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掲載日:2012.02.20

総合化学メーカーの技術者というと研究・開発のイメージが強いかもしれない。しかし、開発した素材を製品化するための製造工程やプラントを造るプロセス・機械技術に携わるエンジニアも重要な役割を担い、多数活躍している。三井化学で化学プラントに長年携わってきた稲葉尚士氏に同社のプラントエンジニアリングの強みを聞いた。
「本当は、宇宙産業に関わるような素材開発がしたかったんですけどね」
そう笑いながら話すのは、三井化学の市原工場 計画グループで、PP(ポリプロピレン)・PE(ポリエチレン)プラントの機械設計部門のパートリーダーを務める稲葉尚士氏。大学・大学院を通じて材料の強度の研究をしていた。
「金属材料ではなくて、ポリイミド樹脂という樹脂の強度評価をしていました」
ポリイミド樹脂とは、現在は三井化学の大牟田工場(福岡県)で作られている製品で、当時の三井東圧化学(1997年10月に三井石油化学工業と合併し、現在の三井化学に)から材料の提供を受け、稲葉氏はその研究をしていた。三井東圧化学の研究員たちと研究を進めていく中で「社員の人たちが楽しそう」という印象を持ったのと同時に、「樹脂材料」の可能性を感じたことから三井化学への入社を決めた。
「入社後は大阪工場の計画部に配属され、PPプラント改造の機械設計担当になりました。プラントに携わることは知った上で入社したのですが、当初は自分が何をやるのかほとんど分かりませんでした。ただ、入社した年の7月に定期修理があって、そこでとにかく現場を見させられたんです。新しいドラムが据付されたり、さまざまな配管がつながったりするのを目の当たりにして、“ああ、モノはこうして出来上がっていくのか”と実感したのを覚えています」

経験を積んでいろいろなことが分かってくるほどに、仕事も面白くなり、やりがいも強く感じるようになってくる。2003年1月に市原工場(千葉県)へ異動となり、2005年には新規のエラストマープラントの建設班に抜擢された。この時のプラントで製造するのはエラストマーというポリマーで、主に自動車のドアとボディの間にある黒いスポンジ(ウェザーストリップと呼ばれる、雨水の浸入を防ぐ部品)の原材料になるものだった。
「新規プラントの建設はずっとやりたいと思っていたので、プロジェクトメンバーに選ばれた時はうれしかったですね。建設って、やりたいと思った人全員が経験できることではないので、選ばれるのはとても光栄なことなんです。建設班は最初は20人くらいで、プロセス設計者や私たち機械だけでなく電気、制御、土建の設計者がいました。途中からオペレーターが入ってきて最終的には40人くらいになっていました。けっこうな大所帯ですよ」
それまで稲葉氏が担当していた既設プラントの改造と、新規プラントの立ち上げは、基本的な手順においてはさほど違わないのだという。ただ一点、大きく違うのは「物量」だ。
「毎日ダンボール1箱くらいの図面を見ていました。文字通り、図面の山に埋もれていましたね。そんな中で、その物量に負けないために、ある程度力技でこなしていく部分も大きいです。また、ちょっとした改造であれば多少ミスしてもすぐフォローできるのですが、これだけ工程の多いプロジェクトでは関わる人も多いため、大局的に方向がずれていってしまうと戻せなくなってしまいます。そうならないために、工程・方針を適切に引いて進めていくプランニングの部分が非常に大切になってきます」
このプラントで用いられた機器の数は500以上にも上る。この程度の規模になると、設計時に“これは困ったぞ”というケースはいくらでも出てくる。そうしたときに重要なのはコミュニケーション。各分野のエンジニアが一つのテーブルに集まって“ワイワイガヤガヤ”しながらいろいろなことを一つずつ決めていった。
プロジェクト発足からおよそ2年半、ひと通りの建設を終えて試運転フェーズにまで漕ぎ着けた。
「当然プラントができた時もうれしかったですけど、やはり初めて試運転をして最初に製品が出てきた時が一番感動しましたね。その時は、プロジェクト関係者全員で製品が出てくるのをじっと見守っていました。と言っても、そこで出てきたものは物性もガタガタでまだ要求されるスペック通りのものではないのですが(笑)、それでも一番うれしい瞬間でした」

エラストマーのプロジェクトが完了した後は新設PPプラントの基本設計のプロジェクトを経て、2010年には、海外のメーカーにポリマープラントのプロセス技術をライセンスする案件も担当している。
「相手は日本人ではないので、英語を使って条件のすり合わせをします。このときはライセンスドキュメントを作っていました。国内の案件だと英語を使うという機会はほとんどないのですが、海外でのプラント建設となるとやはり英語を使う機会は増えてきますよね」
大学を出てからは英語の勉強などほとんどしたことはなかったという稲葉氏だったが、この案件に携わったのを契機に必要に駆られて勉強を始めた。稲葉氏の周りのエンジニアの間でも英語の学習熱は高まっていて、昼休みに英語を聴いたり、会社で用意されている英語クラスにも多くのエンジニアが積極的に参加しているそうだ。
現在、稲葉氏は市原工場で、PP・PEプラントのパートリーダーとしてチームを束ねている。
「私たちは限られた工程の中で仕事をしますので、設計や工事が予定どおりに終わらなかったら当然、自分たちの責任になります。どんなプロジェクトでも判断しなければいけないことが本当にいろいろと出てくるのですが、いま私がいるチームのメンバーは決して後ろ向きの意見は言いません。何でもいいからとにかく前に転がして形にしなきゃいけない、そういう思いを皆が共有できているから、どんな時でも前向きな意見を言えるのだと思います」
化学メーカーの製品はメーカーに納めるものであり、一般の消費者に直接提供されるものではない。そのため、消費者が化学メーカーの存在を意識することは多くないというのが実際だろう。
「それでも、製造業の根本の部分を支えているんだという思いはありますよ。当社は、触媒技術においてもプロセス技術においても世界に誇れるものを持っていると自負しています。機械設計の立場で、そうした技術・経験を最大限に活かして、さらなる新しいモノづくりができる、最先端のプラントを作り上げられるという点が、やりがいであり、誇りでもあります」
新規プラント建設に再び携わりたいという稲葉氏に、今後の展望を聞いた。
「“私がいたからこそ、このプラントができた”と誇れる仕事ができたらいいですね。今後、国内では新規プラント建設はなくなっていくと思います。世界に目を向ければ中東や東南アジアから競合が頭角を現してきました。そんな中、技術力やマネジメント力のほかに、英語力を身につけておくことで仕事のチャンスを広げられる可能性があるなら、勉強にもモチベーションを持って取り組めるというものです。働く場所にこだわりはありませんよ」
三井化学株式会社(東証一部上場)
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