
ここまでのお話しを受け、「ニーズの受け手」としてのIT業界を見てみると、その人気というのが弱まっている現状があります。これについてはどうお考えでしょうか?
時代の循環的なものはあるでしょう。あるときは銀行が人気だったり、商社、製造業だったり、コンサルタントだったり、ITだったり…ただ、ITの重要性や技術革新のスピードを考えると、確かに本来あるべきなIT業界の元気がないかなという気はします。少し反動もあるのかもしれませんね。いわゆる「ITバブル」と呼ばれたころ―ITがあまりにもてはやされて、祭り上げられてしまった反動で、過剰に陳腐化してしまっているのかもしれない。
一方で世界に目を移すと、アメリカもそうですが成熟した国においては、現実に技術者は減ってきているのです。ただ、アメリカが日本と違うのは、インド人や中国人などの優秀な人間がたくさんいて、その彼らが業界を支えているという点。日本に足りないのは、オフショアで彼らを活用する…というだけでなく、もっと連動したり、ぶつかり合ったり、融合したり、ということを積極的に行っていくということでしょう。ITにおいてインドは本当に優秀だし、中国も遅かれ早かれ、同じ水準に来る。国内でIT業界の人気を高める、という考えももちろん大切ながら、国内だけでIT、ITと言っててもだめ。IT業界もまた、世界を見ずして成立する業界ではないのです。
ちょっと話は変わりますが、シリコンバレーに目を移すと、80年代にサンやアップルができ、その後90年代にはヤフーのようなポータルやサーチエンジンの企業が続々と生まれてきた。でも十数年で彼らはもうIT業界では古株企業となり、今はそこからスピンアウトした優秀な人々が新しい世代のビジネスを生み出していますよね。これに表されるように、世代交代がどんどん行われて、イノベーションが次々に起こり、業界を動かしていくのがIT業界。そういった「下克上」的な面白さがある業界なんです。ただ、日本では「そういうのには付いていけない」という人が増えてきてしまったのかもしれない―これはIT業界に限ったことではないのでしょうけども。
業界の構造的な問題として一次、二次といった多階層構造を指摘する声も大きいですね。これについてはどうでしょうか?
少なくとも、ここまでレイヤーが重なっているのは先進国では日本だけですね。この構造の大きな問題は、マージンが重なった結果、下位レイヤーの企業で十分な教育投資が行き届かなくなってしまうことでしょう。このような環境で働いているエンジニアにとっては、一生懸命やっていたのに、気づいたらいつの間にか自分の技術がもう陳腐化してしまっていて使い物にならなくなってしまった…などという恐れもある。政府や大手のSIerはじめ、業界としてこの構造は直していこうとし始めていますが―少なくとも現在は、業界の成長に大きな足かせとなってしまっているのは事実です。
それに対して、アクセンチュアが考えるキャリア、アクセンチュアで描けるキャリアとはどのようなものなのでしょうか?
アクセンチュアにも「お客さまとの接点を増やしたい」「もっとレベルの高い仕事をしたい」と参加してくるメンバーがたくさんいます。また、必ずしもその全員がずっとアクセンチュアに居続けるわけではなく、もともといたようなSIerでマネジメントをする人もいるし、ユーザサイドに行く人もいるし、自分で起業する人もいる。そういった点では、ある意味アクセンチュアを成長のためのプラットフォームとして利用してもらってもいい。ただ、アクセンチュアの手がける領域というのはきわめて裾野が広いですから、その全てを見て、吸収するには10年くらいはかかります。言い換えると、10年は飽きさせない企業だということは言えるでしょう。
ただ、最近の若い人には1年、2年で「分かった」と思ってしまう人も多くて、ちょっと浅はかかもしれない、というのは感じています。確かに海外では「ちょっとやったことがある」という程度で“エキスパート”を名乗る人も多いですから、その影響を受けているのか…これはちょっと悪い欧米化ですね(笑)。

では、「これからのIT業界で活躍し続けられるエンジニア」とはどのような人なのでしょうか?
繰り返しになりますが、ITに携わる人間として、その技術動向にアンテナを張っておくこと、知っておくということは大前提。重要なのは、「面白い」と思ってその情報に触れられるか。「こう来たか、じゃあ次はこう来るかな」とワクワクしながら思いをめぐらせること―そのためには純粋にそれを面白いと思えるかどうかが必要でしょう。あと、IT業界で大きなビジョンが実現するまでには5年はかかるもの。何か面白い動きが出てきたときに、それが使い物になる5年後にはどうなっているのか、それまでの間にはどのような動きがあるのか、というところまでを考えられる「洞察力」も必要でしょうね。
総じて言えることは、世の中の大きな流れ―風を読むようなセンスが重要だということ。自分のやっていることと、世の中の流れが食い違ってしまっては意味がない。日々の業務においても同じで、いま自分が携わっているものが、経営に、社会にどういった影響を及ぼすのか?役立っているのか?というところを意識することでしょう。ITとは、ある意味「理想と現実」のギャップを埋めるもの。理想ばかり見ていてもだめだし、現実だけを見ていてもだめなんです。
あとは、チームワーク。今の複雑化したITは、なんでも自分でできるような世界ではありません。繰り返しになりますが、「最適なソリューションのための最適な組み合わせ」という観点がこれからはニーズとして強くなっていきますから、必然的にいろいろな人たちとチームを組むこと―もちろん海外のエンジニアと仕事をする機会、というのも増えていくでしょう。そんなときに意識すべきなのは、自分と同じ技術レベルを持っている海外のエンジニアが、自分たちよりも「安く」仕事ができてしまうかもしれない、ということ。このような観点は、これからのエンジニアにはベンチマークしておいていただきたい指標です。日本人は、やはりちょっと内向きにすぎるのかもしれないですね。もちろん、美点でもあるのですが。
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