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不良少年から世界的アーティストへ。井田幸昌の歴史|ラジオアーカイブ

不良少年から世界的アーティストへ。井田幸昌の歴史|ラジオアーカイブ

前編:2023.12.3(日)放送回
井田幸昌さん
画家、美術家

ラジオ音源はこちらから

「空想メディア」ロゴ04

放送作家の高須光聖さんがゲストの方と空想し、勝手に企画を提案する『空想メディア』。
社会の第一線で活躍されている多種多様なゲストの「生き方や働き方」「今興味があること」を掘り下げながら「キャリアの転機」にも迫ります。

今回のゲストは、現代アーティストの井田幸昌さんです。なぜアーティストの道を選び、どのように現在の作風に行き着いたのか。そして、どのような思いで作品を作っているのか。世界的アーティストである井田さんの、これまでの歴史や心情を探っていきます。

  • 井田 幸昌さん

    井田 幸昌(いだ・ゆきまさ) 「一期一会」をコンセプトに作品を手がける画家・芸術家。作品は世界中で高く評価され、Forbes JAPANの『30 UNDER 30 JAPAN』にも選出された。

  • 高須光聖さん

    高須 光聖(たかす・みつよし) 放送作家、脚本家、ラジオパーソナリティーなど多岐にわたって活動。
    中学時代からの友人だったダウンタウン松本人志に誘われ24歳で放送作家デビュー。

荒れた青年期を変えたある絵画との出会い。作家の生きざまにあこがれ、芸術家の道へ

高須:そもそも小さいときから画家を志そうと思ってたの?

井田:(子どものころは)本当にわんぱく小僧というか、グレていたような時期もあったりして。あまり芸術に携わる仕事をしようと思ったことはなかったんですけど、父親(※1)がもともと作家業をやっていまして。

(※1)父親は彫刻家の井田勝己

高須:ああ、そう。

井田:アメリカにいたんですけど、どうしようもなくなっている息子を見た父親に画塾に突っ込まれて。それでやることもないから描くかぁ、みたいな(笑)。そこから集中し出しまして、その延長で今があるって感じですかね。

高須:何か大きなきっかけみたいなものはなかったの? 言われるまま流れて画家になったってこともないでしょ?

井田:最初のきっかけは、絵を勉強し始めてから美術館で、ある作家さんの絵を見て初めて本当に心が震えたというか、感動したことがありまして。

高須:へぇー。それ何歳ぐらいのときに?

井田:17歳とかかなぁ。

高須:結構上やなぁ。

井田:ええ、もうだいぶ(笑)。バイトでためた金で全国を旅していたときにその絵と出会ったんですけど、それを見たときの衝撃がもう大きくて。「絵ってこんなことできるんだ」って思いまして。それでぼくも「これぐらいのことをしてみたいな」と、そのとき初めて思って。

高須:へぇー。絵の力を感じたというか、なんとなく作品に圧倒される感じがそのときにあったんやね。

井田:その作家の人生とかを感じたりして、「こういうふうに生きたいなぁ」とか、そういうことを17歳のぼくは思っていましたね。作ること自体は好きでも、おやじが作家として全然食えていなかったので、作家業を仕事にしようとは思っていなかったんですけど。ぼくはぼくでちょっと精神的に荒れた青年期を過ごしたので、最後の助け舟的な感じで(アーティストになった)。

高須:そんな荒れてたの?

井田:荒れてましたねぇ(笑)。

高須:ええ? なんで荒れてしまったのよ?

井田:いや、激しめの反抗期というか。

高須・井田:(笑)

高須:それはいつぐらい?

井田:中学校のときですかねぇ。ずっとローソンの前でスピッツ聴いてましたね。

高須・井田:(笑)

芸術家の父、兄に受けた影響。同じ業界に生きる父の複雑な思い

高須:兄弟とかは?

井田:ぼくを入れて4人いまして、ぼく3番目なんですけど。

高須:お兄さん? お姉さん?

井田:全部男なんですよ。

高須:じゃあお兄さんとかに相談したり、ちょっとあこがれたりとかはなかった?

井田:ありました、ありました。ぼくが絵の道に入る前に兄貴が絵の勉強をし始めていて。いちばん年の近い兄貴だったんで背中見ていたし、兄貴の背中を追いかけようみたいなところがあったかなとは思います。

高須:お兄さんもじゃあそういう…。

井田:兄貴(※2)も今、東京でアーティスト活動をやっています。

(※2)兄はアーティストの井田大介

高須:お父さんは何て言うの? 息子たちが少なからず自分の影響を受けているわけやんか。

井田:20代のときとかは、家に帰るとすぐケンカになるというか。ぼくらもいろいろ活動しているじゃないですか。

高須:まあ、言いたくなんねんなぁ(笑)。

井田:その気持ちは分からなくもない。最近はぼくらもそれなりに名前も出てきて食えるようになったので、おやじもある程度認めざるを得ないような(笑)。

高須:いやいや、それは認めるよ。最初のうちはね、「そんな簡単に食えると思うなよ」みたいなことを言うけど。でも息子が同じ業界に入ってきてよ? しかも名前が売れて。「あれって息子さんですか?」ってたぶん言われるじゃない。

井田:おやじは大学の教員をやっていたんで、高校とかに授業で行くじゃないですか。そうすると「井田幸昌さんのお父さんですよね?」って言われる。

高須・井田:(笑)

井田:「逆やろ」っていう愚痴はね、よく聞いてましたね(笑)。

高須:まあまあまあ(笑)。でもそれもうれしいんやと思うで?

井田:まあね、喜んでくれていると思うんで。

「これが俺なんだ」極限状態で生み出したオリジナリティー

高須:ぼく、芸術家の方がどうやって自分のスタイルを見つけるのかっていうことにすごい興味があって。

井田:24歳ぐらいだったかな。奈良さん(※3)とか村上隆さん(※4)も出していた、アート界の登竜門的な推薦制のコンペがありまして。作家デビューするいいきっかけと思ってすごい集中して描いていたんですけど、途中でなんか「もうだめだ」と思って。

(※3)画家、彫刻家、現代美術家の奈良美智
(※4)現代美術家、ポップアーティスト、映画監督の村上隆

高須:自分の中で?

井田:半年ぐらいかけて描いた作品だったんですけど、何かが許せなくて。

高須:何かが違うのは分かってんのよね。

井田:なんか違うけど、ここで妥協して出すのもなんか自分にうそをつく感じがして嫌だし。それで何を思ったか、作品が集荷されていく3日か4日前に全部消しちゃったんですよ。

高須・井田:(笑)

井田:半年かけて描いてきたものを全部消しちゃって。

高須:おいおいおいおい。

井田:消しちゃったときにはもう、「あ、終わった」みたいな(笑)。これが世に出ていくはずの作品だったのに、あと4日しかないし。

高須:もう無理だなと。

井田:「ああ、もう俺、作家生命詰んだかも。こんな若いのに」とか思いながら。でもそれで4日間寝ずに描いたら、何かしらできたんですよ。そのときのぼくは冷静じゃないんで、その作品の良さがなかなか分からなかったんですけど、周りの方々が「こんなのも描けるんだ」みたいなすごくいい反応をくださって。

高須:「あれあれ?」

井田:「あれ?」って(笑)。

高須:(笑)

井田:自分も少し時間が経ってからその作品を眺めていたら、「あ、確かにこういうことってありかもしれない」って。それで今、“崩し絵”ってよく言われますけど、そういう感じの(作風になった)。

高須:ヒントか。自分で描いて、自分の絵にそのヒントを見いだしたみたいな。なんとなく兆しというか。

井田:そのビジュアルが自分の魂に触れてくれる感覚っていうんですかね。なんか抽象的な言い方ですけど。

高須:なるほどねー。

井田:やっと自分のコアな部分というか、「あ、これが俺なんだ」みたいなところに、めちゃくちゃ大変な思いをしてやっと行けたみたいな。

「考えすぎると自由じゃなくなる」世間の要求と自分の要求の中間に立つ

高須:ある深夜の番組を任されたときに、撮れた素材を見てディレクターが「これどうしよう」って悩んでいたのね。でも俺は「めっちゃ面白いやん」って。だって自分が思い描いた通りに撮れていたから。それで「こうやって編集したらどう?」って俺が言ったとおりにディレクターが編集していったら、ウケたのよ。それまではそういうビジュアルの番組はなかったけど、自分の頭の中にはもう、そういうものとしてあったから(作れた)。

井田:すごいですね。自分の頭の中のビジョンを人に伝えるとか、ものすごい難しいじゃないですか。

高須:そうやなぁ。でもそのときは…いちばんできた日かもしれへん。今までの俺の人生の中で。

井田:(笑)。ある種のゾーンに入る的なことなんですかね?

高須:そうそう。「こうやればいいじゃん。これ面白いじゃん」で、本当に面白くなったから。

井田:絵でもあるなぁ。最初から答えが見えているっていうか。形になっていないんだけど、「こうしたらこうなるから、こうしたらもう終わるよね」みたいなのは。

高須:あるよね? なんか。勝手にしゃべっているというか。頭が勝手にそうなっているから、それをしゃべる。

井田:ありますね。なんか脳が1コ遅れてやってくるみたいな。

高須:ああああ、分かる、分かる。

井田:(笑)。筆が先に進んでいって。

高須:それそれそれ。本当にそんなことを思ったな。若かりし…30代のころやったかなぁ。

井田:ぼくも今作品を続けられているのは、ちょこちょこそういう経験と感覚をつかんでいって、それが結局自分の中でモデルになっていったからで。でも自己模倣していてもしょうがないから、それを少しずつアップデートしていくみたいな。

高須:その成功体験があるから、それを使っちゃうのよね。何か困り出して、どうしようかなというときに。それもしゃあないなぁと思うんやけど、やっぱり新しくアップデートされたものにいかなあかん。世に新しいものを提案していかないかんし、もっと言うと問われているし。「次どんなもん出してくれるの?」「これまでを超えていってよ?」って、たぶんいろんな専門家やアート好きの人たちが思って見ているわけじゃない。そんな中を超えて行かなあかんっていうのは…。

井田:(他人の意見を)考えすぎると自由じゃなくなっちゃうじゃないですか。無視できればいいんですけど、割とぼく人がいいんで、なんか聞いちゃうんですけど。

高須・井田:(笑)

井田:だから自分の中でストッパーをかけないように。やっぱり「社会はこういうものを求めている。でも自分はこういうことがしたいな」っていうバランスはたぶんあるので、そのバランスの真ん中に立って見ている感じはずっとありますね。

高須:なるほどね。

井田:反省点は自分の中で持って活かせばいいけど、それをあまりプレッシャーに変えちゃうと自分を追い込んでいくだけになっちゃうじゃないですか。だからその辺はもう気楽に。20代のときとかは「やったれ!」みたいな感じでいって、その分反省も深かったんですけど。30歳を超えて、やっと若干気楽になれてきたというか。

高須:いいスタンスやなぁ。

井田:といってもまあ、落ち込むときは落ち込みますよ(笑)。

高須・井田:(笑)

画像02

ルーティンは成功率を高める努力。良作を生み出す工夫はプロとして最低限の仕事

高須:どんな生活してんの?

井田:毎日ほとんど変わらないですね。午後2時か3時に起きてスタジオに行って。1、2時間スタジオでぼーっとして。それから制作に入って、翌朝の5時とか6時とかまで10時間か12時間ぐらい描いて。それで帰って寝て起きてっていう繰り返しで。

高須:えー、それは毎日?

井田:ほぼ毎日ですね。仕事で外に出ているときとか海外に行っているときとか、展覧会があってバタバタしているとき以外は、ほぼ毎日。

高須:もちろん作品にもよるやろうけど、1つの作品に仕上げるのってどれぐらいかかるものなの?

井田:いちばん長いものだと3年ぐらいかかったものもありますし。本当に早いものだと10分、20分でパパッと描いちゃうときもあるし。

高須:ええー。10分、20分で「あ、できた。これや」って?

井田:はい。

高須:めっちゃ気持ちええなぁ。

井田:(笑)。でも実働としては10分、20分ですけど、その前にある情報量の回収みたいなところは一応30年間分のものがあるので。それを出しているつもりではいるんですけど。

高須:どんなときにゾーンに入るの? 自分だけの持っていき方とか。

井田:だいたいは起きたときに分かるんですよね。(調子が)いいと思えた日は、だいたい入っちゃうんです。ダメな日は10時間頑張ってもダメだし。頑張っていると(ゾーンに)入るときもあるんですけど。ゾーンに入れるかどうかは自分でコントロールできるものではないんですよ。だからルーティンをある程度守ることで、それが引き出しやすくなることをなんとなく体感として知っているからで。そこだけはなんとなく崩さずにずっとやっているような感じ。

高須:自分の中で出やすい時間とかある?

井田:それが夜なんですよ。だから昼夜逆転の生活っていうか。もう10年ぐらいそんな生活をしていますけど。たぶん静かで、頭もクリアで、人もいなくて…っていう条件がいくつかあったりして。その条件だけは取りあえずクリアして、ダメな日だったとしても最低限はやった、みたいな(笑)。

高須:確率が高いところでやっているっていうね。分かる分かる。本当に分かるわ。

井田:イチローさんじゃないですけど、なるべくヒットが出る確率を増やすような努力を裏側でやっている感じです。それは(作品を)見る人は意識しなくていいことだし。

高須:こっちがやっとかなあかんことではありますよね。それで飯食ってんねんもんね。

井田:大学のときにある先生に言われた言葉を今でも覚えているんですけど、プロとアマチュアの違いは何だという話になったときに「プロは千枚描いたら千枚ともいいものを作らないかん」と。それは不可能なんですけど、そういう気概とかモチベーションで日ごと生活することが、(プロとして)最低限やるべきことかなと思ったりもして。

高須:まあ、恥ずべきものは出されへんもんね。

井田:本当そうですね。

――井田さんの歴史と心情を探るお話、いかがでしたか? 次回も井田さんをゲストに、キャリアの転機やマイルールをお伺いしていきます。お楽しみに!

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