
試練の先に見つけた、
新たな出発点。
祐川 良太
HOKKAIDO ASIR DIVERGENT.EXE
posted 2020/09/08
2020年、北海道初の3x3プロチームとなった「HOKKAIDO ASIR DIVERGENT.EXE」は、3x3.EXE PREMIER参戦から2シーズン目を迎えた。チームキャプテンの祐川は、万感の思いで来たるシーズン再開の日を待っている。ここまでは、平坦な道のりではなかった。若くして命さえも脅かす「バセドウ病」を患い、復帰後は選手生命に関わる大怪我も経験した。何度もバスケットを諦めかけた彼を支え、奮い立たせてきたものはなにか。地元・北海道で再起を図る男に、その胸の内を訊いた。


バセドウ病
との戦い

まずは、祐川選手の現在の活動について教えてください。
現在、一般企業で営業職として勤務しながら、「HOKKAIDO ASIR DIVERGENT.EXE」の選手として活動をしています。チーム発足は2017年、今の選手兼代表の石田隼貴と二人で3人制バスケットのアマチュアチームとして立ち上げ、2019年から正式にプロチームとして3x3.EXE PREMIERに参加しました。2020年は新型コロナ感染症の影響で3x3.EXE PREMIERのレギュラーシーズンは全日程中止になりましたが、今はトレーニングを続けながら次の「3x3.EXE PREMIER JAPAN 2020 CUP」に向けて準備をしているところです。
現在は3x3選手として活動されていますが、最初のバスケットキャリアについて教えてください。
学生時代はずっと部活でバスケを続けてきて、大学ではインカレで準優勝も経験でき、卒業時にはいくつかのチームからオファーをいただきました。その中で、実業団チームを持つ東京の物流企業に、実業団選手として入社しました。しかし、入社して間もなく、甲状腺の病気である「バセドウ病」が発覚し、いきなりバスケができなくなってしまった。その後は病気の治療を受けながら、1年間はチームのサポート役に回らざるを得ませんでした。

社会人一年目の当時、病気が発覚した経緯は。
バセドウ病は、基本的にすごく気づきにくい病気なんです。症状としては、主に疲労感や不整脈、体重減少が続いていて、最初は「社会人になって単純に体力が落ちたのかな」ぐらいにしか思っていませんでした。でも、いよいよ普通に歩くのも辛くなり、体重は20kgも落ちてしまったため、病院で検査を受けたところ、バセドウ病が発覚しました。自分の場合、受診した時点でかなりギリギリの状態で、医師からも「よくこの状態で生きていられた」と言われるほど酷い状態でした。

3x3との
出会い

その後、復帰にいたるまではどのように?
病状が日常生活にも影響するレベルだったので、職場も倉庫の現場仕事から、負担の少ない事務職に配置換えをしてもらいました。その後は投薬治療をしながら安静に日常生活を送るという毎日。新社会人、実業団選手としてさあこれからという時期だっただけに、かなりストレスが続いて辛い時期でしたね。そして1年ほど経って体力が回復し、選手として復帰を考えていたときに、「3人制バスケをやってみないか」と先輩から誘いを受けたことがきっかけで、SOMECITYや3x3.EXE PREMIERで3人制バスケをプレーするようになりました。
3人制でプレーされた感想はいかがでしたか?
初めてコートに立ったとき、今までのバスケット人生で味わったことのないような高揚感がありました。頭が真っ白になって、試合中の音楽や歓声も一切聞こえないぐらい。3人制バスケを初めて見たときから「こんな世界があるのか」と夢中になって、のめり込んでいったことを覚えています。3x3はチームワークで強い相手を崩せたり、横の動きやスピード、1対1で戦えるのが魅力ですね。ただでかい3人を並べて勝てるスポーツではないので、シンプルだけど奥が深くて面白い競技だと感じています。

「CHIBA JETS.EXE」に所属された後、北海道へ戻られていますが、その経緯は?
実は、2015年のCHIBA JETS.EXE加入直後のプレシーズン中に、アキレス腱を断裂する大怪我をしてしまい、そのシーズンは丸々プレーできなかったんです。バセドウ病で1年を棒に振り、復帰できたら今度はアキレス腱断裂でまた1年……。もう、「お前はバスケットをやるな」と言われている気がして、完全に心が折れてしまった。すぐには立ち直れず、自暴自棄になった日が続きました。そこで一度競技から離れて、地元の北海道に帰ってやり直そうと、転職を決意しました。それから北海道で新しい仕事に就き、バスケへの情熱が戻った頃に頭に浮かんだのが3x3でした。「北海道で3x3チームを作ろう」と思い立ち、石田と一緒に現在のHOKKAIDO ASIR DIVERGENT.EXE(アシル)を立ち上げました。

挫折を
乗り越えて

現在はバスケットをプレーしながら、どんなお仕事をされているのでしょうか。
今は、食品の卸売・輸出入を行う商社で営業をしています。スーパーなどの小売店への自社商品の提案が主な仕事ですが、バイヤーさんと対面しながら、消費者の動向やニーズを分析して販売戦略を立てたり、お客様と一緒に形を創り上げていく作業がすごく楽しいですね。転職時に思い切って環境を変えたくて、営業に挑戦してみようと今の仕事に就きましたが、やりがいも感じますし、自分に合っている仕事に出会えたと実感しています。

病気や怪我、転職など、これまで困難や変化をどのように乗り越えてこられましたか。
まあいろんな経験をしてきましたが(笑)、今は公私ともに一番いい時期を過ごせていると思います。チームもいい状態だし、営業の仕事も軌道に乗ってきた。また私生活でも、北海道に戻ってから結婚し、子どもも授かりました。辛い時期もありましたが、今はとても幸せです。振り返ってみると、大学時代の監督がすごく熱い人で、常々「やってやれないことはない。やらずにできるわけがない」と言われていて、心が折れそうになったときはいつもその言葉を思い出して乗り越えて来たように思います。そして何より、家族の協力や支えがなければバスケットもできないし、今の自分もなかったと思うので、本当に感謝ですね。奥さんにもいろいろ負担をかけてしまったので、オフの日はできるだけ家族のためにできることを心がけています。

北海道に
3x3の
文化を

今、チームとしてなにか取り組んでいることはありますか?
競技活動以外では、小学校で子どもたちへのバスケットのクリニックを開いたり、地域のイベントに参加したりと、地域活動にも積極的に取り組んでいます。これはチームオーナーの考えでもありますが、ただ強いだけのチームではなく、3x3を通じて地域に貢献し、選手一人ひとりが子どもたちのお手本であり目標になれるようなチームを目指していきたいと思っています。また個人では、SNSでバセドウ病の闘病記録などを発信しています。自分の経験を通じて、同じような症状を持つ方に少しでも元気や勇気を与えられればと思っています。
これからの目標を教えてください。
まずは、北海道で3x3という競技を根付かせて、「北海道といえばHOKKAIDO ASIR DIVERGENT.EXE(アシル)」と言われるようになりたい。たとえば地元企業とタイアップしても面白いし、地域を巻き込んで3x3.EXE PREMIERを盛り上げ、競技の普及に貢献していきたいと思っています。そしていつか、地域の子どもたちが10年後、20年後にHOKKAIDO ASIR DIVERGENT.EXEの選手として活躍してくれたら最高ですね。自分自身も今30歳という年齢ですが、40歳ぐらいまでプレーを続けられたらと思います。ベテランでも第一線で活躍している選手もたくさんいるので、自分も負けないように頑張っていきたいですね。


祐川 良太(すけがわ りょうた)
1989月9月19日生まれ、北海道出身。東海大付属札幌高校から東海大学に進み、インカレ準優勝を経験。大学卒業後に5人制バスケットの実業団チームに入団も、直後に「バセドウ病」を発症。復帰後の2012年、「平塚Connections」に加入し、3人制バスケットボールのキャリアをスタート。その後、「CHIBA JETS.EXE」、「ZETHREE.EXE」でプレーした後、北海道初の3x3プロチームとなる「HOKKAIDO ASIR DIVERGENT.EXE」を発足。2019年より3x3.EXE PREMIERに正式参戦し、現在チームキャプテンとして活動中。190cm、85kg。
- Text by Naotaka Ashizawa
- Photograph by Yoshisato Komaki
- Photo Provided by 3x3.EXE PREMIER
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