わからないことはパソコンやスマートフォンを使って検索することで、自分で考えずとも簡単に答えを見つけられる時代になりました。今後はAIなどの台頭によって、人はより「考える」ことをしなくなってしまうかもしれません。

 

そんな時代に対して警鐘を鳴らすのが『地頭力を鍛える』の著者でもある細谷功さんです。「来たるべき時代に備え、思考回路を起動させる練習を!」――そう話す細谷さんに、20代のビジネスパーソンに向けて「自分の頭で考える」方法を解説していただきます。

 

人間は4つのパターンに分類できる

インターネットの普及率は20代においてはほぼ100%――私たちはパソコンやスマートフォン等を使って、わからないことはなんでも、ネットですぐに調べられる環境にあります。しかし、それによって「人は、考えることを段々としなくなっているのでは?」と、細谷功さんは私たち若者に対し注意を促します。

 

「ネット、パソコン、携帯電話、スマホの普及で、何かを覚えたり知識としてストックしたりする機会は全体的に減ってきていますよね。例えば、一昔前で言うと電話番号の暗記。友達や同僚、近しい知り合いの電話番号なら暗記していて当然でしたが、今はもう覚えなくなっている。簡単な漢字がすぐに書けなくなっているのも、電車の路線や地図を調べるのが面倒なのも、パソコンやスマホの普及とは無関係ではありません。とりわけスマホ普及以降の時代は、"自分で考える力"という人間の知的能力との向き合い方が大きく変わってきているといえるでしょう」。

 

細谷さんは、人間が持つ「自分で考える力」についてこう考えます。

 

「『知識(経験)』と『思考力』それぞれに、「高い・低い」の2段階があるとした場合、人間は次の4つのパターンに分類されると考えています」。

 

①知識も思考力もある人

②知識はないが、思考力はある人

③知識はあるが、思考力がない人

④知識も思考力もない人

 

これまでの社会とビジネスでは、「知識がある人(①あるいは③)」=「優秀な人材」「仕事のできる人材」という認識のようなものがありました。しかし前段の通り、インターネットの普及によって、私たちは「知識」というものを誰もが平等に取得できる状態にあるため、時代は「知識(経験)がある人が尊重される時代」から「思考力のある人が尊重される時代」へと移行しているといえるかもしれません。

 

「現時点で④の状態にあるならば、④から③になるためにはネットでの情報が補ってくれる。もちろんそれだけではだめで、④から②、あるいは、③から①の状態へ自分を高めるために『自分の頭で考えるための練習』が必要である、と私は考えているのです」。

 

自分の頭で考えることのメリット

細谷さんは自分の頭で考えることのメリットとして、次の点を挙げます。

 

①世界が変わって見える

②先が読めるようになる

③自由になれる

④AIとうまく共存できる

⑤仕事や勉強ができるようになり、人生が楽しくなる

 

なかでも注目したいのは③です。「自分で考えることで、自由になれる」とは、一体どういうことでしょうか…?

 

「『知識』には自由度がありません。対して『考える』ことは自由度が高く、そこにその人なりの個性を出せます。一人ひとりが個性を発揮しながら仕事をすることがこれからいっそう求められてくるのでしょうが、自分の存在意義を見いだすという意味でも『考える』ことは必要だと思います」。

 

では、「自分の頭で考える」ようになるための第一歩とは? 細谷さんは「ある意味では、ネットを見ないことも必要」だと説きます。

 

「一つには、ネットは情報量として見れば膨大ですが、しょせんは一部の視点でしかありませんから、そこで得た情報を正解だと思わず、最終結論にしないことが肝心です」。

 

「正しいのはこっち」を禁じ手に

さらに、細谷さんは続けます。

 

「これは日常生活での自分の意見に関しても同様です。例えば、誰かと議論するときに『正しいのは自分のほうだ』と思いがちですが、それこそが『無知の知』を達成できていない状態なのです」。

 

「無知の知」とは哲学者・ソクラテスが遺したとされる言葉で、自分が何も知らない(無知)と認識することが知の探求へとつながり、結果として「自分でよく知っている」と思っているよりも優れた状態を生み出す、という意味でとらえられています。

 

「上司の言うことが、すべて正しいと思うパターン。逆に、先入観から嫌いな上司の言うことが、すべて間違っていると思うパターン。いずれの場合ももったいないのは、『正しいのはこっち』『そっちが間違っている』と思い込み、そこで思考が閉ざされてしまうことです。あえてこれらの言葉(考え・発想)を禁じ手にし、たとえ聞き入れたくない意見でも『その(相手の)意見が成立するのはどういう状況なのだろうか』と考えると、おのずと思考回路が起動しだしますよ」。

 

SNSは思考力向上の練習問題に利用する

細谷さんは、昨今のSNSコミュニケーションについても次のように続けます。

 

「最近は特にネットやSNS上でさまざまな意見や発言が飛び交っていますよね。たとえ共感したくなりそうな意見だったとしても、それを鵜呑みにして自分の意見のように振る舞うのではなく、『この人の言っていることに、何かおかしな点はないだろうか』と、いったん考えてみましょう」。

 

「逆に、ネガティブな意見に反論したくなるときも同様です。相手の立場になってみて、どうしてその言葉を発信したのか考えてみる。SNSは思考力を高める練習問題にもなるのではないでしょうか」。

 

前段の「メリット」にも掲げたように、「考える練習」は来たるべき「AIとの共存」にも寄与することでしょう。「これまで人がやっていた仕事がAIに奪われる」なんてことも言われて久しいですが、莫大なデータをもとにした機械学習・深層学習を得意とする「AI」に我々がビジネスシーンで対峙したとき、AIが不得意とすることを「得意」にできなければいけません。

 

AIが得意なこと AIが不得意なこと
・与えられた問題を解く ・問題そのものを考える
・定義が明確な問題を扱う ・定義が不明確な問題を扱う
・指標を最適化する ・指標そのものを考える
・膨大な情報を検索する ・少ない情報から創造する
・具体的なことを扱う ・抽象的なことを扱う
・ルールを守る ・ルールを作り直す

(出典:『考える練習帳』細谷功著・ダイヤモンド社)

「今まで面倒だと思っていた仕事を、今後AIが代わりにやってくれるかもしれない。では人間は、どこで自分の能力を発揮すべきでしょうか。そんなAI時代を前にして言えることは能動性のある人――つまり、自分から動ける人になることです。機械は自分から動けず、そこが人と決定的に違うところ。上の人から指示されるのを待つのではなく、自ら考えて能動的に行動する。そんな自分を見つけるためにも『考える練習』は必須だと思いますし、そのような、個性を前面に出したやり方こそ、仕事に楽しさを見いだせる方法なのではないでしょうか」。

 

まとめ

考える練習の基本として、まずは次のことから始めてみませんか。

 

・わからないことがあってもすぐにネットに頼るのではなく、いったん自分の頭で考えてみる。

・議論になった場合、相手の意見が成立するのはどういう状況のときであるかを考えてみる。

・SNSやネットでの意見・発言は鵜呑みにせず、矛盾点などがないか考えてみる。

・AIが不得意な要素を自分の中で伸ばしていく。

 

日常の中でできるこれらの考える練習。考える練習を積み重ねていくことで、今後、あなたの職場にAIが浸透しても、自分の強みや個性をしっかりと確立し、自分らしく仕事に取り組むことができるようになるはずですよ。

 

(取材・文:安田博勇/編集:東京通信社)

 

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識者プロフィール
細谷功(ほそや・いさお)

細谷功(ほそや・いさお)
1964年神奈川県鎌倉市生まれ。東京大学工学部卒業。東芝での原子力技術者時代を経て、ビジネスコンサルティングの世界へ。ビジネスコンサルタントとして、業務改革(新製品開発、営業・マーケティング、生産領域)、戦略策定(技術領域、システム領域等)、グローバルERP導入等を行う。近年は国内外の企業や各種団体、大学等で研修やワークショップを実施中。
著書として代表作に『地頭力を鍛える 問題解決に活かす「フェルミ推定」』(東洋経済新報社)。近著に『会社の老化は止められない。宿命にどう立ち向かうか』(日経ビジネス人文庫)、『アリさんとキリギリス 持たない・非計画・従わない時代』(さくら舎)、『メタ思考トレーニング』(PHPビジネス新書)など。本稿の関連書に『考える練習帳』(ダイヤモンド社)がある。