【社労士監修】「最大28カ月給付」は本当?|傷病手当金と失業保険の受給要件を解説
ネット広告などで見かける「失業保険を最大28カ月受給できる」という言葉を見て、制度が誤解されるケースは少なくありません。この「28カ月」というのは、傷病手当金と失業保険をあわせた期間を指しています。ただし、2つの制度は目的や受給要件が異なり、ご自身の都合で受け取れるものではありません。
この記事では、正しい受給の流れや注意点、障害者向けの優遇制度まで、社労士の視点でわかりやすく解説します。
この記事を監修した人

玉上 信明 (たまがみ のぶあき)
三井住友信託銀行にて年金信託や法務、コンプライアンスなどを担当。
定年退職後の2017年1月に社会保険労務士玉上事務所を開業し、執筆やセミナー講演を中心に活動中。人事労務問題を専門とし、企業法務全般・時事問題・補助金業務などにも取り組んでいる。
■資格
社会保険労務士・健康経営エキスパートアドバイザー
■監修・執筆実績
・M3 Career 産業医ポータルサイト
・Money Forwardクラウド
・FREENANCE MAG
目次
失業保険の「最大28カ月もらえる」は誤解されやすい。傷病手当金と失業保険を合算した最大日数を示している
WebサイトやSNSの広告で「失業保険が最大28カ月受給できる」といった表現を見かけることがあります。しかし、この「28カ月」は、誰もが失業保険を受給できる期間ではありません。健康保険の傷病手当金の期間を合算して示しているだけであり、言葉通りに受け取らないようご注意ください。
傷病手当金と失業保険(雇用保険の基本手当)は、目的も受給要件も異なります。制度上は最大28カ月受給可能なように見えますが、両制度の対象となるためには、健康状態や医師の証明、健康保険・雇用保険の加入状況など複数の条件を満たす必要があります。そのため、傷病手当金と失業保険(基本手当)の給付期間を通算して28カ月受給できるケースは限られています。まずは、ご自身がどの制度の対象となるかを確認することが大切です。ここでは、「最大28カ月」といわれる理由と、両制度の関係を確認します。
参考:厚生労働省「傷病手当金について」
参考:ハローワーク「基本手当について」
「最大28カ月」の仕組みとは? 傷病手当金と失業保険の給付期間を合算したもの
「最大28カ月」という表現は、健康保険の「傷病手当金」と雇用保険の「基本手当(失業保険)」という異なる制度の給付期間を合算したものです。
傷病手当金は「病気やケガではたらくことができない期間」の生活を支える制度で、支給期間は最長で通算1年6カ月(18カ月)です。一方、失業保険(基本手当)は、はたらく意思と能力があり、求職活動をしている方を対象とする制度で、所定給付日数は離職理由や年齢、雇用保険の被保険者期間などによって異なります。
一部の広告などでは、傷病手当金の最長18カ月と失業保険(基本手当)の給付日数を月数に換算して合算し、「失業保険を最大28カ月」と表現しています。
ただし、傷病手当金は「はたらけない状態」、失業保険(基本手当)は「はたらく意思と能力がある状態」が受給の前提となります。傷病の回復時期が傷病手当金の受給期間の満了日に近く、あわせて失業保険(基本手当)の受給要件を満たした場合は、結果として28カ月程度の受給期間となる可能性がありますが、条件を満たすケースは多くないでしょう。
傷病手当金・失業保険の申請サポートを利用する際の注意点
傷病手当金や基本手当の申請を支援する民間サービスもあります。利用を検討する場合は、支援内容や費用、契約条件などを事前に確認することが大切です。
傷病手当金や失業保険(基本手当)は公的な制度であり、申請方法や受給要件は協会けんぽ やハローワークなどで確認できます。まずは公的機関の情報を確認し、必要に応じて専門家などへの相談も検討してみてください。
病気やケガの治療に専念するための「傷病手当金」
療養中の生活を支える制度のひとつが健康保険の「傷病手当金」です。病気やケガの治療に専念し、生活の土台を確保するための制度について解説します。
傷病手当金を受給するためには、以下の4つの基本的な要件をすべて満たす必要があります。
1.業務外の病気やケガによる休業であること(「私傷病」という)
うつ病などのメンタルヘルス不調も含まれます。なお、仕事や通勤災害が原因の病気やケガで休業する場合は、後述の「労災保険」で手厚い給付が保障されています。
2.仕事に就くことができない状態(労務不能)であること
医師の診断に基づき、従来の業務を行える状態にないことが求められます。
3.連続する3日間の「待機期間」を経過していること
療養のために仕事をしなかった日が連続して3日間あり、4日目以降から支給対象となります。
4.休業期間中に給与の支払いがないこと
給与が支払われている間は、傷病手当金は支給されません。ただし、給与が支払われていても、傷病手当金の額(おおむね直近給与の3分の2相当)より少ない場合は差額が支給されます。
なお、退職後も傷病手当金の継続給付を受けるためには、退職日までに健康保険の被保険者期間が継続して1年以上あり、退職日時点で傷病手当金を受給しているか、受給できる状態にあることなどの要件を満たす必要があります。また、退職日に出勤した場合は、退職後の継続給付の対象になりません。
傷病手当金の支給期間は通算1年6カ月に|途中で復職した期間がある場合も繰り越して受給可能
2022年(令和4年)1月の制度改正により、傷病手当金の支給期間は、支給開始日から「通算して1年6カ月」となりました。途中で復職するなど、傷病手当金が支給されない期間があった場合は、その期間を除いて支給日数を通算し、残りの支給期間を利用できるようになりました。
改正前は「支給開始日から起算して1年6カ月」という暦の期間でカウントされていたため、途中で復職して支給されない期間があっても、1年6カ月が過ぎると受給権が消滅していました。しかし改正後は、実際に「はたらけずに支給を受けた日数」を合計して通算1年6カ月に達するまで受給が可能となっています。
この通算化により、例えば「一度復職したものの、再び体調を崩して再休職した」「入退院を繰り返している」といった場合でも、残りの支給可能日数を無駄にすることなく使い切ることができるようになり、より柔軟に療養生活を送ることができるようになりました。
失業保険(基本手当)はいつから受給できる? 申請条件と流れ
傷病手当金を受給しながらじっくり療養を行い、体調が回復して「そろそろ再就職に向けて動き出したい」と思えたら、失業保険(雇用保険の基本手当)の申請を考えてみましょう。
失業保険は「はたらく意思と能力」がある人のための制度
まずは失業保険の受給要件を確認しておきましょう。繰り返しになりますが、失業保険は「いつでも就労できる状態(労働の意思と能力)にありながら、仕事に就けない状態にある方」を支援するための給付です。そのため、病気やケガの療養中ではたらけない状態の場合は、ハローワークで失業保険を申請することはできません。
通常、失業保険の受給期間は「離職した日の翌日から1年間」と定められています。しかし、退職後すぐに病気ではたらけない場合、そのままにしておくと受給権が失われてしまいます。
その場合に検討したいのが、ハローワークでの「受給期間の延長手続き」です。病気やケガで30日以上はたらけなくなった場合、受給期間の延長申請(出典:厚生労働省 兵庫労働局「受給期間の延長申請について」)を行うことで、受給期間を最長4年間まで延長することができます。これにより、療養中は傷病手当金を受け取りながら安心して治療を受け、体調が戻った段階で失業保険の手続きに移ることができるようになります。
受給期間の延長後は、はたらける状態になってから失業保険(基本手当)を申請する
受給期間を延長していた方が基本手当の受給手続きに進む際は、病気やケガなど、延長の理由が解消したことを確認できる書類が必要です。病気やケガを理由に延長していた場合は、医師の証明書などを求められることもあります。必要な書類については、事前に住居地を管轄するハローワークへ確認しておきましょう。
雇用保険の「就職困難者」に該当する場合は失業保険の所定給付日数が長くなる
雇用保険では、障害のある方など一定の要件に該当する方が「就職困難者」として扱われ、一般の離職者より所定給付日数が長く設定されています。ここでは、就職困難者に該当する場合の給付日数について確認します。
就職困難者と認定された場合の給付日数の優遇措置とは
身体障害者、知的障害者、精神障害者など、雇用保険上の「就職困難者」に該当する場合、失業保険の所定給付日数が一般の離職者より長く設定されています。一般の離職者の場合、所定給付日数(基本手当がもらえる日数)は90〜150日程度(出典:ハローワーク「基本手当の所定給付日数」)です。
しかし、障害者などの就職困難者に該当すると、失業保険の所定給付日数が一般の離職者よりも大幅に優遇されます。具体的には、年齢や雇用保険の被保険者期間に応じて「150日〜360日(最大約12カ月)」の給付を受けることができます。
療養が終わったあとも、自分の体調に合った職場をじっくり探すための期間が確保されているため、焦らず着実に再就職を目指すことができます。
「急いで障害者手帳を取るべき?」心身の状況に合わせた慎重な判断を
給付日数が大幅に増えると聞くと、「失業保険を長くもらうために、今すぐ障害者手帳を申請したほうがよいのだろうか」と考える方もいらっしゃいます。
しかし、障害者手帳の取得は給付日数の優遇のためだけに行うべきではありません。障害者手帳を取得することには、税制上の優遇や各種割引、障害者雇用枠での求人応募が可能になるといった多くのメリットがある反面、医療機関への一定期間の通院歴が必要となるなど、申請の手順や判断も慎重に行う必要があります。
障害者手帳を取得することによって自分のはたらき方や生活にどのような変化があるのか、今後のキャリアプラン(一般枠ではたらくか、配慮のある障害者雇用枠ではたらくか等)も含めて情報を集め、主治医や専門機関と相談しながら慎重に判断することをおすすめします。
業務に起因した傷病は労災保険の対象になる可能性も
長時間労働やパワーハラスメントなど、業務が原因で健康状態が悪化した場合は、労災保険の対象となる可能性があります。手続きについては最寄りの労働基準監督署に相談してみましょう。労災給付の概要は以下の通りです。
労災保険の対象となる傷病について労災指定医療機関等を受診する場合は、健康保険のような治療費の自己負担は原則ありません。また、指定医療機関等以外を受診した場合は、いったん費用を負担したうえで、あとから対象となる療養費を請求できます。
2.休業(補償)等給付額も傷病手当金より多く、期間の上限もない
健康保険の傷病手当金(標準報酬日額の約3分の2)と異なり、労災保険の休業(補償)等給付では、給付基礎日額の60%相当額の支給に加えて休業特別支給金として20%相当額が支給されます。
また、休業(補償)等給付には、傷病手当金のような1年6カ月といった支給期間の上限はなく、業務上または通勤による傷病の療養のためにはたらけず、賃金を受けていないなどの要件を満たす期間については期間の制限なく支給されます。
なお、療養開始から1年6カ月を経過した後、傷病が治っておらず、一定の傷病等級に該当する場合は、傷病(補償)等年金が支給されます。
業務上の傷病によって療養のため休業している期間とその後30日間は、労働基準法により原則として解雇が制限されています。なお、労災保険給付を受ける権利は退職によって変更されないため、退職後も支給要件を満たしていれば給付を受けられます。
業務上の傷病によって療養のため休業している期間とその後30日間は、労働基準法により原則として解雇が制限されています。なお、労災保険給付を受ける権利は退職によって変更されないため、退職後も支給要件を満たしていれば給付を受けられます。
出典:厚生労働省「労災保険給付の概要」
社労士から伝えたいこと:体調に合わせて療養と再就職の準備を進めることが大切
傷病手当金や失業保険(基本手当)を利用する際は、受給期間だけでなく、体調の回復状況や今後のはたらき方も踏まえて考えることが大切です。
体調の回復状況に合わせて再就職の準備を進める
傷病手当金や失業保険(基本手当)は、それぞれに、「療養中」または「求職活動中」の生活を支えるための制度です。受給できる期間の長さだけで判断するのではなく、それぞれの制度の目的や受給要件を理解し、体調に合わせて利用することが大切です。
療養が必要な時期は心身の回復を優先し、体調が整ってきたら、主治医などとも相談しながら無理のない範囲で今後のはたらき方や再就職について考えてみましょう。公的な給付を生活の支えとして利用しながら、自分のペースで次の準備を進めることが重要です。
「障害者雇用」や「就職支援サービス」を活用して自分に合ったはたらき方を探す
体調が整い、はたらく準備ができたときは、ハローワークや就職・転職支援サービスなどに相談することも選択肢のひとつです。
例えば、パーソルダイバースが運営する、障害者のための転職・就職支援サービス「dodaチャレンジ」では、障害のある方の転職・就職を支援しています。必要な配慮や希望するはたらき方について相談しながら、自分に合った求人を探すことができます。こうした専門サービスを活用することで、合理的配慮や適切な就労環境について確認しながら企業選びを進めやすくなります。
再就職先を検討する際は、仕事内容だけでなく、勤務時間や勤務場所、必要な配慮なども確認することが大切です。障害者雇用を含め、自分の体調や希望に合ったはたらき方を検討し、長くはたらき続けられる環境を探していきましょう。
傷病手当金と失業保険に関するよくある質問
傷病手当金と失業保険に関して、よく寄せられる質問をまとめました
傷病手当金と失業保険(基本手当)は同時に受給できますか?
傷病手当金と失業保険(基本手当)を同時に受給することはできません。傷病手当金は、病気やケガによりはたらくことができない方を対象とした制度です。一方、失業保険(基本手当)は、はたらく意思と能力があり、求職活動を行っている方を対象としています。そのため、それぞれの制度の目的や受給要件は異なります。まずは療養と回復を優先し、体調が整った後に失業保険(基本手当)の受給手続きを検討しましょう。
退職後も傷病手当金を受給できますか?
退職後も傷病手当金を受給できる場合があります。ただし、退職日までに健康保険へ継続して1年以上加入していることや、退職日時点で傷病手当金を受給している、または受給できる状態にあることなどの条件があります。退職日に出勤した場合は継続給付の対象外となるため注意が必要です。
傷病手当金と失業保険を上手に活用して自分らしくはたらける一歩に
「傷病手当金」は、病気やケガではたらけない療養中の生活を支える制度で、「失業保険(基本手当)」は、体調が回復してはたらく準備が整った後の求職活動を支える制度です。この2つの制度は要件も役割も異なります。「28カ月受給」という数字だけに注目せず、制度ごとの要件を確認することが大切です。
はたらけなくなったなら、まずは心身の回復を最優先させ、制度の要件を確認しながら利用していきましょう。就労準備が整ったら、転職・就職支援サービスなどのプロの力を借りつつ、自分らしく長くはたらき続けられる職場への一歩を踏み出していきましょう。
まずは、キャリアアドバイザーに転職相談を
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就職について不安なことも
障害者雇用の知りたいことも
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公開日:2026/09/11
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