誰もがモノづくりに参加。追体験できる「クラウドファウンディング」。

ハード+ソフト+クラウドの3つはつながった。
人とつながる重要な部分は、妻のひとことが解決。

 「ものアプリハッカソン」を通じて、Moffの向かうべき方向が見えてきました。これからは、ハードとソフトを動かして得られた(クラウド上の)データを元に、新しい体験を提供すべきで、ハードとソフトとクラウドの3つはセットかもしれないなと思ったんです。その考えを進めていくうちに、僕は自らをハード寄りの人間だと思っているんですが、だんだんハードの位置づけが僕のなかで変わりました。ハードウェアは、「人間との接点をどうするのか」というだけのものにすぎなくて、実はソフトウェアとクラウド上のデータ解析、機械学習などによって、ユーザーにどういう形でフィードバックするのか。そちらのほうが大事だなという考え方です。
 そんなふうに思っているところで、シリコンバレーでピッチコンテスト※に出る機会があったんです。そこで、「CrunchBase」という世界中のスタートアップをデータベースにしている会社の代表・Matt Kaufmanという人から、「ハードウェアはシンプルに」「機能やサービスはソフトウェアで拡張しろ」とアドバイスを受けたんです。「君のやっていることはとてもいいし、そのほうが可能性が無限に広がる」と言われました。まさに自分がそうだろうなと意識していたことに、お墨付きをもらったような気がして、あと押しをされましたね。
 そうした「ハード+ソフト+クラウド」の3つがつながることと、ハードウェアをシンプルに、ソフトウェアで機能やサービスを拡張することには、確信を持てたんです。ですが、ハードウェアと人間をどうつなぐかという部分は、「バンド」という発想が出るまでは、答えを見つけられずにいました。
 デバイス自体はずっとつくり続けていたんですが、「これじゃユーザーは使いづらいやん」とか、「データを取るにも付ける位置で値がめっちゃ変わるやん」って、行き詰まっていました。そこに「サンフランシスコジャパンナイト」というピッチコンテストに出ることになり、どうやってデモをしようかと、前日までウンウン悩んでいたんです。それを見て、うちの奥さんが「マジックテープ(面テープ)でつけてみたら」って言ったんです。「えー、マジックテープ? これにマジックテープっておかしくないか」ってブツブツ言いながら、センサーにマジックテープを通してみたら、「お、時計ぽいな」って。さらに腕につけて固定してみると、それを起点にデータを取ればいいから、「めっちゃデータ解析がやりやすくなる」てなったんです。そこからですかね。問題も解決したし、非常に可能性が広がった瞬間でした。
 いくつかの試作段階を経て、現在と同じ形状のシリコンバンドで参加した「Kickstarter」では、「クラウドファンディング」ならではの面白さも体験しました。「Kickstarter」で予約をしてくれた人たちへの配送直前のことです。僕がボタンをチェックしたら、ちょっとクオリティが気になったので、全部1回工場に差し戻して再作業をさせたんです。もちろんコストも余計にかかりますし、配送も遅れてしまいます。お客さんも怒るんじゃないかなと思いました。
 ですが、遅れる理由を「ボタンのタッチが柔らかすぎて……」と、正直にこと細かに書いて投稿したら、むしろそれを、あと押ししてもらえる感じだったんです。「Kickstarter」のようなクラウドファンディングを選んだ理由は、事前にお客さんも資金も付くという、モノづくりにはとっても魅力的な場で、市場に出したときの反応が分かることからでした。それが、こうして応援してもらって心強さを感じたり、応援してくれる人もモノづくりに参加しているように思ってくれたり。そんな、クラウドファンディングの本質なのかなという体験もありましたね。

※「エレベーター・ピッチ」に由来するもので、「起業家はエレベーターの中で投資家に会ったら、自分のビジネスプランを30秒で的確に伝えなければならない」というシリコンバレーの考え方にならった、ビジネスプランや新商品・サービスをプレゼンテーションするコンテスト。

クラウドファウンディングの概念図

2014年3月、『Moff Band』のお披露目を兼ねてクラウド・ファウンディング・サイト「Kickstarter」に掲示。48時間で目標金額2万米ドルを達成し、最終的に7万8,000米ドルを獲得(日本円で約800万円)。amazon.co.jpでも予約が殺到し、日本でも話題となった。事前に市場のニーズが確認でき、スタートアップの資金も獲得できる。

Moff Bandの進化で変わる?ユーザーインターフェース

画面とモニタではない、新しいナチュラルインタ
フェイスを通じて、どんな学びも作業もワクワク、楽しく。

 『Moff Band』は、まだスタートを切ったにすぎません。これから本格的にやりたいと思っていることの1つは、あらゆる人間の動き、姿勢を数値化し、そのデータをライブラリー化すること。僕らのクラウドにあるライブラリーを使えば、いろんな人間の動きを活用したサービスが、何でもつくれますよというプラットフォームをつくることです。
 もう1つは、今の画面とキーボードを中心としたユーザインタフェースとは、違うつき合い方を再定義したい。学ぶにしても、作業するにしても画面と向き合うんじゃなくて、「人間のナチュラルな動きで、同じような効果が得られる」というように。
 今のコンピュータのユーザインタフェースは、効率や作業性は高いと思うんです。だけど、みんなで「アイデアを出し合いながら、楽しくクリエイティブなことを」っていう場合は、違うと思うんですよね。もっとワクワク、楽しい感じで仕事ができるかもしれない。そういったユーザーインタフェースとの関係を、どんどん再定義しようと思っています。それは、コンピュータだけじゃなくて、モノの概念も同じで。今、『Moff Band』は、その2つのテーマに本気で取り組んでいます。
 お客さんからのフィードバックで、「何もモノを手にしてないんだけど、モノを持って遊んでいるような感覚だ」って言ってもらえるんです。それは、僕らがまさに狙っていたところ。モノがなくても、全部のおもちゃを持っているかのように遊べる。何でもかんでも買い替えて、機能を増やすんじゃなくて、今持っているデバイスに、ソフトやクラウドで機能を増やしていきたいですね。
 幸い『Moff Band』が提供するプラットフォームに関しては、個人の開発者の方から、超有名な大手企業の方まで声をかけていただいています。それに今後は、他社、サードパーティーみたいな部分に関しても、参入を歓迎する環境を整えたいと思います。
 今後に関して心強いのは、やっぱり鎌田さんが取締役としても入って、支援してくださっていることです。最初にお目にかかったのは、昨年東京大学でやったピッチコンテスト。そのとき僕らは2位でした。それまでも、ピッチコンテストなんかに出ると、「ただ音が出るだけでしょ」と言う人がいる一方で、「これは何か違う気がする」と言う人もいて、評価が二極化することが多かったんです。
 そうしたこともあり、僕は「これは音が出るだけのただのおもちゃでしょ」と言う人には、とくに補足説明をするでなく、毎回「ええ、そうです」って答えていました。ところが、鎌田さんはなんのご説明もしていないのに、最初からおもちゃとしての面白さよりも、明らかにセンサーのデータを取って、面白いプラットフォームになる可能性の部分を話してくださった。ちゃんと、そのバックグラウンドにあるテクノロジーを理解した上で評価をしてくださる人は、それまで意外といませんでしたから、本当にビックリでした。しかも、それまでは「なんか普通じゃない」「なんか可能性を感じる」といった曖昧な言葉をいただくことが多かった『Moff Band』を、「明確に言語化して、ご理解いただいてありがとうございます」という感じでしたね。
 毎回、鎌田さんとディスカッションさせていただくと、目線が上がります。やっぱり僕らも日々のことがたいへんで、短期的に成果を上げようとすると、どうしても目線が下がってしまい、目の前のものに飛びついてしまうようなところがあります。ですが、鎌田さんはご自分の経験を基に、大所高所からアドバイスをくださいます。
 例えば、プラットフォーム戦略で、具体的にプラットフォームをどうやってつくっていくかというときに、僕らは何となく小手先で考えてしまいがちです。ですが、鎌田さんは、Windows®のマイクロソフトのビル・ゲイツは、どうやったのかとか、Androidはどうやったのかという、そういった大きな視点からのアドバイスをくださるんです。そうすると、僕らも「もっと目線を上げなきゃ」となり、視野が広がるというか、非常に勉強になります。そうしたアドバイスをいただける環境は、なかなかない。メチャメチャ、グッときます。
 こうした恵まれた環境で、『Moff Band』はあくまで第一歩として、ナチュラルインタフェース、プラットフォームとしての可能性を追求していきます。

ナチュラルインターフェース、プラットフォームとしてのMoff Bandの可能性の概念図
  • Moff 開発者 高萩昭範氏01
  • Moff 開発者 高萩昭範氏01
  • 起業サポーター 鎌田富久氏01
  • 起業サポーター 鎌田富久氏02