障害者雇用で退職するときの流れと失業保険・雇用保険について解説
失業保険(失業手当・失業給付金)とは、退職し仕事をしていない間、収入がまったくない状態になることを防ぐために支給される手当・給付金や、その制度のことを指します。障害者雇用枠ではたらいていた場合も、雇用保険に加入していれば離職後の失業期間に一定金額の手当を受け取れます。この保険制度や手当は一般的に「失業保険」や「失業手当」と呼ばれていますが、正式には「雇用保険」の「基本手当」という名称のものです。
この記事では、障害者雇用枠ではたらいている方が退職する際の一連の流れや、失業保険(雇用保険の基本手当)を受給する手順をご紹介します。
目次
障害者雇用で退職するときの手続き
今はたらいている職場から退職を決め、実際に退職して次の仕事を探すまでの流れはどのようになっているのでしょうか。ここでは、障害者雇用ではたらいている方が退職する際の諸手続きの流れをご紹介します。
退職の申し出
退職することを決めたら、職場の就業規則に従い退職の申請をします。「退職日の○○日前までに申請する」など、申請の期限が就業規則に設けられていると思いますので、それを守りましょう。できれば、期限よりも早めに退職を申し出るのがおすすめです。
退職届の提出
退職を申し出て、退職することが認められたら書面で退職届を提出します。
退職
退職までに業務の引き継ぎや、職場に置いていた私物の整理などをします。退職当日はこれまでお世話になった上司や同僚へお礼を伝え、入館証や名刺などの返却も忘れず行いましょう。
失業保険の申請
退職日以降に、管轄のハローワーク(公共職業安定所)で、失業保険の申請を行います。必要な書類などが複数あるため、できれば退職までに職場の人事担当者などに確認しておくと良いでしょう。
求職活動
失業保険を受給している期間中は、受給者の方は求職活動をすることが義務付けられています。失業保険の申請後は、ハローワークを利用して求職活動を始めましょう。
失業保険に関連した手当
ここでは、障害者の方が失業期間中や就職後に受けられる失業保険以外の手当について、それぞれ概要をご説明します。
失業保険の受給者が就職後にもらえる「常用就職支度手当」
失業保険(雇用保険の基本手当)を受給していた障害者の方が、再び常用就職をした場合に支給される手当です。この手当は、制度が定める諸条件を満たした上で失業保険の支給残日数が所定給付日数の3分の1未満である場合に受給ができます。
「障害年金」は失業保険と同時に受給できる
すでに受給中の方もいらっしゃるかもしれませんが、障害年金とは病気やけがで生活・仕事に制限が生じている際に受け取れる年金のことです。
「失業保険を受け取っているとき、障害年金はどうなるの?」という疑問をお持ちの方も多いと思いますが、失業保険(雇用保険の基本手当)と障害年金(障害基礎年金、障害厚生年金)は支給調整に関する規定はなく、それぞれを同時に受給できます。もちろん各制度の受給条件を満たすことが大前提ですが、条件を満たせば両方同時に受給することは問題ありません。
なお、障害者の方は雇用保険上で「就職困難者」に分類されています。このため、一般の受給者とは受給条件や受給期間が異なります。
次の項目ではそれを踏まえ、障害者の方が失業保険を受給する場合の条件をご説明します。
障害者の方が失業保険を受給する条件
ここでは失業保険をもらうための条件をご紹介しますが、障害者の方は一般の受給者より受給要件が基本的に緩和されています。
条件1:離職前の2年間で雇用保険に加入していた時期が通算して12ヶ月以上
退職までの2年間に通算12ヶ月以上雇用保険に加入していれば、受給できます。ただし、解雇・倒産等により離職した方(特定受給資格者)、又は特定理由離職者については、離職前1年間に、被保険者期間が通算して6ヶ月以上ある場合でも受給資格が得られます。パートやアルバイトなど非正規雇用であっても、雇用保険に加入していた場合は申請可能です。
条件2:労働の意思や能力はあるが失業状態である
はたらくことができ、はたらきたいと考えているのに就職できていない状態であれば受給できます。これを証明するために「ハローワークで求職の申請を行っていること」が、具体的な条件となっています。
なお、病気やけがが原因で就職や求職活動ができない場合はこの条件の例外となり、失業保険(雇用保険の基本手当)ではなく傷病手当を受給することとなります。
なお、雇用保険の傷病手当は、健康保険の「傷病手当金」とは別のものです。傷病手当金を受給している場合は、雇用保険の傷病手当は受給できません。
失業保険の受給期間と金額の計算方法
実際に失業保険(雇用保険の基本手当)の受給が決まったら、どのくらいの金額がいつまで支給されるかは知っておきたいところです。ここでは、失業保険を受給できる期間と、その金額を算出する方法をご紹介します。
障害者の方の失業保険(雇用保険の基本手当)受給期間
先にも述べましたが、障害者は「就職困難者」に分類されるため一般受給者よりも手当の受給期間が長くなっています。
被保険者期間1年未満の場合:年齢を問わず150日(一般受給者は受給資格なし)
被保険者期間1年以上の場合:45歳未満の方は300日、45~64歳の場合360日(一般受給者は1~10年で90日、10~20年で120日、20年以上で150日)
失業保険で受給できる金額の計算式
失業保険の支給額は人それぞれです。退職までのはたらき方で異なります。このため、個人に合わせた支給額を算出するための計算方法があります。
なお、月当たりの支給額の基準は1日当たりの基本手当です。基本手当は、以下の計算式で算出できます。
基本手当の1日当たりの金額=離職日の直前6ヶ月分の所得総額÷180
上記で算出された基本手当日額に諸条件を加味して利率が計算され、最終的な支給額が決まります。実際に支給される金額をざっくりと把握したい場合、「基本手当日額の50%〜80%」が支給されると覚えておくと良いでしょう。ちなみに、離職前に支給されていた給与が低いほど受給金額は最大の80%に近くなります。
ただし、基本手当の日額には上限があります。令和4年8月時点では、30歳未満は6,835円、30歳以上45歳未満は7,595円、45歳以上60歳未満は8,355円、60歳以上65歳未満は7,177円となっています。また、下限は全年齢で2,125円に設定されています。
参考:厚生労働省「雇用保険の基本手当日額の変更」
失業保険の受給金額の計算例
【離職直前6ヶ月分の所得総額が90万円(額面)=月収が約15万円だった場合】
基本手当日額は5,000円です。これに50%~80%をかけると2,500~4,000円となり、これが1日当たりの支給額の目安です。
ひと月あたりに換算するとおよそ75,000~120,000円となります。
【離職直前6ヶ月分の所得総額が180万円(額面)=月収が約30万円だった場合】
基本手当日額は10,000円です。これに50%~80%をかけると5,000~8,000円となり、これが1日当たりの支給額の目安です。ただし、年齢ごとの上限額を超える場合は上限額での支給となります。
ひと月あたりに換算するとおよそ150,000~240,000円となります。
失業保険を受給するために必要な手続き
退職後、失業保険(雇用保険の基本手当)を受給するためには、さまざまな諸手続きが必要です。ここでは、退職から失業保険受給までの一連の流れをご紹介します。
失業保険の申請に必要な書類を準備する
以下の書類を、事前にそろえておきます。
- 雇用保険被保険者証
- 離職票(-1、2の2種類が必要)
- 個人番号確認書類(マイナンバーカード/マイナンバー通知書など12桁の番号が分かるもの)
- 最近撮影した写真×2枚(縦3.0cm×横2.5cmで正面上半身が写ったもの)
- 預金通帳またはキャッシュカード(ご自身名義のもの)
- 公的な身分証明書(運転免許証やマイナンバーカードなどの原本)
- 印鑑
ハローワークで手続きを行う
上記の書類などをそろえ、ハローワークの窓口で、求職の申し込みをし、離職票を提出します。ここで受給条件を満たすかどうかが確認されます。
雇用保険説明会へ参加する
受給資格が決定されると窓口で説明会の予定を伝えられますので、指定された日時に必ず出席して説明を受けましょう。
失業認定を受ける
説明を受けた後、ハローワークで正式に失業認定を受けます。雇用保険受給資格者証、失業認定申告書が渡され、失業認定日が知らされます。
受給開始
ご自身で指定した口座に、予定された日程で基本手当が振り込まれます。
ただし、失業保険を受け取り続けるためには一定回数の求職活動を行うと共に、月に1回程度指定された日にハローワークへ行き、失業状態の認定(就職していないことの確認)を受ける必要があります。
失業保険の申請時は「退職理由」に要注意
失業保険の受給開始時期は、退職理由(離職理由)によって変わってきます。会社都合による退職の場合は、手続き後7日間の待機期間を満了すれば受給開始となりますが、自己都合退職の場合は7日間の待機期間に加え、給付制限期間が2ヶ月間(過去5年の間に2回以上自己都合退職をしている場合、3回目以降は3ヶ月間)設けられます。
2ヶ月の違いは大きいため、離職票の離職理由欄の内容に間違いがないかどうか必ず確認しましょう。
退職を自分から申し出た場合、基本的には離職票の離職理由欄には「自己都合」と記載されますが、職場でのハラスメントやいじめが原因で退職に追い込まれた場合などは「会社都合」だと認められる場合もあります。音声を録音したデータやメールの履歴、病院で発行された診断書などを証拠としてハローワークへ提出すると、主張が認められる可能性が高まります。セクハラやパワハラなどで転職や退職を考えている方は、可能であればハラスメントの証拠を集めておきましょう。
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まとめ
退職後、仕事をしない期間がある場合に不安に思うことといえば、やはり手続きやお金の問題です。退職時の流れや失業保険の詳細についてあらかじめ知っておくと、安心して退職や再就職に向けた準備を行えます。障害者の方の場合は一般の制度と異なる部分もありますが、違いは主に受給に関する緩和がメインで、必要な諸手続きなどはほぼ変わりません。
また失業保険を受給するにはハローワークの利用が必須ですが、他の就職支援サービスも自由に活用できます。もし再就職に関するお悩みをお持ちなら、障害者の方の就職に特化したdodaチャレンジをぜひご利用ください。
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参考:
労働者の皆様へ(雇用保険給付について)|厚生労働省
基本手当について|ハローワークインターネットサービス
雇用保険の失業手当(失業保険)を受け取る条件と手続き<社労士監修>|doda
公開日:2022/10/6
- 監修者:木田 正輝(きだ まさき)
- パーソルダイバース株式会社 人材ソリューション本部 キャリア支援事業部 担当総責任者
- 旧インテリジェンス(現パーソルキャリア)に入社後、特例子会社・旧インテリジェンス・ベネフィクス(現パーソルダイバース)に出向。採用・定着支援・労務・職域開拓などに従事しながら、心理カウンセラーとしても社員の就労を支援。その後、dodaチャレンジに異動し、キャリアアドバイザー・臨床心理カウンセラーとして個人のお客様の就職・転職支援に従事。キャリアアドバイザー個人としても、200名以上の精神障害者の就職転職支援の実績を有し、精神障害者の採用や雇用をテーマにした講演・研修・大学講義など多数。
- ■国家資格キャリアコンサルタント
- ■日本臨床心理カウンセリング協会認定臨床心理カウンセラー/臨床心理療法士