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すべての人を楽しませたい。ピアニスト 清塚信也のストイックなこだわり|ラジオアーカイブ

すべての人を楽しませたい。ピアニスト 清塚信也のストイックなこだわり|ラジオアーカイブ

後編:2023.7.9(日)放送回
清塚 信也さん
ピアニスト

ラジオ音源はこちらから

「空想メディア」ロゴ04

放送作家の高須光聖さんがゲストの方と空想し、勝手に企画を提案する『空想メディア』。
社会の第一線で活躍されている多種多様なゲストの「生き方や働き方」「今興味があること」を掘り下げながら「キャリアの転機」にも迫ります。

今回のゲストも前回に引き続き、ピアニストの清塚信也さんです。年間100本以上のコンサートを行っている清塚さんですが、コンサート中に厳守しているマイルールがあるそうです。しかしこのマイルール、ほかのピアニストの方はおそらく意識することがない、清塚さんならではのちょっと変わったものなのです。高須さんも思わずツッコんだ、清塚さんらしさあふれるマイルールのお話をご覧ください。

  • 清塚 信也さん

    清塚 信也(きよづか・しんや) 5歳よりクラシックピアノの英才教育を受け、国内外のコンクールで数々の賞を受賞。
    作曲家としてもドラマ・ミュージカルの劇伴やテーマ曲を手掛けるほか、音楽番組のMCやバラエティ番組出演など多岐にわたって活動。

  • 高須 光聖さん

    高須 光聖(たかす・みつよし) 放送作家、脚本家、ラジオパーソナリティーなど多岐にわたって活動。
    中学時代からの友人だったダウンタウン松本人志に誘われ24歳で放送作家デビュー。

複雑すぎても単純すぎてもうまくいかない。力加減の難しさ

清塚:高須さんは調子の良し悪しはないんですか? 毎週番組をやらなきゃいけないじゃないですか。

高須:もう何も浮かばないときもありますよ。企画会議で自分の企画をプレゼンするときには、「あ! あかん!」っていうときもやっぱりあるんですよ。そういう日はむっちゃ嫌ですもん。

清塚:あるんですね、やっぱり。安心するな。

高須:でも楽しい案が浮かんだときは、めっちゃテンション上がってしゃべってますね。余裕なんですよ。「どうせここでみんな笑ってくれる」って。でも、多分清塚さんのピアノもそうですけど、100点ってないじゃないですか。

清塚:絶対ないですよ。

高須:ないでしょ? 100点近くはいくかもしれないけど、もっと考えたらもっとすごくなるかもしれないとしたら、それは100点じゃないじゃないですか。だからいつ考え終わるかが難しいんですよ。

清塚:なるほど。“これでいいや”がない。

高須:どこで終わりにしていいのかってなる。

清塚:曲作りといっしょですね。それミュージシャンあるあるです。アルバムを作るときに「7曲では気持ち悪いから8曲にしておくか」って追加で軽く録ったものが、めちゃめちゃヒットしたりとか。

高須:これまた不思議ですよね。

清塚:結局、複雑に作りすぎちゃうと、人の心には届かないんですよね。初めてその曲を聴く方って、それこそ歯を磨きながら聴いているかもしれないし、寝起きかもしれない。そんな集中して聴いていない状況で「あ、いい曲」って思わせるのって、やっぱり単純な曲が多いんですよ。

高須:なるほどね。

清塚:だからといって単純な曲を作ろうと思って作っちゃうと、本当に稚拙な曲ができちゃうんですよね。

高須:本当ですよね(笑)。

清塚:難しいですよね。力の抜き加減というか。

作曲と笑いは似ている。まねから始め、自分のスタイルを作っていく

高須:「もしかしたら俺、作曲できるんじゃないか」って思うんですよ。いや、やったことはないんですよ? でも「ものすごくいい曲を考えついたりして…」って夢が頭のどこかに。多分ほとんどの人が思ってるんちゃうかな。

清塚:そうですか? 思ってるんですか?

高須:だいたいの人が「1曲ぐらいすっごいメロディー降ってくるんちゃうか」と思っていると思いますけどね。

清塚:えー。思っていたとしたら、ふてぶてしいですね。

高須・清塚:(笑)

清塚:でも高須さんは作曲できそう。番組とか笑いの構成を考えるのって、作曲とめちゃくちゃ似たところがあると思います。

高須:そうなんですか?

清塚:「こういうふうに聴かせたいなら、こういう仕掛けをしなきゃダメだよな」っていうのが作曲なので。考え方としては多分、振り分けるだけだと思うんですよね。

高須:ちょっと似ているなと思ったことがあって。漫才師も、最初は誰かのまねをするじゃないですか。ただ、テンポも声の張り方も全然違うから、まねしても面白くなかったりするんですよね。でも徐々にそれに気付きだして、自分の声と抑揚にフィットした漫才に変わってくるんですよ。そうするとものすごく合ったネタになってくるし、その人の本音が乗り移るようになってくるんです。多分ミュージシャンの方も、自分の声に合った曲になってくるんやろなと思っているんですけどね。

清塚:そうですね。最初はまねから入ってだんだんフィットさせていくっていうのは、まったくそのとおりで。

高須:じゃあ“この声だからこの曲になる”ってこともあるんですか?

清塚:ありますし、顔やキャラクターによって、「こんな声でこんな歌を歌いそうだな」っていう期待がちょっとあるんですよ。その理想を具現化してくれる人が売れているって感じはあります。

高須:やっぱりスタイルが勝手に出来上がるんですよね。

清塚:そうですね。

高須:やっぱりお笑いもいっしょやよなあ。元々持っているものからの飛躍になるんですね。

清塚:だからあこがれと食い違うことがあるんですよね。

高須:最初のころは特にそうですよね。でも思いません? 「この曲パクリたいほど素晴らしいな」って。

清塚:めちゃくちゃ思いますし、一回パクってみますよ。

高須・清塚:(笑)

清塚:ちょっとアレンジして弾いてみるとか。そうすると元の曲を忘れて1年ぐらい経つと、そのパクったものだけが残って、本当の自分の技術になるんですよ。

高須:おー、すごい。なるほどね。

清塚:それをやっていくと、元とはあんまり似ていないものが作れたりするんです。だからそれって、自分のものにするってことだなとは思いますけど。

99%はダメな曲。常に考えていても名作はなかなか作れない

清塚:高須さんも日頃から企画とか笑いのことばっかり考えてるんですか?

高須:そんなつもりはないんですけど、そうなっちゃうんですよ。何を見てても「これ面白いな」「これ使えるな」と思ってまうんですよね。なんか勝手に。

清塚:脳が勝手に?

高須:脳がなるでしょ?

清塚:なりますね(笑)。結構ミュージシャンでは「オフにしなきゃダメ」って人もいるんですけど、私はずっとオンのままのタイプなんです。

高須:ぼくもずっとオンです。散歩している時にいろんなものがバーッと降りてきて、面白いと思ってすぐ携帯にメモするんですけど、後で見ると半分以上全然おもんないなってなりますからね。

清塚:めちゃくちゃあるわ。特に夜、飲んだ時にボイスメモに入れた自分のメロディ。

高須:(笑)

清塚:もう世界を支配できると思ってその時は入れているんですけど、翌朝聴いたらマジでもう…なんか呪われてるんじゃないかっていう。

高須:なんなんですかね、あれ(笑)。その瞬間はすごいものになってるんですけどね。

清塚:そう! そうなんですよ。

高須:何が違うんでしょうね?

清塚:分かんないんです。だから一回、どこかのバラエティ番組でミュージシャンのボイスメモを公開する企画をやってほしいんです。多分みんな死ぬほど恥ずかしがると思う。

高須:それめっちゃ聴きたいな。芸人のネタ帳みたいなもんですよね。でも絶対嫌がるんでしょうね。

清塚:みんな嫌がると思うし、そういうのって99%がダメな曲ばっかりなんです(笑)。

高須:でもやっぱりみなさんそうやって録るんですか?

清塚:録りますね、やっぱり。曲が逃げていっちゃうと思うと。

高須:レコーディング中に考えて出てくるときもあるんですか?

清塚:それも作り方としてはありますね。

高須:それは「こんな曲にしよう」とか、何か大きなイメージは作るんですか?

清塚:そうですね。最初にイメージを作るし、それが委託されているものかにもよります。映画音楽とかミュージカルは、よりシチュエーションに縛られるというか、自分の感性なんかほぼないです。

高須:もうその画が主役だから。

清塚:そうそう。“その役がどういう心境で歌うべきか”っていうのが先にあるので。それを理解するのが結構…。坂本龍一さんもおっしゃっていましたけど、本当に映画音楽を作るのって大変なんですよ。でも一番大変なのは会議。打ち合わせの時に「ビートルズのあの曲っぽくさ」みたいなことを言われても、どの角度から「あの曲っぽく」って言っているのかが分かんないんですよ。

高須:なるほど。

清塚:ビートのほうなのか、メロディーのほうなのか、人によってその曲の捉え方が違うから。私は楽しいと思っていた曲を、その人はすごく切ないバラードと思っている可能性もあって。そういう洞察力がすごく必要ですね。

高須:演じている風景を最大限感動的にすることが使命ですもんね。いや、大変やな。

清塚:大変ですよ。

清塚信也さんのキャリアの転機|舞台に出るだけで笑いが起きる。バラエティ出演で得た知名度という武器

高須:キャリアの転機を教えてくださいっていうコーナーがあるんですけど。2つ転機がありましたよね。※前編参照

清塚:『のだめカンタービレ』(※1)につながる『神童』(※2)の吹き替えをやったことと、『ワイドナショー』(※3)に出たことですね。

(※1)二ノ宮知子氏の漫画『のだめカンタービレ』を原作とするテレビドラマ。2006年10月~12月まで放送された
(※2)さそうあきら氏の漫画『神童』を原作とした2007年4月公開の日本映画
(※3)フジテレビの情報・ワイドショー番組『ワイドナショー』に2021年5月16日(日)出演した

高須:やっぱり大きいですか? ワイドナショーが。

清塚:大きかったですね。ちょうどその回でアイドルの方が一人脱退なさるっていうニュースが出て、同じ音楽家として見解を述べさせてもらったんですよ。それを松本さんがスタジオですごく褒めてくれて、「もうこれで清塚さんレギュラー決定じゃないですか」って言っくれたんですよ。それが「松本さんがうなったピアニストの言葉」みたいにネットニュースに出て。

高須:それはうれしいですね。

清塚:めちゃくちゃうれしくて。それからそういうバラエティの仕事が如実に増えて。

高須:それって生活が変わってきます? みんなのイメージとか。

清塚:めちゃめちゃ変わります。お笑いとかワイドナショーとかだと私が普通に活動していたら見てもらえないような人が見てくれるから、コンサートに来てくれるお客さんの層も変わりました。あと、舞台に出てきた時に「あ! テレビに出てたあの人だ!」って感じでみんなが受け入れてくれるんです。これがあるのってめちゃくちゃ強いんですよ。舞台上では。

高須:そうなんですか?

清塚:“お馴染みのあの人”っていうフリは、売れていないと作れないじゃないですか。それが欲しくてしょうがなかったんで。今は舞台に一瞬出るだけで「あ! 出てきた!」ってお客さんがちょっと笑う。そういうフリがないと、笑いが起きるところまでこぎつけるのに、やっぱり15分ぐらいかかるんですよ。

高須:あっためるまでに(笑)。

清塚:そうなんです。そういう2速発進みたいなスタートができるようになって、舞台上でもすごく変わりました。

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仕事のマイルール|クラシックの間口を広げたい。初めての人でも楽しめるコンサートに

高須:生きていく上での仕事のマイルールみたいなのありますか?

清塚:やっぱりクラシックとかピアノは、日本ではまだ間口を広げていかなければいけないマイノリティなジャンルだと私は思うので、いちげんさん(※4)に必ず楽しんでもらうっていうことは常に鉄則にしていますね。絶対身内ネタを使わないし、作らない。

(※4)初めて訪れた客のこと

高須:すごいね。

清塚:だから毎回来てくれる方がいらっしゃることはすごくありがたいんですけど、絶対そこに甘えないというか。毎回、初めて来てくれた人しかいないっていう感覚でやる。だから「来たことがある人用のオチは絶対作らないぞ」っていう気持ちで話す内容も考えています。

高須:いいんですよ! そこまでのクオリティのネタを用意しなくても(笑)。だから面白いんでしょうけどね、お客さんからすると。

清塚:そうですね。そう思ってやっています。この間のツアーなんか、15分から20分くらいしゃべるコーナーがありました。

高須・清塚:(笑)

高須:お客さんはピアノを聴きたいと思って来ているのか、MCを聞きたいと思って来ているのか、分かんないですよね(笑)。

清塚:それも危険ですよ。私がしゃべるということを知らない方のためのネタも考えなきゃなって。

高須:なるほど…いや、もういいですよ! そんなん考えなくて!

高須・清塚:(笑)

清塚:「いちげんさんに必ず優しく」がマイルールです。音楽ってやっぱり、来てくれるファンのための演出になっていっちゃうんですよ。私も番組で知り合ったバンドの方のコンサートに招待してもらって行くことがあるんですけど、ファンじゃないから肩身が狭い思いをするんですよね。“ここでこのフリをする”とかできないと、「あ、ごめんね」みたいな感じになるんですよ。

高須:なるほど。

清塚:そういうのってJ-POPなら成立するけど、やっぱりピアノコンサートはそこまでの水準には達していないんで。だからそういう思いを絶対させないようにしています。

高須:年間何本コンサートをやってるんですか?

清塚:何本やってるんですかね。全然数えてないです。

高須:すごいでしょ?

清塚:100以上はやってるとか言ってましたけどね、マネジャーが。

高須:いやいや、3日にいっぺんじゃないですか(笑)。

清塚:そうですね。考えてみると確かに。

高須:すご! 大丈夫ですか? 今日こんなしゃべって。

清塚:全然大丈夫ですよ。だってコンサートでもずっとしゃべってます。どうせ。

高須・清塚:(笑)

――次回のゲストはタレント大久保 佳代子さんです。お楽しみに!

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