国や自治体も協力!日本初、デジタル障害者手帳「ミライロID」が未来を変える。株式会社ミライロにインタビュー
日本初のデジタル障害者手帳「ミライロID」を開発した株式会社ミライロ(代表取締役社長 垣内 俊哉)。2019年7月1日にリリースし、ユーザーは順調に増加、現在30万人を突破しました。障害者にポジティブな行動変容を促すことと、社会性や公共性をもった持続的な事業として高く評価されたミライロIDは、2022年度グッドデザイン賞を受賞しています。
今回は株式会社ミライロ取締役 ITソリューション部部長の井原充貴氏に、ミライロIDの開発に至るまでの話や今後のビジョンについて話を伺いました。
お話をお伺いした方
株式会社ミライロ
取締役 ITソリューション部部長 井原充貴氏
大学卒業後、新卒でメガバンクに入行し、その後、株式会社ミライロに参画。現在は、取締役としてBtoCビジネスを行うITソリューション部を統括。
目次
ユニバーサルデザインとは?ミライロが考える新たな価値の創造と、目指す未来
――株式会社ミライロの事業について教えてください
私たちは、国や自治体、民間企業、教育機関など、幅広いクライアントに対して、障害のある当事者の視点から、ユニバーサルデザインのコンサルティングや、ユニバーサルマナーに関する教育研修の企画・開催・運営、デジタル障害者手帳「ミライロID」の開発・運営などを行っています。
――御社は、障害のある当事者の視点から製品やサービスをデザインすることで、多様な方に利用しやすいソリューションを提供しているんですね
その通りです。社会に存在する「環境・意識・情報」のバリア解消に取り組むことで、すべての人が暮らしやすい社会の実現に向けて、社会性と経済性の両立を図り持続可能な取り組みを行っています。
ミライロIDとは?スマホで提示できる、デジタル障害者手帳アプリ
――ミライロIDとは、何ができるアプリなのでしょうか?
「ミライロID」は、障害者手帳をスマートフォン(以下、スマホ)で表示できる無料アプリです。分かりやすく言うと、デジタル障害者手帳です。スマホで本人確認ができる利便性だけではなく、障害者割引が適用される機能やお得なクーポンサービスも付いています。
登録できるのは、身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳、療育手帳で、全自治体の障害者手帳に対応しています。
――サービスの開始までにどのような苦労がありましたか?
障害者手帳は、各自治体で色、形状、レイアウトなどを定めていて、デザインがバラバラなので、開発にあたって全自治体のフォーマットを取得する必要がありましたが、とても大変な取り組みでした。
最初は代表の垣内と私の2人で、1件1件、自治体に電話するところから始め、その後、政府の協力を得られるようになり、全283種類のフォーマットを集めることができました。
また現在では、ミライロIDは、マイナポータルと連携し公証性を確立しており、信頼性が高まっています。
――ミライロIDの評判は?ユーザーは増えているそうですね
はい、利用者からの口コミなどで広がって、ユーザーは増えています。また、鉄道会社が車内広告を掲載してくれたり、自治体が福祉関連のガイドブックに記載してくれたり、ミライロIDの推進に協力してくれています。
ミライロIDが利用できる場所は?鉄道やバス、公共施設、飲食店やレジャー施設での割引も!
――具体的に、ミライロIDに登録すると何ができますか?
簡単に説明すると、ミライロIDに登録すると、できることは主に5つあります。
- 障害者手帳をパッと手軽にスマホで表示できる
- お得な電子クーポンが使える
- オンラインストアで購入ができる
- 障害者割引でチケットが買える
- 必要な情報が得られる
まず、全国の鉄道やバスで利用できます。ミライロIDは、2021年3月から全国の鉄道会社123社で一斉導入されています。障害者割引を適用する際に、これまでカバンや財布から取り出していた障害者手帳を、スマホでパッと提示できます。
――交通機関以外では、どこで使えますか?
公共施設はもちろん、飲食店やレジャー施設などでも使えます。使える施設は、順調に増えています。
スマホの提示だけで本人確認ができるようになりますので、ユーザーからも、「外出しやすくなった」「スマホだと気軽に見せられるので心理的負担が減った」などの声をいただきます。
――当事者のご家族にとってもメリットがありそうですね
障害のあるお子さまがいるご家族からも、ミライロIDを登録して良かったという声をたくさんいただきます。例えば、「外出先で、お子さまが泣いている中、障害者手帳を鞄から探して取り出すことなくスマホで提示できるので外出の不安が小さくなった」「周囲を気にせず提示でき、気持ちが楽になった」「全国どこでもミライロIDが使えるので、旅行しやすくなった」などの声をいただきます。
これまで難しかったことができるようになったと聞くと、ミライロIDをもっと広げたいと思います。
ミライロIDは、当事者と事業者をつなぐプラットフォームへ
――新サービスのミライロストアとは、どんなサービスですか?
障害のある方が必要とする商品やサービスを購入できるオンラインストアです。
これまで、企業が良い商品を開発しても、必要とする方になかなか届けられませんでした。しかし、ミライロIDによって、双方をつなげられます。ミライロストアを通して、世の中に、新しい機会を創出していけると私たちは感じています。
――ユーザーの声が事業者に届き、実現したサービスはありますか?
ある聴覚障害の当事者からの声で実現したものがあります。無人のコインパーキングで障害者割引を受ける場合、オートフォン(直通電話)でオペレーターとやりとりして本人確認をしなければならないのですが、聴覚障害があると、オートフォンでのコミュニケーションが難しいので割引を受けられません。そこで私たちは、駐車場精算機とミライロIDのサーバーをつなぐことで、オペレーターとやりとりせずとも、障害者手帳情報の確認ができるようにしました。
駐車場精算機に、ミライロIDのQRコードを表示もしくは読み込ませることで、オペレーターが介在しなくても、割引サービスを受けられるようになったわけです。
事業者側から考えてみても、オペレーター不在でサービス提供が可能になれば、人件費も減り、対応がスムーズになります。この話のように、ミライロIDとサービス連携が進むことで、これからもっと新しいサービスが開発されると思います。
――障害のある当事者も声を上げやすくなりますね
駐車場の例のように、ひとりの当事者の声が、社会を変えることがあると私たちは考えています。これまでできなかったことや困っていることも、ミライロIDによって解決できることがあるので、「こんな悩みがあるんですが…」「こうだったらいいのに…」といった当事者だからこその声を私たちに届けて欲しいです。
ミライロIDは、バリア(障害)を、バリュー(価値)に変える
――ミライロIDは、社会にどんなインパクトをもたらしますか?
一言で表すと、「可能性の最大化」です。例えば、障害を理由に外出を控えていた人がいたり、やりたいことを我慢していた人が、ミライロIDによって、「交通機関が利用しやすくなった」→「外出の機会が増えた」→「割引クーポンやサービスで飲食や買い物を楽しめるようになった」→「もっと自分にできることを広げたい」→「スキルや技術を身に付けるために学びたい」といった好循環が生まれるのではないかと考えています。誰もが、自分の可能性を最大化できる社会にすることが、私たちのミッションです。
私たちはバリア(障害)をバリュー(価値)に変え、社会を変革したいと思っています。これまで、障害者向けのソリューションは、社会性や企業のCSRの観点で語られることが多かったのですが、それだけでは一過性で終わりかねません。社会性と経済性の両輪を回すことで、持続可能な事業を目指しています。
自らの色を描ける未来、自らの路を歩める未来に向けて
――社名の「ミライロ」に込められた想いとは?
ミライロは、一人ひとりがそれぞれ自由に描ける「未来の色」と自由に歩める「未来の路」を増やしたいという意味です。
ミライロIDに関して言えば、障害のある方の社会参画を後押しするサービスをもっと創出していきたいですね。
――当事者の思いに寄り添うサービスですね
2024年2月に、JR四国のチケットアプリとミライロIDの連携を発表しました。駅窓口に並ぶことなく、障害者割引が適用されたチケットを購入できるようになります。鉄道事業者初の連携で2024年度内にリリース予定です。
交通機関が利用しやすくなり外出の機会が増えることを願っています。
――最後に
バリア(障害)をバリュー(価値)に変え、自分の描きたい色で未来をつくり、自分の路を歩めるよう、ミライロIDは、これからも進化していきます。
公開日:2024/2/29