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eスポーツの魅力を
第一人者として伝えたい

株式会社ODYSSEY 代表取締役社長 eスポーツアナウンサー平岩 康佑さん

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平岩 康佑(ひらいわ・こうすけ)さん 31歳
株式会社ODYSSEY 代表取締役社長 eスポーツアナウンサー

スポーツ実況の第一線で活躍してきたアナウンサーが史上例を見ない転身を遂げた。飛びこんだのはeスポーツの世界。eスポーツとは対戦要素のあるテレビゲームをスポーツとして捉えたものだ。平岩康佑さんは日本初のeスポーツアナウンサーとして数多くのゲームを実況しながら、現場だけにとどまらず、業界の発展のためにさまざまな課題解決に取り組んでいる。すべては大好きなゲームの素晴らしさを一人でも多くの人に届けるために。(2019年7月22日取材)

「第一人者になりたい」という思いから、eスポーツ業界に飛びこんだ[写真]兼子愼一郎

TV局とゲーム会社の2択

アナウンサーを志したきっかけを教えてください。

昔から人前に出てしゃべることが好きでした。小学生のころは授業中も常に手を挙げ続けて、「平岩はもういいから」って先生に言われるくらい(笑)。とにかく人前に出ることが好きで、そういうイメージがあるアナウンサーという職業に興味がありました。

本格的に目指し始めたのはいつですか?

大学生になってからです。アナウンサーの就職試験はほかのどの職種よりも早くスタートするので、就職活動全体を考えたときに受けやすいという側面もありました。けれど、志望した東京のテレビ局からは内定をいただくことはできませんでした。ただ、切り替えて他業種の就職活動をしていたところ、突然朝日放送がアナウンサーの募集を始め、受けてみて、ありがたいことに内定をいただけて。実はあるゲーム会社からも内定をいただいていて、ゲームが大好きだったので、どちらを選ぶかすごく悩みました。でも、なかなかなれる仕事じゃないと思い、朝日放送に就職することを決めました。

アナウンサーにならなかったらゲーム業界に入っていたんですね。

本当にゲームが好きだったので。アナウンサーになってからも、休みの日には1日18時間くらいゲームをしていました(笑)。休日の前日の夜にゲームを始めて、コントローラーを握ったまま寝てしまい、はっと目覚めてまた始める(笑)。とにかくゲームが好きで、それに関わる仕事ができたら幸せだな、と思っていましたね。

朝日放送では、どのようなお仕事をされたのでしょうか?

入社から1年経った2012年にスポーツ実況の道を志すようになりました。朝日放送のスポーツ実況アナウンサーは、入社3年目に夏の高校野球で実況デビューするのが通例となっていて、それまではとにかく練習の日々です。高校生や大学生の試合を球場に見に行って、一般のお客さんと同じスタンドで観戦しながら大声で実況の練習をするんです。ぼくはその練習が本当に嫌で(笑)。一般のお客さんがいる中、大声で実況していると変な人に見られますし、「なんだこいつは」という視線もつらかった。でも、あの練習があったからこそ成長できたので、今ではいい思い出です。

もともとスポーツ観戦などはされていたのでしょうか?

実はあまりスポーツ観戦に縁がなくて、野球に関しても初めはルールブックを読むところからでした。3年目に高校野球でデビューしてからは、阪神タイガースやオリックス・バファローズといったプロ野球の実況も担当しました。ほかにもJリーグのガンバ大阪や箱根駅伝のラジオ、女子プロゴルフなども実況しましたね。実況をする上で、いちからそのスポーツを勉強するという過程が必ず発生していたので、なかなか大変な日々でした。

「あのころがあったから今がある」と新人時代を振り返る[写真]兼子愼一郎

第一人者になりたかった

スポーツ実況アナウンサーとして実績を積む中、2018年6月に朝日放送を退社し、eスポーツアナウンサーへの転身を果たします。何かきっかけがあったのでしょうか?

2017年の夏ごろから、eスポーツという言葉が日本のゲーム業界でも話題に上がり始めたんです。これは日本でもはやりそうだと感じて、ぼくもそこに関わりたいと思う中、ゲーム会社に勤めていた友人からは「実況者がいない」という話を聞き、eスポーツ実況の需要があるなら、その第一人者になりたいと思いました。例えば飛行機を初めて飛ばしたのはライト兄弟ですけど、2番目に飛んだ人ってほとんどの人が知らないですよね。第一人者のイメージはそれぐらい大きいので、そこは譲りたくない。何より、ぼくのゲームに対する思いは実況者の中では一番だという自信がありましたから。自分がやらなければ、絶対にほかのゲーム好きのアナウンサーが入ってきて、第一人者になってしまう。それだけは絶対に避けたいと思って、とにかく早く業界に入ろうと朝日放送を退社してこちらの世界に飛びこんだんです。

業界に入って驚いたことはありますか?

eスポーツの業界は今まさにできあがっていく過程の時期なので、ある意味カオスな状態ではあります。イベントなどにも決まった形がないことには驚きましたが、だからこそ何でもやれる。自分たちで形を作りあげているという今の状況はすごく面白いです。

野球やサッカーといったリアルスポーツとの違いはどのような点に感じますか?

今eスポーツを見ている方は、ほとんどが競技者なんです。そのゲームを実際にプレーしている人が見てくれている。そこは大きな違いだと思います。例えば、プロ野球やJリーグのお客さんの中に現役の選手はわずかだと思うんです。片やeスポーツはお客さんのほとんどがプレーヤーなので、競技に対するリテラシーがすごく高い。ぼくらとしてもより高度な知識が求められますし、レベルの低い実況をするとすぐさま批判される。そうならないよう、万全の準備で実況に臨まなければいけません。ただ、そうしたリテラシーの高さは大きな魅力にもなります。

その魅力とは?

昨年末に日本で初めて優勝者に1億円の賞金が出るeスポーツ大会がありました。その優勝者が決まる瞬間、ぼくは初めて日本で儀式的、形式的ではないスタンディングオベーションを見たんです。その決勝の試合は素晴らしい内容で、会場にいた誰もがそれを理解して、盛りあがっていた。だからこそ、その優勝の瞬間に自然とスタンディングオベーションが起きたんだと思います。リテラシーが高いからこそ起きた出来事。その光景にはすごく感動しました。そしてぼくら実況者は、ライトユーザーにもその感動や興奮が伝わるように実況しなければならないと思いました。

リテラシーが高いからこそ生まれる感動がeスポーツの現場にはあるという[写真]本人提供

ゲームに対する誤解を解きたい

実況にあたってより高度な知識が求められるとのことですが、一言で知識といっても、ゲームタイトルごとに必要とされる知識はまるで変わってしまいます。準備にかかる時間も膨大になるのでは?

そうですね。私を含むODYSSEY所属のアナウンサーは1タイトルごとに100時間以上をその準備にかけます。まずはそのゲームを最低100時間プレーして、楽しさや難しさ、肝みたいなものをつかむ。その上で、そのゲームに対しての実況プランを練っていきます。そして次は実況用の資料作り。ゲームによって内容はもちろん、文字の大きさや1ページ当たりの情報量も調節しています。目まぐるしい展開のゲームだと、資料を細かく作っても見る暇がないので、そういうときは本当に大事なところだけ抜粋しなければいけません。ゲームで遊び、資料を作り、そうしてようやく実況の練習を始めます。実際にゲームの画面を見ながら実況の練習を重ね、ようやく本番を迎えるというプロセスです。

実況をする上で心掛けていることは?

選手の人となりを伝えたいので、試合前に必ず選手に取材をしています。これは今までのeスポーツ実況にはあまりなかったことですが、選手のバックボーンを取材して、それをしっかりと伝えることで、応援している側の気持ちも変わると思うんです。ただゲームがうまい人、という捉え方をしてしまっては一番うまい人だけが応援されてしまう。そうではなくて、プレースキル以外の部分でも選手のキャラクターを伝えていけば、ファンも増えていくと思うので、そこは強く意識しています。

実況以外にもODYSSEYの代表取締役社長として、アナウンサーのマネジメント、番組制作、イベントコンサルティングとeスポーツに関わるさまざまなお仕事をされています。それほどまでにeスポーツの普及に尽力するのはなぜですか?

一番の原動力は、ゲームに対する誤解を解きたいという思いです。日本ではゲームを悪いものだと思っている人が少なくありません。「ゲームをすると頭が悪くなる」「ゲームをすると暴力性が高くなる」、そんなことを信じている人がいまだにいるんです。でも、しっかりとした研究によってそれらは否定されています。例えばオックスフォード大学が約7年にも及ぶ研究を元に「暴力性の高いゲームをプレーすることと本人の暴力性には因果関係がない」ことを断言しています。ゲームに対する批判はある種の妄想的な要素によるものが多いんです。そうした誤解は一つひとつ解いていかないといけません。ただゲームというだけでeスポーツを拒否するのはもったいないと思います。こんな面白いスポーツがあるんだと、皆さんに気づいてもらうきっかけになればと思い、ぼくは動いています。

精力的な活動はゲームへの誤解を解きたいがため[写真]兼子愼一郎

チャンスにあふれた創生期の業界

eスポーツ業界の魅力とは何だと思いますか?

ポテンシャルの高さは魅力的だと思います。2000年代にインターネットが発達して、今ではスマホが世界中で普及していますけど、それでもまだインターネットに接続されていない人が世界中に30億人はいるんです。業界としては、そうした人々は今後eスポーツに触れる機会が非常に高いと捉えています。それが実際に起きているのが中国です。近年の中国は急激にスマホの普及が進んでいて、地方に住んでいて周りにエンタメはないけれど、スマホは持っているからゲームができるという人が非常に多い。そうした状況もあって中国のeスポーツはすごく盛りあがっていて、1つのゲームに対して約3億人のプレーヤーがいることもあるみたいです。同じ現象がこれから世界中で起きると考えると、eスポーツにはすごいポテンシャルがあると思います。

では、現在の市場規模はどれくらいなのでしょうか?

実はすでに、世界で米メジャーリーグを見ている人より、eスポーツを見ている人のほうが多いんです。今世界で一番多くの人が見ているスポーツが、プロアメリカンフットボールリーグのNFLと言われていますが、2022年にはeスポーツがそれを抜くといわれています。これはビッグデータを用いた投資で有名な、金融グループのゴールドマン・サックスが報告書として出しているデータです。

お客さんの年齢層の低さも特徴の一つですね。

それも大きな魅力ですね。eスポーツの大会に集まる選手やお客さんで一番多いのが、高校生から大学生くらいの層です。これだけ若い人が集まるスポーツはなかなかありません。また、これは海外のeスポーツリーグが出したデータですが、eスポーツを見ている人の7割以上がそのスポンサーに対して何らかのアクションをするとされています。年齢層が若い分、ちょっとサイトを見に行くとか、イベントに行ってみるとか、そうした機動性の高さがあるんです。スポンサーとしてはすごく出資しがいがありますよね。実際、最近は日本でも大きな企業が大会のスポンサーにつくことが増えています。可能性の大きさ、競技人口の大きさ、若さ、この3つがeスポーツの大きな魅力で、それがあるからこそ世界中で盛りあがっているのだと思います。

日本のeスポーツ業界も盛りあがっていますが、現在はどれくらいの規模なのでしょうか?

すでに規模としてはだいぶ大きくなっていて、昨年1年間で日本の市場規模は一昨年の13倍に成長しました。大きな企業もスポンサーに入ってきていますし、賞金1億円の大会も珍しくはなくなってきています。プロリーグもたくさんあって、選手もたくさんいる。次のステージとしては、日本の大会を海外の人にも見てもらえるようなレベルにしたり、世界で活躍する日本のチームを増やしたりすることだと思います。まずは競技レベルで海外のスタンダードに追いつくこと、そこに市場規模なども引っ張られてくると思うので。

平岩さんの今後の目標を教えてください。

個人的には、これからの5年間が日本のeスポーツ業界にとってポイントだと思っています。あと5年で、ファミリーコンピュータが発売されたときに大学生だった人が還暦を迎えるんです。彼らは一度は激しいゲームブームを通っているので、少なからずゲームに対する理解があると思います。年齢を重ね、大きなお金の決裁権を持つ役員や社長にそういう人たちが増える時代がもうすぐ来る。そこで一気に加速するためにも、まずはそこまでに業界を大きくして、大きな受け皿がある状態を作っていきたいと思います。

いちアナウンサーというよりも、業界全体に対しての思いが非常に強いですね。。

まだ業界自体が生まれたばかりなので、ぼくがそれを牽引する存在になれるからだと思います。強い思いがあれば誰もが何かをできる状態ですし、逆に誰かが何かをやらないと一過性のブームで終わってしまう。ぼくはもともとしゃべる仕事をしていましたし、幸いにもさまざまなメディアに呼んでいただいています。だからこそ、表に立ってゲームに対する誤解を解きながら、eスポーツの魅力を伝えるという役割はぼくがやるべきことなのかなと。でも根本的なところで言うと、ぼくは本当にゲームが好きなので、ゲームで人生を豊かにしてくれる人が一人でも増えたらいいなと、ただそれだけなんです。ゲームって楽しいなって思ったり、試合を見て熱いと感じたりする人が一人でも増えて、eスポーツを見るのが当たり前になって、自分でもeスポーツをプレーするのが当たり前な世界になれば最高です。

平岩さんにとってeスポーツ業界で一緒に働きたい人はどんな人でしょうか?

それはやはりゲームが好きな人です。今はかけた投資に対してすぐにリターンが返ってこないような時期なので、ゲームが好きだという強い思いや覚悟がないとつらい部分はあると思います。でも逆に言えば、今は業界の創生期なので多くのチャンスがあると思います。その可能性に勝負できる人と一緒に仕事がしたいですね。

ゲームへの強い思いを胸に「eスポーツが当たり前」となる世界を目指している[写真]本人提供

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