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竹本タクシー

声の探求者が、
つぎに越える境界線。

竹本タクシー

3x3.EXE PREMIER MC

posted 2021/02/09

「自分が主役になるより、誰かを輝かせることのほうが得意だって気がついたんです」──かつて音楽の世界で成功を夢見た男は、はっきりと通る声でそう振り返った。一度は一般企業に身を置くも、安定を捨てて挑戦の道を選んだ。厳しい競争の世界で自分の強みを育て、たどり着いた一つの答え。音楽、スポーツ、教育、医療。あらゆる境界線を越え、この「声」の力を、誰かの役に立てたい。そこには幾多の困難を努力で乗り越え続けてきたからこそ、見える景色があった。

脱サラ、
音楽の道へ

竹本タクシー

現在、MCやボイストレーナーとして活躍されている竹本タクシーさんですが、学生時代から今のようなお仕事に就こうと考えられていたのですか?

いえ、まったく想像していませんでした。学生時代はスポーツ一色で、中学からバレーボールを本格的に始めて、高校で県大会3位になり、地区の選抜選手にも選ばれました。大学からスポーツ推薦で声もかかったんですが、「自分にはプロになれる実力はない」と見切りをつけ、推薦はお断りをしてバレーは高校で引退しました。大学進学後になにか新しいことを始めようと思っていたときに出会ったのが、音楽でした。カラオケがきっかけで歌が好きになり、軽音楽部に入ってバンド活動を始めました。パートはボーカルで、当時好きだったGLAYの曲なんかをよく練習していましたね。

今の仕事につながる音楽との出会いはこのときですね。大学卒業後はどのような道へ?

卒業後は音楽の道には進まず、一般企業に就職しました。某建材メーカーで住宅や店舗で使われる建材の営業をしていたんですが、仕事は想像以上にハードで、朝から晩まで働き詰めの毎日。そんなクタクタの生活が一年半ほど続き、「自分はなんのために生きているんだろう」と思い悩んでいました。ちょうどその頃、学生時代に音楽をやっていた友人がメジャーデビューして精力的に活動していたこともあって、余計に辛かったですね。悩んだ結果、「自分は挑戦する人生を選ぼう」と音楽の道に進むことを決心し、会社を退職しました。そこから音楽のいろはを学ぶために、ロサンゼルスの音楽学校へ留学することになりました。

竹本タクシー

会社を辞めて留学とは思い切った決断ですね。なぜロサンゼルスに行こうと?

東京で音楽学校を探していたときに、知人が「LAにいい学校がある」と教えてくれたんです。サラリーマン時代は仕事漬けでお金を使う暇がなく、蓄えは多少あったので、見学を兼ねてもう直接行っちゃおうと(笑)。現地に飛び、目指していたボーカリストの育成に強い学校に入学し、そこから一年半かけて音楽や発声の基礎を学びました。喉の構造や筋肉・声帯の動かし方など、そこで得た知見は、現在行っているボイストレーニング事業のメソッドにもなっています。その後、卒業を経て帰国し、ボーカリストとして活動していくための仕事探しからスタートしました。

経験ゼロから
スポーツ
MCに

竹本タクシー

帰国後は、どんなお仕事をしてこられたのでしょうか。

最初は、音楽業界の求人サイトを経由して、当時流行っていた「着うた」の歌入れや、リリース前のデモ音源を歌ういわゆる「仮歌」の仕事など、フリーランスでいろんなお仕事を経験しましたね。シンガーソングライターとしても活動していて、某プロ野球選手の公式ソングを手掛けてCDを出したりもしました。また、米国で学んだ声の理論を生かして、個人で「声の悩み専門教室」という形でボイストレーナー業を始めました。声に悩みがある方に対して、歌、話し方、日常発声などのサポートやトレーニングをレッスン形式で行っていて、かれこれ10年以上続けています。

現在のMCのお仕事を始められたきっかけを教えてください。

30歳を過ぎた頃、あるビーチバレーの大会運営に携わっていた先輩から、いきなり大会のMCを依頼されたんです。「歌えるんなら喋りもできるんじゃない」と言われて(笑)。そこで初めてMCをやってみたところ、なかなか好評価をいただけて別の大会でも依頼されるようになり、「もしかしたらMCは自分に向いているかも」と思うようになったんです。そんなとき、Bリーグの「東京エクセレンス」がアリーナMCを公募していたので応募してみたところ、面接を通過してシーズンで契約をしていただいたんです。それがMCとしてレギュラーでいただいた最初の仕事。以来、東京エクセレンスのMCを務めて現在で7年目になります。

竹本タクシー

アリーナMCとは、具体的にどんなお仕事なのでしょうか。

アリーナMCは主に、「情報を伝える」ことと、「場を盛り上げる」ことが役割です。たとえば試合中に得点した選手の名前や背番号、試合状況を説明することもそうですし、守備のときに「ディーフェンス!」と大きな声で観客にコールすることも仕事です。試合中は基本的にフリートークなので、状況や場の空気を読むことも大事。盛り上がるポイントもあれば、逆に「今はきっと何を言っても沸かないな」というときもあります。試合展開に応じて言葉を選んだり、抑揚をつけることで、会場の一体感を作ることを常に考えています。

3x3が
もたらした
転機

竹本タクシー

現在、3x3.EXE PREMIERでもMCも務められていますが、MCの立場から見た競技の特徴や魅力について教えてください。

3x3.EXE PREMIERの一番の特徴は、展開の早さですね。動きが止まることがほとんどないので、選手も観客も気を抜く瞬間が全然ない。残り0.5秒で逆転できたりするので、最後のコンマ何秒まで試合がどうなるかわからない面白さがあります。それだけに、MCは大変ですね(笑)。3x3.EXE PREMIERのMCは5人制と比べると実況に近いので、今の自分のMCのスタイルも、3x3を経験してかなり変わったなという感覚がありますね。瞬間瞬間で言葉を紡ぎ出す力や、見たものをそのまま表現する力もすごくついたと思います。

竹本タクシーさんのMCとしての意識やスタイルに、どんな変化がありましたか?

それまではBリーグの競技MCとして、「ミスなくきっちりやらないといけない」という意識が強かったんですが、3x3はストリート色が強いので、ある程度ラフに喋ったほうが場の空気と合うんですよね。たとえば、選手が競り合って客席に突っ込んでしまったときに、「大丈夫ですかそこ~」「逃げるかどうかは選手の体重で判断してくださいね~」とくだけて言う。するとちょっとした笑いが起きて、ハプニングも盛り上がりにつながったりする。そういう表現やユーモアを出せるようになって肩の力が抜けたというか、「ちょっとラフでもいいんだ」という余裕が持てるようになった。そこでの経験は間違いなく今の自分のスタイルにつながっていると思いますね。

竹本タクシー

ちょっと脱線しますが、今さらながら「竹本タクシー」というMCネームがずっと気になっています。名前の由来を聞いてもいいでしょうか?

よくぞ聞いてくれました。由来は、本名が「竹本拓史(たくし)」だからです(笑)。今でこそ笑い話ですが、小学校の頃は周りから「ヘイタクシー!」って名前をからかわれていて、ずっと自分の名前がコンプレックスだったんです。この仕事も当初は「タケモトタクシ」名義で活動していたんですが、MCになって2年目の頃に、その小学校時代にからかわれた呼び名を逆に利用してやろうと、思い切って「竹本タクシー」に改名したんです。すると周りが字面のインパクトで名前を覚えてくれて、フルネームで積極的に呼んでくれるようになった。最初は恥ずかしかったけど、MCのスタイルと同じように、先入観を捨てて発想を変えることで、自分の特徴や武器にすることができるんだと学びになりましたね。

「声」で
人を助けたい

竹本タクシー

MCという仕事でこだわっていることや、心がけていることについて教えてください。

MCとしての仕事のポリシーは、「わからない人をつくらないこと」ですね。たぶんバスケットのMCで「トラベリングとはなにか」を説明しているのは僕だけだと思うんですが(笑)、試合を観ている方全員が楽しめるように、わかりやすく情報を伝えることを意識しています。というのも僕自身が、MCを始める前はバスケットのルールすら知らなかった人間なんです。バスケットってまだまだビギナーが入りづらいスポーツだと思っていて、特にストリート色の強い3x3だと、年配者から見れば「不良の集まり」に見えてもおかしくない。でも実際は信念や情熱を持って競技に打ち込んでいる人ばかりだし、競技としても誰でも楽しめる内容なのに、認知度はまだまだ。だから僕はそのギャップを埋めるために、MCとしてできるだけ一般の人と近い視点で説明したり、競技の面白さやカルチャーを伝えることを心がけています。

竹本タクシー

最後に、これから挑戦したいことについて教えてください。

一つは、MCとしてBリーグや3x3.EXE PREMIERの盛り上げに貢献していくこと。もう一つは、現在行っているボイストレーニングを、医療の領域に発展させていくことです。今、言語聴覚士の資格取得を目指しているんですが、たとえば脳に損傷があって上手く話せない人や、声や発音の障害を持った人に対して、医学的見地から発声の支援をしていきたいと思っています。もともと好きが高じて始めた仕事だからこそ、その技術を使って困っている人を助けたい。介護福祉士や保育士の資格も取得しましたが、それも自分の「声」を、医療福祉や教育の現場に役立てていきたいという思いから。これまでの経験や技術をさらに高めていくことで、誰かの助けや支えにつなげていきたいと思っています。

竹本タクシー

竹本タクシー(たけもとたくしー)

MC、ボイストレーナー、パーソナリティ、ナレーター。広島県出身。大学卒業後に一般企業で勤務した後、一念発起して退職。米ロサンゼルスの音楽学校へ留学し、帰国後は音楽活動を経てスポーツMCとして活躍。B3リーグ「東京エクセレンス」のアリーナMCや、3x3.EXE PREMIERのMCを務める。また、ボイストレーナーとしてアスリートやトレーナー、高齢者、児童のサポートをはじめ、学校、企業、福祉施設などで呼吸や声を鍛える「はっきり通る声」の指導を行っている。

  • Text by Naotaka Ashizawa
  • Photograph by Shunya Tomita
  • Photo Provided by 3x3.EXE PREMIER

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