放送作家の高須光聖さんがゲストの方と空想し、勝手に企画を提案する『空想メディア』。
社会の第一線で活躍されている多種多様なゲストの「生き方や働き方」「今興味があること」を掘り下げながら「キャリアの転機」にも迫ります。
今回のゲストは、実演販売士のレジェンド松下さんです。松下さんが始めた当時は「終わった業界」と言われていたという実演販売。そんな中で数々のヒット作を世に送り出し、最高1日2億円を売り上げるなどまさに“レジェンド(伝説)”を築いてきた松下さんに、実演販売士になったきっかけとその販売手法について語っていただきました。
※本文中、『販売士』という呼称が出てきますが、商工会議所の資格である『販売士』を指しているものではありません
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レジェンド松下(レジェンドまつした) 実演販売士として店頭やテレビショッピングで数々のヒット商品を紹介。
株式会社あんきいずの代表取締役社長として実演販売だけでなく動画制作や商品プロデュースまで手掛ける。 -
高須 光聖(たかす・みつよし) 放送作家、脚本家、ラジオパーソナリティなど多岐にわたって活動。
中学時代からの友人だったダウンタウン松本人志に誘われ24歳で放送作家デビュー。
「実演販売ならテレビに出られる」夢のために飛び込んだブルーオーシャン
高須:レジェンドっていうのはこれどういう意味で付けたの?
松下:ぼく実演販売を始めて20年目なんですけど、始めて3カ月ぐらいのときにいきなり『笑っていいとも!』の企画に出演できる機会があって。そこで先輩に付けてもらいました。当時はたけし軍団の皆さんみたいにちょっとくさした名前を付けるのがはやっていたので、何も伝説がないのにあえて「レジェンド」って付けたんです。
高須:今や「レジェンド」で浸透していますよね。ぼく子どものころに“スライサー”でしたっけ? 野菜を薄く切るやつ。あれを売っているところを見に行った記憶があるんです。「あれいいやん」っておふくろに言って。おふくろ買いませんでしたけど。
高須・松下:(笑)
高須:松下さんも子どものころに実演販売を見たことはあったと思うんですけど、それを自分がやると思ってました?
松下:ぼくが本当にやりたかったのは、まさに高須さんのような番組制作のほうで。
高須:ええ?
松下:就職活動のときにだいたいの制作会社は受けたけど、全部落ちちゃったんですよ。じゃあテレビに出るほうをやってみようと考えて、テレビショッピングだったらまだブルーオーシャン※なんじゃないかと思って。
※競合相手のいない(もしくは少ない)市場のこと。
高須:でも、どうすれば実演販売士になれるかなんて分からなかったんじゃないですか?
松下:分からなかったんですけど、たまたま募集を見つけて連絡して。そこから師匠に付かせてもらって勉強しました。落語の世界にちょっと近いんですけど、落語と違って商品を覚えたらすぐ現場に立つんですよ。しかも現場に立ってからは完全歩合制なんですよね。一個も売れなかったら0円ですし、いっぱい売れたらそれなりにっていう。
高須:実演販売士というのは20年前だと日本にどれくらいいらっしゃったんですか?
松下:おそらく50人前後しかいませんでした。ぼくが入ったときには50代ぐらいの人ばかりで、20代が誰もいないんですよ。「もう終わった業界になんで来ちゃったんだ」って言われて。
高須:そんな業界をよくブルーオーシャンと思いましたね。すごいな。
売り方の正解がない難しさ。お客さんとの一体感で流れをつくる
高須:最初に師匠の実演を見てどうでした? 自分でもできると思いました?
松下:そこそこ売れるんですけど、やっぱり師匠みたいには売れないんですよね。師匠のマネをしてお客さんをいじってみても、師匠のようにはいかなくて。
高須:小さな舞台で、お客さんの顔色を見ながらトークを繰り広げる感じですよね。
松下:まさにそう。東京では売れるけど、関西では全然売れないこともあって。
高須:そんなことあるんですか?
松下:関西の人ってめちゃくちゃ話しかけてくるんですよね。
高須・松下:(笑)
松下:「これやって!」「これ切って!」って。「ちょっと待って! 台本あるんで!」って(笑)。
高須:流れがあんねんって(笑)。
松下:でも逆に、ステージが一体になったときにはものすごく売れたりします。
高須:ミニマムどれくらいの時間で人を引き付けられるもんですか?
松下:よく「どうやってお客さんを止めるんですか?」って聞かれるんですけど、1人止めたお客さんから増やしていって、いかにその流れを切らさないかが重要なんです。うまい人は開始10分で最初のお客さんが付いて、そこから8時間、人の流れを切らさないんですよ。どんどんフレッシュなお客さんに入れ替わっていく。不思議なんですけど、売れているときって何を言っても買ってくれるんですよ。50人ぐらいお客さんがいるときに、5分ぐらいトイレに抜けて戻ったら、50人がそのまま待っていたこともありました。
高須:うわー! すげーなぁ。ゾーンですね。心地いいやろなぁ。
松下:でも売れないときは、(前に売れたときと)同じようなことをしゃべっても全然売れなかったりする。
高須:不思議ですよね。
売り場が変われば売り方も変わる。生活の中からヒットを生み出す
高須:商品ってどうやって選んでいるんですか?
松下:途中から自分で商品を作るようになったんですけど、いいアイデアを探すために世界中の展示会に行くんですよ。
高須:いい物ありますか?
松下:あるんですけど、1週間あっても回り切れないぐらい大きな展示会なので、もう砂漠の中で宝を探すようなものですよ。でも、日々の生活の中で「こういう物ないかな」って目線を持っておくと、何百万個ある商品の中でもいい商品に気付ける。
高須:普段の生活の中で何か不自由なことがないか、常に考えているんでしょうね。今まで行った展示場でいちばん記憶に残っているものってありますか?
松下:韓国には結構日本と近い便利グッズがすごく多いんです。韓国の展示場に日本でも売れた爪磨きの商品があったんですけど、「これを応用したらかかとの角質もツルツルになるんじゃないか」と思って新しく商品を作ったんです。
高須:これぐらいの大きさのやつでしょ! 買ってましたよ、ぼく!
松下:ありがとうございます(笑)。
高須:あれ、「こんなにツルツルになるのか!」ってびっくりしますよね。実演はどうやるんですか? 実際に自分の足で実演なんてできないじゃないですか。
松下:できないので、かかとみたいな物を探したんですよ。それでフランスパンを削ってみたら、ピッカピカに光ったんですよね。
高須:見た気がする! フランスパン(笑)。
松下:フランスパンが光った瞬間に、「これ売れるな」と思いました。実際100万個ぐらい売れてるんで。
高須:100万個売れましたか! ぼくもその一人ですよ。
高須・松下:(笑)
高須:そのまま爪磨きとして売るだけじゃなく「ほかの使い方がないか」って横展開して、さらに「どう売るべきか」という見せ方まで考えるところが見事ですよね。発明が2案いるわけじゃないですか。
松下:それはテレビに出るようになってすごく意識するようになりました。店頭の実演販売って15分ぐらい引っ張って最後にオチを言うんですよ。でもそれをテレビショッピングでやったら全然売れなくて。テレビだとチャンネルを変えられちゃうので。どこを切ってもオチが出てくるように売り方を変えました。
高須:じゃあ店頭販売とテレビでは売れやすい物って全然違うんですか?
松下:同じ物が売れるけど売り方が全然違うんです。英語と日本語の文法の違いみたいな。英語だったら最初にオチを言うみたいな。
高須:なるほど。じゃあ「すごい!」の連発がやっぱり必要なんですね。テレビっていうのは。
松下:そうですね。それを意識するようになってテレビショッピングでも実績が出始めたんですけど、最初は店頭のクセで手を動かさずにしゃべっちゃってたんですよ。テレビの場合は映像で見せなきゃいけないので、それを変えるのにすごく時間がかかりました。
「すごい」ではなく「欲しい」と思わせる。購買欲の波を起こす心理テクニック
高須:独立してからどんなときに「俺一人でやっていける」と思ったんですか?
松下:変わったきっかけは、マツコ・デラックスさんと村上信五さん(関ジャニ∞)の『月曜から夜ふかし』に出たこと※ですね。実演中に「ちょっと待って。これ何なの?」ってマツコさんが止めて、自分で試し出したんですよ。それまではぼくの実演ショーを見せていたつもりだったんですけど、村上さんが切ったり、マツコさんが汚れを拭いたりするほうがテレビでは盛り上がることに気づいて。
※2021年5月10日(月)放送の『月曜から夜ふかし』(日本テレビ)に出演
高須:レスポンスも感じながらやらなくちゃいけないと。しかも販売士じゃなくて素人がやるから「本当にいい商品なんだ」って思うもんね。
松下:自分はカメラで撮られるタレント側じゃなくて、タレントさんを驚かせてカメラに抜かせるような立ち位置なんだと意識を変えてからすごく変わりました。やっぱりショーになったらダメなんですね。いかに「欲しい」と思ってもらえるかなんで。
高須:そうやね。ショーじゃなくて、物を売るためにやっているんですもんね。
松下:そうなんですよね。店頭の場合でも、拍手をもらえるような実演をしちゃったときは売れなくて。逆に、「買いたい」と思わせられたときはいきなり売れます。
高須:店頭でやっているとお客さんの顔って変わりますか?
松下:「買うな」って瞬間が分かるんです。
高須:「もう財布持ち出すで、この人」ってなったら案の定「じゃあ私買います」ってなって、そこからあっちもこっちもポンポンポンと言い出す、と。
松下:いやらしいんですけど、重要なのはそこでいかに買わせないかなんですよ。
高須:買うタイミングをつぶしながら、もっと一気に来るように仕掛けるんですか?
松下:そうなんですよ。買いたいお客さんがいるとやっぱり集まってくるんで。買う人って必ず前に来るんですよ。後ろにいるときは全然お金を出してくれないんですけど。キラキラした目になった人に「前に来てください」って言うと、机を押されるくらいグーッと前に来るんです。
高須:はぁー、楽し。
高須・松下:(笑)
高須:それは楽しいですね。反応がちゃんと体に伝わってきますよね。
結果が数字で見える厳しい業界。必要なのは気負わない強さ
高須:今まで何品くらい売ってきたんでしたっけ?
松下:もう分からないですけど、多分1,000種類以上は売っています。
高須:はぁ〜、1,000ですか! 一番売れたときはどれくらい売りました?
松下:最高はテレビショッピングで、1個4,000円ぐらいの洗剤を2億円分売り上げました。5万セットぐらい。
高須:洗剤! 2億円! びっくりしますよね、自分でも。
松下:24時間生放送のテレビショッピングだったんですけど、その番組では売れた個数のカウンターが出るんですよね。5万セットって数字見たら計算しちゃいますよね。「2億円売れてる!」って。
高須・松下:(笑)
高須:テンション上がりますね。 “しゃべり”というのは自然と出てくるものですか? 念入りにシミュレーションするものなんですか?
松下:実は台本はなくて、構成だけはあるんですよね。いかに予定調和じゃないようにできるかがポイントで、掛け合いで予定調和になっちゃうと逆に失敗する。予定調和じゃない部分も含めて生放送だと盛り上がっていくんで。
高須:すごいな。どういう人が実演販売士に向いています? 松下さんと同じようにやりたい人はいると思うんですよ。
松下:芸人さんは結構実演販売士になる方が多いですね。しゃべりがうまいというのは前提条件としてあるんですけど、結果が数字として明らかに出るから難しいんですよ。予算やノルマがあるので、まじめ過ぎると数字に追われて心を病む人も多いんですね、正直。
高須:ええー!
松下:それに、いろんな人が意見を言うんですよ。売れていないときは特に、ああしろこうしろっていろんな意見を言われるんです。どの意見をどうチョイスして、自分の言葉でしゃべり続けられるかが大事で。話を聞くのも大事だし、聞かないのも大事。その両方ができて、そういった状況を乗り越えていける人が生き残っているような気がします。
高須:多分おしゃべりの世界っていう意味じゃ芸人さんとよく似ていますよね。気合入れてキメキメでいくと、ガチガチに緊張してお客さんを置き去りにしてしゃべっちゃう。「まあ、多分できると思います」っていうくらいで始めたほうが、ガチガチにならずにいいですよね。
松下:そこが本当に大事ですね。いかに肩の力を抜けるか。
――実演販売テクニック満載のお話、いかがでしたか? 次回もレジェンド松下さんをゲストに、実演販売の裏側やキャリアの転機について語っていただきます。お楽しみに!
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