職業準備性を高めるために~精神科医に聞いた、就労を継続するために必要なこと

職業準備性を高めるために

障害のある方が転職・就職をするだけでなく、その後の就労を継続するには「職業準備性」を高めることが必要です。ここでいう「職業準備性」とは、日常の生活リズムと健康管理、仕事仲間とのコミュニケーション能力など、はたらき続けるために共通して求められる基礎的な能力のことをさします。この「職業準備性」を高めるために必要なことについて、精神科医の先生にお話を伺いました。

職業準備性とは、はたらくために必要な力

障害があっても、はたらくことは大切でしょうか?

私が外来で出会う患者さんの多くは、時には家から出られずにひきこもっている方でも「はたらきたい」と口にします。「はたらく」とは、単に生活のためのお金を稼ぐ以上の意味があるようです。仕事を通して人から認められること、役割を果たすこと、感謝されること、そういったことが、自身の居場所を確保し自己肯定感につながるということを、彼らは知っているのでしょう。だからこそ、私も「はたらきたい」という方に対しては、医者として出来る限りの援助をしてきました。

はたらくためには、どんな力が必要でしょうか?

「はたらく能力」は、なにも特殊な技能や経験、あるいは資格のことだけを指すのでありません。技能や経験はひとそれぞれです。今日では、さまざまな支援機関が本人の技能や経験に応じた就労支援を提供しています。必ずしも本人が望むレベルの収入は得られないかもしれませんが、ひと昔前に比べて、多くの外来患者さんがそれぞれの技能や経験に応じてそれなりの働き口を見つけられるようになりました。ただし、どのような仕事であれ、共通して求められる基礎的な能力があります。それが、このサイトで言う「職業準備性」です。

「職業準備性」とは具体的にどんなことを指すのでしょう。

多くの仕事は毎日、朝の決まった時間から始まります。概ね決まった時間に起き(そのために起床の7時間ほど前に就寝し)、決まった時間に家を出て遅刻せずに職場に着かなければなりません。ある意味単調な生活を、長い期間続ける必要があります。つまり、生活リズムと時間を管理する能力、長期的な見通しを持って行動する能力が、はたらくためには必須なのです。
これらは、従来はやる気や心がけの問題、とされていました。朝起きられないのも、遅刻してしまうのも、計画性が無いのも、本人の問題と片付けられてきたのです。確かにそういう一面もあることは人によっては否定できないかもしれません。しかし、私の外来患者さんの中には、どんなに頑張っても朝は起きられない、という人がいます。また、居眠りするつもりは無いのに残念ながら眠ってしまう、という悩みを持っている人もいます。瞬間的に輝く知性・創造性を発揮できても、持続力が全く無い、という人もいます。結果的に「やる気が無い」「失礼だ」などと決めつけられ、傷つき自信を無くしている人が何と多いことでしょう。

自分から積極的に専門医や専門機関に相談してみる

なかなか理解されず、一人で悩んでいる方も多そうです。

そうですね。自分はダメだ、と決めつけてしまう前に、こういった問題でお悩みの方は、一度精神科医療機関を受診してみてはいかがでしょうか。精神科医の立場から言えば、このような睡眠・覚醒の問題や計画性・見通しの問題は、統合失調症でも、うつ病でも、ADHDでも生じうるものです。それらの原因が無くとも、睡眠・覚醒リズム障害が生じることもありますから、専門医の意見を聞いてみると良いと思います。
すでに通院中の人も、必ずしも「職業準備性」の具体的なところを主治医と話し合っている人は少ないように思います。「何が問題なのか」自分なりに考え「今は具体的にどうなのか」ということを記録につけ、それについての対策を主治医に尋ねてみてはいかがでしょう。精神科の外来はどうしても短時間診療になりがちで、医者の方から「あれはどう?」「こっちはどうなっている?」と尋ねることは必ずしも多くはありません。しかし遠慮することはなく、自分で「今困っていること」を積極的に主治医に伝えることをお勧めします。そういう投げかけを受け止め一緒に考えてくれる医者が、就労の実現にとって良医であると言えます。

専門家に相談することが「職業準備性」を高めるきっかけになる、ということですね

職業準備性には、上記の睡眠・生活リズム・体力以外にもさまざまな面があると思います。たとえば頭の回転や正確さ、人の話を聞いて理解すること、責任感があることなど。自分にとって必要な職業準備性が何なのかを考え、その結果を主治医に伝えて、改善策を考えてみることも良いと思います。
改善したい点が明確になれば、薬物療法もそれなりに役に立つことがあります(特にADHD傾向の方で朝が苦手だという場合にはぜひ専門医にご相談なさってください)。あるいはすでに行われている薬物療法が変更されることも出てくるでしょう。
時には耳の痛いことを言われることもあるかもしれません。でも、医者が何かしてくれるのを漠然と待つのではなく、みなさんの方から医者に積極的にはたらきかけ、問題解決の助力を得ることが職業準備性を高めるために必要なことだと私は思います。

まとめ

自分自身で不足している能力や必要な職業準備性が何なのか、一人で把握することは非常に難しいことです。そのため、お悩みの方は就労移行支援事業所に相談してはいかがでしょうか?就労相談から「働く準備」を整えるためのさまざまな支援が受けられます。

内定を得ること・就職することはゴールではありません。このサイトをご覧になっている皆さんが、就労を継続することを通して、毎日の生活をより良いものにし、人生を豊かなものにしていって欲しいと、心から願っています。そのために、まずは「職業準備性」を高めていくことについて、支援を受けてみてはいかがでしょうか。
皆様に良い出会いがあることをお祈りいたします。どうか、幸運を。

山科 満(やましな みつる)精神科医

医学博士、精神保健指定医、精神科専門医制度指導医、日本精神分析学会認定精神療法医スーパーヴァイザー、臨床心理士
1989年 新潟大学医学部卒業、順天堂医院精神神経科研修医、東京都立松沢病院医員、順天堂大学医学部講師、文教大学人間科学部臨床心理学科教授などを経て、2010年4月より中央大学文学部人文社会学科心理学専攻教授。2012年度から中央大学共同研究プロジェクト「中央大学における発達障害を抱える学生の実態把握と教育・発達的支援に関する研究」に従事した。
著書に『稀で特異な精神科症候群および状態像』(星和書店・共著)、『現代の子どもと強迫性障害』、『精神分析的診断面接のすすめから』(岩崎学術出版社・共著)、『治療作用』(岩崎学術出版社・共訳)などがある。

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