキンラーメン3袋、水、ブルーシート2枚、ヘッドライト等

チーム(基本4人体制):小麦粉(1kg)、火起こし棒、釣り針・釣り糸1セット、のこぎり等

 

たったこれだけの物資で、あなただったら同僚と一緒にサバイバルできますか?

 

五感を使うからこそ身につく

ここから過酷な研修が始まる。ここから過酷な研修が始まる。

 

無人島研修は他の多くの企業でも行われています。タレントの清水国明さんがプロデューサーを務める、河口湖のワークショップリゾート「森と湖の楽園」や瀬戸内海の無人島「ありが島」では、内定者研修・新人研修・管理職研修など、年間約150社のアウトドア研修を実施しています。

 

「ありが島」では参加者らが「無人島に漂流した遭難者」としてチームを組み、3~5日間、生き残ることがミッションとして課せられます。参加者のサバイバルレベルが高くなるに連れて、支給される食料や道具は少なくなり、イカダを作って無人島を脱出するプログラムなども用意されているのだとか。

 

「弊社で研究した結果、ただ椅子に座って研修を受ける座学スタイルでは全体の5%しか知識が身につかないというデータが出ています。

『知っていること』と『できること』は全くの別物。室内で座って聞く・話すだけの研修は、“頭でっかち”な社員をつくりかねません。いつもの会社を抜け出して、体を使って、野外で五感をフルに使い『暑い・寒い・痛い・臭い時にはどうしたら良いのか』を学ぶことで、チームビルド・モチベーション・コミュニケーションの3本柱が身につくんです」(清水さん)

 

無人島研修中は、「研修」だからといって参加者に必要以上の指示はしません。基本的に「ほったらかし」なんだそう。

 

「最近は受動的な方が多く、ほとんどの方が指示がでるまで動けないように感じます。会社の中でも、先輩や上司が『何か指示してくれるだろう』と待っているだけで、言われたことしかできないし、やらない。そのような方だと今後大きな出世って難しいんじゃないでしょうか。無人島では火起こしや食料、寝床の確保をするほか、自由な時間をどう有意義に過ごすか、参加者それぞれに“自主的”に考えて行動してもらっています」(清水さん)

 

無人島で、仕事に必要な心身を鍛える

普段の姿からはわからない、仲間の意外な一面も垣間見ることができる。普段の姿からはわからない、仲間の意外な一面も垣間見ることができる。

 

無人島サバイバル研修の狙いについて、日清食品広報の岡林さんは、「文明社会から離れた自然の中でのサバイバル生活を通じて、現代の厳しい競争社会を生き抜くための自活力を養い、精神的にも肉体的にも『骨太の管理職』の育成を目指しています。さらに、チームでの課題解決を通じて参加者の創造力や判断力、リーダーシップを高めるとともに、参加者同士の結束力を強固なものにすること」と話します。

 

また、無人島サバイバル研修は企業理念に沿ったものでもあるとか。

 

「日清食品グループには創業以来変わることのない『食足世平』(しょくそくせへい)、食足りて世は平らか、という価値観があります。本研修では『食は人間の命を支える一番大切なもの』であることを社員が体験することで、“食”を届ける仕事の価値や意義を再認識してもらいます」(岡林さん)

 

無人島から帰って来た社員の変化は? 離職率低下も!

研修後、日清食品の社員にはどんな変化があったのでしょうか。実際には研修を受けた社員からこんな声が上がっているそう。

 

・現代はボタン一つあれば簡単に湯を沸かすことができる。しかし、何もないところで水を沸かすために火をおこす作業というは、一筋縄ではいかないものだとあらためて認識した。また、調理するための竹筒や竹の皿も工夫してうまく竹を割らなければ水漏れを起こしてしまうなど、食事にありつくまでに、大変な苦労をした。当たり前のように何でもそろう現代の便利な状況には、感謝しなくてはならないと思う。

 

・安藤創業者の語録に“人間に必要なものは、衣食住ではなく、食衣住である”という言葉があるように、食が欠けることで人間は途端に生きにくくなること、当たり前のものが当たり前にそろうことのありがたさは今回の研修を通して強く心に焼き付いた。

 

「無人島という何もない環境でのサバイバル生活を通して、心身の両面が鍛えられます。また食の大切さを再認識することで、食に関わる企業としての自覚や意識が高まり、より仕事に対して謙虚に取り組むようになります。参加者はさらに、面識もない、国籍も部署も異なる参加者間との共同生活を通して、多様な価値観を尊重しながらコミュニケーションすることの大事さ、チームワークの重要性、考え抜くことの重要性などの“気づき”を得て帰ってくるんです」(岡林さん)

 

新たな気づきを得て生まれ変わったように全身から生命力がみなぎる。そして仕事へのやりがいやモノがあることへの感謝を胸に秘め、イキイキと輝いている顔が浮かんできますね。

 

ここで得た経験は明日への仕事の活力に。ここで得た経験は明日への仕事の活力に。

 

無人島サバイバルは“職場の縮図”

研修運営側の清水さんも「『現代は非常に恵まれている』ということを知り、感謝の気持ちがなければ『あれが欲しい、これが欲しい』と不満だらけになってしまう。何もない無人島研修後には、逆にありがたいところを探すようになります。文明や仲間に感謝する気持ちが生まれるからです」と話します。

 

仲間と共に厳しい状況を乗り越え、たき火で暖をとり、おいしい食事をとる。まさに苦楽を共にした仲だからこそ絆が深まり「離職率が大幅に下がった」という企業も多いそうです。

 

「無人島でのサバイバル研修と聞くと、突拍子もないことのように聞こえるかもしれません。でもその内容にフォーカスすると、食事であったり、仲間とのコミュニケーションであったり、普段何げなく職場でやっていることとそう変わりはありません。職場とは異なる過酷な状況に行くことで、当たり前にいる仲間や、当たり前に使っているモノの価値を見直すきっかけになるんです」(清水さん)

 

システムやモノがそろった社内から、何もない野外に出るからこそ学ぶことができる。そこで学んだことを今度は実務に活かすことで、人と企業が大きく成長する。無人島でのサバイバル研修は、まさに社会をサバイヴするために必要なことを身につける、究極の研修といえるかもしれません。

(取材・文:ケンジパーマ/編集:東京通信社)

 

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