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掲載日:2012.06.25

ドイツに本拠地を置く、世界トップクラスの自動車機器サプライヤーであるロバート・ボッシュGmbHの日本法人、ボッシュ株式会社。ディーゼルおよびガソリン用燃料噴射装置、自動車用制動装置などの開発・製造・販売を主軸に、自動車機器アフターマーケット製品、自動車整備機器、電動工具などの輸入販売まで幅広く事業を展開している。神奈川県横浜市に開発拠点を置くガソリンシステム事業部で、顧客プロジェクトの技術的なコーディネーションを担当するSEC(カスタマーシステムエンジニア)をマネージャーとして束ねる奥山将氏に、省エネ・エコ時代のガソリンエンジン開発における技術的課題と、その解決に挑む同社の開発体制について聞いた。
ボッシュと言えばコモンレール方式燃料噴射装置の印象が強く、ディーゼルエンジン開発を主軸に置く会社というイメージが強いかもしれない。しかしボッシュ・グループのワールドワイド全体で見た場合、ディーゼルとガソリンはほぼ同じ事業規模で展開しているという。
「ガソリンエンジンは、今後も数量的には自動車の動力として主役の座を維持していくと思います。ただ、現時点でガソリンエンジンの大部分を占めているのが、直噴方式ではなくPFI(ポートフューエルインジェクション)と呼ばれている方式のエンジンなんですね。今後は、PFIエンジンが直噴エンジンに置き換わる形でシェアを伸ばしていくのではと考えています」
環境問題、エネルギー問題を大きく左右する自動車業界の動向については、さまざまな予測がなされているが、ボッシュは今後のガソリンエンジンについてどのように見ているのだろうか。
「当社が2020年のワールドワイドの自動車マーケットを予測したデータがあるのですが、2020年の時点で生産台数は1億台を突破して、そのうち約20%はディーゼルエンジン、約40%はガソリンPFIエンジン、ガソリンの直噴エンジンは20%程度と予測しています。そして残りの約20%にもCNG(天然ガス)やハイブリッドが含まれるので、2020年時点でも95%以上の車両には、ディーゼルを含む内燃機関が搭載されているものと考えています。さらに長いスパンで見れば、電気自動車などに収れんしていくと思いますが、それまでは内燃機関の時代は続くのではないでしょうか」

まだ当分は続くと見られるガソリンエンジンに、今求められているのは“さらなる効率化”と“クリーン化”。これからのガソリンエンジンのあるべき姿はどういったものになるのだろうか。
「例えばヨーロッパでは、欧州委員会が従来よりもさらに厳しい二酸化炭素(CO2)排出基準をEU圏内の新車に対して導入すると発表しています。CO2排出量を平均で1km当たり95gにという基準ですから、これを単純にガソリンエンジンに置き換えるとリッターで33km程度を走るイメージとなり、相当チャレンジングな数値です。ただ、こうした“さらなる効率化”をしないと、先ほど言ったような2020年にガソリン直噴エンジンが20%を占めるというシナリオも実現しないかもしれません」
燃費効率の話とは別に、エミッションに対する規制も開発に影響を与える。現在、ヨーロッパで話題になっているのは、“すす”だ。1990年代の終わり頃に東京都のディーゼルエンジン規制が話題になったが、それと同じような話がヨーロッパで、ガソリン直噴エンジンに対して持ち上がっている。ガソリン直噴エンジンから排出されるすすに対する粒子数規制が2014年に導入される予定なのだ。
「CO2排出を削減するためのトレンドとして、ヨーロッパではエンジンをダウンサイジングするという概念が主流になりつつあります。エンジンのシリンダー数・排気量を減らして燃料効率よく運転し、出力が必要な部分だけはターボで補うといった考え方です。結局のところエンジンのサイズを小さくするという話ですから、シリンダーも小さくなるのですが。そこに燃料を直接噴射するとシリンダーの壁面に燃料が付着してしまいます。その付着した燃料がすすのもとになってしまうんですね」
エンジンのサイズは小さくしたいが、壁面への燃料の付着も防ぎたい。この背反した要件に対して、ボッシュは燃料噴射のインジェクタや、噴射制御の改良を何度も重ねてきた。
「インジェクタの中にはニードルという針状の弁があり、コンピューター制御によって与えられる電気パルスに応じて開閉します。そのニードルの動きをモニタしてフィードバック制御をかけることによって、各シリンダー間の燃料噴射量のばらつきを防ぐ技術を開発しました。普通のエンジンですと、それぞれのシリンダーに対して違うパルスを与えることはしないのですが、そうすると同じパルスを与えてもインジェクタの個体ばらつきによって噴射量が違ってきます。噴射量が大きい場合にはトレランス(許容誤差)に収まるのですが、噴射量が小さいところではばらつきが問題になります。その問題を解消できないかという思いが開発のモチベーションになりました。この技術は、世界的に見ても最先端を行く、ボッシュのユニークなセリングポイントになっていますね」

奥山氏が指揮を執るのは、カスタマーシステムエンジニア(SEC)のグループ。SECは、ドイツで10年ほど前に導入され、日本のボッシュでこのポジションが設置されたのは3年ほど前のこと。ワールドワイドでも50人程度、そのうち日本人SECは5人だという。
「一般的な開発者は自分の担当部品を持っています。でもSECは自分の担当部品製品を持っていません。当社は、センサー、アクチュエーター、ECUなどの部品ごとに事業室が分かれていまして、それぞれ別々に担当しているのですが、それらをとりまとめた“システム”を、お客さまにソリューションとして提案し、お渡しするのがSECの主な仕事です。技術営業的なものをイメージされるかもしれませんが、あくまでエンジニアですね。プロジェクト付のSECとして、関係部門とコミュニケーションをとりながら、プロジェクトマネージャーの技術部分を代行する役割を担います」
SECは、事業室ごとに戦略が違う中で顧客に対して一貫性のある提案をするためには欠かせないポジションとなっている。また、こうして顧客とのプロジェクトにお置いて全体を把握している技術者がいることが顧客の信頼を勝ち得ることにもつながる。
SECにはその役割からも、エンジンシステム全体に関する幅広い知識・技術がや要求される。当然、個々の部品・領域においては担当エンジニアのほうが知識・技術を持ち合わせているが、SECはそれらすべてをカバーし、結びつける知識・技術に触れるポジションだ。
「ボッシュは独立系ですので、日本のすべての自動車メーカーとコンタクトがあります。各メーカーの開発に関する情報をすべて知ることは当然ありませんが、それが一部だとしても、いろいろな会社の開発状況を知ることができるのはエンジニアとして純粋に面白いことだと感じます。海外勤務の可能性もあるので、知見が大きく広がる仕事だと思います」
世界約60カ国に現地法人を有するボッシュは、開発環境もワールドワイドである。基礎的な開発や・主だった研究は本拠地のドイツで行われているが、各国の現地法人がリードする案件もあるという。
「マーケットごとに特有の技術案件があり、例えばフレックスフューエルシステムはブラジルがメインマーケットだったりします。そういった技術案件に関しては、マーケットに拠点を置く現地法人にコンピテンスを与える(リードを委ねる)ということが時々行われています。例えば先ほどのフレックスフューエルシステムは、ブラジルがリードをとって開発をします」
日本の顧客がブラジルでフレックスフューエルシステムを使った車輌をリリースしたいといった場合には、ボッシュの日本法人が顧客窓口となり、ブラジルと、あとはその他の部品を担当するドイツや他の国と連携を取り、協力し合いながら顧客をサポートする形となる。
「ブラジルにとってのフレックスフューエルシステムのように、ドイツならドイツ、アメリカにはアメリカ、それぞれにコンピテンスを与えられている技術案件があります。ただ、日本のガソリンシステム開発組織にはまだそれが与えられていません。ヨーロッパメインで活動してきた当社は、まずは日本のお客さまの要求・仕様を、ドイツで行われている開発に入れ込む作業を進めているところです。その次の段階として、将来的には日本が開発をリードする技術案件を持てるようにしていきたいと考えています」
ボッシュ株式会社
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