掲載日:2013.12.16
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三年予測ートップリーダーと考えるエンジニアの未来ー

『“ハック”精神を貫き「低レイヤー」の技術に注目した製品群を送り出す天才プログラマ兼経営者がつくば市で会社を10年続けている理由』

プログラマ兼経営者 登 大遊(のぼり だいゆう)

1984年生まれ。29歳。2003年、筑波大学1年に在学中、VPNソフトウェアSoftEtherの開発が「未踏プロジェクト」に採択される。2004年4月、ソフトイーサ株式会社を起業、代表取締役に就任。SoftEtherの後継となるVPNソフトウェアやサービスを次々に開発。筑波大学大学院システム情報工学研究科コンピュータサイエンス専攻博士後期課程に在学中の大学院生でもある。


“ハック”の精神でソフトウェアを生み出し続ける

大学1年で「未踏スーパークリエータ」に

「低レイヤー」、「異常な努力」、「AC」、「怠けるために仕事をしてるんです」──ソフトイーサ株式会社の経営者で、自らプログラムを書き続ける登大遊(のぼり だいゆう)の語り口は独特だ。だが、よく耳を傾けているうちに、登の中の価値観が浮かび上がってきた。登は、プログラマの言葉である“ハック”をなにより重んじる生き方をしてきたのだ。
まず時計の針を10年前に戻すところから始めよう。2003年、筑波大学の1年生だった登は、パソコンで動くソフトウェアによりVPN(Virtual Private Network)を実現する「SoftEther」を作り上げた。企業や大学が管理する組織内ネットワークと、自宅やモバイル環境など外部のネットワークを結ぶ仮想的なネットワークを手軽に構築できるソフトウェアだ。
このSoftEtherはフリーソフトウェアとして公開された。シンプルな着想と、手軽にVPNを設定できるインパクトの大きさにより、SoftEtherはたちまち有名になり、登の名も広く知られるようになる。
このSoftEtherは、IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)の「未踏ソフトウェア創造事業 未踏ユース部門」、つまり「未踏プロジェクト」の成果物である。プロジェクトは高い評価を受け、登は「未踏スーパークリエータ」の称号を得た。10代にして、日本の政府機関お墨付きの「天才プログラマ」の座を勝ち取ったのだ。
それから10年が過ぎた。2013年現在、登は筑波大学大学院博士課程に在学中である。同時にソフトイーサ株式会社の代表取締役を務める。学生兼経営者だ。
同社の主力製品/サービスには、複数種類のVPNプロトコルに対応したソフトウェア「PacketiX VPN 4.0」、オフィスに置いたパソコンに外部からアクセスできる「Desktop VPN」などがある。無償のVPNソフトウェア「SoftEther VPN」も公開中だ。10年前に作ったSoftEtherの流れを汲む製品とサービスが今も事業を支えている。

学内ネットワークへの不満と好奇心が原動力に

SoftEtherを開発した動機について、登はこう説明する。
「大学内の無線LANからは使えないプロトコルが多かった。例えばWindowsのファイル共有も、POP3やSMTPでのメール送受信もできない。P2PソフトウェアのWinMXやWinnyも使えなかった」。
当時はモバイル通信の通信費が高価だったこともあり、登は学内ネットワークから自由にインターネットにアクセスできる環境が欲しかったのだ。SoftEtherを使えば、大学内部のネットワークにVPNという「トンネル」を開けることで、あらゆるプロトコルをインターネット経由で使うようにできる。
そしてもう一つ、開発から10年経過した今だからこそ明かせる理由があった。
「TWINSという、当時の大学の成績管理システムのセキュリティに“興味があった”んです」
今や「時効」なので登は明かしてくれたのだが、大学内のネットワークでVPNを用いて構築されている成績管理システムのデータベースサーバに対してアクセス可能かどうかに知的好奇心を抱いたことが、VPNに興味を持ったもう一つの動機だったのだ。

「仕方なく」起業する

2004年4月、大学2年生になったばかりの登は、ソフトイーサ株式会社を起業する。未踏プロジェクトの予算を管理する「プロジェクト管理組織」の役割を引き受けていた三菱マテリアルが、SoftEtherを販売すると申し出たことがきっかけだ。
登が説明する起業の理由が、ふるっている。
「SoftEtherのライセンスのための契約書を作ったのですが、当時は未成年だから何をするにも親権者の同意が必要で、そのたびに実家に速達で郵便を送らないといけない。ものすごく面倒だった。そこで『会社を作ればいい』と言われました(笑)」。
登の言葉を使えば「仕方なく」起業したのが、ソフトイーサ株式会社だったのだ。もちろん、この言葉を真に受けるわけにはいかない。登はそれ以前から、起業を考えていた。そして、一緒に起業する仲間がいた。起業の意思があり、仲間がいて、そこにSoftEtherの成功が重なり、条件が整ったのだ

大学のネットワークに「トンネル」を開ける

ここでSoftEtherの内容を少しだけ見てみよう。
登は学内ネットワークの制約に不便を感じていたのだが、その理由はインターネットと企業内/大学内などのネットワークの間に、両者を隔てる「関所」があるためだ。つまり、ファイアウォール、プロキシ、NAT(Network Address Translators)の存在である。
この「関所」を乗り越えるために登が考えた方法は、広く使われているネットワークの規格であるイーサネットのレイヤー2(データリンク層)と同等の機能を持つ仮想的なネットワークを、既存のTCP/IPネットワーク上に作ることだった。いわば、ネットワークに「トンネル」を掘って開通させようとしたのだ。この「トンネル」の役割をするソフトウェアがSoftEtherだ。イーサネットを通ることができるプロトコルであれば、すべてSoftEtherによる仮想的な「トンネル」を通過することができる。
アイデアはシンプルだ。だが、その実装には、登の言葉を借りるなら「異常な努力」が必要だった。SoftEtherが高い評価を受けたのは、シンプルなアイデアと高度な実装能力の両方を登が持ち合わせていたからだ。
「低レイヤー」にこだわり続ける
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