「大人になったらゲームしなくなるよ」。そう言われて育ったけど、今も時間さえあればゲームで遊んでいる……。そんな人も多いのではないでしょうか? 「ゲームは子どもが遊ぶもの」という考えも、今は昔。それどころか、ここ数年は「eスポーツ(e-sports)」として、高額な賞金をかけた世界大会が開催され、卓越したゲームプレイで生計を立てる「プロゲーマー」という職業も登場しました。さらに、アジアオリンピック評議会が2022年のアジア競技大会にeスポーツを正式種目として追加するなど、その地位が大きく変わりつつあります。

 

eスポーツチーム「Team Liquid」に所属するネモさんも、「Red Bull Kumite 2017」「TOPANGA LEAGUE 6」「ストリートファイターV 昇龍拳(SHORYUKEN) トーナメント」など、数々の大会で優勝経験を持つプロゲーマーの一人。ただし、ネモさんはプロゲーマー専業ではなく、働きながら活躍する社会人プロゲーマーです。練習する時間が長ければ長いほど有利なゲーマーの世界で、兼業というスタイルは異色。しかし、ネモさんは「これからも兼業というスタイルを変えることはない」と話します。その言葉に隠された思いとは? ゲーム好きが連日熱い戦いを繰り広げる「e-sports SQUARE AKIHABARA」で、お話をうかがいました。

 

「好きなことを仕事にすると、嫌いになってしまうかも」

高校生の頃にはじめてゲーム大会に出場し、大学生になってからもゲームセンターで仲間と大会で優勝を目指し切磋琢磨する、ゲーム漬けの日々を送っていたネモさん。大学卒業後は、ゲームとは関係のない会社にシステムエンジニア(SE)として就職しました。

 

「最初はゲーム会社に行くことも考えたのですが、すでにゲーム会社で働いている友人から『この業界は忙しくて練習時間もとれないし、仕事で関わっていると休みまでゲームをしたいという気持ちがなくなる。嫌いになっちゃうかもしれないよ』と言われたんです。それなら別業界の会社に勤めて、休みに好きなことをやるほうがいいと思いました」

 

ネモさん

 

「好きを仕事にする」というと聞こえがいいですが、純粋に楽しむだけではいられなくなってくるのも事実。好きなことを守るために、仕事と趣味を完全に切り分けるのも一つの生き方です。淡々とした表情で、ネモさんは続けます。

 

「社会人になっても、ゲームはずっと続けていました。少し意識が変わり始めたのが、入社して5年経った頃でしょうか。海外の大会に招待されて、世界で試合ができるようになってきたんです。

 

大きな舞台で戦うことは、とても面白い経験でした。当時は僕より前に専業プロゲーマーになった方たちが活躍して、業界が盛り上がってきていました。それによって、賞金も国内でも10万円、100万円、世界大会では60万ドルと、どんどん額が大きくなっていったんです」

 

ネモさんが全国大会を目指していた10年ほど前は、優勝賞金といってもわずか3万円ほど。お金よりも名誉のための勝利だと、業界では広く認識されていたそうです。

 

「その頃と今では状況が大きく変わりましたね。もちろん、それにともなって会場の規模も大きくなっていって、1万人以上の観客を前に試合ができるようになっていきました。

 

就職した当時はプロゲーマーという職業すらなかったけど、今はこれだけ規模が大きくなっている。その中で自分のキャリアを見つめ直した時に、もっとゲームの才能を活かしたほうがいいんじゃないかと思って、プロゲーマーを目指すようになりました」

 

ネモさん

 

短い練習時間で、いかに集中できる時間を作るか

プロゲーマーとはゲームをプレイすることで生計を立てている人のこと。彼らの収入は大会の賞金だけでなく、企業と契約し、スポンサーからのサポートを受けることで成り立っています。ネモさんがプロゲーマーを目指す時に行ったのも、まずは企業への売り込みでした。

 

「チームや大きな大会で実績を残したことがきっかけでオファーが来て、契約に結びつくことが多いのですが、自分の場合はオファーが来ていなかった。そこで自分から名刺を配ったり、企業に出向いてプレゼンしたりしていました。この業界では自分から売り込むのは珍しいみたいですね。1年くらいかけていろいろな企業にアポをとり、以前所属していたALIENWAREとの契約に至りました」(※2018年3月からはTeam Liquidに所属)

 

契約後は社会人プロゲーマーとして、働きながら活動することに。世界大会への出場の機会も増えていくことになります。職場からはどのように思われていたのでしょうか。

 

「最初は、いつまでゲームなんてやってるの?という目線もありましたが、『とにかくゲームが好きなんで全国大会を目指してるんです』とはっきり伝えるようにしていました。あと、当然ですが自分の仕事をきちんとこなしていたので、『仕事をしっかりやっているなら、何をやってもいいんじゃない』と認めてくれていましたね。

 

世界大会に出るようになってからは、上司たちが興味を持ってくれる機会も増えてきて。大会のために休みを申請すると向こうから話しかけてくれたりして、次第に応援してくれるようになりました」

 

限られた中でどれだけ効率的に練習するかも工夫したと言います。

 

「前職の頃だと平日は仕事が終わってからゲーセンに行って、毎日2〜3時間ほどプレイしていました。普段の土日は長くても1日あたり5時間ほど。平日は練習時間を確保するために、とにかく仕事を早く終わらせるよう心がけていましたね。遅くなればそのぶん練習時間も短くなるし、仕事が長引いて疲れていると負けることも多くなります。勝てないとゲームって面白くないし、そういう時の負けは『仕事で疲れているから仕方ない』と、つい言い訳してしまうんですよ。それが嫌だったので、どうしても仕事が長引いた日はゲーセンに行かないこともありました」

 

ネモさん

 

仕事をしながら毎日2時間をゲームにあてていたことも驚きですが、たとえ練習でも言い訳をしないというところにストイックな姿勢が垣間見えます。この他にも、「練習は家ではなく必ずゲーセンに行くことで、集中した環境を作る」などのノウハウを話してくれました。ネモさんのやり方からは、働きながら何かを極めるのなら、時間がないからこそ量だけではなく「質」にもこだわることが大事だと学べるのではないでしょうか。

 

10年勤めた会社を辞め、スクウェア・エニックス社員に!

長らく社会人プロゲーマーとして活躍していたネモさんでしたが、2017年7月、それまで10年間勤めた会社を退職。専業プロゲーマーへ転身するかと思いきや、2018年の1月にスクウェア・エニックスに転職していたことが発表され、ファンを驚かせました。こうしたキャリアを歩むきっかけはなんだったのでしょうか。

 

「上司に今後のキャリアを聞かれた時に、ふと『いつまでもゲームができると思わないほうがいい』と言われたことがありました。その時に、やっぱりまだゲーム会社以外だとしっかり理解はしてもらえないのかな、と思ったんです。その頃はちょうど自分がいろいろな世界大会にも出場していた時期で、まだまだ活躍できるという手応えを感じてもいたんですね。それなら、ゲーマーとして、もっと活躍できる会社に転職したほうがいいキャリアを歩めると思いました。そんな時に、スクウェア・エニックスの今の上司と知り合い、転職につながったんです。

 

最初に話した通り、一度はゲーム会社への就職も考えたので、スクウェア・エニックスへの就職は感慨深かったです。好きなことを仕事にすると嫌いになってしまうという話もありましたが、今は自分自身がメディアに取り上げられる機会も増えて、周りの見方も変わってきています。大会について、仕事相手から話を聞かれることもありますし、居心地がいいですね。

 

あと、会社が家から近いんですよ(笑)。徒歩で行けるくらいなので、満員電車に乗らなくていいのが最高です! それだけではなくて、今の働き方は裁量労働制なので、ノルマさえ達成していればいつ出社してもいつ帰っても大丈夫。ゲームのイベントが平日にあっても、仕事さえ調整すれば有休を使わなくて済みます。世界大会に出るのも融通がきくようになったし、ゲーマーとしての活動の幅がすごく広がったと思っています」

 

ネモさん

 

好きなことを続けるために、仕事を頑張る

これから先も専業プロゲーマーになることは考えていないというネモさん。兼業にこだわり続ける理由はどこにあるのでしょうか。

 

「10年前にはなかった新しい業界なので、この先どうなっていくかわからない不安があります。でも、その不安って僕だけが抱えているものではなくて、プロゲーマーやそれを目指す人はみんな抱えていると思うんですよ。今の若い人たちがプロを目指す時に、自分のような生き方もあることを示したい。その思いで兼業を続けています」

 

ネモさん

 

さらに、日本のゲームに対する意識を変えていきたい、とネモさんは続けます。

 

「日本にはまだ、社会人になったらゲームをやめないといけない風潮が残っていると感じているので、それを変えていきたい。社会人になってもこうやってゲームを続けていけるという見本のような存在になって、その風潮を変えていきたいですね。

 

それに、今って専業プロがどんどん増えているので、専業じゃないとゲームで上を目指せない雰囲気がゲーム業界に少しあるんですよ。だから自分が兼業として活躍することは、社会人になってもゲームを続ける人にとってのモチベーションになるんじゃないかとも思っています」

 

そんなネモさんにとって、「働く」ことの意味とは?と、最後に聞いてみました。

 

「自分は好きなことを続けるために仕事をするんだと思っています。それは前の会社でも、今のスクウェア・エニックスでも変わっていません。ただ、当然仕事も手を抜くことなくやります。ゲームはそのご褒美のような認識ですね。今でも、早くゲームをやりたいという気持ちが仕事の原動力になっていますから」

 

ネモさん

 

就職に迷った大学生時代から、SE時代のゲームの練習方法、そして転職し、兼業を続ける理由。ネモさんのお話をうかがっていると、自分のキャリアと堅実に向き合いながら、どうしたら好きなことを思い切り楽しめるかを一番に考えているように感じました。その答えが、最後にうかがった「好きなことを続けるために仕事をする」という言葉に表れているように思います。

 

好きなこととの向き合い方には、さまざまな形があります。働き方が多様化している今、ネモさんのように兼業であったり、趣味として全力で楽しんだりする道も選びやすくなってきました。自分は今の働き方で、きちんと好きなことと向き合えているかな? 働く意味を見失ってしまったとしたら、一度立ち止まってそう考えてみると良いかもしれませんね。

 

(取材・文:小沼理/編集・撮影:東京通信社)

 

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識者プロフィール

ネモ(本名:根本直樹)
世界最大規模のe-sportsチームであるTeam Liquidに所属。平日はスクウェア・エニックス社員として勤務し、週末はプロゲーマーとして兼業を両立しながら世界で活躍する社会人プロゲーマー。ストリートファイターシリーズの格闘ゲームをプレイする。

戦歴
TOPANGA League 6(日本)優勝
Red Bull Kumite 2017(フランス)優勝
ストリートファイターV 昇竜拳(SHORYUKEN)トーナメント(日本)優勝
Capcom Cup 2017 Last Chance Qualifier(米国)優勝