スマートフォン版で表示

現在、お知らせはありません。

泰三子先生インタビュー前編
女性警察官が漫画家に転生!!
『ハコヅメ』の泰三子が選んだ
「武器」としての漫画道

このエントリーをはてなブックマークに追加

モーニング編集部が新たに創設する「〇〇だったけど転職したら夢の印税生活で賞」略して「転生賞」。漫画家になりたい仕事人のための漫画賞だ。
『ハコヅメ~交番女子の逆襲~』でデビューした泰三子先生は、元女性警察官。10年勤めた警察を辞めて、漫画家に転身した理由とは? その背景にある大きな志と、「漫画の素人」だからこそ気づけたプロと渡り合うための漫画術について話を聞いた。

泰三子(やす・みこ)

某県警に10年勤務。2017年、担当編集者の制止も聞かず、公務員の安定を捨て専業マンガ家に転身する。
短編『交番女子』が掲載され話題になっていた「モーニング」誌上で、2017年11月より『ハコヅメ ~交番女子の逆襲~』の週刊連載がスタート!

「漫画は手段」転職のきっかけは同僚の過労死だった

――先生は約10年の間、警察に勤務されて漫画家に転職されています。警察のお仕事を選んだ理由、そこから漫画家を志された経緯をお聞かせください。

小さいころから交通事故や犯罪のニュースを見るのが苦痛で。それをなんとかしたいという思いで警察官を目指しました。

――どの部署にお勤めだったのでしょうか?

交番や防犯に関わる部署です。

――『ハコヅメ』を読むと、警察の仕事はかなりの激務だったように見受けられます。

人数が少ないので、みんな事案に追われるんですよ。総動員で当たっていく感じで、あまり部署の垣根もなく、事件があれば交通課でも出動します。

――一つの署にどれくらいの人数がいるものなのですか?

警察署によって違うんですけど、小さな規模だと100人もいないので、休みがほとんどない状態で…。毎日必死にやって、10年勤めました。

――そうしたなかで、突然なぜ漫画家になろうと思われたのですか?

そもそものきっかけは、防犯の仕事で、広報関係の企画や立案に携わっていたときまでさかのぼるんです。当時の副署長から「私たちおじさんは新しいことを考えるのは苦手だから、キミが良いと思うことをやりなさい」とおっしゃっていただいて。仕事を任されたことがうれしくて、考えたことをどんどんやっていきました。でも、責任を取るのはやっぱり上司なんですよね。

――任されたとはいっても。

上司に迷惑をかけない範囲を自分で決めて、ブレーキをかけているところがあったんです。だけど育休に入るころに、お世話になった同僚の刑事さんが過労で亡くなられて…。「これはなんとかしないといけない」と思ったんです。

――その出来事が大きな転機になったと。

警察官の過労を防ぐためには、どうしたらいいのか悩みました。それで、「警察に良い人材が集まれば仕事の負担が減って、過労死の多い現状を解決できるんじゃないか」と考えたんですね。

32ページの漫画に挫折、とにかく描いて送りつけた1ページ漫画

――そのときに、漫画を選ばれたのはなぜでしょうか?

警察を広報する手段として最適だと思ったからです。やっぱり警察は選ばれた人たちの特殊な世界だと思われがちなので、「しょうもない人たち」が毎日頑張っている現場なんですよ、ということを知ってもらい、「自分も警察官になれそう」と身近に感じてほしかったんですね。

――そのことを広く伝える武器として、漫画があったと。

そうです。だから最初は、高校や中学に配って、子ども向けにアピールできたらと思っていました。でも、警察には予算があまりないし、「しょうもない人たち」が主人公の漫画で、警察の広報をするようなやり方はハードルが高くて。それなら逆に「漫画雑誌に載っけてもらえればお金かからないな」と思いつきました(笑)。最初は32ページの漫画に挑戦したんですが、それまで漫画を描いた経験がまったくなかったので、描ききれなくて。そこで育休中に、1ページ漫画を何本も描く方針に変えて、それを編集部に送りつけました。

――恐るべき行動力です(笑)。それまで漫画に触れる機会はあまりなかったんですか?

家が貧乏だったので、『まんが日本の歴史』くらいしかなくて(笑)。

――ほとんど漫画体験がない中で、漫画家に転職するのは大きな決断だったと思います。決め手は何だったんでしょう?

電話をくれた担当さんの第一声が「構成力が素晴らしい」だったんです。ハンマーで頭をたたかれたような衝撃を受けました。小さいころから作文が好きで、学生時代も警察の部内でも、小さな賞をもらった経験があったんですが、それは「構成力」で褒められていたのか!と気づいて。この担当さんは信じられると直感しました。

――そのときに、お仕事を辞めることを意識されたと。

いえ、警官を辞めるつもりはなくて、ちょっと相談してみたいという感じでした。実は今でも、漫画家になったという気持ちは薄いんです。

――え、そうなんですか!?

漫画を描きたいというより、警察にいい人材が集まってほしいという気持ちが強いと思います。担当さんからは、1ページの読切を代原*1という形で載せていきましょうと言っていただいたんですけど、私としては、警察に在籍したままだと部署の人たちに迷惑がかかると思って、スパッと辞めました。それから、肝を据えざるを得なくなったわけです。

防犯の講話で鍛えられた読者を飽きさせない感覚

――今回、新設する転生賞は、プロの仕事人の方々を対象にしている漫画賞となります。漫画を描く上で、お仕事の経験が役立っていることはありますか?

警察で得た知識は漫画に落とし込んでいますし、なにより人を見る職業だったことが、漫画を描くときにも役立っていると思います。

――どんな人なのか、顔を見ると、分かるものですか?

顔というより、しぐさですね。もちろん警察官でもいろいろな人がいましたし、接する人も、幅広い人にお会いできたので、人物を観察する点では、仕事の経験が活かされているのかなと。

――『ハコヅメ』は警察官一人ひとりの個性がつぶさに描かれているから、現場のリアルな空気感がよく伝わってくるんですね。

うれしい感想です! 忙しくても楽しい職場だというのをリアルに描けたらと思っているので。かなり「お花畑」に描いていますが、実際はもうちょっと、きちっとした職場です(笑)。

――警察官時代から変わらずに大事にしていることはありますか?

私のなかのルールとして、警察で得た知識は描くけど、経験は描かないと決めています。実際の経験はなるべく描かない。

――なぜでしょうか?

「それを描いて迷惑がかかる人がいるかどうか」を考えるからです。私が公務員だったからこそ、被害者や参考人の方が話してくれた内容を、今度は自分が商売として活用するのは、ちょっと違うんじゃないかと思っています。そこに手を出さないと漫画が描けない状態になったら、もう辞めるつもりです。

――警察というデリケートな職業を、エンタメとして成立させるために大事なことは何でしょうか?

そうですね…質問の答えとはちょっとズレるかもしれませんが、防犯の仕事の一つに、「講話」というものがあります。2歳の赤ちゃんから、90歳のお年寄りまで老若男女を相手に、「幼児の防犯」や「振り込め詐欺」の話をするんですが、面白くないと聞いてもらえません。すぐに飽きる人が出てきたり、少人数だとヤジが飛んできたりします。そこで、どんな話をすると喜ばれるのか、もしくは飽きられるのかを見極める感覚が鍛えられました。署長の残念なエピソードを話すと、皆さん身を乗り出して聞いてくれて、喜ばれるんですよ(笑)。その経験があるからか、漫画を描くときにも、読者の顔がなんとなく浮かんできます。

――講話の頻度はどれくらいだったんですか?

若いから押し付けられるということもあって(笑)、3日に1回のペースで、年に100回ほどです。人数も10人から1000人単位まで幅広いんですが、「数時間後に、この話を誰向けに何時間して」と急に言われることもあるんですよ。それに比べると、1週間かけてお話を作れる漫画は、すごく余裕があるかもしれません(笑)。

*1 代原…代理原稿の略。空いたページを埋め合わせるために代替として掲載される作品およびその原稿を指す。

取材・文/プロダクションベイジュ

「doda」と週刊漫画雑誌「モーニング」がコラボレーション

すべての働く人にチャンスあり!自分の仕事を漫画にして、夢の印税生活をゲット! 漫画が描けなくてもOK!原作も大募集!

サラリーマン、派遣社員、パート、自衛隊員、医者、看護師、裁判官、弁護士、パティシエ、教師、料理人、警察官……なんでもOK!あなたの経験を元にした漫画作品・原作を募集しています。

あなたの作品が『島耕作』シリーズ(弘兼憲史氏)や『カバチ!!!』(田島隆氏)、『ハコヅメ〜交番女子の逆襲〜』のような人気作品になるかも!

詳しくはこちら

このエントリーをはてなブックマークに追加