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IT業界からサッカー業界へ
夢はスタジアム一体経営

栃木SC マーケティング戦略部 部長江藤美帆さん

サッカー

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江藤美帆さん(えとう・みほ)さん
株式会社栃木サッカークラブ マーケティング戦略部 部長

マイクロソフトで社会人としてのキャリアをスタートさせ、フリーのライター、編集者として実績を積み、「衝動的に」サッカー業界へ。新天地である栃木SCで、マーケティングやSNSの知見を活かして“改革”を起こす“えとみほ”さんは、3、4年後に来場者を約2倍にする目標を掲げ、“スタジアム一体経営”の夢を思い描く。(2019年1月24日取材)

“えとみほ”の愛称で親しまれる江藤さんはIT業界から転職[写真]山口剛生

帰国後に起業家へ

現在の職務内容を教えてください。

マーケティング全般、法人営業以外の領域、すべてに関わっています。チケット関連や集客、マネタイズ、マーチャンダイズが大きな担当領域ですね。栃木SCはフロントスタッフが17人しかいなくて、試合運営を総出でやっているので、ホームゲームでは私もジャージ姿で現場の業務に携わっています。

これまでのキャリアについてうかがいたいのですが、以前はアメリカに留学されていて、マイクロソフト社にインターンとして入られたそうですね。

大学では経営学を学びました。マイクロソフトではソフトフェアを日本語にローカライズするプロジェクトの中で、マイクロソフトと日本の翻訳エージェントをつなぐ仕事をしていました。本当はそのまま就労ビザを取って就職したかったんですけど、アメリカは大学での専攻と就く職種がリンクしていないとビザが取れないんですよ。だから仕方なく、という感じで帰国し、20代のころはIT系のライター、編集をやっていました。その後、自分で起業して、海外のコンテンツを日本に持ってきてライセンスを販売する会社を経営し、事業譲渡した後、今度はソフトウェアやサービスを作ったり、ネットの広告代理店に数年いたり、ITやメディアの新規事業を立ちあげたりといったことをしていました。グーグルでストリートビューの私有地を撮影するプロジェクトにも携わったことがあり、世界遺産や被災地の撮影などにも関わりました。

IT業界で活躍された後、スポーツ業界への挑戦を決めた理由を教えてください。

何となく「ITはもういいかな」という気持ちが少しあって、次に何をやろうかと思っていた時に、転職サイトでJFLクラブの役員募集の告知を見つけて、衝動的に応募しちゃったのが始まりです。サッカー界は、ほかのスポーツ業界でフロントとして経験を積んできた人が求められるものだとずっと思っていたんですけど、実はそうではなく、異業種で、例えばマーケティングや営業で実績のある人、新規事業を作ってきた人、コンサルタントをやってきた人など、スポーツとは関係のない業界の人材を欲していたんです。そのクラブとはご縁がなかったんですが、ほかのクラブもそういう人を求めているかもしれないと思って探したところ、栃木SCの募集を見つけて応募しました。

経営者として活躍していたころに『ホリエモンチャンネル』に出演[写真]本人提供

SNSは“諸刃の剣”

転職先としてサッカー業界を選んだのは、もともとJリーグクラブのサポーターだったことが大きいのでしょうか?

そうですね。前からサッカークラブの実情がどうなっているのかすごく気になっていたんですけど、サッカー業界には知り合いが一人もいないので分かりませんでした。それで知りたい気持ちがすごく大きくなるのと、自分だったらもっとこうするのに、と思うところもたくさんあって、そのモヤモヤが興味に変わったというのはあるかもしれないですね。サポーターにもいろいろなクラスタ(集団)がいて、ゴール裏で応援するのが一番好きな“応援クラスタ”もいれば、アウェイに旅行に行ってスタジアムグルメを食べるのが好きな方たちもいるし、選手個人にフォーカスして応援している方もいます。で、すごくニッチなんですけど、私は“フロント・経営クラスタ”でした(笑)。お金がいくらあって、強化にいくら使って、強化費に対するコストパフォーマンスがどの程度で、というのを考えるのが好きな方が周りにいて、私もその一人でした。同じクラブのサポーター仲間にもいましたし、IT企業の経営者にはサッカー好き、Jリーグ好きの方がけっこういて、その方たちとそういう話をしていたんです。

サポーターとして見ていた世界ですが、実際に入って驚いたこと、大変だった業務はありますか?

サッカークラブで働いていると毎日いろいろなことが起こるんですが、それらの出来事を他人に相談できないのが、大変と言えば大変かもしれないですね。クラブ内の情報を外に漏らすことはできないし、家族にも話せないし、社内の人間に対して言えないこともあります。人に話せない話がどんどん出てくるのが、精神的につらい部分です。弊クラブの橋本大輔社長が「江藤さんや綾井営業部長が入ってきてからすごく楽になった」と言っていたんですけど、それまでは社長が一人でいろいろ抱えこんでいたものを、相談できる相手ができたことで気が楽になったと。その気持ちはすごく分かります。

SNSで情報を発信することもあると思いますが、投稿する際にクラブスタッフとして意識していることはありますか?

サッカークラブは一般の民間企業とは異なり、公共財みたいなところがあるので、そこは少し意識しています。以前は自分の会社を経営していたので、好きなように投稿していたんですけど、今は「サポーターやスポンサーさんがどう思うかな」など、考えることが増えました。SNSでの発信は、大きな影響があり、認知を得られる半面、リスクも大きいという“諸刃の剣”なので、入社後に橋本社長とは「やるなと言うならアカウントをクローズしてもいいです」という話をしたんですよ。その時に社長から「せっかく発信力、影響力があるんだから、クラブのためになることであればどんどん発信してもらっていい」と言ってもらったので、今も続けています。

栃木SCの選手たちはSNSをどのように活用しているのでしょうか?

クラブで一度、SNSの講習をやらせていただいて、明確にやってはいけないことを伝え、その上でファン・サポーターがどんな投稿を望んでいるのか、個人の資産としてSNSアカウントを育てていくとどんな効果があるのか、といった話をしました。それによって投稿が増えた選手、アカウントを新たに作った選手もいます。ファンの方たちも「選手を身近に感じられる」と喜んでくれています。練習場やスタジアムの近くに住んでいる方ばかりではなく、県外のサポーターの方も大勢いるので、そういった方たちと触れ合えるタッチポイントとして受け入れていただいていると思います。

SNSの知見を活かして、クラブ内でSNS講習を行ったという[写真]山口剛生

集客1万人を目指す

これからのスポーツマーケティングの世界で必要になりそうなツールやサービスとして挙げられるものは何でしょうか?

CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント、顧客関係管理)の知識だと思います。今、Jリーグでは「JリーグID」を作り、スタジアムへの来場履歴を取って、顔が見えるファンの割合を増やそうと取り組んでいます。ただ、集めたデータをどうすればいいのか分からないクラブがすごく多いんですよ。リーグ側が研修を設けてくれてはいるんですけど、クラブ側にCRMの知識がある人材がいると、そのクラブの集客もかなり伸びるんじゃないかと思います。栃木SCも取り組み始めていて、今シーズンからファンクラブを復活させたんですけど、それも顔の見えるお客さまの数を増やす試みの一つですし、ワンタッチパスの端末をホーム側に取り付けて来場履歴を取り、さまざまなデータを集めることも予定しています。ホームタウンの方々を試合に招待する際も、今まではオフラインでやっていたんですけど、昨年後半からQRコードで入場する形に切り替えました。

今後チャレンジしてみたいこと、この仕事における夢や目標はありますか?

実務的なところで言うと、顔の見えるお客さまの割合を増やし、できるだけその方々のライフスタイルや趣味嗜好に合う形でマーケティングしていき、その結果として来場者数を現在の平均5,600人から、3、4年後に平均9,000人から1万人にしたいですね。あと、もうちょっと遠い未来の夢としては、スタジアム一体経営をやりたいと思っています。広島カープのMAZDA Zoom-Zoomスタジアムのように、寝転がって見られる席、バーベキューができる席があれば楽しいと思うんですけど、借り物のスタジアムでは難しいですよね。サッカーはハードウェアに楽しさが左右される部分が大きいと思っているので、スタジアム一体経営に携われたらいいなと思っています。

スポーツ業界に欲しい人材、一緒に働きたい人を教えてください。

突き抜けたスキルが1つでもある人ですね。サッカークラブで求人を出した場合、応募してくるのはサポーターやサッカー好きが多くて、お給料が安くても働きます、という人が来るんですけど、専門職になるとなかなか理想どおりの人材を採用できないという話をものすごくよく聞きます。例えばマーケティングでも、SNSをいろいろ運用してきましたとか、動画制作ができますとか、スペシャリスト、プロフェッショナリズムを持っている人が活躍できるんじゃないかと思います。あとは、組織の仕組みづくりができる人。新規事業の立ちあげやベンチャーで上場準備に携わった人なんかは、かなりやりがいがあるんじゃないでしょうか。

江藤さんは、スポーツ業界に「スペシャリスト」を求める[写真]山口剛生

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