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スポーツ業界の“余白”を埋める強みを
SPORT LIGHT Academy
第5回レポート

日本サッカー協会 マーケティング部長 髙埜 尚人さん

サッカー

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髙埜 尚人(たかの・なおと)さん 42歳 
公益財団法人日本サッカー協会
マーケティング部部長

スポーツ業界で活躍する著名な方をお招きし、大浦征也doda編集長とのトークを通して“スポーツ×ビジネス”で成功する秘訣をひもといていく「SPORT LIGHT Academy」。第5回のゲストは、公益財団法人日本サッカー協会(JFA)でマーケティング部の部長を務める髙埜尚人さん。日本のスポーツ界をリードするJFAが描くビジョンや具体的な仕事の紹介、さらに今スポーツ業界で求められている能力などについて語ってもらった。

人材サービス会社を経て、2006年からJFAに身を置く[写真]山口剛生

JFAの理念とビジョン

現在はJFAで働くが、髙埜さんが2002年に新卒で入社したのは株式会社インテリジェンス(現パーソルキャリア株式会社)だ。対談相手となる大浦編集長とは、インテリジェンスに同期入社した間柄。イベント冒頭から、2人は気安さを感じさせる掛け合いで会場の空気を温めた。

最初に話題となったのは、サッカー界の仕組みについて。髙埜さんいわく、サッカー界は、世界のトップオブトップからグラスルーツまでのピラミッド構造が非常に整備されており、世界のトレンドが競技面はもちろんマーケティング面においてもローカルにまで浸透しやすいそうだ。「世界と非常に近いことは、サッカーの魅力」と髙埜さんは語る。

では、そのサッカー界においてJFAはどのような役割を担っているのか。名前に公益財団法人と付くとおり、JFAは社会の利益のために活動している。その中で、マーケティングによって収益を生んでいるが、「それを『サッカーを通じて豊かなスポーツ文化を創造し、人々の心身の健全な発達と社会の発展に貢献する』という理念のもと、社会のためになることに投資している」のがJFAだ。

サッカーを公益につなげるためには、「まずは競技自体が発展する必要がある」と髙埜さんは語る。競技の発展には「強化」「育成」「普及」の3要素が重要で、そこに投資するための原資、つまり資金を獲得するのが、髙埜さんが部長を務めるマーケティング部だ。

「サッカー、あるいはサッカー日本代表の価値が高くなければ、当然ステークホルダー(利害関係者)の皆さんは投資をしてくれません。主にパートナーシップ、放映権、マーチャンダイジングという3つの事業があり、それぞれにおいて安定的な収益を獲得するための質の高いコンテンツ価値を維持していくことが我々の部門のビジョンです」

主催する大会のスポンサー募集、放映権の販売、さらにはグッズ開発やライセンスビジネスの話など、普段は聞くことのできない話に参加者たちは熱心に聞き入った。

JFAの理念や事業内容を話す髙埜さん[写真]山口剛生

スポーツ業界はまだ発展途上

続いて話題になったのは髙埜さんの経歴についてだ。総合人材サービス会社であるインテリジェンスから、どのようないきさつでJFAで働くようになったのか。初めのきっかけは2004年。インテリジェンスがJFAに人材を紹介するようになり、その担当者となったことから髙埜さんとJFAの関係は始まった。

もともとスポーツが好きだったこともあって関心を持ったJFAとの仕事で幾人かの人材を紹介した後、当時のJFA事務局長との会話から髙埜さん自身が採用面接を受けることになった。面接は2回行われ、1回目の面接は難なく通ったものの、2回目の面接で落とされることとなった。その理由は「ずっと嫌いで、逃げてきた」という英語力不足にあった。

しかしこの面接をきっかけに、小学生から大学生までスポーツを続け「生きていく上で大切なことはすべてスポーツの中で学んだ」と話す髙埜さんの中に、「自分がスポーツを通して得た経験を次の世代にも伝えたい」という思いが芽生えた。「スポーツを仕事にする」と決めた髙埜さんは、JFAと半年後にもう一度面接する約束を取り付けると、インテリジェンスを退職し、カナダに語学留学した。そして半年後、2度目の面接を経てJFAへの就職が決まった。当初はサッカー日本代表の試合運営などを担当していたが、2011年にマーケティング部に異動し、その後広報部に異動し再びマーケティング部に戻り、現在に至る。

「プロレベルでスポーツをやっていたわけでもないし、マーケティングのマの字も分からない。そんな人間でも、努力によって今の私のようなポジションにつける。そういうチャンスがある業界だと思います」

そう語る髙埜さんに対し、大浦編集長は髙埜さんがスポーツ業界で活躍する理由の一つとして、そのキャラクターや対人コミュニケーション能力の高さがあるのではと話す。なぜなら「一般的なビジネスとスポーツビジネスの一番の違いはステークホルダーの多さ」で、複雑極まる関係性の中でそれぞれとしっかり向き合い、うまくバランスを取るためには「キャラクターや人となりがすごく重要」になるからだ。これには髙埜さんも同意し、利害関係の一致しない多くの関係者の中で「いかに全体最適を考え、バランスを取るかという作業がものすごくある。この調整を放棄すると、サッカーの価値は上がらないし、皆さんの満足も得られない。我々のミッションである収益を上げることにもつながらない」と話した。

また、スポーツ業界あるいはサッカー業界で活躍するためのもう一つの能力として髙埜さんが語ったのは、「余白を埋める能力」だ。まだまだスポーツ業界は発展途上で、余白、つまり未開拓の領域がたくさんあるという。近年スポーツの価値が高まっている理由を、「ビジネスや社会課題の解決を含め、スポーツは何に対しても親和性がすごくあって、プラットフォームになれるから」として、スポーツと何かを掛け合わせて価値を生み出す余地は「無限大にある」と続けた。

「『スポーツ×○○』。この○○という余白を埋められるだけの自分の強みを持つことができれば、それはスポーツ業界で活きると思います」。そう話した髙埜さんは、実際に自身がJFAで手掛けた仕事を例に挙げ、さらに詳しい説明を会場の参加者たちに語った。

スポーツが持つ可能性を熱心に語った[写真]山口剛生

スポーツをインフラにしたい

イベント後半には、参加者たちとの質疑応答の時間が設けられた。 「髙埜さん自身の今後の展望」という質問に対しては、「スポーツの価値を上げ、最終的にはスポーツをインフラにしたい。つまりスポーツがないと生活が成り立たない、生きていけない、人生の活力を失う、それくらいのものにしたい」と大きな夢を語り、その実現のためには『スポーツ×○○』という掛け合わせをどんどん増やし、しっかりと形にしていくこと。そして、サッカーだけでなくあらゆる競技でその掛け合わせを行うことが必要と話した。

また、「JFAはアジアのマーケットに対してどのようなアプローチをしているのか」と問われると、展開しているビジネスや描くビジョンを語り、それに併せて語学力の重要性を説いた。「日本の人口はこれから減っていきますが、世界的に、特にアジアでは増えていく。マネタイズのチャンスを考えると、JFAに限らず日本のスポーツはアジアマーケットに進出していく必要がある」とあらためて海外進出の必要性を話した上で、「でも語学力がなければその機会を逸してしまう」とし、英語に限らず、外国語をビジネスレベルで使えることはスポーツ業界を目指す上で大きなアドバンテージになると語った。

質疑応答の時間が終わると、髙埜さんはJFAのプロモーション動画を会場で公開。あらためてJFAのビジョンや理念を伝えると、「『夢があるから強くなる』というスローガンを持ってJFAはいろいろなチャレンジをしています。皆さんもできるだけ大きな夢を描いて、ぜひ毎日を楽しんで挑戦してほしいと思います。そしていつか、同じスポーツ業界で一緒に楽しく仕事ができたら、これほどうれしいことはないです。がんばってください」と参加者たちにエールを送った。

イベント終了後には、髙埜さんと名刺を交わし、あいさつをするために多くの参加者が列をなした。その一人ひとりにていねいに対応する姿は、まさしく多くのステークホルダーに対してしっかりと向き合ってきた髙埜さんの姿勢、仕事ぶりを表しているように思えた。

髙埜さんは「同期で握手するなんて」と照れくさそうに笑った[写真]山口剛生

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