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弘兼憲史先生インタビュー後編
漫画家に「転生」するために大事なこと

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絶大な人気を誇るサラリーマン漫画の金字塔『島耕作』シリーズ。作者の弘兼憲史先生に、漫画家を目指す仕事人のための実践的な漫画術を語ってもらった。今まで漫画を描いたことのない一介の仕事人が、漫画家に「転生」するために必要なこととは何か?

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弘兼憲史(ひろかね・けんし)

1947年山口県岩国市生まれ。早稲田大学卒業。松下電器産業に勤務の後、1974年漫画家デビュー。
『人間交差点』(原作 矢島正雄)で第30回小学館漫画賞、『課長 島耕作』で第15回講談社漫画賞、『黄昏流星群』で2000年文化庁メディア芸術祭優秀賞と2003年漫画家協会賞大賞を受賞。2007年には紫綬褒章を受章している。
主な作品はほかに、『ハロー張りネズミ』『加治隆介の議』など多数。現在は『会長 島耕作』(モーニング)、『黄昏流星群』(ビッグコミックオリジナル)を連載中。

インプットとアウトプット、漫画のヒントは映画から

――ここからは先生の漫画の執筆方法について伺っていきたいと思います。まず、日々の仕事の中から、先生はどうやって漫画のネタを見つけていたのでしょうか?

弘兼実はこういうことをして漫画を描こうとか、こういうメッセージを描こうとか、その時は特に考えていなくて、行き当たりばったりなんですよ。ただ、自分が面白いと思うものを描いてきました。

アイデアのもとは、仕事を辞めてから6カ月のあいだに見た、膨大な数の映画ですね。心に残ったシーンや伏線をノートに書きためていました。その引き出しがいっぱいあるので、ストーリーを考える時は、いくつかのシーンをそこから持ってきて、コラージュのように組み合わせて考える。そういう作り方をしていましたね。

――その当時、好きな映画はどんな作品でしたか。

弘兼小林正樹監督の『切腹』や『上意討ち』という時代劇です。ヒッチコックの映画もよく見ました。最も感動したのは、スタンリー・キューブリック監督の『2001年宇宙の旅』です。この哲学的な映画には度肝を抜かれました。それと、クロード・ルルーシュ監督の『男と女』は、いろいろなところで漫画のヒントになっています。

大事なのは「起承転結」ならぬ「承起転結」

――アイデアを漫画にする時に、大事にしていることを教えてください。

弘兼ぼくはラストシーンを大事にしていて、最後は余韻が残るような大コマで決める。読み終わっても、しばらくページから目が離せなくなって、5秒くらいはその絵を見つめてほしいと思っています。イントロに関しても、スターウォーズのように、最初から文字を出して説明する漫画は駄目なんですよ。雑誌には、いろいろな漫画が掲載されています。読者はある漫画を読んで、その気分に浸っていますから、次の漫画を読み出す時に、心の切り替えをしないといけない。だから、表紙を見た時に、スッと入り込みやすいように、セリフは多く入れないで、大コマで出します。この漫画は違う漫画なんですよというのを読者に見せて、その世界に引きずり込むんです。

だから、漫画は最初と最後が大切です。その間はつなぎのようなものですね。ストーリーを作る際、起承転結を考えるのが一般的ですが、漫画の場合は「起」がモタモタすると面白くないので、「承起転結」が良いです。いきなり何かが起こって、なぜそのシーンが起こったかを回想シーンで出す。それからどんでん返しがあって、最後に結び。このような「承起転結」でプロットを考えると、新人は作りやすいと思います。例えば、家庭で食事するシーンから始まると、なかなか読者が読んでくれないですよ。それを車にはねられるようなシーンから入ると、これからどうなるんだろうと読者を引き込めますよね。

――なるほど!それでは漫画家に必要な画力についてはいかがお考えですか?

弘兼漫画には絵・ストーリー・構成という要素がありますが、そのなかで、いちばん大切なのは構成だと思います。映画で言えば、編集のようなものですよね。漫画も、膨大なカットをつなぎ合わせて、読みやすいように流れを作りますから。絵はそんなにうまくなくても良い。やっぱり、ストーリーと構成です。

リアルとフィクションの境目、仕事の経験をどう漫画に活かすか?

――その際、どこまでをリアルにするか悩む人もいると思います。そのバランスについては、どのようにお考えですか?

弘兼確かに、リアルに描いているだけでは、面白くならないと思います。『会長島耕作』だって、リアルにするなら取締役は毎日会議ですよ。昼は会議をやりながらカレーライスを食べて、夜は立食パーティなんかに出て、そのまま帰って寝る。これだけではストーリーになりません。だから、『島耕作』の場合は、ドラマチックな要素を入れることを考えて、男女の絡みを入れるわけですよね。先ほど話した経理だったら、不正に領収書を出すやつをやっつけるストーリーでしょうか(笑)。

それと、すごくリアルに描いておいて、最後はちょっとフィクションを入れる。そういうところが描けると、リアルっぽいフィクションになると言いますか。もうお亡くなりになりましたが、作家の半村良さんは、日常のことを描きながら、いつの間にかSFになっている上手さがありました。どこからフィクションになっていくかは、その人の腕次第です。

漫画家は副業として始めるのが良い

――今、会社員の人が一念発起して漫画家になりたいと思った時に、何をすべきでしょうか。

弘兼いきなりゼロからストーリーを作って作品を完成させるのは非常に難しいので、最初はネットなどで自分の1日を題材にした漫画を描いてみるのが良いんじゃないでしょうか。それで漫画の世界が分かってきたら、ストーリーもやってみるというステップが必要かもしれないですね。

――これまでまったく漫画を描いたことのない場合はいかがですか?

弘兼それは、(『ドラゴン桜』などの)三田紀房くんに聞いたほうがいいですよ。彼は漫研に入っていたわけでもなくて、西武の紳士服売り場にいたと聞いてます。おうちは岩手の洋服屋さんか何かで、実家に一度戻ったらしいんですが、何か稼げそうな仕事はないかというので、漫画家になったみたいなんですよ(笑)。三田くんは絶対面白いと思います。

――なるほど、ぜひ次回で聞いてみたいと思います! それでは漫画家として生きていく上で、大事なことは何だと思いますか?

弘兼締め切りを守ることです。サラリーマンをやっていた経験もありますが、納期が遅れちゃうと信用がなくなって駄目になるのと同じで、新人のうちから締め切りを破っていると、仕事はもらえないと思っていました。どんなに徹夜したって締め切りは守る。40年間漫画を描いてきて、落としたことは数えるほどしかありません。

――最後に、賞の応募者に向けたアドバイスをお願いします。

弘兼漫画家は、ずっと継続していく職業としては難しいものです。最初は副業にしたほうが良いと思いますね。仕事をやりながら副業として漫画をやるくらいの気持ちで入って、それで人気が出て自信がついたら、それ一本に絞るぐらいでいいんです。いきなり漫画で一生食えるなんて思うのは、甘い考えですよ。ぼくも、あまり努力してないように見えるかもしれないけど、結構寝ないで努力してますから(笑)。それに、ぼくは漫画が好きなんでね。描くのが好きだから、いくら徹夜をしたってつらくありません。ストレスも溜まらない。あんまり神経質に考えていると、プレッシャーでやられてしまいますので、根を詰めるのはほどほどに。でも、新人のうちは締め切りを守らないと駄目ですよ(笑)。

取材・文/プロダクションベイジュ

写真/井上絵里子

取材協力/ぶどう酒食堂さくら

「doda」と週刊漫画雑誌「モーニング」がコラボレーション

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