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池田 千尋

選手として、
教師として。
35歳の転換点。

池田 千尋

TACHIKAWA DICE.EXE

posted 2020/02/11

「ストリートボール界No.1スラッシャー」と呼ばれ、長らく国内のストリートボールをリードしてきた名プレーヤーでありながら、一方では中学校教師としての顔も持つ、異色の存在がいる。3x3日本代表、ワールドツアーファイナルなど、華々しい経歴の裏側には、苦渋を味わった過去、選手そして教師としての迷いや悩み──泥臭い人生史が見え隠れする。35歳、円熟期を迎えるベテランはいま、どんな景色を見る。

平日は教師、
週末は選手

池田 千尋

さっそくですが、現役の中学教師である池田選手。
教員になったきっかけは?

大学時代に、「周りがとっていたから」程度の理由で教職課程をとっていたんですが、教育実習に行ったらすごく楽しくて、「自分に合ってるかも」と感じたことが始まりです。卒業後は、ストリートボールリーグで競技活動をしながら、ろう学校の寄宿舎指導員や、中学校の非常勤講師として仕事をしていました。その後、教員免許をとって、教師として今の中学校に赴任したのが30歳のとき。今年で6年目になりますね。

今はどのように仕事をされているのでしょうか。

学校では体育教師をしながら、バスケットボール部の顧問をしています。平日は授業が終わってから部活が始まって、部活が終わったら、今度は自分のチームの練習に行く。20時ぐらいから23時ぐらいまで練習をして、家に帰って、また翌日は朝から仕事に行く。そして土日は練習か試合に出る。そんな感じです。

池田 千尋

すごいスケジュールですね。選手と教師の両立は大変では?

それ、よく言われるんですけど、僕自身は特別なことをしている意識はないんですよね。3x3は仕事をしながら競技に参加している選手ばっかりなので、別に普通のことかなと。ただ、教師という職業柄、人から見られている感覚はすごくあります。生徒も応援してくれているので、下手なプレーはできないし、練習も人一倍努力する。注目されるぶん、競技には熱が入りますね。

裸足で
始めた
バスケット

池田 千尋

池田選手のバスケットとの出会いを教えてください。

小学生の頃はずっと空手をやっていたんですが、5年生のときに漫画の「スラムダンク」が流行って、その影響で始めました。その頃は広島の江田島というところに住んでいたんですが、裸足でバスケやってました。本当に田舎で、小学生は常に裸足なんですよ(笑)。そこからバスケに夢中になって、中学に上がってからもずっとバスケをやっていました。

池田 千尋

池田少年はどんな子どもだったんですか?

子どもの頃はケンカばっかりしていて、わりとどうしようもないやつでした(笑)。相当やんちゃだったと思います。でもバスケットを始めてから、チームスポーツというものを学んで、すごく変わりましたね。上には上がいるということを知って、謙虚さも身についた気がします。バスケやってなかったら危なかったですね(笑)。

その後のバスケットキャリアは?

中・高・大と部活バスケをやって、2005年の大学卒業と同時に、「平塚Connections」というチームが立ち上がり、そこにスカウトされました。そこから「ALLDAY」や「SOMECITY」、「LEGEND」などのストリートボールの大会やリーグに出るようになって、気がついたら15年目とかになっていた(笑)。2015年からは、3x3.EXE PREMIERにエントリーして、「GREEDYDOG.EXE」、「AGLEYMINA.EXE」を経て、今の「TACHIKAWA DICE.EXE」で活動をしています。

伝えたいのは
成功か、
失敗か

池田 千尋

選手として、また教育者としての思いや
ポリシーなどがあれば教えてください。

自分が学生の頃から、「キツいときこそ自分との戦いだ」という気持ちは常に持っています。あまり自分の考えを生徒に押し付けたくはないんですが、でもやっぱりしんどい時に自分から逃げずに向き合っていると、自信につながったり、周りへの感謝の気持ちが育ってくる。生徒にもそういう経験を積んでほしいと思っています。
これは余談ですが、ある漫画で、「人に何かを教えたい時は、自分の成功を伝えたい時か、自分の失敗を伝えたい時のどちらかしかない」というような台詞があったんです。自分はどっちだろうと考えたら、成功体験を伝えたいんだと気づいた。伝えたい思いの根底には、やっぱり自分の経験がある気がします。

池田 千尋

それは、具体的にどんな体験が基になっているのでしょうか。

大学時代、Bチームに落とされたんです。周りには不貞腐れている人間もいたんですが、僕はある同い年のチームメイトと一緒に、ずっと自主練をやり続けた。当時、Bチームは大学の体育館すら使えなくて、21時ぐらいにAチームの練習が終わった後に、僕らはBチームの練習場所から大学までまた戻って、そこから自主練。その道中がすごい坂道で、肉体的にも精神的にも本当にキツかったんですが、二人で励まし合いながら自転車を漕いで、毎日やり続けた。結果的にAチームには上がれなかったけど、あのとき自分に負けずに踏ん張り続けた経験は、今の自分の価値観の原点になっていると思います。

「変化
すること」
が楽しい

池田 千尋

池田選手の、日々のモチベーションはなんでしょう。

教師としては、やっぱり子どもたちの成長を間近で見られることですね。たとえば、バスケ部の卒業生が練習に来ることがあるんですが、彼らがOBとして現役の子たちにアドバイスしている姿を見ると、本当に感動します。「こんなこと言えるようになったのか」と、毎回驚きの連続。日々を一緒に過ごして生徒たちの変化や成長を見られることは、教師の特権ですね。
そして選手としては、やっぱり「勝つ」ということは変わらないモチベーションです。自分もベテランの立場になったけど、勝つことへの執着心は変わらないし、まだまだ第一線でやれるんだということは結果で証明していきたいと思っています。

最後に、これからの目標を教えてください。

なんでしょう、難しいですね(笑)。昔だったら、「日本代表」とか「リーグ優勝」とか即答できたんですが、今はすごく難しい。35歳という年齢になって、自分の心境や価値観がどんどん変化していると感じています。若い頃のような、何もかもがむしゃらにできた時期には戻れないし、ベテランだからこその迷いや悩みも感じるようになりました。でもだからこそ、今を大事にしたいと思っています。今はその自分の変化がすごく楽しいし、選手としてまだまだ成長できるという手応えも掴んでいる。一戦一戦を大事にしながら、新しい自分を育てていきたいと思っています。

池田 千尋

池田 千尋(いけだ ちひろ)

1984年2月17日生まれ、神奈川県出身。2005年、東海大学を卒業後、ストリートボールチーム「平塚Connections」に加入し、以来14年にわたりチームの中心として活動を続ける。2013年5月、3x3男子日本代表に選出され、第1回FIBA ASIA 3x3男子バスケットボール選手権大会に出場。2017年、「TACHIKAWA DICE.EXE」に入団し、3x3.EXE PREMIER 2018シーズン優勝を果たす。181cm、75kg。

  • Text by Naotaka Ashizawa
  • Photograph by Shunya Tomita
  • Website Design by Sonoko Hayashi
  • Art Direction by Junya Sakai
  • Coding by Aki Kuroda
  • Photo Provided by 3x3.EXE PREMIER

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