近年よく耳にする「睡眠負債」というキーワード。原因をきちんと知って対策を講じている人は少ないはず。「自分は大丈夫」と思っている人も、もしかすると睡眠負債に陥って、仕事のパフォーマンスが落ちている可能性があるかもしれません。

 

知らず知らずのうちに睡眠負債をためないように、今回は「睡眠負債」の原因と対策を学びましょう。教えていただいたのは「ぐっすり眠れる睡眠の本)」(宝島社)の監修を務め、以前キャリアコンパスでご紹介した睡眠不足対策の記事にも登場された、早稲田大学研究戦略センターの枝川義邦教授です。

 

今回の記事中には、睡眠負債に陥っているかどうかを自己判断できるセルフチェックリストも掲載しています。ぜひこの機会に睡眠負債の返済方法を知り、ベストコンディションを手に入れましょう!

 

日本人の4割が該当? 睡眠負債とは

まずは睡眠負債について正しく知りましょう。そもそも、具体的にどのような症状を指すのでしょうか?

 

「睡眠負債は睡眠不足の一種で、睡眠負債には睡眠が足りていないという『自覚』がありません。徹夜などによる極端な睡眠不足は自覚があるのですが、微妙に睡眠が足りていない状態が積み重なった『睡眠負債』は、自覚がない場合がほとんどです。自分では元気だと思っていても、実は睡眠時間が足りていない状態」。

 

「体のどこかに不具合の自覚があれば、睡眠時間を増やす行動をとることができます。でも自覚がないと行動を変えようとは思いませんよね。それが睡眠負債の厄介なところです」(枝川義邦教授、以下同)。

 

日々の睡眠が「6時間」でも睡眠負債になりえると教えてくれた枝川教授。 

 

厚生労働省が行った国民健康・栄養調査では、2015年において20歳以上の男女約4割の平均睡眠時間が6時間未満という結果に。6時間ピッタリの人も含めると、さらに睡眠負債の該当者は増えてしまいます。読者の皆さんのなかにも心当たりのある方がいるのではないでしょうか?

 

「6時間の睡眠で本人は十分眠ったと思っていても、実は日中のパフォーマンスが落ちていることは十分にありえます」。

 

睡眠負債が引き起こす悪影響

自覚症状がなくても、脳や体に睡眠負債による悪影響が出ていると枝川教授は言います。

 

「どこからどこまでが睡眠負債の影響かは断言しづらいのですが、もっとも多い症状としては、脳が働かないので判断ミスを引き起こしやすくなること」。

 

「さらにもの忘れが増える、怒りっぽくなるなどの症状もあり、免疫機能が落ちるので風邪を引きやすくなったり、さらにはガンになりやすくなる可能性も。長期的に睡眠負債の状態が続けば、高血圧症や糖尿病、認知症など重い病気にかかるリスクも増えます」。

 

ビジネスパーソンが多い都市部では、とくに平均睡眠時間が短いというデータが出ています。その理由について枝川教授はこう話します。

 

「都市部の平均睡眠時間が短いのは、あらゆる環境要因が眠りを妨げる社会構造になっていることだと考えられます。終電が遅いので、夜中までオフィスで働くことができる。また24時間営業の飲食店なども多く、夜中でも街が明るいので出歩きやすいですよね。オフィス内は明るくて眠気を呼びにくいですし、コンビニもすぐ近くにありコーヒーも自由に飲めるなど、眠らなくても案外がんばれてしまう仕掛けがそこかしこにあります」。

 

「このような状況下に置かれることで、睡眠不足でも気になりにくい状態に陥ってしまうビジネスパーソンが多いのかもしれません」。

 

枝川教授の話をまとめると、自分自身の無自覚と環境的な要因が睡眠負債を引き起こしていることになります。ということで、まずは自分が睡眠負債であるかどうかを認知する必要があるでしょう。

 

あなたは大丈夫? 睡眠負債セルフチェックリスト

そこで今回は、睡眠負債に陥っているか簡単に判断できる「セルフチェックリスト」を教えていただきました。ここで挙げるのは、もっともミニマムな3項目のみ。この3つのうち、どれか1つでも当てはまっていたら睡眠負債の可能性が高いとのこと。

 

●朝起きた時にスッキリしていない

「単純に睡眠時間が足りていないと、朝起きた時に頭がボーッとして眠気が残ります。睡眠には深い眠りと浅い眠りを繰り返すリズムがあり、起きるタイミングが悪く、深い眠りの時に起きてしまうと寝覚めが悪くなるのです。そのため良いタイミングで起きていないというケースも考えられますが、まずは睡眠不足の可能性を探る意味で、目覚めの感覚を意識してみましょう」。

 

●昼よりも前に眠気がある

「この項目は朝早く起きた人を想定しています。たとえば7時に起きて4時間後の11時頃に眠気を感じたら、睡眠負債の可能性が高いです。私たちの脳には、すっきりしている覚醒の度合いが繰り返される一定のリズムがあって、大抵は起きてから3〜4時間後に、脳の働きが活発になるピークのリズムが訪れます。その時間帯であっても眠気を感じるということは、それは睡眠時間が足りない可能性が高いでしょう」。

 

●夜、横になったら一瞬で寝落ちしてしまう

「夜ベッドに入ったあと、10〜15分ほど意識がトロトロする時間を経て眠りに落ちるのが自然な入眠スタイルです。ベッドに入って一瞬で寝落ちしてしまう人は、睡眠負債を疑いましょう」。

 

枝川教授いわく、ベストな睡眠時間には個人差があり、一般的に6時間半〜7時間半といわれてはいるものの、7時間で十分な人もいれば8時間でも足りない人もいるのだそう。よって睡眠時間だけで判断するのではなく、上記のチェックリストで当てはまる項目がないか確認してみましょう。

 

睡眠負債を正しく返済するには?

睡眠負債に陥っていた場合、ためてしまった負債を正しく返済していかなければなりません。前提として、睡眠時間には「貯金はできないけれど借金はできてしまう」原理原則があるといいます。つまり、あらかじめ寝だめしておいて、その睡眠貯金を切り崩すのは不可能ということです。

 

なかには平日にたまった睡眠負債を、週末にたっぷり寝て返済する方法をとっている人もいるかもしれませんが、それは理想的な返し方ではないと枝川教授。

 

「その理由は2つあります。1つは、平日にたまった睡眠負債を土日の2日だけで返すのは、時間の制約が難しいから。もう1つは、週末に寝だめすることにより、その後の1日のリズムが崩れてしまうからです。週末に体内リズムが崩れると、つらいブルーマンデー(※)の原因になるのではないかといわれています。24時間のリズムを崩さないためにも、平日よりプラス2時間以内で睡眠を調整するのがベストです」。

※週末が明けた月曜日の朝に、出勤などに対して強い憂鬱を感じる現象のこと。

では、どのように返済するべきか、具体的な行動に落とし込んでご紹介します。

●毎日1時間多く寝る習慣をつける

「大きく生活習慣を変えるのは難しいものですが、睡眠負債を抱えた方は1〜2時間ほど長く眠る習慣をつけましょう。毎日が無理なら週に何日かでも構いませんし、30分早く寝て30分遅く起きるスタイルでもOKです。1週間続けてみて調子がいいと感じたら、以前の状態が睡眠負債だった証拠ですよ」。

 

●日中と夜のメリハリを付ける

「これは、どうしても睡眠時間を増やせない人のために、眠りの質を高めて負債を返済する方法です。まずは朝起きた時に朝日をたっぷり浴びてください。朝日を浴びると、約14時間後に眠りを誘うホルモン・メラトニンが分泌されるため、夜の睡眠のタイマーを入れることができます」。

 

「そして日中はなるべく活動量を増やしましょう。夜はお風呂に浸かって体の芯まで温まり、その後は眠る準備の時間として穏やかに過ごしてください。寝る1時間前からなるべくテレビやスマートフォンを避けて本を読んだり、家族や同居人がいれば、穏やかに会話を交わしたりするのがオススメです」。

 

加えてもう1つ、睡眠負債で受けたダメージをやわらげる方法をお伝えします。睡眠時間が短い状態が続いてしまっている時は、ぜひ試してみてください。

 

●日中に15〜20分の昼寝をする

「日中に頭がボーっとしたら昼寝が効果的です。一番いいのは、コーヒー・紅茶・緑茶などを飲んでカフェインを摂取してから20分ほど昼寝すること。この20分とは眠りにつくまでの入眠時間も含みますので、実際の睡眠時間は10〜15分です」。

 

「カフェインには脳を覚醒させる効果がありますが、効果があらわれるのは飲んでから30分程度経ってから。この方法は、カフェインを摂取することで眠りすぎを防ぎ、起きたあとに脳が働きやすくなります」。

 

日々の健康は毎日の眠りから! 今こそ睡眠の習慣を見直そう

枝川教授は睡眠負債に陥りやすい若手ビジネスパーソンに向けて、こんなアドバイスを送ってくれました。

 

「ここまで睡眠負債の返済方法について述べてきましたが、だれでも睡眠を削ってでもがんばりたい時はあるでしょう。とくに若手の皆さんであれば、なおさらですよね。そんな時は一時的に睡眠時間を借金するのも仕方ないと思います。ただ一生借り続けることはできません。返済が必要であることを必ず覚えておいてください」。

 

「そして、何のために睡眠時間を削っているのか、目的意識を持つことは大事だと思います。わずかな睡眠不足でも、積もれば脳や体に大きな負担がかかることはきちんと知っておいてくださいね」。

 

読者のみなさんのなかには、日々6時間睡眠という人もいると思いますが、今日から生活を見直してみませんか? わずかな睡眠不足も積み重なることで、いつの間にか体に大きな負担がかかっているかもしれません。今回ご紹介した方法をご参考に、まずは少しずつ睡眠時間を確保してみてくださいね。

 

(取材・文:小林 香織 編集:東京通信社)

 

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識者プロフィール
ぐっすり眠れる睡眠の本(TJMOOK)(宝島社)

枝川義邦(えだがわ・よしくに)
早稲田大学研究戦略センター教授(早稲田大学ビジネススクール兼担講師) 東京大学大学院薬学系研究科博士課程を修了して薬学の博士号、早稲田大学ビジネススクールを修了してMBAを取得。同年、早稲田大学スーパーテクノロジーオフィサーの初代認定を受ける。2014年より現職。脳の神経ネットワークから人間の行動や組織運営まで、マルチレベルな視点によるアプローチをしており、経営と脳科学のクロストークを基盤とした執筆や研修も行っている。2015年度に早稲田大学ティーチングアワード総長賞、2017年度にユーキャン新語・流行語大賞に選ばれる。著書に『「脳が若い人」と「脳が老ける人」の習慣』(明日香出版社)、『「覚えられる」が習慣になる! 記憶力ドリル』(総合法令出版)など。2017年12月には監修を務めた「ぐっすり眠れる睡眠の本(TJMOOK)(宝島社)」が発売。テレビ出演や雑誌等の取材記事も多い。