開放感のある高い天井に、ゆったりとした作業スペース、随所に植えられた観葉植物……。海外の企業のようにユニークでおしゃれなオフィスを東京・目黒に構えるのが、ネット印刷や運送サービスを手がける企業・ラクスルです。

 

来社した人、誰もが驚くラクスルのオフィスですが、特徴的なのは見た目だけではありません。2016年の12月には兼業許可制を認めるなど、働き方においても先進的な制度を次々に取り入れています。多様性を認めた働き方を進めることで、優秀な人材を惹きつけているラクスル。その取り組みについて、経営管理部広報担当の忽那幸希さんに聞きました。

 

社員の4割が子育て中。仕事との両立がダイバーシティのきっかけに

ラクスルがダイバーシティを本格的に進めるようになったのは、2016年の秋ごろのこと。当時人事を兼務していた忽那さんは、そのプロジェクトの中心人物の一人でした。ラクスルが社内のダイバーシティを考えるようになったきっかけについて、忽那さんは次のように話します。

 

「当時はもう少し女性の採用も増やしたいという意見が出ていたころ。会社全体の男女比は半々ですが、カスタマーサポートは女性が多く、エンジニアには男性が多いなど部署によって偏りがありました。正社員だけでみると男性のほうが多くなりますし、リーダー的な女性を増やしていきたいという思いがあったんです。

 

さらに幹部陣含め子育て中の社員が4割近くを占めていたので、子育てと両立できる働き方についても考える必要がありました。そんなタイミングで幹部陣から『ダイバーシティを前提に何かできないかな?』『それが社員にも還元されて、これから入ってくる人にも魅力的に映る働き方ってないかな?』という意見が出たのがきっかけです」

 

忽那幸希さん

 

上司が積極的に制度を利用して、使いやすい雰囲気に

これを機に、勤務制度の整備が本格的に進められることになります。既存の制度を見直すために社内アンケートを実施し、希望の多かったものを採用するなど、社員の声を反映しながら働きやすい環境づくりを進めたそうです。現在実施されているのは月に一度6時間だけ働いて帰ることができる「6時間DAY」、あらかじめ出勤時間を調整し、平日の通院や深夜作業などに柔軟に対応する「時差出勤」、主に育児や介護中の社員に向けた「条件付リモートワーク」、パラレルキャリアを認める「兼業許可制」の主に4つ。

 

「『6時間DAY』はもともとあった『月1ノー残業DAY』を発展させたもの。それまでは月に一度17時に帰っていいという制度でしたが、朝はフレックスなのでそれぞれ8時から10時までと出社時間が違うのに、退社時間が17時で同じだったら8時に出社した人は10時出社の人より恩恵が少なくなりますよね。その差をなくし、より柔軟にしたものが『6時間DAY』です。

 

『時差出勤』は『病院に行きたいけど、午前休をとるのはもったいない』『新サービスのリリースや採用面談の対応などで業務が夜間に及ぶ』といった声を反映したものです。弊社の通常出社時間は8時から10時の間と多少の幅を持たせているのですが、さらに事前申請で13時まで出社開始時間を調整できるようにすることで、遅刻や長時間残業にならないようにしました。時差を柔軟にすることで、生活と仕事を両立させることができます。

 

『条件付リモートワーク』は小さな子どもがいる社員の利用が多いですね。子どもが風邪をひいてしまって、看病のために休まなくてはいけない時があります。でも、そういう日も自宅でメールチェックをして、業務を進めているんですよね。だったら家にいても業務ができる体制を整えて、それも勤務の一つと認めてあげるべき。

お母さんだけではなくて、お父さんも使っていますよ。最近ではCFOの永見が1カ月間の育休を取得しましたし(※12月に復帰)、代表の松本もパパなので、社内の共有スケジュールに『お迎え』『運動会』といった子どもの予定が書き込んであります(笑)。社員もそれを見ているので、男女関係なくこの制度を使えますし『この日はお子さんのお迎えの予定だから優先してあげないとね』という共通認識が持てていると思います」

 

家庭の事情で仕事を休んだり、男性が育休を取得することに遠慮してしまう人も多いかもしれません。ラクスルでは上司が積極的に制度を利用することで、こうした抵抗感も薄れているのでしょう。

 

「男性でも、自分が子どもの事情で仕事を休んでみると働くお母さんの気持ちが理解しやすくなりますし、家庭を優先しなくてはいけない時は誰にでもあります。いずれは介護が発生することもある。その気持ちを幹部が理解していれば制度にも反映しやすくなると思うので、積極的に使ってほしいですね」

 

ラクスル

 

「年に1回は『ファミリーデー』と称して社員の家族を交えてBBQなどのイベントを開催しています。社員同士がお互いの家族のことを知っていると、お子さんが風邪で休むと聞いた時に優しい言葉や対応をしてあげられますし、一緒に仕事をしている社員が会社員以外の顔も持っていると知ることができるのは貴重だと思いますね」

 

卓球台

 

忽那さん自身が思い入れを持って取り組んだ「兼業許可制」

「兼業許可制」は2016年12月から実施され、現在利用者は1割ほど。忽那さん自身も、制度の導入には強い思い入れがあったといいます。

 

「私は入社前からラクスルとは別に、ウエディングの仕事をしていたんです。そのことは会社にも伝えており、一応公認されてはいたものの、そのことをあまり大きな声で言うことにはためらいがありました。でも、私にとってはどちらも大切な仕事。勤務制度の整備をきっかけに、ウエディングの仕事も堂々とできるような制度をつくりたいと思いました。

 

導入後は株式会社を設立して、『どっちも本業』としてやっています。自分のやるべきことをしっかりとこなしていれば何かを言われることもありませんし、応援してもらえます。

 

ただ、今のところどっちも本業でやっている人は私くらいでしょうか。大抵の人は空き時間や休日に、副業としてやっています。でも採用時に兼業が認められているかどうかの問い合わせを受けることも多いですし、『兼業許可制』は他の社員にとっても働きやすく、これから就職や転職してくるであろう人材にとっても魅力的な条件になっていると思います」

 

ラクスル

 

兼業も子育ても、会社以外の顔があるという意味では同じ

こうした制度をつくったことで、社員からは「働きやすくなった!」という声が多くあがっているそうです。

 

「兼業も、子育てをしているお父さんお母さんも、会社員と別の役割があるという意味では同じだと思います。人生の一部として会社に勤めていて、それ以外の生活もある。それらを両立するためにうまく制度を整えたり、使っていけるようになるといいですね」

 

ラクスル

 

「私の個人的な思いですが、今後ラクスルは優秀な人材輩出企業になるといいなと思っています。もちろんせっかく縁あって入社してくれた社員にはずっと働き続けてほしいとは思いますが、仮にラクスルを卒業して次のステージに進むという時にも『あそこで働いていたなら間違いないね』と言ってもらえるような人たちの集まりになってほしい。そうなっていけるように、今後も働き方やダイバーシティ改革を進めていきたいですね」

 

社員が自分の時間を大事にできる環境を整えることで、さまざまな働き方を許容し、結果的に多種多様な人材が働きやすくなる。「ダイバーシティ」や「働き方改革」というと、会社が行うものであって、直接自分には関係ないものと思えてしまうかもしれません。しかし、ラクスルの取り組みを見てみると、それが決して限られた人たちのものではなく、一人ひとりの生き方に寄り添うことなのだと気付かされます。

 

会社員でいる時間は、人生の一部。それが大切なものであることはもちろんですが、それ以外の時間も自分の人生にとってはかけがえのないものです。日々の業務に追われていると、自分の時間はどんどんおざなりになってしまうもの。しかし、それが本当に「なりたい自分」だったかどうか、一度立ち止まって考えてみてもいいかもしれません。忽那さんのように会社とは別の仕事をしたり、子育てとの両立をしたり、趣味にたっぷり時間を使ったり……。

仕事以外でも「なりたい自分」をサポートしてくれるような会社だと、より働きやすく、公私ともに充実した日々を送れるようになるかもしれませんね。

(取材・文:小沼 理/編集:東京通信社)

 

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識者プロフィール

忽那幸希(くつな・ゆき)
上智大学文学部新聞学科卒業後、ウエディングプランナーを経て、IT企業の役員秘書に従事。2015年9月にラクスル入社。広報担当をしながら、人事、総務などを兼務。ラクスル入社前にインバウンド向けウエディングサービスを立ち上げ、バイリンガルプランナーとしても活躍中。

ラクスル株式会社
「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」というビジョンのもと、ITとネットワークを活用したBtoBのシェアリングエコノミー事業を2つの業界で展開。印刷ECサービス「ラクスル」では、中小企業の販促活動を支援する印刷物を提供。印刷物のデザインやチラシ配布をワンストップで担う集客支援サービスもオンラインで展開している。さらにトラック物流のECサービス「ハコベル」でも、「早い・安い・高品質」なサービスを提供。物流問題を解決し、新たな日本の物流インフラづくりにチャレンジしている。
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