「毎日強制的に残業をさせられる」「仲間はずれにされた」「上司に怒鳴られた」――。

雑誌やテレビなどで、さまざまなパワーハラスメント(以下、パワハラ)に関するニュースを目にする機会が増えました。最近はパワハラが社会問題へと発展しつつありますが、どこからがパワハラだと認識すればいいのでしょうか。

前回ご紹介した「セクハラの判断基準にグレーゾーンはない!? 基準と対応策」に続き、今回もセクハラ・パワハラ防止に詳しい、産業カウンセラー・ハラスメント防止コンサルタントの加藤勝雄さんにお話を伺いました。

 

パワハラには法令規定がない!?

厚生労働省が2017年に発表した「職場のパワーハラスメントに関する実態調査」によれば、パワハラの予防・解決のための取り組みを実施している企業は、6年前の45.4%から52.2%に増加しています。単純に数字だけを見れば、企業の対策は改善されている結果となっています。

(※回答は2016年7月〜10月に実施した調査を取りまとめたもの。2012年度にも実施し、今回の結果と比較しています)

しかし、過去3年間に「パワハラを経験した」と回答した人の割合は「25.3%」(およそ4人に1人の割合)から「32.5%」(およそ3人に1人の割合)へ。先ほどの結果と相反して、パワハラを受けた人の割合は全体的に増えているようです。

 

「企業側は予防・解決に取り組んでいますが、パワハラの相談件数は、この10年間の統計を見ても着実に増えているのが現状です」(加藤勝雄さん、以下同)

 

セクハラに対しては男女雇用機会均等法(第11条)という「法的な根拠」がありますが、パワハラにもそうした法的な根拠はあるのでしょうか。

 

「パワハラは間違いなく悪質な行為ですが、セクハラのように法的な定めがありません。しかし国はパワハラの防止対策に乗り出しており、その定義や判断基準が公表されています」

 

以下で解説する「きちんとした根拠」に基づき、パワハラに関する見識を深めていきましょう。

 

自分に当てはめて考えよう―6つの行為類型

厚生労働省には「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキンググループ(WG)報告」というものがあります。これは、職場内のいじめ・嫌がらせ、そしてパワーハラスメントが社会問題として取り沙汰されるなかで、2012年に発足したワーキンググループ(WG)です。これらWGや検討会での議論が繰り返された結果、現段階においては「パワハラ」は次のようなものだと考えられるようになりました。

 

●パワハラとは

職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為

(出典:厚生労働省「あかるい職場応援団」)

 

いくつかの重要なキーワードを、それぞれ加藤さんに解説していただきましょう。

 

●職場

職場とは「労働者が業務を遂行する場所」のほか、通常就業している場所以外(例:取引先の事務所、打ち合わせ中の飲食店、就業時間外の宴会、休日の連絡等)も含まれます。

 

●職場内の優位性

基本的には「相手に対して実質的に影響力のある状態」を指しますが、なにも「上司→部下」のようなごく一般的な上下関係に限らず「キャリアや技能に差がある場合」「雇用形態に違いがある場合」も含まれます。また近年では、同僚同士のパワハラや、「部下→上司」のパワハラ―いわゆる「逆パワハラ」もあるので注意が必要です。

 

●業務の適正な範囲

厚労省の「あかるい職場応援団」にある6つの行為類型に整理するとわかりやすいと思います。ただしこれらはあくまで「例示的列挙」(よく似たものにも適用される)であり、「限定列挙」(これらに限定されるもの)ではないので注意してください。

 

〈パワハラの行為類型〉

①身体的な攻撃

暴行・傷害(叩く、殴る、蹴る等)

 

②精神的な攻撃

脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(メールでの罵倒、執拗に叱る等)

 

③人間関係からの切り離し

隔離・仲間外れ・無視(席を隔離する、催しに参加させない等)

 

④過大な要求

業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害

 

⑤過小な要求

業務上の合理性がない能力・経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じる、仕事を与えない

 

⑥個の侵害

私的なことに過度に立ち入る(彼氏・彼女のことを過剰に聞く等)

 

「基本的には上記のいずれかに該当する行為が、パワハラに当たると考えられます。それらの判断のポイントとしては、表現、言葉づかい、声の大きさ、時間の長さ、回数の多さ、場所などが重要な要素になります」

 

判断基準のポイント―セクハラは“不快”、パワハラは“不当”

ここからは、いくつかの事例とともに考えていきましょう。

 

Aさんは始業時間を過ぎても、スマホでゲームをしています。課長はそんなAさんの行動を注意し、スマホをしまうように命じました。Aさんは「課長だって取引先の人と、休日にゴルフに行く約束をしているじゃないか」と怒り心頭の様子です―。

 

Bさんは、ふだん一緒に仕事をしている先輩から、たびたびチームでの飲みに誘われます。チームメンバーとの親睦が深まったことで、たしかに仕事がしやすくなりましたが、プライベートの時間を大事にしたいBさんはその誘いを少し不満に思うようになりました―。

 

これらはパワハラに該当するのでしょうか?

 

「いずれも先述したようなパワハラには該当しないと思われます。基本的に、業務の適正な範囲内とされること―すなわち、企業・組織ルール維持に必要な注意・叱責、業務上の正当な指示・命令、人事評価制度に基づいた評価・処遇などはパワハラとはなりません。

さらに厚労省のWG報告では、個人の受け取り方で『業務上必要な指示や注意・指導』を不満に感じたりする場合でも、これらが業務上適正な範囲であればパワハラに当たらない、としています。

また、パワハラの場合、精神的・身体的苦痛を与えられた場合の感じ方は、本人の主観的判断ではなく『同種の労働者がどう受け止めるか』といった客観的判断となります。つまり、セクハラは“その人が不快”に思ったかどうか、パワハラは“周囲から見ても不当”であるかどうかに準拠するという違いがあるのです」

 

Aさんの場合は「業務の適正な範囲内」と考えられます。Bさんの場合も、たとえ本人が「少し不満」だと感じたとしても、チームの結束力を上げるために先輩が企画している飲み会であり、実際に親睦が深まることで「仕事がしやすく」なったのであれば効果があったと考えられます。よほど強要されるような飲み会でない限り、パワハラと判断するのは難しいかもしれません。

 

万が一「パワハラ」を受けたら……

万が一、パワハラ行為があった場合は、しかるべき機関に相談しましょう。

 

厚労省は「企業が職場のパワハラ対策として取り組むべき項目」として、トップのメッセージ(パワハラをなくすべきだと明確に示す)・ルールの整備・実態把握・教育・周知の「予防措置」、そして相談・解決窓口の設置、再発防止の取り組みの「解決措置」を設けることを提言しています。もしもパワハラを受けたと感じた時は、まずは自分が勤めている会社の相談窓口などに相談を。

 

もしも社内に相談できるところがなければ、外部の相談窓口を利用しましょう。記事中に何度か出典として明記している厚生労働省 雇用環境・均等局による総合情報サイト「あかるい職場応援団」には、パワハラの関する裁判事例、企業の取り組み、パワハラ対策などの情報とともに外部の相談窓口へのリンクが貼られていますので、そちらも参考にしてください。

 

(取材・文:安田博勇/編集:東京通信社)

 

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識者プロフィール
加藤勝雄(かとう・かつお)

加藤勝雄(かとう・かつお)
産業カウンセラー、ハラスメント防止コンサルタント。大学卒業後、首都圏地方銀行に入行、労組専従、都内支店長、人事部長、常務取締役等を歴任。現在は民間企業、公的機関でセミナー研修講師として活躍中。公益財団法人21世紀職業財団認定 ハラスメント防止コンサルタント、同財団客員講師、求職者支援訓練校では就職支援責任者。昨年、総務省消防庁「ハラスメント対策ワーキンググループ」有識者委員を務める。アンガーマネジメントシニアファシリテーター、2級キャリアコンサルティング技能士。